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電気代ゼロ円!東京の公団で完全オフグリッドライフを楽しむ、ソーラー女子の知恵とワザ

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わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

電力会社の送電網(グリッド)に頼らず、くらしに必要な電気を自分でつくって自分で使うオフグリッド発電を楽しむ人々が各地で増加中の昨今、一年以上前から電力会社との契約をやめ、東京都国立市の公団で「電気代ゼロ円生活」を謳歌する女性を発見!

さっそくお宅におじゃまして、くらしぶりを取材させていただきました。

踏み出す自由と、戻れる自由

おじゃましたのは、去年から自作のHP「ソーラー女子」を立ち上げ、オフグリッド生活の様々な情報を発信している、藤井智佳子さんのご自宅。彼女が電力会社との契約を切ったのは2012年9月1日だそうですが、そこに至るまでには、いったいどんな経緯があったのでしょう?

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仕事道具の一つという機織り機が印象的な、藤井家のリビングルーム。おじゃましたのは12月の末で、窓には断熱用の厚手の透明ビニールカーテンがかかり、空気の流れを読んで窓際に置かれたガスストーブの上には、小豆がコトコト煮える小さな土鍋が置かれていて、あったか

節電生活を始めた最初のきっかけは、2011年3月11日の東日本大震災の計画停電でした。震災と原発事故で電気に頼り切っている生活のもろさや原発の恐ろしさを痛感し、自分にできることの一つとして、節電を心がけるようになったんです。

契約停止に踏み切ったのは震災の翌年の9月ですが、その年の春、子どもが地方の大学に通うため家を出たので、「ムリだったらもとに戻せばいいや」というくらいの気持ちで、4月から本格的な節電生活に踏み出しました。

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お手製の帽子がお似合いの智佳子さんの職業は、染色&織物作家

智佳子さんはまず、朝から晩までつけておくのが習慣だったテレビの使用をやめて押入れにしまい込み、主にクーラーとして使っていたエアコンもストップ。思い切って冷蔵庫も処分し、使ってきた各家電の目的を電気なしで遂げるために、思いついたアイデアをどんどん試してゆきました。

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ちかこ流“避暑グッズ”。手づくりの梅ジュースは、酵素たっぷりのエナジードリンク。ゴザは夏涼しく眠れるイ草シーツ。ジョウロは、ベランダ用の打ち水道具。青と白の帯は、中に保冷剤を仕込んで首に巻く「ネックククーラー」。保冷剤は、「素焼きの植木鉢冷蔵庫」(読み進めると出てきます)の気化熱で冷やすそう

実は、テレビを押入れにしまったのは、原発事故のあと、一日中つけっぱなしのテレビから引っ切りなしに流れてくる、政治家や専門家たちの発言にうんざりしたからなんです(笑)。

エアコンももともとあまり好きではなかったし、夜中の2時3時まで起きている夜型生活も、なんとなく当たり前になってしまっていた習慣でした。

でも、本腰を入れて節電しようとしたら家電との付き合い方を見つめ直すことになり、それは生活習慣の一新に直結していたんですね。

例えば、照明を消費電力の低いものにしたら、それまでずっと不眠ぎみだったのに、暗いので12時前には自然と眠くなってぐっすり眠れるようになったり、家電をやめていくにつれ、体がラクになっていったんです。

身体的な喜びとともに、月3000円ほどだった電気代が1000円以下になるという経済的な喜びも体感した智佳子さんは、「ここまで来たらソーラーだけで暮らせそう!」と勢いづき、本格節電に踏み切ってからわずか4ヵ月後に、電力会社との契約解除を決行したのでした。

ところが、契約解除後の3日間はずっと雨。小さなソーラーシステムしかないのでほとんど電気が使えず、「なんてことしちゃったんだろう!」と落ち込み、夜のあまりの暗さにもショックを受けて、実はしばらくは、ふとんをかぶって寝てばかりいました(笑)。

なんとなんと!では、やはり、いったんは「もとに戻した」のでしょうか?

