完成後の記念写真!
「森は海の恋人」そう言われることもあるほどに、森はわたしたちにとってかけがえのない存在です。そして大都会東京にも豊かな森があるって、知っていましたか?
そんな東京の森とリトルトーキョーをつなげることができたら、ステキかも?というアイデアから、リトルトーキョーに新オープンするワークショップスペースを、東京の無垢材をつかったフローリングにすることにしました。
全面協力してくれたのは、“植える”だけではない森の再生に楽しく取り組む「SMALL WOOD TOKYO」を展開する「合同会社++(たすたす)」さん。今日は、++さんを講師に迎え、リトルトーキョーの市民のみなさんと一緒に行った”床張りワークショップ”の様子をお届けします。
価格のつきにくい材を無垢材として使うという発想
曲がり、短い、節ありといったsmallwood。敷かれるのを待っているときからいい香り。
「SMALL WOOD TOKYO」は、東京の多摩地区に広がる森と、右肩下がりになってしまった林業を再生するために奮闘する有限会社 沖倉製材所と合同会社++(たすたす)との共同プロジェクト。
曲がり、短い、節ありなど価格のつきにくい材は通常、合板材やチップとして使われていますが、こうした材を“SMALL WOOD”として価値を見出し、接着剤などを使うことのない無垢材(一本の原木から角材や板を直接必要な寸法に切り出したもの)として使ってもらうことで、森と林業に元気を吹き込もうというものです。
そのもっとも代表的な製品が「敷くだけフローリング」です。無垢材の一枚板を並べていくことで、家庭のお部屋や、無機質なオフィスの床を心地よく、しかも簡単に一新することができるのです。
無機質なオフィスの床…と言えば、例えばこんな所。
床の絨毯パネルをはがしているところ。日当たりは悪くないものの、居心地がよいとも言いにくいオフィスの一室。
ここは、東京・虎ノ門にあるグリーンズのオフィス。いかにもビルの一室といった感じで、寒々しい印象ですが、今回この場所に「敷くだけフローリング」を敷いてみよう!ということで、合同会社++のメンバーが来てくれました。ただし、一般的な施工業者と違い、そのプロセスは独自です。
「敷くだけフローリング」はただプロが来て施工していっておしまいというものではありません。依頼主さん自身が一緒になってフローリングを敷くという簡単なDIYを楽しむことで、これから長く使っていく床に愛着を持つきっかけにもなるんです。(合同会社++ 安田知代さん)
そう、これは依頼主がただお客さんとしてフローリングを買うというものではなく、自分の暮らしの一部を手作りすることをフォローしてくれるというDIYサービスなのです。
DIYといっても、素人でもできるんだろうか?そんな心配はどうやら必要ない様子。用意された一枚板はすべて寸法通りに製材と凹凸の刻みが入れられており、緻密に計算された図面にしたがってはめこんでいくだけというもの。釘を1本も使うことなく出来上がるというのもうれしいところです。
作業を始める前から積んであるスギの材の爽やかな香りが漂います。無機質な部屋がどう変わっていくのか、作業に取り掛かる前から期待が高まります。
自己紹介と簡単なオリエンテーション、安田さんによる図面の説明からスタート。
一枚一枚の材にはすべて凹凸の刻みが入れられているので、はめ込んでいくだけ。
一緒に作業することで生まれる一体感は、チームビルディングにも最適
金づちで、隙間にならないようにタントンタントン。チームワークが大切です。
「敷くだけフローリング」は、周りの人と一緒に体を動かし、力を合わせてひとつのものを仕上げることから、会社などのチームビルディング構築のためにも活用できるそうです。実際に作業を進めてみるとそれも納得。はじめて会った人同士でさえ、すぐ横で一緒に作業しているので会話が生まれ、仲良くなってしまいます。
会社などではなかなか仕事以外の会話が生まれにくいもの。作業を通じて一体感も生まれるこうしたサービスを導入することはシンプルなようで、コミュニケーションを円滑にするためにとても意味のあることのように感じます。
