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おとなこそが自分らしく生きるお手伝い。対話の場から、子どもたちの未来をつくる「オトナノセナカ」

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

ある男の子がおもちゃを投げつけて遊んでいました。「おもちゃが壊れちゃうよ?」と声をかけると、男の子はけろりとした顔で言いました。

「壊れたらまた買えば良いじゃん」と。

その状況を目の当たりにして、“ものを大切にすることを教えなくちゃ”と思うかもしれません。でも、ちょっと視点を変えてみてください。私たち大人は普段、壊れたから買い替える、古くなったら買い替えるということを繰り返していたりしませんか?

こどもは大人の言葉だけでなく、態度、行動のすべてから学びとっています。それもとってもよく観察しているんです。

こどもたちに「自分らしく」生きてほしいと願うなら、こどもたちの隣にいるおとなたちがいきいきと自分らしく暮らして体現していくことが大切。おとなこそが自分らしさを取り戻す、そのお手伝いをしているのが「オトナノセナカ」です。

人間のもっとも自然な状態って?

冒頭の話は、オトナノセナカを立ち上げた小竹めぐみさんの実体験です。大学を卒業後、幼稚園教員としてこどもたちと向き合う中で“こどもにとっておとなの影響は絶大”と感じることが何度もあったといいます。

たとえば、こどもの様子がいつもと違うとき。迎えにきたお母さんに話を聞くと、たいていは親のほうに何か問題が起こっていることが多いのです。それが解決すればこどもは自然といつもと同じようにもどるから、本当に親の影響って大きいなあって。だから私はいつも、親御さんとたくさん話をするようにしていたんです。

そんなふうにこどもたちを心から思ってすごしていたとき、小竹さんにはある不安がありました。「ここでこどもの自分らしさを育んでも、自分が関われるのは6歳まで。卒園したあと出会う大人たちや社会のルールが、その子たちらしさを伸ばしてくれるか不安でした」と小竹さん。

このときから、目の前のこどもだけでなく社会へ目を向けるようになりました。社会を相手にするってすごく大きなことのようだけど、社会にあることでこどもにつながらないことはない…そう思ったら、保育士としてもっとできること・したいことがあるって思えたんです。

小竹めぐみさん 小竹めぐみさん

オトナノセナカをはじめたきっかけになるできごとはもう一つ。小竹さんは、2006年にアマゾン川へ行く機会に恵まれます。そこで大自然に囲まれて気づいたことは、「みず、葉、鳥、わたし…すべて同じ“命”」ということ。

水や木は、地球に生を受けて、そのままの形を受け入れて自然に生きています。でも、人って本来の形を変えてしまっている気がしたんですね。人間の自然な状態ってなんだろうと疑問が残りました。

でも、小竹さんはその答えをすぐにこどもの中に見つけます。泣いたと思ったらすぐ笑い、突然に「先生大好き!」と告白したり、晴れている日はおひさまの歌を即興で歌い出し、雨の日には水たまりに落ちるしずくがダンスのようと夢中になって眺めている…そんな姿に「今あることを素直に喜ぶ、自分に嘘をつかない状態」が、自然だとわかったのです。

でも、今のおとなを見渡してみると、素直になろうにも自分らしさがわからない人や、本音を言える場がなくて孤独を抱えている人がたくさんいると思いました。そんなおとなたちの背中もまた、こどもたちに影響をあたえてしまい、引きこもりやいじめ、などいろいろな心の問題や社会問題に発展しているのかもしれない。

そうだとしたら、こどもたちが笑顔になるには、おとなを笑顔にするのが近道なんじゃないかって思いました。それに私はおとなもこどもも関係なく、人がすごく好き!だから、こどももおとなも自分らしく生きてほしいって純粋に思ったんです。

大切なのは2つの対話

そんな小竹さんですが、高校生のときは当時流行していたいわゆるガングロギャル。趣味と言えば恋愛くらいで、何をするわけでもなくぶらぶらと過ごしていたといいます。

いつも何かにイライラしていたんですよね。毎日が楽しくなかったし、自分のことも好きじゃなかった。

でも、20歳のときに大失恋。「このままの自分では、いや!」と思ったタイミングで、あるお寺とのと出逢いがありました。そこから1年間、毎週日曜日に坐禅に通い、坐禅のあとにお寺の方や坐禅仲間と対話を重ね、自分を知ることができたと言います。

