最近、土をさわったのはいつですか?あれ?いつだろうと、頭をかしげてしまう方も少なくないかもしれません。街のなかで暮らしていると、だんだん土と遊ぶ機会が少なくなってしまいますが、郊外にある貸し農園を借りようと思っても、車が必要なほど遠いことに、二の足をふんでしまい方もいるのでは?
そんなあなたにおすすめなのが、NPO法人「Co.to.hana」の活動です。大阪市内の港に近い街、北加賀屋では、住宅街の遊休地や空き地を利用して、もっと身近な農園「みんなのうえん」をつくる取り組みが始まっています。
まちの遊休地を、農園にできないだろうか?
北加賀屋は港に近く、その昔は造船で栄えた街でした。いまでは造船所跡地や廃工場などを再利用して、アーティストやクリエイターを誘致するという地元の企業、千島土地株式会社が取り組むクリエイティブ・ビレッジ構想を足がかりに、アートの拠点としても注目されています。ふと、住宅の壁に目をやると世界的に活躍するアーティストのグラフティが描かれていたりもする街なのです。
Co.to.hanaの事務所も、地下鉄北加賀屋駅から1分のところにありますが、代表の西川亮さんは街とのかかわり方に少し距離感があると感じていたそうです。
せっかくアーティストやクリエイターが集まってきているのに、もっと地元の方とのつながりを目に見えるかたちにできないかと思っていたんです。そこに「千島土地」と「studio-L」からアートと農をむすびつけた農園をつくるという提案をいただきました。
Co.to.hanaの西川亮さん
造船で栄えた街は、少子高齢化が進み遊休地がふえていたんです。それを資源として有効活用しながら、地域コミュニティを活性できるのではないかと。いっしょにプロジェクトを進めたのは、地元で主に不動産業を営みながら名村造船所跡地など北加賀屋に保有する遊休不動産を活用し、アートによる地域活性に取り組む千島土地と、全国各地でコミュニティデザインを行っている大阪の事務所 studio-L。
北加賀屋の遊休地のなかから農園として利用するのにふさわしい土地を選定して参加者を募集し、「北加賀屋みんなのうえん」は生まれました。
造船業の中心が海外などに移り、産業構造が変わるにつれ、北加賀屋の街の工場や人口も減っていきました。だんだん活気が失われていくなかで、世代を超えたつながりも失われ、新しくこの街に住みだした人も、昔のように全員が町内会に入って交流するということがなくなっていました。
アートの活動と農園を組み合わせることが、そんな問題の解決方法のひとつになるというわけです。若い人には街の魅力を伝え、年輩の方には「いきがい」の場所をつくることができます。そして、それが世代を超えた交流の場に育っていければ、という試みなのです。
「途中経過」を、おもいきり楽しもう。畝(うね)の形から作戦会議!
貸し農園であれば、一つひとつの区画を貸して終わりです。しかし「みんなのうえん」では、参加者を集めて区画ごとでチームをつくります。どんな畝(うね)にするのか、どんな野菜を植えるのか、というところからワークショップ形式で考えていきます。名前の通り、みんなでつくる農園です。ここに交流が生まれる工夫があります。
まずプロジェクトの概要を地域のみなさんにお話ししました。北加賀屋で生活されている住民のみなさんや、地域に拠点を構えて活動しているアーティストやクリエイターに「農園に何を期待するか?」「将来北加賀屋にどうなって欲しいか」などの意見をいただきました。
地域のみなさんとのワークショップで意見交換
さらに西川さんたちは、地域の方々とワークショップを重ねていきました。クリエイティブ・ファームのめざす方向や、やってみたいことを話すうちに、あがってきたのが農園をきっかけに健康的な生活を手に入れたい。地域の多世代の交流のきかけにしたいといった声でした。
農園でやってみたいことを提案
一緒に農園をつくっていくメンバーが決まると、どんな農園にしていきたいかという「作戦会議」です!年代も様々な参加者が、3つのチームにわかれて育てる野菜の種類や畝(うね)のかたち、苗を調達する役割分担などを話しあい、農園を始める準備を進めていきました。
・毎日水やりには来られないけれど、情報集めならまかせて!
・力仕事は苦手だけど、料理なら得意よ!
話し合いを進めていくと、メンバーそれぞれの得意なこともわかっていき、1人ひとりがどんな人なのかを知ることができました。こうした「作戦会議」がまるで「町内会」のような場になり、地域に新しい人のつながりを生みだしていったのです。
料理も土も自分でつくろう。
専門家のサポートで楽しく、構えずに農を体験
僕ら自身は農園の専門家ではないので、色んな専門家と連携して農園をつくっています。アートの要素も取り入れることで、より楽しい参加型の農園にすることができました。
たとえば、「みんなのうえん」には、次のようなサポートネットワークがあります。
料理研究家の堀田裕介さんは、この畑の耕作を通じて、新しい農のあり方をいっしょに考えてもらえるイベントも開いています。「種から育てる子ども料理教室」では、料理の方法だけでなく、自分たちで種から育てた野菜を収穫して、食といのちの大切さを学ぶ機会になっています。
料理研究家といっしょに食と料理を考える会
「種から育てる子ども料理教室」
また、土づくりアドバイザーの石山陽介さんは、その土地の土が持つ力を活性化させ、野菜に適した土をつくりだします。最初は耕されたこともなかった、空き地の土が参加者といっしょに、だんだんよい土に変わっていく、そのプロセスも楽しく、自分たちの畑だという気持ちが強くなっていきます。
畝のかたちもみんなで考えたオリジナル!
