みなさんは「FabLab(ファブラボ)」という言葉を聞いたことはありますか?
fabrication laboratory(ファブリケーション・ラボラトリー)の略で、「ほぼあらゆるものをつくる」 ことを目標とした、3Dプリンターやカッティングマシンなどの工作機器を備えた実験工房のことです。今年8月に「世界ファブラボ会議」が横浜で開催されるなど、そのムーブメントは日本でも広がりを見せています。
その「Fab」には、「Fabrication(ものづくり)」と「Fabulous(楽しい、愉快な)」の2つの精神が込められています。個人による自由なものづくり可能性を広げ、「つくる人」と「使う人」の極端な分断の解消を目指しています。
今回ご紹介する「FabLab Kitakagaya (ファブラボ北加賀屋)」は、関西で初めてできたFablab。僕自身、実際に訪れるまでは、なかなか想像しにくかったのですが、取材をしてFabLabという新しい取り組みが、ものづくりを通じて、僕達の生活を大きく変えていくかもしれないと感じました。
その魅力の一端を、伝えることができればと思います。
クリエイティブの力で都市の再生を目指す北加賀屋
現代美術家の國府理さんとコラボした「みんなカーゴ」ワークショップの様子(レポートより)
「FabLab Kitakagaya (ファブラボ北加賀屋)」は、大阪市の南西部、大阪湾と木津川に接する住之江区にあります。
北加賀屋は、かつて造船業を中心とした工業で栄えた街。近年では造船所跡地を再利用したアートコンプレックス施設ができたり、音楽、演劇、ダンス、美術、あらゆるものづくりに関わるクリエイターたちが集う「芸術と文化が集積する創造拠点」として都市の再生を目指す「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ構想」が動き出しています。
そんな北加賀屋で、2009年に元家具工場だった建物を改修した「もうひとつの社会を実践するための恊働スタジオ」「コーポ北加賀屋」が誕生しました。現在では、ギャラリー、建築事務所、木工所、アート系NPOなど7つの団体がこの恊働スタジオを使用しています。
今回取材で訪れた「FabLab Kitakagaya」はコーポ北加賀屋に2013年から入居し活動を始めた、一番新しい団体です。
工房の中には、カッティングマシン、3Dプリンターなど、さまざまな機械が並んでいます。運営メンバーの一人である津田和俊さんに、案内をして頂きました。
基本的には安価、小型でデスクトップに置けて、所謂パソコンの周辺機器としての工作機械を備えています。今までだと、まず金型からつくらなければならなかったような物が、ドローイングソフトやCADのデータを基に、この工房で形にしてみることができます。
パソコンと工作機械が繋がっているということは、これらはインターネット端末としての工作機械ともいえるわけです。どこか離れた場所でつくられたデータを基に、この場所で実際の物をつくることができます。
物の設計図とか制作行程は、グローバルに蓄積、共有しておいて実際に物をつくる時には、これらの機器があれば、どこでも、その土地ごとの資源を活かして、地産地消のローカルなものづくりが実践できます。
それぞれにとっての「FabLab」の意味を考える
一番左が津田和俊さん「FabLabKamakuraNews」より
今回お話を伺った津田さんは、大学で資源循環の研究をしています。
例えば、何か物をつくる時には同時にそれが分解される時のことを設計に入れておかないといけないわけです。どのように資源を循環させるか、どのように分解性の設計をすれば環境負荷を減らせるのか、というようなことを主に研究しています。
そこから関心は広がって、社会における物の流れの仕組みを提案するということも行っています。例えば、都市部と農村部では、それぞれが持っている資源が違います。お互いが補完し合うような物の流れや仕組みを整えることで、それぞれの地域の自立性を高めていける可能性があります。
もともと高専に通っていて、工学の基礎から学んできたのですが、物をつくることそのものより、その周辺の環境の方に興味が湧いてきました。
そういった研究を重ねる中で2010年3月、編集長のYOSHさんが企画した「デザイン×サスティナビリティ×オープンソース=???」というフォーラムに参加。そこでFabLabの取り組みを知ったそうです。
FabLabという新しいものづくりの取り組みを、日本に紹介して広めていくためにFabLab Japanというネットワークができたのは2010年5月のこと。津田さんもこのFabLab Japan (現在はFabLab Japan Network)に参加し、話し合いと準備を重ねていきました。
まずは関東で実際のスペースがオープンし、いよいよ関西でもスペースをという声が高まったおり、FabLab Japan の関西のメンバーとして、設立・運営のメンバーに加わる事となりました。
実際に場所をオープンするにあたって、大阪・京都・神戸と色々場所をみていました。始めから北加賀屋でと考えた訳ではなく、準備段階で繋がった人たちがたまたまこの場所と関係があったという感じです。決めた理由をあえて言うならこの地域には工場が多く、大きな音を出しても大丈夫な環境だったということでしょうか。
