本当はどんな生き方がしたいのだろう。
誰かが決めたルールの中で、自分を切り分けた生き方がしたかったんだっけ?
そんな問いかけから始まる、グリーンズと「コト暮らし」が主催する「ローカル開業カレッジ」は、地域に根ざし、自分の生き方を表現する商いを始めるためのプログラムです。
2024年10月から2025年3月まで行われた第一期には全国から75名が参加し、自分が心から願う生き方と向き合い、「どんなお店を始めようか」という想像を膨らませていきました。なかには実際にお店を始めた人や、場を持った人もいます。
そんな「ローカル開業カレッジ」の第二期が、今年も8月から始まります。第二期はどんなプログラムになるのでしょうか。
グリーンズとともにこのラーニングコミュニティを主催する「合同会社コト暮らし」代表の長田涼さんと、ソーシャルバー「PORTO」共同オーナーの山下実紗さんに、第一期を振り返りつつ、第二期のプログラムや意気込みをお聞きしました。聞き手は、ともに運営するグリーンズ共同代表・植原正太郎です。
自分の生き方を表現するお店は、社会を彩る
正太郎 ローカル開業カレッジは僕がプロデューサーのような役割で、長田さんが運営全体、山下さんがコミュニティマネージャーとして関わってもらっています。まずはローカル開業カレッジとは何なのか、おさらいをしましょうか 。
長田さん 「ローカル開業」とは、ローカルでお店や場を開こうという話ではあるのですが、私たちがこの言葉に込めた思いはそれだけではなくて、「自分の生き方を表現する商い」という定義をつくりました。
自分の人生の一部として、自分にとって本当に大事なものや価値観を表現するようなお店。店主の生き方が表現されているようなお店。そうしたお店があるまちは彩られていくし、そうしたまちが増えれば社会がもっと彩られていくと信じていて。そういうお店のあり方を増やしていくために、その一歩となるような、一人ひとりの開業を支援していく取り組みをしたいという話から、ローカル開業カレッジが始まりました。

「合同会社コト暮らし」代表の長田涼さん。自身も2022年に東京から広島・鞆の浦へ移り住み、古民家カフェ&私設図書館「鞆の浦ありそろう」を営んでいる
正太郎 「起業」ではなくて「開業」というのがポイントですよね。
長田さん 「起業」というと課題解決型のイメージがありますが、自分自身の内から湧いてくる願いや、自分自身がどういう暮らしをしたいのか、どういう生き方をしたいのか、ということを表現するための商いを伝えたくて。それで「開業」という言葉にしました。
正太郎 第一期は、まさにそういう表現を求めるような参加者が多かった印象です。
長田さん 私たちが掲げていた「自分の生き方を表現する商い」に共感する人が集まったと思います。実際に地方移住をしたい、地方でお店を開きたいという明確な目標のある人が多くを占めていましたが、「いつかやってみたい」とざっくりと考えている人も参加してくれていましたね。
意外にも後者の、今は東京で会社員をやっていて、ローカルに関心はあるけど、絶対に開業するぞという強い意志があるわけではない人が想像していた以上に多かったんです。そういう人たちは、ウェブサイトに載せたコンセプトやメッセージが刺さったみたいで。
長田さん お店を始めるというよりも、自分は本当にこのままでいいんだっけ?社会のルールに当てはめるような生き方をしているのではないか?といった漠然とした不安や、本当はこうありたいという願いから参加してくれたのだと思います。
はじめは具体的に開業を検討している人だけが来るかと思っていましたが、実際にはそうではなく、より多様な人が集まる場になっていましたね。
山下さん 第一期は定員60人のところに75人が参加してくれて、本当に多様な人たちが集まりましたね。住まいも東京から参加された人は3割くらいで、全国から申し込みがあって。年齢も高校生から50代までと幅広かったけれど、生き方について自分自身が真摯に向き合おうという気持ちのある人たちばかりだったので、共通言語を持って仲良く話せていたように思います。
ローカルには「何かできそう」という余白がある
正太郎 多くの人たちが「ローカル開業」に興味を持つのはなぜでしょうね。長田さんは広島、山下さんは長野でローカル開業をしているわけですが、なぜ都心ではなく地方で開業する人が増えていると思いますか?
