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子どもにとって、自然体験はなぜ大切なのか? 「危ない・汚い・うるさい」を言わない「地球クラブ」で、育まれていること

長野県上田市で、まちを豊かにする“縁の下の力持ちさん”に光をあてる連載「うえだのひかり」。今回はちょっと足を伸ばして、隣接する青木村で子どもの自然体験の場をつくっている「地球クラブ」を紹介します。

「地球クラブ」の特徴は、なんといっても敷地が広いこと。およそ4,000坪の里山で、子どもたちはのびのびと遊んでいます。

フィールドには焚き火のできる建物や、野菜を育てている畑などもありますが、木にロープをかけたブランコ以外は遊具がありません。子どもたちは興味の赴くままに遊びをつくり出し、感性や想像力を高めていきます。

「自然のなかで思いっきり遊んでほしい」と29年前に「地球クラブ」を立ち上げたのは、長年にわたって小学校教諭を務めてきた小岩井彰さん。公教育の現場にいたからこそ見える、自然体験の大切さについて伺いました。

小岩井 彰(こいわい・あきら)
1956年長野県生まれ。「地球クラブ」代表。1982年より長野県の小学校教諭になる。長野県の教育委員会指導主事、青木村の教育長、小学校長などを歴任。長野大学の特任教授、信州大学と清泉女子短期大学の非常勤講師も務めた。またタイの熱帯雨林保護活動や山岳民族支援にも取り組む。「地球クラブ」の子どもたちからはタイ語で「先生」を意味する「あじゃん」というニックネームで呼ばれる。

「やらないといけないこと」も、「やってはいけないこと」もない

まずは「地球クラブ」について紹介しましょう。現在、3つの活動があります。

ひとつは月に2回、主に年少〜小学生を対象にした「地球クラブ」。
もうひとつは平日の週5日、3〜6歳の子どもが通う保育園「まめっこ」。
そして週に1回、0歳から親子で参加する「こまめ」。

さまざまな年齢の子どもたちが、ここで自由に過ごします。

そう、本当に自由なんです。ここでは「やること」が決まっていないので、そのときに子どもたちが「やりたい!」と思ったことに取り組みます。

たとえば、ある日の「まめっこ」をのぞいてみましょう。

「動物の足跡がある!」と一人が発見し、近くにいた子どもたちが集まってきました。
ここにはシカやイノシシ、キツネ、タヌキ、リス、ノウサギ、などの野生動物も訪れます。

「なんの動物だろう?」「大きな足跡と小さな足跡があるよ」「親子かな?」と、それぞれ想像力をはたらかせていました。

こちらは池に入ってザリガニやカエルを捜索中。
「昨日は16匹もザリガニを捕まえたよ!」「トノサマガエルを見つけた!」とにぎやかな声が聞こえてきました。

池のすぐそばでは、クレヨンでお絵かきする子たちの姿が。
一人一セットずつ画用紙とクレヨンを持っていて、好きなときに描き、好きなときに終わります。

(写真提供:地球クラブ)

野菜も育てて、収穫しています。
サツマイモにダイコン、トマト、ナス、キノコ……。
畑には季節ごとにさまざまな野菜や果物が実り、成長を見守り、旬のものを味わいます。

と、ご覧の通り、あちらこちらで、いろんなことが起きています。

5人の保育者は基本的に「これをやりましょう」と指示することはなく、子どもたちを見守りながら、ときに手伝い、アドバイスし、そして一緒に遊んでいました。

また保育者と子どもはお互いに名前やニックネームで呼び合い、人と人として関係性を築いているのが伝わってきました。

保育者のことを「先生」とは呼ばず、同じ目線で接していました

毎週木曜日には「こまめ」に参加する親子がやってきます。

主に0〜2歳の子どもたちは「まめっこ」のお兄さん・お姉さんと混ざりながら、土や葉っぱを触ってみたり、池の水を汲んでみたり、虫をじっと観察したり。気づけば泥だらけになっていることも。

木曜日は「まめっこ」と「こまめ」のいろんな年齢の子どもたちが混ざり合って過ごします

そして月に2回、週末に開かれる「地球クラブ」には、年少から小学生、また中学生や高校生も参加しているため、多様な世代の人たちが接する機会になっています。毎回、大学生が小岩井さんと一緒に企画を考え、みんなで野菜を育てたり、生き物を観察したり、登山やマルシェ、キャンプなども行われています。

「地球クラブ」には学校も年齢もバラバラの子どもたちが集います(写真提供:地球クラブ)

子どもたちが自然のなかで思いっきり過ごせる場を

現在、「地球クラブ」には61家族、およそ200人が参加していますが、はじめは数人だけだったそう。小岩井さんはどのような経緯で「地球クラブ」を始めたのでしょうか?