僕自身、FabLab Japanでは他のメンバーから学ぶ立場にあることの方が多く、関わっていく中で少しずつ、自分自身のこれまでの研究と照らし合わせて、FabLabを自分なりに解釈していくようになりました。FabLabでの活動も資源循環やサスティナビリティの研究と上手く結びつけていけるのではと思うようになり、一つの可能性を感じました。
そうした一年程の準備期間を経て、2013年に「Fablab Kitakagaya」がオープンしました。スペースは代表の白石晃一さんと、副代表の津田さんを含む3人が中心となって運営しています。
平日は大学に行き、週末にここに来るというペースです。便宜上副代表となって運営の中心にはいますが、サービスを提供する側と、受ける側というふうに分けたくないと思っています。個人が主体的になって物作りを行う環境が大切で、用意し過ぎてしまうとどうしても受け身になってしまいます。
サービスを受ける場所ではなく、それぞれが考えながらつくる、つくりながら考えるという場所になればと思います。プログラムも場所も用意し過ぎない、というのがポイントではないでしょうか。
今後は裾野を広げながらも、多様な専門性を高めていきたいと思います。
子どもたちも参加!みるみる釘打が上手に
与えられたものを消費するだけではなく、自立的に考えてものをつくる環境を整える。それは、あらゆる物事がサービスで提供されるようになってしまった現代において、かなり大きな変化を生み出すのではないでしょうか。
FabLabの取り組みは、先進的なものづくりのスタイルだと思います。そんな取り組みにいち早く加わり、自らスペースの運営を行っている人というのは、一体どんな情熱や思いを持っているのだろうかと、取材をするまで勝手な想像をしていました。
飛び抜けた才能を持つのでもなく、劇的な事件がきっかけとなったわけでもなく、地域への熱い思いがあるのでもなくて、ただ、今自分の出来る事に真直ぐに取り組む。
目の前で起きている物事に対して、自分に出来る事を考え、行動する。新しい何かが動き出すときというのは、意外とそういうシンプルものなのかもしれません。
アイデアを図面にして、その場でキットに!
実際にこの「FabLab Kitakagaya」では、どんなものが作られてきたのでしょうか。過去のワークショップでつくられたものと、現在進行中のプロジェクトを紹介してもらいました。
まずは、美術家の國府理さんがデザインし、美術家でもある白石晃一さんによって制作されたツールボックスです。これはgreenz.jpでも紹介した「北加賀屋みんなのうえん」と共同で行われたワークショップをもとに生まれました。
農作業で使う道具を入れて、畝の間を引っ張って転がすことができて、さらに疲れたら少し座って腰を休める。そんなアイデアを形にして、図面が引かれ、この工房でカットされキット化されたものです。
もう一つは、超小水力用の発電機で、まさにこれから動き出そうとしているプロジェクト。この日岐阜からこのプロジェクトの発案者の八木和広さんが打ち合わせにこられていたのでご紹介いただきました。
このスクリューの部分を川の中に沈めて、羽根が回転することにより電気を起こして、バッテリーに充電する仕組みになっています。今、スクリュー部分の 改良の相談に乗ってもらっている彼(八登浩紀さん)は流体の専門家で、この場所で出会いました。
まずはスクリュー部分を改良し、現在は自転車にも取付けられる市販品を使っている発電部分も、このFabLabで制作していきたいとのこと。日本には川も多く、農地用水などの小さな水路も含めれば、潜在的なエネルギー資源が豊富です。
この場所でプロトタイプの制作を行い、後はそれぞれの場所に応じて、サイズや羽根の枚数を変えたりと、さまざまなカスタマイズを施した超小水力発電機を、それぞれの場所で制作していく。そんなことが可能になるかもしれません。
少しずつですが、他のスペースとの連携を深めていっています。この場所だけではつくれないものも、データだけ別の場所に持っていけば、簡単につくれたりするわけですから。
ものづくりって、これまでは一人のすごい技術力を持った人とか、凄いアイデアを思いついた人、途方も無い情熱を捧げた人とか、個人の物語として捉えられることが多かったと思います。
しかし、FabLabとかネットワークを介すことによって、より多くの知識やアイデア、機械までも共有できるようになっていて、より多くの人たちで問題の解決にあたり、製品をブラッシュアップしていくことが可能になっています。常にアップデートすることができて、自然とクオリティも高まりますし、制作までのスピードも全然違うんです。
今、私たちの暮らしの中には大量の物が溢れています。例えば、自分が本当に必要とする物を、必要とする形で作ることができたなら、こんなにもたくさんの物はいらないのかもしれません。私自身、取材からの帰り道、この「FabLab」で自分なら何を作りたいだろうか、とずっと考えていました。
みなさんなら、地産地消でどんなものをつくりたいですか?インスピレーションを探しに、ぜひ一度北加賀屋へ訪れてみてください。
(Text:吉田航)