そして、決めたわけではないのに、材を受け渡しする人、図面を読む人、金づちで打ち込む人と、いつのまにかみんながそれぞれの個性を活かして作業していきます。
気が付けば、みるみるフローリングで埋まっていく床!作業を進めるほどにどんどんテンションが上がっていきます。
参加者がカンナを使って細かな現場合わせをする。
用意してきた材が実際の部屋のサイズと微妙な誤差がある場合には“現場合わせ”といって、その場で材を加工し、隙間なく丁寧にフローリングを敷いていきます。
作業中にスタッフに質問してみると、なんとこれまでにはイカ(魚介類のあのイカです)型の部屋や、円形の部屋にも「敷くだけフローリング」を敷いたこともあるというから驚き。DIYだからこそ、あらゆる部屋の形にもチャレンジできるのだそうです。
完成!思わず寝転がりたくなる心地よさ
最後の一枚は大島から駆けつけてくれたリトルトーキョー市民の音惟(おとい)さん。シャッターが切られまくる瞬間です。
そうこうしているうちにあっという間に最後の一枚に。スタートから約2時間30分程度、みんなで力を合わせた約18畳のフローリングがついに完成!実際にやってみるととっても簡単で、軽い運動をした後の爽快感と達成感。参加者に清々しい笑顔がこぼれました。
完成すると、座ってみたり、寝っ転がってみたりしたくなります。こんなことはオフィスのひんやりした床ではありえないこと。香りも良くて艶もいいのですが、表面に化学的な加工は一切おこなっていないそう。
つややかに見えるのは、木が本来持っている自然の油分。何も塗っていない木の肌感を手触りで感じて欲しいです。
と安田さんは話します。そして、フローリングを敷く前とは違い、部屋の中が随分明るくなった印象。目にも優しく感じられます。さらに無垢材はフローリングになっても呼吸しつづけるため、寒い時には暖かく、暑いときには涼しく過ごすことができるそう。
無垢材はいいことばかり。「敷くだけフローリング」はほうきや掃除機でホコリを取るほか、時々よく絞った雑巾で拭くだけと、お手入れも簡単。なによりまずホコリが立ちにくく掃除しやすいんですね。アレルギーのお子さまがいらっしゃるおうちにもいいと思います。精神衛生上気持ちよく暮らせたり仕事ができるのがいいですね。
おじいちゃん世代が一生懸命植えてくれた木を愛でながら使ってほしい
合同会社++の木係社員(きがかりしゃいん)、安田知代さん。
床が完成してひとしきり盛り上がったあとは、合同会社++の木係社員(きがかりしゃいん)、安田知代さんが東京の森の現状についてお話ししてくれました。
森が荒れてしまった原因には、高度経済成長期を経て、植えたあとに使われなかった人工林の存在が大きく影響している。知っていたようで改めて聞くと自分ごとになっていく、そんなお話。
70年前、戦中戦後の需要の中で日本全国で6000万立米もの木材生産がされ、木が伐りまくられました。そして50年前に今度は国策としてスギとヒノキがどんどん植林されたんです。
でも、植林しても木が使えるまでに育つのは何十年も後のこと。長く続いた高度経済成長時代に輸入木材を関税なしで安く入れたことで、林業は廃れてしまい、森林も荒れ放題になってしまいました。
small wood tokyoの公式HPより
今では十分に育った伐るべき木がたくさんあるものの、輸入木材や集成材との価格競争もあって林業を成り立たせることが難しく、そうすると山に手入れがされなくなり…と、悪循環に陥ってしまっているそう。
そして、2006年から東京都ではスギ花粉発生源対策事業としてまたたくさんの木が伐られはじめているのですが、その中にはなかなか値段のつきにくい、節があったり曲がっていたり短かったりという木がたくさんあると、安田さんは話します。
わたしたちが”small wood”と呼ぶそうした木の多くはチップや合板材として使われていますが、それらは接着剤や化学物質が使われるものです。
もともとは私たちのおじいちゃん世代が一生懸命植えてくれた木なので、やっぱりできれば無垢の木で使うのがいいと思いますし、節や色までもを個性として愛でながら使ってもらえたらうれしいです。
節の多いsmall woodならではの、節ワークショップ。個性に目を凝らすとイメージが膨らみます!