私に足りなかったものが2つあったことがわかったんです。1つは止まること、つまりは自分との対話です。そしてもう1つが、人と心から話すことでした。

対話は本音の「おしゃべり」

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自身の経験を通して、静の時間の大切さ、対話の大切さを学んだ小竹さんは、「自分らしさ」を見つけるヒントはそこにあると確信します。そこでオトナノセナカが取り組んでいるのが本音の“おしゃべり”です。対話と言われると難しそうでも、おしゃべりと言われたら普段からやっていることだから構えることなく思いを話せそうですよね。

活動は大きく2つ。

1つめは“知る”イベント、子育てのいろいろな方法・視点と出会う「幼児共育コレクション」です。

まずはたくさんの人に知ってもらいたいと数百名もの人を一度に集め、年1回、関西と関東で開催しています。子育て手法を教えるのが目的ではなく、それぞれが問いや行動のきっかけを持ち帰ることを狙っているそう。それが自分や子ども・パートナーと対話するきっかけになればと小竹さんは考えています。

2つめは“対話”のイベント、「こどものための井戸端会議」では、ファシリテーターがデザインした場で、パパやママが本音のおしゃべりをしていきます。

思いを話したり聞いたりすることはそれ自身が対話であることはもちろん、自分自身を振り返ることにもなるので、自分との対話にもつながるそう。(この活動の様子はグリーンズのこちらの記事で読むことができます)

活動をはじめて気づいたことは、思う以上に対話を苦手としている人が多いことです。それには2つのタイプがいることに気づきました。

1つは自分の評価を気にして発言できない人。間違えたら恥ずかしいという気持ちが発言を減らし、それがまた、自分らしさを閉じ込めてしまうことにもつながっていると感じました。

2つ目は、人の話が聞けない人、とにかく自分の話がしたい人です。自分の考えをひとに押し付けようとしてしまうこともあるんですよね。

保育園や学校の先生たちを相手にしたワークショップ(研修)では、回を重ねるうちに「人を興味が持てるようになりました」「相手を知ると、自分を知れて楽しい」と言ってくれる先生も。後日「子どもの声を聞くようになりました」「授業変わりました」と報告を受けることも多いそう。

オトナノセナカではこういった対話の場を作ることやっていますが、それって言い換えると出会いを作り出しているんですよね。いろんな人との新しい出会いと言う意味もありますが、同時に自分と出会える場とも思っています。

相手を知り、対峙する自分のことも知っていく。自分を自然のまま受け入れることができれば、周りのことも受け入れられるようになる。そんなふうに、いろんなことがプラスに回り始めるのが、対話の持つ力なのかもしれません。

「ふつう」はオリジナルの集まり

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オトナノセナカが対象としているのは、ごくごくふつうの人と小竹さん。

ふつうってオリジナルの集まりなんです。みんなそれぞれ違う形ででこぼこしてる。でもだからこそ、手をつないで生きていけるんです。

私にもできないことがたくさんあって、昔はできるようにならないとと努力していました。でもあるとき人に言われてはっきりとわかったんです。私にできないことをできる人がいるんだからその人と助け合えればいい、私は私にできることを誰かにギフトすればいいって。

人生って、おとなってこうあるべきって答えはないんです。自分で選んで、自分でつくっていく。すべてオリジナルなんです。みんながそれを実現できるようになるのが、オトナノセナカが目指していることです。

自分の背中に自信がないとき、それは自分らしさを見失っているだけなのかもしれません。「子どもの鏡になるよう立派にならなくちゃ!」と気負わなくても、自分らしくあれば誰もがキラキラとした背中になるのではないかと思います。

自分として生きることをもっともっと楽しむ、そんな“オトナノセナカ”が増えれば増えるほど、子どもたちへの影響もキラキラとしたものになっていくのではないでしょうか。

オトナノセナカは5月25日に設立総会を終え、NPO法人申請中。9月23日には、関東で年に一度の「幼児共育コレクション」が開催されます。

「地域や、教育機関と一緒に活動していきたい」と、小竹さん。今後のオトナノセナカにも注目です!