それがね、3日たったらそんな環境にも慣れてきて、4日目には「この暮らしを楽しもう!」という気持ちになったんです。人間て、どんな状況にも慣れてゆくものなんですね(笑)。

この時、テレビで被災した人が言っていた「人間は水と食料さえあれば生きられる」という言葉にリアルに共感したという智佳子さんは、ほほ笑みながらこう続けました。

人間にはもともと、どんな状況にも適応してゆく力が備わっているんだと思います。今は家電を使うことや電力会社と契約することが当たり前とされ、それしか経験していない人が多いけれど、本当はいろんな道があるし、選ぶ自由もある。

私は節電を機にそれまでの「常識」から踏み出してみて初めて、自分が小さな枠の中にいたんだと気づきました。枠の外は可能性であふれていて、踏み出せばそれに気づけると思います。

節電は失敗しても命に関わるわけじゃないし、みんな実際は、試してみる自由も元に戻す自由も、持っているんですよね。

なるほど確かに、節電は原発と違って、始めることも戻ることも自由にできますね。そう考えると、気楽にいろいろ試してみたくなってきます。

では、新しい一歩を踏み出す参考として、次は智佳子さんの自家発電の様子や、家電に代わる非電化生活術についてお聞きしていきましょう。

最強の自然エネルギー

さて、こちらが智佳子さんの、最新の「チカsun発電所」。左から、120Wの新品パネル1枚(バッテリー、チャージコントローラ、インバータ、工事費込み13万円)+43Wの中古パネル2枚(1枚4300円。他機材込みで3万5千円弱)+5Wの補助パネル=合計211Wのシステムが、南向きのベランダに設置されています。

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ベランダの内側から見た図。収穫の終わったプランター菜園の向こう側に置かれているのが、「チカSUN発電所」の心臓部。バッテリーなどの機材が、プラスチックの衣装ケースにまとめて収められています

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心臓部を成す衣装ケースの中には、100Ahの大きなバッテリー1つと、7Ahの小さなバッテリーが2つ。小さなバッテリーは、必要に応じて室内に持ち込んで使うことも。手前の白い機材は、電気の逆流や過充電・過放電を防ぎ、パネルからバッテリーへのスムーズな逐電を管理してくれるチャージコントローラ

使っている電化製品は、照明3つ、ノートパソコン、プリンタ、ミシン、洗濯機(週2回程度)とのこと。消費電力が大きい家電は確かに洗濯機くらいのようですが、とはいえソーラー発電は天気が悪いと効率も悪いはず。こんな小さなソーラーシステムだけで、本当に大丈夫なのでしょうか?

この規模で、私はやりくりしています。これプラス、実は我家には、天気に関係なく人力で発電できる「エアロバイク」があるんです。発電に詳しい知人がつくった試作品なのですが、これのおかげで悪天候が続いても、自転車をこげば発電できるようになりました。

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足元の方に発電装置が装着してあり、ペタルを一時間こぐと、60W発電できます。ソーラーシステムに比べるとずっと小さな発電量ですが、天気に左右されずにいつでも発電でき、こぐと運動になって体が熱くなるので、冬は特に重宝しています(笑)。

うちの洗濯機は450W必要で、以前ソーラーバッテリーだけで動かしていた時は電気が足りなくなって洗濯の途中で止まってしまうこともありましたが、これで電力補充できるようになってからは、ちゃんと洗濯機を使えるようになりました。洗濯にエクササイズの付加価値がついて、何だかオトクな気分です(笑)。

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乗ってこぎながらパチリ。ペタルに簡易ライトをつないだので、こぐと光ってキレイで楽しい!

実際にこいでみると、予想外の楽しさと心地よさ!体がポカポカして、ムクムク活力も湧いてきます。

ソーラーもいいけれど、天候に関係なく24時間いつでも使える自転車発電は、電気と元気を同時につくれる画期的なシステム。「人力」は最も身近で頼もしい、最強の自然エネルギーかもしれません。

オフグリッド・オールスターズ

では、智佳子さんの完全オフグリッド生活を支えている、誰にでもマネできる、眼からウロコの非電化アイデアをご紹介してゆきましょう。まずは、こちら。素焼きの植木鉢と気化熱を利用した、「非電化冷蔵庫」です。

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大きさの違う素焼きの植木鉢の底の穴を防水テープでふさぎ、写真のように重ねた鉢の間に砂を詰め、水を注いで砂を湿らせしばらくすると、電気や氷がなくても、湿った砂の気化熱によって小さな鉢の中が冷たくなってくるんです。子どもでもカンタンにできるし、見た目もなかなかオシャレでしょ。

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手を入れてみると、なるほど、本当にヒンヤリ。りんごの表面も、冷蔵庫に入れておいたときのように小さな水滴で湿っています。これは、アフリカなど乾燥した暑い地域で実用されている方法で、私もエジプトで目撃したことがありました。冷蔵スペースは小さめですが、あったら重宝しそうですね。

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これは、保温調理用の発泡スチロールBOXです。料理の入った鍋を熱いうちに入れ、フタをして布をかぶせておけば、2~3時間たってもあったかい料理が楽しめますよ。

