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ソーシャルデザインの実践の場では、何が起きている?井上英之さんと”無意識の領域”を体験した「ミラツクフォーラム2013」 [イベントレポート]

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

NPOミラツクは毎年12月、「ミラツクフォーラム」を開催しています。このフォーラムは一年の締めくくりということもあり、ミラツクのメンバー、理事、そして、ミラツクがこの一年の間に出会った人やお世話になった人たちがたくさん参加します。

2013年12月23日に虎ノ門にある日本財団ビルで開かれたミラツクフォーラムは、基調講演としてINNO LAB co-founder/SVP東京 founder/日本財団国際フェロー/ミラツクアドバイザーと、さまざまな肩書きで活躍する井上英之さんのほか、「ソーシャルデザインの実践」や「企業とソーシャルイノベーション」をテーマにしたセッションなどが開かれました。

ソーシャルの世界で活躍する著名人たちが次々に登壇したこのフォーラムの様子をお届けします!

井上英之さんが海外で学んだことをフィードバック

基調講演は井上英之さんが登壇して、五井平和財団理事の松浦由佳さんが聞き手となる予定だったのですが、松浦さんは体調不良で会場来ることができませんでした。そこで松浦さんにはスカイプで話に参加してもらいながら、ミラツク代表理事の西村勇哉さんも会場で聞き手にまわることに。

井上さんと西村さんに挟まれて、モニターの中に松浦さんというちょっぴりユニークなスタイルでさっそく井上さんの講演が幕を開けました。

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(左)西村勇哉さん(中央モニター)松浦由佳さん(右)井上英之さん

この会場の中にはきっと僕のことを知らない人もいますよね。そこでまずは自己紹介しながら話をはじめたいと思います。

そんなふうに語りはじめた井上さんは、ミラツクフォーラムに会場を提供してくださっている日本財団にからめて現在の活動について話しました。

2012年9月から日本財団さんに国際フェローを出していただいて、2年間好きな場所で勉強する機会をいただきました。1年目はスタンフォード大学で過ごし、2年目となる2013年9月からはロサンゼルスのクレアモントにピーター・ドラッカーが設立したドラッカー・スクールに通っています。

ドラッカー・スクールはもちろんビジネススクールですが、ビジネスに限定せずに、マネジメントを広く捉えていることが特徴なのだと井上さんは話します。

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ドラッガー曰く…

幅広く捉えるマネジメントのなかでも、特に重要としていることはセルフマネジメントです。ドラッカーはこんなことを言いました。「You can’t manage other people unless you manage yourself first.」。つまり、誰かを管理、経営しようとするなら、まずは自分をマネジメントすることができなければならない、と。リーダーシップを教えているドラッカー・スクールは、コアの部分にセルフマネジメントを置いているというわけです。

ソーシャルな活動がサステナブルでなくなっていく

ドラッカー・スクールに通いはじめた井上さんは、セルフマネジメントの大切さに改めて目を向けるようになったと言います。

僕自身2000年頃からソーシャルビジネスに関わりを持つようになりました。まだこの頃は、ソーシャルビジネスなんて、口にするだけでも怪しまれたような頃の話です。

僕は日本で最初のソーシャルベンチャーのプランコンテストをつくり、志ある起業家を支援するソーシャルベンチャー・パートナーズも設立しました。少しずつ小さな火種が動き出して、たくさんの素晴らしい若者に出会うこともできました。

2005年からは慶應義塾大学の政策・メディア研究科に社会イノベータコースを開設。社会起業を志す教え子をどんどん輩出するほか、“世の中をよくしたい”と活動するたくさんの人の支援を行い続けました。

ふと気がつくといつの間にかとても忙しい状況になっていました。ソーシャルの分野は広がりを見せており、僕自身期待をかけられていることを感じました。ところが、その頃になると、自分のバウンダリーが少しずつおかしくなってきたのです。どこまでが自分のことで、どこからが他人のことなのか。学生をはじめ、多くの方が相談してくることに睡眠時間を削って取り組んでいるとカラダのあちこちに不具合が生じてきたのです。