長田さん 自分が移住して感じていることの一つは、東京の都心での暮らしって、基本的には与えられ続けていて、自分が消費者という枠から外れにくい環境だったなと。お金さえ出せば何でも手に入るからこそ、自分が何かをつくろうという意志がなかなか湧いてこないんですよね。
でも、僕が今住んでいる鞆の浦というまちは、本当にないものだらけというか、スーパーも娯楽施設もなくて、「このまちで何かできそう」といった消費者の枠から外れる余白があるんです。
僕は今、カフェと図書館をやっていますが、もともとは「このまちでやれることってなんだろう?」「やってみたかったことってなんだろう?」と少しずつやってみたら、いまの形になっていて。ただ好奇心のままに進んでいるんですけど、結果的に自分らしくいられる一つの手段になっているんです。自分の人生を自分で歩めている感覚があるなと感じています。
山下さん 私も東京で会社員をしていたときは、社会や会社といった箱の中で自分は何ができるんだろう、とずっと考えていました。一方で長野に住んでからは、たとえばこのまちで私はこういう生活をしたいからこれがほしいとか、自分起点で発生していく感じがすごく心地いいなと思っていて。社会全体でも同じように「これが必要だけどこのまちにはないから自分でつくろう」と思う人が増えてきたのかな、と思います。
正太郎 確かに都心には何でもあるからこそ、自分がつくる必要性を感じないけれど、地方には足りないものが多いから、自分でつくるしかない。それを面白いと思う人たちが増えているのかもしれませんね。
「こうありたい姿」に向けての推進力に
正太郎 第一期のプログラムを振り返ってみましょうか。
長田さん 大きく分けると、ゲストの講師を招いたオンラインでの講義、オンラインでメンバー同士が対話するゼミ、現地でのフィールドワークの3つで、複合的な学びの場をつくりました。インプットだけでなくアウトプットも大事にしていて、お互いに学び合うラーニングコミュニティとなっています。最後は発表会を設け、ローカル開業構想を全員がプレゼンしました。
フィールドワークは長野県の諏訪市と島根県の石見銀山エリアに行き、現地のプレイヤーの方と触れ合ったり、そのまちの様子を感じたり、メンバー同士の対話や講義の機会もつくりました。講義とゼミはオンラインなので、やはりリアルで会って、現地で自分の五感を通じていろいろなものを感じ取ることはとても大事だなと思いましたね。
山下さん 本当にそうですね。普段から個別で会えている人たちはすごく仲良くなっていて、そこから派生してどんどんアメーバ状につながりが広がっていたように感じます。参加者には毎回アンケートを取りましたが、最終アンケートを見ると「このメンバーと出会えたことがよかった」とか「横のつながりができて最高でした」といった声が多かったです。
長田さん 自主企画も多く生まれていて、ゲストに来ていただいた「クルミドコーヒー」の影山知明さんの本の読書会とか、参加者の一人がクラウドファンディングに挑戦することになったのでその作戦会議をしたり、終わったあとに卒業パーティをやったりしましたね。
正太郎 プログラムを通じて、参加者にどのような変化を感じましたか?