大学生のとき「アウトドア」という言葉が広まって、自分も自然のなかで過ごすことが好きだったので、よく登山やキャンプなどをしていました。

でも「自然」ってなんだろう? と考えたときに、何も知らないな、と気づいて。そこでライチョウの研究をしたり、タイの熱帯雨林を訪れたり、山岳民族の支援をしたりして学んでいきました。

卒業後は長野県の小学校に教員として就任。子どもたちと野外に出て授業を行うことも多かったとか。

外で本を読んだり、木にロープをかけてブランコみたいにしたり、川で遊んだり。大根を育てて、農協を通して出荷したこともありました。子どもたちが書いた手紙を添えたら、購入した全国の人たちから手紙やお土産が届いて、社会とつながるきっかけにもなりました。

教科書に書いてあることを「分からせよう」とするのではなく、国語や算数といった教科を、できるだけ実践を通して教えようとしていたと言います。

教員時代からすでに「地球クラブ」のような授業をしていた小岩井さんですが、数年ごとに転勤があるため「自然のなかに自分のフィールドを持ちたい」と思うように。

1990年代の当時はテレビゲームやコンピュータが普及して、子どもたちは家のなかで遊ぶようになっていきました。外に行っても「川は危ないから入っちゃだめ」とか言われるようになっていて。だからこそ子どもたちが自然のなかで思いっきり過ごせる場をつくりたい、という思いが強まりました。

自然のなかで遊ぶことは、思考力や想像力などいろいろな力を引き出し、脳の発達や人間関係づくりの基礎になると言われています。子どもが本能的に「やってみたい」「面白そうだ」と思うことを満足するまでやることで、脳や感性が育っていきます。
勉強も大事ですが、点数や評価とは関係なく、子どもたちがのびのびと過ごせる環境をつくりたかったんです。

(写真提供:地球クラブ)

そうして1995年、上田市で「地球クラブ」を設立。最初は月に一度、自然のなかで遊ぶ場を開いていましたが、当時はわざわざ自然のなかで過ごす大切さをあまり理解されなかったそう。

それでも活動を続け、2000年、現在の場所に拠点を移します。実はここ、青木村は小岩井さんの地元です。

故郷でやるのは勇気がいりました。協力してくれる人はたくさんいるだろうけど、トラブルになったりしたら大変だし。でも、もうここで頑張るしかない! と覚悟を決めました。

敷地には23人の地主さんがいたので、一人ずつ訪ねて、丁寧に説明して、土地を借りて。みなさん快く貸してくれました。よいご縁があり、今年、そのうちの4000坪を譲っていただけることになりました。

「地球クラブ」では広いフィールドを活かして、どんど焼きやキャンプファイヤーなども行います(写真提供:地球クラブ)

人とつながる「社会力」を身につける

小岩井さんはその後も「地球クラブ」を続けながら、長野県教育委員会事務局の指導主事、青木村の教育長、教育事務所生涯学習課の課長、小学校校長も担い、公教育にも尽力していきました。

自身の教育テーマとして掲げていたのが「社会力の育成」。

生きるうえで「社会力」、つまり「人とつながる力」を育むことが、ものすごく大事だと思っていて。人に対する興味や関心、そして愛着が育てば、人を信頼するようになり、「人とつながって新しい社会をつくっていく力」が身についていくと考えています。