カラダを壊してまで続けることに違和感を感じて

このまま忙しく仕事をしていると、いつかバーンアウトしてしまう…。そんな危機感を感じながらも、それでも井上さんは止まることができなかったのだそうです。

3.11以降、東北で頑張ろうとする若者が一気に増えました。その頃から、僕のまわりに、カラダを壊して入院する人が何人もでてくるようになるのです。西村さんも、二ヶ月入院しましたよね?

井上さんの言葉に、微笑みを浮かべながら、こっくりとうなずく西村さん。

サステナブルだ、なんだと言いながら、自分自身がそうなっていないなかで、次第に僕は、自分自身に向き合う必要性を強く感じることになりました。自分のことや家庭のことを犠牲にしてまで、何かを生み出していくのは正しいことなのだろうか…。そんなふうに思い悩むなか、体調不良から悔しい思いをすることもありました。

そして、これはもう待ったなしだと思って、2012年3月に、マサチューセッツ州にあるクシインスティテュート、つまりマクロビの総本山へ修行に出かけたのです。

注目が集まる瞑想や座禅などのメディテーション

クシインスティテュートでは、食べ物を変えることから生活の改善が図られたと言います。食事は玄米が中心となり、さらにマインドフルネスと呼ばれる瞑想を使ったセルフマネジメントにも取り組みます。

こういったことへの取り組みは、実は個人的なことというわけではありません。1年目にいたスタンフォード大学でもとても大きな流れになりつつあり、ダライ・ラマもスタンフォード大学内に研究施設をつくっています。

そこで、瞑想や座禅といったメディテーションが、脳科学や心理学のような立場から見てどのような意味があるのかを研究しているのです。ビジネスのメインストリームに、どうやってそれを持ってくるかという動きがはじまっているのです。

電車に乗っている人を見ていると、その人たちの視線は落ち着きなく、あちらへ行きこちらへ行き、電車内の広告を移動して落ち着きがありません。また、仕事をしていてもついつい気になってFacebookをチェックしてみることもしばしば。こういった行動はマルチタスキングといい、生産効率を下げる要因と考えられています。

瞑想は、そんな散漫になりがちな自分の意識に気がつく方法のひとつなんです。また、モードを切り替えるスイッチでもあります。仕事が終わったら、5分でも10分でもいいから瞑想をしてから帰宅する。そうすることで、緊張したモードから、リラックスモードに切り替えることができるのです。

瞑想を取り入れた結果、お客様への対応がよくなったり、学習意欲があがったり、さまざまな効果があることが報告されています。コカ・コーラ、ハーバードビジネススクール、国連など、いろいろな機関が取り入れはじめているんですね。そんな流れを見つめているところです。

無視し続けたボディセンセーションに耳を傾けよう

ここで、モニター越しに井上さんの話を聞いていた松浦さんが、「井上さん自身は、どのような取り組みをなさっているんですか?」と、質問。それに対して、「いろいろやっているのですが、じゃあ、ちょっとだけ、僕が授業で教わっている瞑想をここでやってみたいと思います」と提案して、会場にいるみんなで瞑想をしてみることになりました。

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ふいに瞑想の時間がはじまりました!

