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1000年続く地域を目指して。新潟の小さな集落から移住女子たちが発信するフリーペーパー「ChuClu」

ChuClu

新潟県十日町市の山あいに、池谷(いけたに)という集落があります。
人口は、18人。その半数近くが70代後半にさしかかるおじいちゃんおばあちゃんで、数年前までは限界集落でした。

この小さな集落に3年前から移住し、農業や地域づくりをおこなっている坂下可奈子さんは今、地域の魅力を伝えるために、フリーペーパー「ChuClu(ちゅくる)」を作成しています。

地元応援クラウドファンディング「FAAVO新潟」で、目標金額の倍以上を集めているこのプロジェクトについて、坂下さんにお話を伺いました。

中山間地域の魅力を発信したい

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お話を伺った坂下可奈子さん(左)

中山間地域は畑の面積が狭くて、大きい機械も入らないし、平野部のように大規模栽培ができないんです。そうすると、兼業農家になるか、作物の販売価格が高くするような付加価値をつける必要があります。

それを選ぶ人は丁寧な暮らしをしていて、食べものに思いがある人だけど、すごく少数なんですよね。そうでない人たちにも、丁寧な食べ方とか、作物に対しての向き合い方が変わるきっかけになったらいいなと思っています。

そのためには、作るだけじゃなくて発信することも大切だと思って、中山間地域発信のフリーペーパーをつくりたいと思っていました。

そんなとき、インターン斡旋や移住促進をしている「にいがたイナカレッジ」から、”移住女子”による雑誌をつくりませんか?と提案があったそうです。なぜ”女子”に限定しているのか尋ねてみると、「移住する男性は少ないんですよね、女性の方がフットワークが軽いと感じます」とのこと。そこで移住者向けに勉強会や研修会などで知り合った人たちが集められ、「ChuClu」の作成が始まります。

最初は、新潟の魅力を紹介して移住者を増やそうという目的だったのですが、制作費をFAAVOで集めようと文章を考えていたら、新潟の魅力を伝えるだけだと旅行ガイドと同じだな、としっくり来なくて。

本当に私たちがしたいことって何だろう?って考えたときに、中山間地域にしぼって、私たち自身の暮らしを伝えたいと思ったんです。

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冊子イメージ

冊子では、昔から伝わるレシピや、残したい地域の物語、そこで生活している人たちのリアルトークなど、中越の山地での暮らしを幅広く紹介していこうと考案中です。

移住促進を目的に始まりましたが、坂下さんは地元の人に読んでほしいと言います。

生き生きとしている大人たちを見せることで、地元を出た人や地域の子どもたちが、地域の未来を考えるきっかけになるといいなと思っています。

そこで生まれ育った人が、地域をもう一度見つめ直して、その人たちが頑張るのが一番いいと思うんです。移住してなんだけど(笑)

東京から、当時13人だけが暮らす池谷集落へ

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香川県で生まれ育ち、東京の大学に通っていた坂下さん。転機となったのは、大学生のときに参加した農業体験でした。

「JEN」というNGOが池谷集落で中越地震からの震災復興の活動をしていて、夏に農作業ボランティアとして参加したのが池谷との出会いでした。

多いときで月に一度、少なくて二ヶ月に1回、イベントの手伝いなどに行っていたそう。その印象を聞いてみると、

限界集落と言われていたけど、みんな前向きで、集落を存続させようと一つになってがんばっている姿が印象的でした。

冬には4m近くも雪が降る豪雪地帯。だからこそ協調することが大事にされ、大きなお世話を焼いて焼かれる、地域がひとつの家族のような生活をしていました。

こういう人たちみたいになりたいな、と思いましたし、こんな風にまっすぐ向き合っている人たちがいたら戦争は起きないんだろうなって。脚を引っ張るとかじゃなくて、ちがう部分に心があるような気がしました。

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大学ではアフリカの紛争解決について学んでいた坂下さんは、「どうしたら世界から戦争はなくなるのだろう、どうやったら平和になるのだろう」と考えていたそう。在学中にケニアとルワンダを訪れた際にも、ある気づきがありました。

紛争の跡を見て、そこに紛争はあったかもしれないけど、そこにいた人たちは悪くない。外から来た人たちがエゴとか欲望とかで中にいる人たちをかきまぜて、大きな紛争に発展してしまったんだろうなと思いました。

そのとき、社会をつくるのは人の心が原点だと気づきました。それで「世界」という大きなところから変えようとするのではなくて、日本とか地域とか、もっと足元から良くしていきたいと思うようになりましたね。

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卒業後の就職先が決まっていたなかで、新潟への移住を決めた理由について聞いてみると、

いつか地域に住みたいと思っていたけど、「いつか」を待つ必要はないなって。あと、池谷に「こういう大人になりたい」と思う人たちがいたのも大きかったです。

こうしてたった一人、新潟で農業を始めることになった坂下さん。不安などはなかったのでしょうか?

集落の人たちが畑づくりを教えてくれるので、とても心強いです。それ以外にもお弁当をつくってくれたり、応援してくれたり、みんな十日町のお父さんお母さんのように接してもらっていて、見守ってくれているのはすごく感じますね。

テレビに出たときは、知らない人から手紙が届くこともあるそうで、「住人が少ないから”池谷の坂下さん宛”で手紙が届いちゃうんですよ(笑)」と、とても嬉しそうでした。

忙しい日々の中で、心に吹く風に

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最後に、池谷をどんな地域にしていきたいか聞いてみました。

集落として、ずっと続いてほしいし、一度出た人が戻ってきてほしい。そのためには池谷に仕事と住む場所が必要。だからお金がちゃんとまわる仕組みをつくって、住んでいる人たちが生き生きと自立できるようにしたいと思っています。

その一歩でもあるフリーペーパー「ChuClu」は多くの共感を得て、「FAAVO」にて目標金額32万円をはるかに超えて78万円以上も集まっています。現在は今年8月の創刊に向けて制作を進めています。

地方の魅力というと、新鮮な食べ物や豊かな自然、そして温かい人柄などたくさん思い浮かびますが、坂下さんは「地域を支えているのは目に見えないもののように思います」と話します。

都会ではスピードが早く、情報も多く、そんな小さな変化に目を向けることは難しいですが、この冊子を通して、足元を見つめるきっかけになることを願っています。