生煮え状態で火からおろした煮物の鍋をここに入れて置けば、数時間後にはほっこり煮え上がり、ガス代の節約にもなります。

発泡スチロールが熱で溶けないよう、鍋の下には鍋敷きをお忘れなく。

ここに入れる前にタオルなどで鍋をくるんでおけば、さらに保温が効きそうですね。

箱の内側にアルミシートを敷き、黒く塗ったペットボトルや鍋などを入れて日が当たる場所に置けば、クーラーボックスならぬ「ソーラーボックス」として、温水づくりや調理にも使えるとのこと。

また、箱の中に光が集まるようアルミや金属製の反射板を差し込んで箱の底に鍋やフライパンを置けば、そこは太陽熱で高温になり、調理も可能。箱の中に置いたお風呂の残り湯を入れ、保温マットとフタで保温しておくと、しばらくは暖かさが保てるそうです。

例えば、これは黒く塗った真空管を利用したソーラークッカーですが、このセットを買わなくても、ここからアイデアをもらって廃材や手近にあるもので応用すれば、お金をかけずに似たものを手づくりできます。

日光を反射するアルミシートは光の効果を強め、黒く塗った容器は熱を吸収してくれるので、この二つの要素を併用すれば、調理の効率も高まりますよ。

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アルミシートの反射板BOXに、黒く塗った真空管がセットされた、ソーラークッカー

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この管の中に生の豆と水を入れておけば「ゆで豆」が、切ったサツマイモ入れておけば「干しイモ」が、晴天の日なら、どちらも1~数時間日光の当たる場所に置いておくだけで出来上がるそうです。

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燃料費ゼロ円の自然食、「ソーラー干しイモ」の完成品。素朴な甘さで、ついつい手が出るおいしさです

さて、次はソーラー照明。未体験の方は、まず一つお気に入りを見つけ使ってみると、照明のありがたさや、明かりが灯る喜びを発見できるかもしれません。

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これは、智佳子さんイチオシの“自給自足型”ソーラーライト。小さなソーラーパネルがバッテリーにもなっていて、太陽光で充電したパネルをパコンとはめるだけで使え、つけた明かりがここに当たると、微小ながらもその光がまた自動的に充電されるそう。小電力なれど、これが灯っているといないとでは大違いだそうです。

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非電化生活の楽しさと心地よさに目覚めた智佳子さんは、愛用する掃除道具も電気掃除機から「ほうき」に変え、非電化の「手回し洗濯機」もゲット。火鉢やガスストーブで暖房と調理を兼用し、生ゴミは米ぬかを入れた「土嚢コンポスト」でたい肥化して、ベランダ菜園の土へ。アイデアは今も、日々進化し続けています。

ムリできないから、できたこと

節電をきっかけに、智佳子さんの生活は、「壊れたら手に負えない家電」の代わりに、「手かげんと手直しが利く道具」とつき合うスタイルに変化。仕事の道具ややり方もまた、自ずと変わってきたそうです。

仕事では、ミシンやアイロンを使うので、足踏みミシンを手に入れて電動ミシンと使い分けるようになったり、電気アイロンをやめ、アンティークショップで飾り用に売っていた「炭アイロン」を買って、実用するようになりました。

ソーラー発電だけの生活になってからは、スピーディーに仕事ができる電動ミシンを使える時間が限られるので、「展示会までにたくさんの服をつくる」など、自分にとってムリがあるような仕事のやり方が自動的にできなくなり、その分、例えば、ミシンを使わずにできる糸つむぎや草木染めの時間を増やしたんですね。

ありがたいことに、そうやって手づくりした草木染め毛糸はお客様に好評で、それはそれで、ちゃんと仕事になるんです。

オフグリッド生活で電動機械を使う割合が減ったら、生活も仕事も自ずと手作業中心になり、自分の手作業にふさわしい非電化道具や仕事の仕方を選べるようになってきました。

ムリできなくなったからこそ、ムリせずできる方法を見つけられるようになったんです。

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電気アイロンを使うとせっかくたまった自家発電の電気が一気に減って、ビービー警報が鳴ってしまったのを機に使い始めた「炭アイロン」。充分役立ち、シンプルで壊れない

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炭を起こす道具。これで起こした炭を、トングでアイロンの中へ

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智佳子さんの手から生まれた作品たち

そして、「完全オフグリッド生活」のエキスパートとなった智佳子さんは今、針と糸を工具と電線に持ち替えて、なんと「電気工事士2種」のライセンス取得に挑戦中とのこと!

一人の女性を、電気の買い手からつくり手に変え、さらに担い手へと向かわせることになったオフグリッド発電。それは電気だけでなく、「ムリのない生き方」と「新しい自分」を、手に入れる道でもありそうです。