瞑想が終わると井上さんは、参加者の何名かに、瞑想で感じた身体的な変化について質問。「カラダが温まりました」「呼吸がしづらくなりました」「手が温かくなりました」といった意見に、「なるほど、おもしろい!」と思わず声をあげていました。

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会場に集まったみんなで瞑想中

こういったボディセンセーションを僕たちはふだん無視しています。頭で考えたことを優先して、カラダや気持ちを無視している。でも、瞑想のようなトレーニングをすることで、そういったカラダや気持ちに対してアテンションする力が僕たちのなかに育まれます。自分に何が起きているのかに気がつけるようになっていく。それがとても重要なポイントなのです。

そんな井上さんのコメントを受けて、松浦さんがさらに質問を広げます。

社会に変革を起こすには、外側に向けてのインパクトだけでなく、内側に向けてのインパクトも作っていくことが重要だと思うのですが、どんな変化を起こすことが大切なのでしょうか?(松浦さん)

僕自身が変化したことと言えば、体重が10キロ減り、集中力が明らかにあがりました。体重については瞑想をしたからというわけではありませんが。むしろ、まわりの人は僕の変化をどのように感じているのか聞いてみましょうか。ちょうど会場に僕の奥さんが来ているので、彼女の意見を聞いてみましょうか。(井上さん)

参加者のひとりとして話を聞いていた、井上英之さんの奥さんの井上有紀さんは、突然、意見を求められたことに驚きながらもこんなコメントを。

以前は意識上にあることを無理やり変えようとしていたところがあるように思いますが、最近は無意識下にあることを大切にするようになってきている様子です。これまで意識していなかった身体的な変化に対して注意を向けることで、そのカラダの状態を受け入れる体制ができてきているように感じます。

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無意識についての深みのある考察を聞かせてくださった井上有紀さん

無意識にアクセスする方法を学ぶことの重要性

井上さんの話はここから無意識の領域に。いま、マネジメントの流れが無意識の領域にまで目が向けられていることに対して、話が広がっていきます。

たとえばみなさんが文字を書くとき、上半身と下半身のバランスだとか、力の入れ具合などに意識は払っていないと思います。実は僕たちの活動というのは、このように9割以上が無意識の領域にあると言われています。この無意識というのは判断が非常に早く、たとえば車を運転していて、危ないと感じたらハンドルを切ったり、ブレーキを踏んだりするわけです。

自分自身を守るために無意識は瞬時に判断を下しています。これはもちろんありがたいカラダの反応であるけれど、その一方で弊害もあると井上さんは話します。

この無意識はパターン認識をしていて、男女や外国人など区別をしなくていいと思っていても、ついつい身構えてしまうことがあるのです。では、こういった無意識の領域にどうやって気が付いていくかというと、出来事に自分がどう反応しているかということに対して観察するのです。意識上にあること、そして無意識下にあること、その両方を意識して行動することをトレーニングするようにしています。

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見えない領域にアクセスすることで社会は変わる

約1時間の開催となった井上英之さんの基調講演もいよいよ残り時間わずか。井上さんは締めとなるコメントを述べはじめました。

最後に。ソーシャルイノベーションを担ってきた僕が、なぜいま、この領域をおもしろいと感じているかといことですが、それは、アクセスできないところにアクセスするという行為が、社会変革をすることと同じだと感じるからです。ホームレスの方に、自立しなさいと言っても、“自立しろ”という商品がないわけですから販売することはできません。同様に、やる気のない子どもたちに、“やる気を出せ”と言ってもやるわけがないんです。

アクセスできないマインドにアクセスしようと思ったら、必ずそのトリガーが必要になってくるのだ、と井上さん。どのボタンを押せばアクセスできるのか。その仕組みを知ることが重要になってくると話しました。

自分というもの、個というものにアクセスしようとするのは、決して個人的なことではありません。そこには世の中の本質的な仕組みの変化につながる何かになるのです。ゆっくり散歩をしてもいいし、ハイキングをしてもいい。ポジティブな感情を持ってそういったことに臨むことが、自分にとっての大きなリソースになってきます。

自分自身にアクセスすることを繰り返して自分に対してアテンションする力を育んで、自分になにが起きているのかについて、世の中の関係性の中から感じてみてください。

2014年10月に日本に帰国予定だという井上さん。そのときにはどのような学びを伝えてくれるのでしょう。いまから楽しみにしたいところです!