続けておこなわれた「節(ふし)ワークショップ」では、参加者それぞれが自分のお気に入りの節を見つけてデッサン。個性をイメージして、漢字一文字の名前をつけて発表しあいました。
「強そうな幹が生えていたようなたくましい節だから、名前は強(つよし)」「きっとまわりの枝に利益をもたらしていたやつだから、益と書いてまっさん」という参加者たち。
デッサンすると、私の子(節)はどこかなと愛着が湧くんですよね。フローリングを使っていく中で節の個性を愛でる。そうやって目をかけるほどに愛おしみが増していくことで、フローリングのある日々が少しでも豊かになったらいいですよね。
板に残る節は元々は枝があった部分。普段目にしているフローリングからは森の中に立っていたときの木の様子を思い浮かべることはなかなかありませんでしたが、節に注目してイメージを膨らませることで、今いる場所と東京の森がつながっているんだということをリアルに実感することができました。
山の魂で木を生かす。木に第二の生命を吹き込む。
合同会社++の企係社員(きがかりしゃいん)、小倉ヒラクさん。「森の贈り物を感じてほしい」。
そもそも合同会社++が「SMALL WOOD TOKYO」を手掛けることになったのには、自分自身の体験がきっかけだったと、企係(きがかり)社員の小倉ヒラクさんは言います。
元々は、ぼくが築60年の賃貸の家に引っ越すことになったときに、唯一床だけがクッションフロアで納得いっていなかったんです、そこで、仕事の関係で以前知り合った沖倉製材所の沖倉さんに相談したら、“フローリングを敷くならスギがいいぞ。敷くだけなら家を出るときに現状復帰も可能だ”と言われて敷いたんです。
ほかの人には「反るからやめたほうがいい」と言われたんだけど、沖倉さんには“反るのはしっかり乾燥させていないから。うちのは乾燥させているから大丈夫”と言うのでおまかせしたら、すごく心地よくて気にいったんです。もちろんそれから反っていませんしね。
それから、沖倉さんとの関係が続くうちに「多摩にかつては500件以上あったという製材所が今はわずか18件だけ」と聞き、東京の山と林業に危機を感じ、「SMALL WOOD TOKYO」の活動につながっていったのだといいます。
節抜けしてしまった箇所にはサイズの合う枝を合わせて一つひとつ“埋め木”。ここまでの丁寧な仕事も沖倉製材所ならでは。
安田さんは沖倉さんについて、こうも話します。
沖倉さんは業界全体のことを考えて行動している方です。「沖倉さんが来ないと値が下がる」と市場で言われるくらい、木に適正価格をつけるようにしているそうです。
そういうのをそばで見ていると、わたしたちにできることはやっぱりちゃんと正当に高い値段で木を買って、出処の知れていて、丁寧に加工された材を気持ちよくお客さまに手渡していくことだと思ったんです。
「敷くだけフローリング」は、植林したご先祖さまからの贈り物を、「山の魂で木を生かす。木に第二の生命を吹き込む」という気合いの入った沖倉製材所の丁寧な手仕事で完成したもの。そして、それを自分ごととして商品化して販売を始めた合同会社++の存在もなくしてはわたしたちが出会えなかったものです。
わたしたちが森のためにできることはなんだろう?
植える。伐る。使う。選択肢はたくさんあるけれど、おじいちゃん世代が心を込めて植林してくれた木を身近に感じる暮らしはきっと心豊かに過ごせそうです。
でも、フローリングを導入して終わりにしてはいけないとも思います。上の世代からのギフトを受け取り、今度はわたしたちが次の世代にどんなギフトを贈ってあげられるかも同時に考えていきたい、そのように感じました。
もしかすると、家庭や会社でそんなことを話し合うきっかけを与えてくれるのが「SMALL WOOD TOKYO」の活動なのかもしれませんね。
そして、本日完成した、こちらのワークショップスペースですが、今後はグリーンズのgreen school Tokyoや、さまざまなワークショップイベントで活用していく予定だそうです。東京の森と出会える空間に、ぜひ遊びに来てください。