長田さん 実際にみなさん変容が起きているようです。はじめは開業に対して少しふわっとした状態で参加していたけれど、終わるころには「絶対やる」という確固たる意志を掴んだ人がいたり、実際にクラウドファンディングをしてコーヒースタンドをオープンした人もいたり。あとは夫婦で参加して、修行期間を経て開業しようと思っていたけれど、いい物件と出合って買ってしまった、という人たちもいました。
山下さん 私も把握しているだけで3件、新しく開業した方がいて、もしかしたら他にもいるかもしれません。さっきあったように物件を買ったとか、場を持つために間借りしたとか、アクションに移した方がたくさんいて。自分の「こうありたい」姿に向けて、みんな一歩ずつ近づいている印象があり、すごく嬉しいです。
開業への意識はそれぞれなので、ゴールも3段階に分けてみました。ステップ1はどう生きたいか?を考えてみよう、ステップ2は具体的なお店のイメージを言語化してみよう、ステップ3は実際に事業計画書まで立てよう、といったように。まずは家族に伝えてみるだけでもいい。詳細が何も決まっていなくても、とりあえず形に出してみることで、変化につながったのかなと思います。
自分のありたい姿と向き合う「ローカル開業7ヶ条」
正太郎 実際に開業したり場を持ったりとアクションにつながっているのは、僕もやってよかったなと思いました。8月からは第二期が始まりますが、いくつかアップデートする予定なんですよね。
長田さん はい、まず一番大きいところで言うと、「ローカル開業7ヶ条」をつくったことですね。第一期から「ローカル開業=自分の生き方を表現する商い」という定義ではやってきましたが、ローカル開業とそうでない開業の違いについて、具体的に整理できていなかったんです。
第一期の学びを受けて、「このあたりがローカル開業として大事なポイントなんじゃないか」というものを7つの要素にまとめたのが「ローカル開業7ヶ条」です。
長田さん 起点、暮らし、問い、地域、関係、経営、表現。この7つのキーワードをベースに、それぞれテーマを掲げています。例えば「起点」のテーマは「生き方から始める」。これは地域課題解決のためにやろう、稼ぐためにお店をやろう、ではなくて、自分が生きたい姿から開業について考えていこう、という内容です。
また「暮らし」のテーマは「暮らしと商いを重ねる」で、商いと自分の暮らしを切り分けるのではなくて、うまく重なっていくのがローカル開業だよね、といった内容です。
正太郎 「自分の生き方を表現する商い」の解像度が高まったんですよね。 この7ヶ条はどう使われていくといいんですかね?
長田さん 自分の開業と向き合うときに、よりどころとして持てるといいのかなと思っています。一つの指標というか。自分の本当にしたい商いは、そのあり方でいいんだっけ?と向き合ったりするのに使えるのではないかなと思っています。
正太郎 一個ずつのテーマも結構重いし、考え始めると難しい内容も多いけれど、それが学びの核になっていったらいいですよね。
長田さん そうですね。第二期ではこの7ヶ条に沿ってオンライン講義を構成していて、ゲストは各回1〜2人に来ていただく予定です。
たとえば「自分の暮らしと商いを重ねる」のテーマでは、山口県で「菊本」というパン屋を営んでいる菊本拓志さんをゲストにお招きします。菊本さんは1種類のパンしかつくっていなくて、予約制で、4ヶ月くらい先まで予約が埋まっていて買えないんですよ。暮らしの部分もこだわりが強く、暮らしと商いのバランスというか接続をすごく考えていらっしゃって、このテーマにぴったりだなと思ってお声掛けしました。
また富山県にある「HOUSEHOLD」という宿と飲食店を営業している笹倉奈津美さんは、地域と馴染むような宿と飲食を追究されているので、「地域の文脈の上で営む」というテーマに合っているなと思い依頼しました。
経営の回では、第一期でも好評だった一棟貸しの宿「nagare」の石川景規さんに今回も来ていただく予定です。石川さんはもともと銀行員だったんですが、夫婦で世界一周をしたあとに地域おこし協力隊として長野県の飯島町に移住し、古民家をリノベーションして宿業をはじめ、最近は3店舗目も出しています。銀行員だったことからお金まわりの知識も多く、とても勉強になります。他のゲストのみなさんも哲学を持ってやられているので、私自身も楽しみです。