そのためには多様な人と直に相互に触れ合うことが大切なので、「地球クラブ」は3歳から大学生、さまざまな仕事を持つ大人までが居合わせる場になっています。

活動を続けるなかで、もっと小さな、0歳からもそうした体験ができるといいなと思い、2008年に「こまめ」を始めました。

現在「こまめ」は約15組の親子が参加。写真は絵本の読み聞かせの様子

そのころから世間では「自然保育」が注目されるようになり、「地球クラブ」や「こまめ」に参加している保護者からも「自然保育をやってほしい」という声が高まっていきました。

どうやって保育の場を立ち上げていくのか、スタッフを入れるなら給料は払えるのかなど、いろんなことを考えて、なかなか一歩を踏み出せなかったのですが、「こまめ」の活動を一緒にやっているスタッフが「お母さんたちからずっと声もあがっているし、たとえ参加できる子どもが一人でもやりましょう」と言ってくれて。

それで踏ん切りがついて、教員を退職したのを機に、2020年4月から認可外保育施設として「まめっこ」がスタートしました。

最初は3人から始まり、次第に5人、10人と増え、現在は16人が通っています。年少、年中、年長の3学年の子どもたちが混ざり合いながら、みんなで遊んでいる様子が印象的でした。

(写真提供:地球クラブ)

「できた結果」よりも「がんばってきた過程」が大切

ここに来る子どもたちは、はじめ、「何をしてもいい」という状況に戸惑います。子どもによっては「これやっていい?」と大人に確認しますが、小岩井さんは「何をやりたいの?」とたずねます。

自分のなかに「あれやってみたい」という気持ちが湧いてきたら、とことんやる。無理に何かをやらせることは絶対しない、と言います。

このまえも、ある男の子が木に吊るしてあるターザンロープのブランコに一人で乗れるようになって。それまで乗れるようにがんばっている過程をずっと見ていたから、すごく嬉しかったですね。こちらから無理に乗せることはしないで、本人の意思やタイミングでできるようになるのを待ちます。

すぐにできないことでも、だんだんできるようになっていく。その「がんばってきた過程」もすごく大事なんです。その男の子も「できなかったこと」ができるようになって、自信がついたみたいです。

ターザンロープで遊ぶ男の子。ジャンブして座るには練習が必要です(写真提供:地球クラブ)

学校や社会においては、テストで何点を取れたか、どのくらいできたか、といった結果が重視されがちですが、小岩井さんは数値や結果よりも「そこに至るまでの過程のほうが大事だ」と言います。

大人が結果を重視しすぎると、子どもも結果に捕らわれてしまいます。
「地球クラブ」や「まめっこ」では指示されたり評価されたりすることはなく、自分が「やってみたい」と思ったことをとことんやってみる。大人は後ろからついていって、肯定する。そうしたことを通して、自尊感情や自己肯定感といったものが高まっていくのだと思います。

「地球クラブ」に参加する子どものなかには、学校に馴染めない子もいます。そうした子には、学生のスタッフが一人ついて、一緒に過ごすのだそう。そうすると、回を重ねるごとに「自分は大事にしてもらえている」というのがわかって、元気になっていく子もいるのだとか。

大人もそうですが、自然のなかに来ると、みんな元気になるんです。
ここではやりたいことしかやらないし、「今日は静かに過ごしたいな」と思ったら絵本を読んでいたっていい。誰かが「トンボを捕まえたよ!」って見せに来たら、見に行って、気づいたらみんなで「今度はチョウチョを探しに行こう!」とか言って走っていく。豊かな自然の移ろいのなかで、そのときの興味に合わせて動けるのがいいですよね。

また年齢や属性が異なるさまざまな人たちと接し、学校以外にも多様な場があることがわかると、「学校は居場所のうちのひとつでしかない」と多面的に物事を見られるようです。

「地球クラブ」で活動する大学生は「ふくろうず」と呼ばれ、子どもと接することで、学生にとっても大きな成長の場となっています(写真提供:地球クラブ)

一方で、「学校にも可能性は満ちている」と続けます。

学校教育だからこそできることはたくさんあります。たとえば行事を子どもたちが企画したり、地域の人たちと連携したり、本当はもっとできることがたくさんあります。

自身が小学校で校長を務めていたときには、さまざまな改革に取り組んだそう。そのひとつが、クラブ活動。

学校のクラブ活動を、地域の人たちに担当してもらいました。有志で集まってもらい、何をするのか子どもたちにプレゼンして、子どもたちが選ぶ。これは好評で、現在も上田市立北小学校では地域の方が講師としてさまざまなクラブ活動が行われています。