北加賀屋の建築設計事務所「dot architects」のみなさんには、農具倉庫づくりにご協力いただきました。プロジェクトメンバーもコンクリートを打ったり、外壁を貼り付け、木材は北加賀屋の倉庫に眠っていたものを使いました!さらに休憩スペースや水道もメンバーと一緒に手作りしています。
建築家と考える農具小屋づくり
ほかにも、大阪府若手農家の会「4Hクラブ」や、 園芸と地域活性を考えるNPO法人「とどろみの森クラブ」もサポートしてくれています。
アートやクリエイターのアイデアから、地域発信のアイデアにしていく
北加賀屋では「こどもまち」というプロジェクトもおこなっています。住之江、住吉、西成の小学生のこどもたちが、北加賀屋にある空き家や空き地、既存の店舗を使ってまちを元気にするようなオリジナルのお店を考えてつくりました。
お店の舞台となったのは、北加賀屋の2つの空き家、アーティスト旅館(AIR大阪)、そして「北加賀屋みんなのうえん」。地域の特徴や、魅力を活かした5つの個性豊かなカフェでお客さまをおもてなししました。
当日は、町なかと各店舗の前で「こどもまち」の限定通貨 「チル」を無料で配布してお店を回れるように。「みんなのうえん」では野菜を使ったメニューを用意して大盛況でした!
2013年の8月からは、近くの新しい空き地を農園にするプロジェクトもスタートします。今の農園の約3倍の広さです!これからは個人利用に加えて、地域の福祉団体や病院と連携した園芸療法にもいかしていきたいと、西川さんは考えています。飲食店とも連携できれば、作った野菜を地域のお店に卸していくこともでき、さらにつながりが深まります!
一番の理想は、もう僕らの手を離れて、メンバーと地域の人たちが勝手に農園の利用と交流を広げていってくれることです。そこに北加賀屋のアーティストやクリエイターも呼ばれて手伝うといった関係ができれば!
実際に、農園に参加していない近所の方も、農園のことを気にかけてくれていて、前を通るたびに「頑張ってるね、きれいにしてるね」と声をかけてもらえることが多くなりました!
共生のかたちを考える収穫祭で、コミュニティの未来を考える
2013年の3月29日には、千島土地株式会社とおおさか創造千島財団主催のレセプションとあわせて、「みんなのうえん」の収穫祭としてケータリングを担当しました。「Plant/Plant 都市・人・自然の古くてあたらしい共生のカタチ」と題しシンポジウムや、アーティストによる作品展示を名村造船所跡地内のクリエイティブセンター大阪で開催。
前半に「みんなのうえん」の報告会も行い、後半は自然を使ったアート作品を発表している栗林隆さん、そら植物園の西畠清順さん、studio-L代表のコミュニティデザイナー山崎亮さんにより、都市における自然と人とのこれからの共生のカタチや「みんなのうえん」から広がるコミュニティの可能性を模索するシンポジウムを開催。「みんなのうえん」のメンバーも成果を報告し、農園で採れた野菜を調理したフードカフェでおもてなししました。
収穫祭で野菜を使っておもてなし
以下、メンバーのみなさんの言葉です。
料理研究家の堀田さんに監修してもらいながらグリーンスムージーの研究をしたり、収穫できたバジルを使ってジェノベーゼソースをつくり、みんなでランチもしました。若い世代が中心なのでもっと高齢者にも関わってもらえるように、仕組みをつくったり、縁側など休憩スペースなどを使って誰でも集まれる農園にしたいです。
「こんだて部」をはじめました!料理の得意なメンバーが自主的にたちあげたサークル活動です。普段、家では作らないメニューを農園の野菜を使ってチャレンジしています。商業的な農業ではなかなか残して行けない在来種や伝統野菜を、この農園で残していきたいと思います。
新敷地は広いので、可能なら田んぼをやって米を育てたい。それを“北加賀屋米”としてブランド化して、敷地のすぐ近くにある神社に、お供え物として奉納したいですね。
みんなで収穫した安納芋を、全体会議の日に食べました。その日は“果樹総選挙”と題して、農園にうえる果樹もみんなで選び、レモンの木が選ばれました。専門家の方と連携して、色んな木を植えたりして誰でも立ち寄れ、くつろげる「地域のお庭」をつくりたい!
「みんなのうえん」はまだはじまったばかり。いろいろな、可能性があると思っています。参加者からも積極的な意見が生まれています。伝統野菜を育てて、50年後、100年後に北加賀屋の名産になるような野菜をつくろう!とか、地元のクリエーターや鉄工所に呼びかけて農機具や作業着をデザインしてもらおう!農園の土を使ったアートを一緒につくろう!とか、面白い発想がどんどん生まれています。(西川さん)
レセプションは大盛況!
これまでは「公園」や「公民館」などが果たしてきた公共の交流の場。それは、たいてい、あらかじめ用意された場所を使うことがほとんどでした。遊休地を利用した農園は、そこをどんな場所にしていくか?から一緒に考え、一からつくりあげていくことができます。つくるプロセスで人と出会い、楽しみながら参加できる。農園ができたあとも、使い方はどんどん変えていけるし、変わっていってもいい、そんな場所です。
街とそこに住む人が変われば、農園のありかたも変わる。そんな流動的な場所が、これからの地域コミュニティのヒントになるのではないでしょうか。土に触れる考えることで、街の人たちが「自分のなかのクリエイティブな発想に気づく」そして気づきが街づくりの力に育っていく、それが「みんなのうえん」なのです!