正太郎 フィールドワークの数も増えるんですよね。
長田さん 第一期のときは長野と島根の二箇所でしたが、一つの場所に多くても10人くらいしか行けないので、二箇所だと約20人しか参加できない。僕の暮らすまち(鞆の浦)に来てもらう機会も設けて、なんとか全員が参加できたのですが、その反省を踏まえて今回は4箇所に協力をお願いしました。
それが北海道上川町、長野県諏訪市、私が住んでいる広島県鞆の浦、静岡県南伊豆町です。フィールドワークとして行くのは最初の3箇所で、基本的にインプットがメインですが、南伊豆では合宿という形で考えています。インプットの機会だけでなく、自分のローカル開業に対してめちゃくちゃ向き合う機会をつくる予定です。
山下さん ゼミやグループメンタリングの発表会では、実際に自分が考えていることを形にしていくためのワークをやっていく予定です。「聞いて楽しかった」ではなく、ちゃんと形になるように伴走していくつもりです。
リアルで会う機会も増やしています。キックオフと最初の講義、発表会のあとに交流会の時間をつくりたいと思っていて、オンラインでも参加できるようなハイブリッド型を考えています。やはりリアルで会うことでのパワーをすごく感じたので、みんなで集まる機会を最初と最後に設けると、より前のめりに楽しんでいける土台になるのではないかなと。おそらく東京になるとは思いますが、最初に集まって交わし合うところから始まって、最後もまた直接分かち合って終わる、そんな構成になっています。
ローカル開業カレッジは、生き方と向き合う場
正太郎 より受講生同士のつながりが増えそうですね。僕自身も熊本の南阿蘇に住んでいて、暮らしのおすそ分けができるような宿業をやりたいなと考えているので、ともに学ばせてもらおうと思います。
では最後に、受講を考えている人たちへのメッセージをお願いします!
長田さん ローカル開業カレッジはいろいろな楽しみ方があるというか、様々な角度で価値を提供できる場になっていると思っています。もちろんローカル開業を検討する人には前に進むための場になりますし、まだ開業の構想を持っていない人でもめちゃくちゃ楽しんでいたのが第一期でした。今すぐ開業するつもりはない人でも、もしローカル開業カレッジの情報に触れてビビッと来たら、ぜひ飛び込んでみてほしいなと思います。
開業の仕方を学ぶ場ではあるのですが、自分の生き方と向き合う場でもあるのが特徴的だと思います。
山下さん 私はローカル開業カレッジはインプットとアウトプットのバランスがすごくいいなと思っていて。講義で情報を得てから、ゼミ会できちんとアウトプットして、自分の中に落とし込めているかの確認作業ができると思います。
また、自分自身のバックグラウンドやストーリーが開業の元になるので、そこをシェアし合う仲間というのはすごく関係性も深くなりますね。開業は孤独を感じることもありますが、同じ志を持つ仲間ができて、長いスパンで応援し合えるコミュニティとして一緒にいられたらいいなと。色々なステップの人がいるので、必要な情報や仲間も見つかりやすいと思いますし、ぜひチャレンジしてもらえたらうれしいです。
自分はどこで、どんなふうに暮らし、どんなふうに働き、どう生きていきたいのか。
今の状況は一旦置いておいて、ちょっと妄想してみませんか?
そういえば、本当は海の近くに住みたかったな、とか、本当は本屋さんをやりたいんだった、とか、人が集まる場をつくりたいと思っていた、とか。
自分の生き方と向き合い、胸の奥で眠っていた「本当はやりたかったこと」の芽を伸ばせるのが、「ローカル開業カレッジ」です。すぐに開業や移住するつもりがなくても大丈夫。まずはウェブサイトをのぞいてみてくださいね。
(撮影:長田涼)
(編集:村崎恭子)
– INFORMATION –
「ローカル開業カレッジ第2期」の申し込みは2025年7月31日23:59まで。あなたのご参加を、心からお待ちしています。