どこかへ旅行に行くとき、まずはガイドブックで予習する人も多いのでは?観光名所やグルメ、お土産など、読むだけで行った気になってしまうこともありますよね。
美味しいものを食べたり、観光地を巡るのも楽しいですが、一期一会の人との出会いも旅の醍醐味の一つ。そんな地域の人との出会いを楽しむ旅を提案するガイドブックがあります。その名も「COMMUNITY TRAVEL GUIDE」。
この本では、その地で暮らす人たちを紹介しています。これまでに島根県海士町の「海士人」、福井県・嶺北地方の「福井人」が制作されました。そして今年、シリーズ第三弾として制作中なのが「三陸人」です。
観光から三陸を応援
このプロジェクトで定義されている「三陸」は、北は岩手県宮古市から、南は宮城県石巻市までの司祭での被害が大きかった三陸海岸沿いの町が対象です。
具体的には宮古市、山田町、大槌町、釜石市、大船渡市、陸前高田市、気仙沼市、南三陸町、女川町、石巻市の10地域。どの地名も、震災後にニュースなどで聞いたことがあると思います。
3.11から2年。復興が進んでいるところもあれば、まだまだ時間が必要なところもたくさんあります。そんな三陸を今回の舞台に選んだ理由は3つあります。
1.観光から応援
三陸の魅力的な人に会いに全国から観光客が訪れることで、被災地への中長期的な支援につながる。
2.発掘して光を当てる
三陸で復興活動をしているけれど、まだ認知されていない人たちを発掘し、応援したい。
3.地域との連携
地域同士のつながりが少ないため、復興の後押しになるような連携を促す。
でも、誰を取り上げたらいいのだろう?
そもそも、どんな人がいるのだろう?
地元の人に聞いてみよう!というわけで、キックオフワークショップが4月21日、仙台で開かれました。
魅力的な三陸人を探そう
ワークショップには、三陸に住む約30人の方が集まりました。前半は「魅力的な三陸人を探そう!」と題し、①飲食店・宿泊施設、②ものづくり、農作物、魚介類、お土産、③観光、体験施設、イベント、交通の3つのテーマに分かれてアイデアを出し合いました。
伝統神楽を守る神社、被災したお母さんたちが起業したお店、とにかく大盛りの食堂など、地元の人でも「知らなかった!」という情報が飛び交いました。
アイデアを書いたらグループ内で発表していきます
後半ではガイドブックの特集企画について考えました。
・地元のゆるキャラを探そう
・虎舞などの東北芸能
・牡蠣やマンボウなど、海の幸
・イケメン漁師
・ネコ島やひょっこりひょうたん島などの離島
・東北ならではの変な習慣
などなど、たくさんの特集案が出ました。
そこからさらにアイデアをしぼって深く考えていき、こうして5時間にも及ぶワークショップは終了しました。
「COMMUNITY TRAVEL GUIDE」のはじまり
そもそも「COMMUNITY TRAVEL GUIDE」はどのようにして誕生したのでしょうか?プロジェクトリーダーであり、「issue+design」代表の筧 裕介さんにお話を伺いました。
一冊目の「海士人」をつくったきっかけは、観光の仕方が変わってきているのを感じたからです。「20世紀型観光」と「21世紀型観光」と呼んでいるのですが、20世紀型の方は、いわゆる名所を回って、見て、食べて、消費するといったハード面を重視していることが特徴です。一方の21世紀型は一つの地域に長期滞在したり、体験したり、学びを得るようなソフト面を重視しています。
近年、後者の観光をする人が増えてきていることに気づき、人との出会いが生まれるガイドブックをつくったらどうか、と思いつきました。
また4月に発売されたばかりの「福井人」には、こんな思いがこめられていました。
二冊目に福井を選んだのは僕の出身地だからでもありますが、離島のような特殊な場所ではなく、どこにでもありそうな地方都市こそ、魅力的な観光地がなくても人の力で輝けるということを伝えたいと思いました。
実際に、自分がやっていることが本に載る価値があるんだと地元の人たちに気づいてもらい、彼らの自信や誇りにつながりました。
そして第3弾となる「三陸人」は、以前から構想はあったようです。
「issue+design」は2008年から震災をテーマに活動していたこともあり、東北では3.11直後から様々なプロジェクトに取り組んできました。それが震災から2年経ち、現地で活動していた人が戻り始めたり、手薄になっていることを実感して、そろそろ本当に地域の人のためになることをするフェーズに来ているのでは、と思うようになりました。
また気仙沼なら気仙沼、というようにピンポイントで活動している人はいますが、三陸全体の連携がなく、地域をつなぐものとしてガイドブックを作りたいと思っていました。
制作が始まったのは、NPO法人ミラツクの西村勇也さんの存在が大きかったですね。西村さんと「つくりましょう」という話はずっとしていて、やっとタイミングが合ったんです。もし西村さんがいなかったら作っていなかったと思います。こういう人との出会いは大切にしていて、良いタイミングがあったら逃さないようにしています。
続いて「issue+design」を立ち上げた経緯について尋ねると、「実は僕は9.11のときに被災したんですよ」という話が。
そのとき仕事でニューヨークにいて、すぐ真下で事故を見ました。当時は博報堂に勤めていたのですが、混乱が続く状況を見ているうちに、仕事に対する考え方が変わっていきました。
広告の仕事はすごく楽しかったけれど、この仕事ができる人は世の中にいっぱいいる。そうではなくて、あまり人がやらなくて困っている人がいる領域の方が、自分を必要とする人がいるのではないか、と。
そんな思いから始まった「issue+design」は社会問題を創造力やデザインで解決しようと、毎年、子育てや婚活、超高齢化社会など一つの課題をキーワードに取り組んでいます。なかには若者のうつ病や自殺といった深刻な社会問題もありますが、
複雑で難解な問題が多いですが、難しいほど解き甲斐があるし、挑戦心をかきたてられますね。広告の仕事も、その商品の課題を見つけて、解決のための手段を考えるという意味では、ほとんどやることの流れは同じです。
と話すように、「issue+design」のウェブサイトには若者向け自殺・うつ病対策のための「ストレスマウンテン」や、新しい母子手帳、少子化・結婚対策のための「日本婚活会議」など、これまで取り組まれてきたユニークなコンテンツが掲載されています。
「COMMUNITY TRAVEL GUIDE」もその一つ。今回の「三陸人」は2014年3月の発売に向けて取材・編集を地元の人たちと一緒に進めていく予定です。完成したらみんなに三陸に来てほしいし、他の2冊と同様に、地元の人たちにも自信を持ってもらいたい、と筧さん。どんな一冊になるのか、今からとても楽しみですね。