また先生たちがより子どもたちと向き合えるように、職員会議を短くしたり、研究授業を見直し学年単位の研究に変えたり、外部の人に給食や掃除など手伝ってもらったり、職員が子どもたちに向き合う時間を充実させていきました。

ほかにも掃除の時間をなくし、空いた時間を使って子どもたちの遊びの時間を長く確保するなど、「なにが子どもにとって大事なのか」を中心に考えていったそう。さまざまな試みは生徒や保護者からは賛同を得られたものの、最初は先生からは反発もあり、そのたびにじっくり話して理解してもらったと言います。

公教育だからできることは限られている、のではなく、公教育だからこそできることを。小岩井さんは「いま目の前の子どもたちに何ができるか」を常に考えているのが伝わってきます。

子どもの感性に任せよう

「まめっこ」の子どもたちを見ていると、つい「危ない」と言ってしまいそうな場面も多々ありますが、これまで大きな怪我をした子どもはいないそう。もちろん自然は危険がつきものなので、徹底的に安全管理はしていますが、子どもは高いところからのジャンプや木登りなど、危険な遊びが大好き。そういうときは、子どもの感性に任せて見守るのだそう。

どうしても危ないなと思ったら止めますが、意外と大丈夫なことが多いです。

子どもは野生の本能みたいなところで「面白そうだ」と感じるから、その感情や能力を幼少期に思いっきり解き放ちたい。だいたい10歳くらいまでかな、それまでに脳の基本的なところができあがるから、小さいうちは子どもの感性に従ってあげたいと思っています。

「木登りするから見てて!」と声をかけてくれたので見ていると、このあとジャンプして飛び降りました。自分でジャンプできる高さを見極められているようでした

そうは言っても、保護者は子どもを守ろうと先回りしがちです。「危ないよ」「汚いよ」と、子どもがやろうとしていることをつい止めてしまう。それに対して、小岩井さんは「危ない・汚い・うるさい」の頭文字をとってそれらは「悪(AKU)」とし、「もうすこし見守ってみてほしい」と投げかけます。

困難のない人生なんて、ないでしょう。でも保護者の方は子どもたちを、困難のない安全な道を歩かせようとする。そうすると子どもが大人になったとき、一人で壁を乗り越えなくなってしまう。

だから、子どものときに小さなことでいいから乗り越える経験を積むことが大切です。自然のなかでの活動にはそういう要素がたくさんあります。急な坂を上ってみるとか、カニを捕まえてみるとか、面白がりながら一つずつ乗り越えていく。いろんな原体験を通して、自分の感性や五感を研ぎ澄ませていってほしい。

触覚だけでも、たとえばカエルの卵に触るのと、キノコに触るのでは、全然ちがう。そういうものをたくさん溜め込んで、自分の思考をつくる根を伸ばしていってほしいですね。

(写真提供:地球クラブ)

豊かな自然の移ろいのなかで、いろいろな世代の人たちと混ざりながら、そのときに「やりたい!」と思ったことをとことん取り組む。感性がぐんと研ぎ澄まされる幼少期に、こうした体験を重ねていくと、生きるうえでの大きな財産となりそうです。

よく「小さいときの経験は忘れてしまう」と言われますが、私自身、子どもを育てているうちに、気づいたことがあります。それは、出来事は忘れてしまうかもしれないけれど、確実に子どものなかに積み重なっていく、ということ。特に感性や想像力、挑戦しようと思う勇気などは、心の成長の土台になります。

「地球クラブ」は、greenz.jpが新たに呼びかける「生きる、を耕す。」をまさに実践しているなと感じました。

遊びながら生きる力をザクザク耕している。
大人も見習いたいものです。

現在、地球クラブ・まめっこ・こまめ、それぞれ参加者募集中。
興味のある方は、まずは体験に行ってみませんか?
https://chikyu.club/

(写真:古瀬絵里)
(編集:福井尚子)