「いつか子どもが欲しいと思うけど、“いつか”なんだよね」
そう思っていたある日、突然にパパやママになることがわかったら、みなさんはどう思いますか?
これから自分はどうなるんだろう?
お金は大丈夫だろうか?
仕事はどうする?
やりたいことができなくなるんだ…。
私なんかが親になれるとは思えない…。
そんなふうにわからないことが多すぎて、不安で、怖くて、とてもすぐには受け入れられないと言う人もきっといると思います。
パパとママに(身体的には)なれるけれど、まだなっていない…そんな私たちは、子どもを持つことに“大変”というイメージを抱いてしまいがちです。かけがえのない命を授かるって、本当はとっても素敵でハッピーなことなのに、なんだかそう思えない…でも、どうして?
そんな“パパとママになる前”の世代のみんなで集まって、これまでの自分のこと、今の自分のこと、そして、これから家族をつくっていくであろう自分のことについて、いろんな切り口から感じたり、考えたりするきっかけを提供しているのが「ぱぱとままになるまえに」です。
子どもを持つ前に、自分と向き合う時間を
「ぱぱとままになるまえに」(以降、ぱぱまま)をはじめたのは、自身も“ぱぱまま世代”というぴろみんこ(西出博美)さん。「私、妊婦さんが好きだ!ってあるとき気がついて」とくるくるとした笑顔で話してくれました。街で見かけるだけで涙が出そうになるくらいに感動することも。
大学で社会福祉の勉強をしていたぴろみんこさんは、その当時、児童養護施設にたびたび足を運ぶ機会があったそう。もともと子どもが大好きという彼女は、「親から虐待されてしまうなんて、そんな悲しいことが一生のうち一度でもあってはいけない」と思っていたといいます。
そうなってからでは遅いって感じました。やっぱり、親から虐待されるなんて理由でこころは傷つかないほうがいいと思うから。
でも、福祉の世界では、どうしても目の前で傷ついている人のケアや、生活環境を整えて、こころを安定させることに重点が置かれがちで。問題の根っこをみつけて、そこから解決をしようという動きがなかなかできないんですね。
それに、子どもを虐待してしまった親に会うこともあったんですが、めちゃくちゃ悪い人ってわけでもないんです。むしろ、彼女たちのこれまでのことを知れば知るほど、気持ちもわかるなって思いました。ある日突然に、準備も心構えもなく妊娠したら、焦るし、困る…そんな状況じゃ、せっかくの子どもとの時間も苦しくなったり、辛い出来事になってしまうよなぁって。
そこでぴろみんこさんは「児童福祉問題の根本的な解決のためには、親になれるけれど、なっていない人たちにアプローチする必要がある」ということに気づきます。もしも幸せいっぱいの妊婦さんの話を聞いて、妊娠が自分ごとに思えたら、パパやママになる前に自分に向き合うことができたら、何か変わるかもしれない…それが「ぱぱまま」のはじまりです。
はじめは「妊婦さんの話を聞こうよ!」といっても、なかなか分かってもらえなかったんです。でも友達などに声をかけて、どうにかこうにか1回目をやったらすごく反応が良かった!参加前には、まったく見えていなかった“パパとママになること”が明確になったようで、明るい表情で「結婚したいって思った!」「パパやママになりたくなった!」って言ってくれる人が多くいたんです。
また「“この妊婦さんの話が聞きたい!”っていう方に次々と出会えたのも大きかった」とも。そんなぴろみんこさんのひとりの思いで始めた「ぱぱまま」は、今では仲間が8人に。中には助産師さんや保育士さんもいて、専門知識もしっかりサポートできる体制になったといいます。そして今回の9回目のイベントで、2周年を迎えました。
2周年特別編は、妊婦さんとその旦那さんの話も聞いちゃおう会
「ぱぱまま」のイベントは2部構成。1部は妊婦さんの話を聞く時間、2部はワールドカフェでじっくり自分と向き合います。今回は2周年記念で特別に、妊婦さんだけでなく、旦那さまもゲストに。2人もこれまでの「ぱぱまま」に参加し、一足先にパパとママになったという正真正銘の先輩です。
おふたりの話を聞きに会場に集まったのは、パパとママになるまえの方はもちろん、子どもを連れて参加している先輩ママやパパの姿も見られました。女性の関心の方が強いかな?と思いきや、男女比もちょうど半々くらい。始まる前から自然と「どうして参加したの?」「妊娠出産に興味があるの?」「子どもが好きなの?」と会話がうまれ、あったかい場が作られていきます。
いよいよイベントがスタート。ぴろみんこさんの挨拶からはじまり、まずはみんなで輪になり自己紹介を。場が和んだところで、ゲスト2人の話に入ります。等身大の言葉で語られるので、まるで友達の話を聞くかのように、ごく自然に話に聞き入ってしまいました。みんなも真剣な様子。
妊娠がわかったとき、妊婦のこまっつーさんは「不安でしょうがなかった」と話してくれました。でもその不安と向き合い、今の自分を受け入れることで少しずつ柔軟に考えられるようになったといいます。今ではすっかりハッピーな妊婦ライフを送っているそう。
今まではできないことがあったら、できるまで頑張らなきゃって思っていました。でも今は、人に迷惑をかけていいんだ、頼ってもいいんだって思えるようになりましたね。
キャリアのことも考えてたのに、どうなっちゃうの?って不安だったけれど、よくよく考えてみると私はソーシャルワーカーでいたいだけで、職場はどこでもいいんだってわかった。それに、お母さんって立派な仕事だって思えて大丈夫になったんです。
会場からの質問は、「お互いの親とはどういうふうに関係性を作っていったの?」「不安だったって話してくれたけど、それまで子どもを持つことに関してどう思っていたの?」「仕事と子育てはどう両立していくの?」そして気になるお金のこと。それに対して夫の彼方さんが…
子育てって、お金だけで解決できないことがたくさんあって、誰かの助けを必ず必要とするものだと思っています。支えてくれる誰かがいれば、なんとかなるんじゃないかな。
ぱぱとままになる前段階「結婚のタイミング」って?
休憩を挟んで後半のワールドカフェでは、4〜5人のグループをつくり、2つの問いについて話し合いました。1つ目は「あなたにとって「結婚のタイミング」っていつですか?」。
「結婚したいと思うけれど、いろいろ考えるといつがいいのかわからない」「収入や家のことなど条件が揃ったら」「結婚したい相手に出会えたら」、中には「29歳って決めているんです!」という人も。でも、どうやったら「今だ!」「この人だ!」ってわかるものなのかがやっぱり疑問です。
それに対して既に結婚されている方が、いつがタイミングだったか経験談を話していきます。「一緒に住みたいと思ったときに同棲するのではなく結婚しようという話に自然となった」「就職など環境の変化が後押しして」など。
30分ほど経ったところで、テーブルを移ってもう一度同じ質問を。「さっきはどんな話が出たの?」という共有からはじめて深めて行きます。男女で傾向は見えてきたものの、本当にひとそれぞれだということが次第にわかっていき、“自分は自分の基準で良いんだ”と、語り合いながら各々が腑に落ちていきます。
そして最後は最初のテーブルに戻り、2つめの質問「結婚するまでにどんなふうに過ごして行きたいですか?今できることは何ですか?」に移りました。
ここでも様々な意見が交差しました。「やりたいことをやっておきたい」「パートナーとたくさん話をしたい」中にはキリスト教式の「結婚講座をうけた」という先輩ママの話も。
ここでも既婚者の方から前向きな言葉が次々と語られます。「親戚付き合いとか面倒くさいと思うかもしれないけど意外となんともないから!」「自由がなくなると思うみたいだけど、むしろ自由になれるよ!」そう、一言で言うなら「結婚って楽しいよ!」ってこと。
1時間半もの時間をかけてたっぷり話し、今日持ち帰りたいことを一言でポストイットに書いてワールドカフェが終了。そしてイベントも終わりを迎え、最後にもう一度輪になって一人ひとり今日の感想を述べました。
・日ごろ考えてたことを真正面から話せた。
結婚のことは考えないようにしていたけれど、先輩ママの話を聞いて生き方を考えなきゃと思った。
・みんな自分の親の結婚の経緯に詳しくて驚いた。自分は知らないので、家族とそういう話をしたい。
・30歳までは自己実現と思っていたけれど、それさえも2人でかなえたいと思えた。
・すばらしい人じゃないと親になれないんじゃなく、親になることですばらしい人になっていくと思えた。
「ぱぱとままになること」を夢見る人を増やしたい
そして、最後にぴろみんこさん。
2年前に衝動的にはじめた「ぱぱまま」。23歳だったあの頃の私は、37歳くらいで結婚できれば良いと思っていて、正直なところ家族を持つことを楽しいと思えてなかったんです。でもこれまでに、妊娠して心から喜んでいる人、結婚を楽しんでいる人たちにたくさん出会えて、早く私も結婚してママになりたい!って思えるようになりました。
これからも活動を続けていくので、いろんな人のいろんな話を聞いて、「ぱぱまま」に参加してくれる人たちも同じようにうれしい変化をしていってくれると嬉しいです。
「ぱぱまま」は、“ぱぱやままになることを夢見る人を増やす”と掲げて、3年目の今年は新しい挑戦をしていくそう。価値が見直されている助産院と連携を強めていくなど、これからの活動もとても楽しみです。これを読むぱぱまま世代のみなさんが、いつか先輩パパやママとしてて、だれかの不安を支えていく…そんな好循環がきっと「ぱぱまま」を通して生まれるのではないでしょうか。
結婚や妊娠出産にもやもやとしているものを抱いているなら、ぜひ一度「ぱぱまま」のイベントに参加してみることをおすすめします。
(撮影:NAOYUKI HAYASHI)