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まるでタイムスリップ!?郷土食を築100年の古民家でいただく「のうそんカフェnora(ノーラ)」

PHOTO: SHINICHI ARAKAWA

PHOTO: SHINICHI ARAKAWA

生きていれば、誰もが欠かすことのできない毎日の食事。

理想的な食事は人それぞれですが、食べるという行為を通じて、空腹を満たすだけでなく、気持ちまでうれしくなってしまうような時間を過ごすことが出来たら、なにより素敵な事ではないでしょうか。

千葉県東部、外房の豊かな自然と海に囲まれた長生村に、昔懐かしい郷土食をベースにした、旬の恵みを活かしたごはんが食べられる「のうそんカフェnora(ノーラ)」はあります。 

築100年の古民家を改装した空間に流れる、ゆったりとした時間。その居心地のよさは人を惹きつけ、地域の繋がりが有機的に作られる場にもなっています。

その日に採れた食材で振舞うごはん

心がふっと柔らかくなるような懐かしいごはん PHOTO: SHINICHI ARAKAWA

心がふっと柔らかくなるような懐かしいごはん PHOTO: SHINICHI ARAKAWA

noraで振舞われるのは、お店のすぐ隣の農園で、その日に採れた食材を多く使った体にやさしいごはん。私たちのおばあちゃんが作ってくれていた懐かしい郷土食をベースにした料理は、やさしくも深みのある味わい。古民家の雰囲気も手伝って、食べ進むほどに、心がふっと柔らかくなっていきます。

“子どもにも安心して食べさせられるもの”という基準で選んでいるという食材ですが、ここでは特に無農薬で丁寧に育てた野菜、しかも旬のものを抜群の鮮度で食べられるということが特長です。旬の食材は、夏は体の温度を下げ、冬には体を温めるなど、理にかなったものが多く、味覚の美味しさだけでなく体にとってもうれしいものです。

手際よく調理をする橋本千文さん。「旬の野菜を美味しく食べてもらいたい」。

手際よく調理をする橋本千文さん。「旬の野菜を美味しく食べてもらいたい」。

「人が集まる場を作りたかったんです」と話すのは、お店を切り盛りする橋本千文さん。もともとは、橋本さんのパートナーである小鮒拓丸さんがスタッフを務めるお隣の市民農園「FARM CAMPUS」の会員のクラブハウスとして使われていたnoraの古民家。農園でどうしても余ってしまう旬の野菜を美味しく食べてもらいたいという思いもあったと言います。

震災を機に、人との繋がりと自然の大切さを痛感しました。自然の恵みである野菜を作る人と食べる人だったり、移住仲間や地域の人といった、みんなが集いたいと思える場にしたいと考えていました。

実は橋本さん自身、震災を機に福島県郡山市からこの町にやって来た移住者のひとり。震災直後、小鮒さんがたまたま聴いたラジオで被災者就農支援のことを知り、それをきっかけにFARM CAMPUSの募集にたどり着いたというご縁でした。

千葉のほかにも検討した移住先はあったんですが、ここに見学に来たときに地域の人にすごく歓迎されて。菜央さん(=greenz.jp発行人 鈴木菜央)のおうちに泊まらせてもらったり、移住者のコミュニティもあって、結局ほかの移住検討先には見学にも行かず決めてしまいました。

古民家らしく、ゆったりとしたお店の中。お昼前にもなると続々とお客さんがやってきます。

古民家らしく、ゆったりとしたお店の中。お昼前にもなると続々とお客さんがやってきます。

お店には開放感のあるカウンターとテーブル席も。

お店には開放感のあるカウンターとテーブル席も。

その土地のものを作り、食べることが、土地と繋がっていくこと

澄んだ目で、見学に来た時の楽しかった記憶を話してくれる橋本さんですが、被災地の現状には今も心を痛めています。震災直後まで橋本さんたちの暮らしていた郡山市は、家屋倒壊などの直接的な被害は少なかったものの、放射能汚染の数値が高い場所があったり、子どもの教育に関しても外出制限があったりするからです。

ふるさとへのこうした思いもあり、noraでは地域に根付く郷土料理をベースにしたごはんを出しているのです。

おじいちゃんおばあちゃんが家庭の中で普通に作っていた郷土料理が好きで、私も以前から作っていました。福島で愛されてきた郷土料理を私が残していくことにも意味があると思いますし、ここ(房総地域)の郷土料理も出していきたい。その土地のものを作り、食べることが、土地と繋がっていくことだと思うから。

noraのある地域は九十九里浜にも近く、古くから漁師町でもあるため、魚を使った郷土料理もあります。橋本さんが興味を持ったというのは「さんが焼き」という、アジやイワシのなめろうを焼いたもの。“魚をさばく、たたく、焼く”という工程があります。

郷土料理は時間と手間がかかるものも多いですね。でも、丁寧に作るほど美味しくなります。郷土料理はたくさんあるので引き出しが無限なのも奥が深くて楽しいですね。

当たり前の旬食材で、当たり前に正直な作り方でお客さまをもてなすnora。旬へのこだわりから、メニューも固定化しないといいますが、だからこそ何が食べられるかは来たときのお楽しみ。お客さんがまた足を運ぶ理由にもなっています。

FARM CAMPUSで無農薬無肥料で育てられた野菜を使っています。PHOTO: SHINICHI ARAKAWA

FARM CAMPUSで無農薬無肥料で育てられた野菜を使っています。PHOTO: SHINICHI ARAKAWA

畑とのうそんカフェが生む、人の繋がり

そして、noraでも使われる野菜を無農薬無肥料で作るFARM CAMPUSは、農作業サポート付きの会員制農園でもあります。一般的な市民農園のような賃貸契約のみで終わらず、野菜を栽培をするときにぶつかる「わからない」をサポートし、そのうえ畑に通えない時には、作物の手入れも行います。

noraにはFARM CAMPUSの会員も集い、noraのお客さんは自分が食べた野菜が育てられた畑を見ていくこともでき、畑とのうそんカフェという親和性の高いふたつが並ぶことで、人の繋がりをさらに強めています。

FARM CAMPUSを切り盛りする小鮒拓丸さん(右)「持続可能な農業を」

FARM CAMPUSを切り盛りする小鮒拓丸さん(右)「持続可能な農業を」

まだ始まったばかりですが、“農業技術を教える人がいる会員制農園(FARM CAMPUS)”と、“そこで作られた生産物を食べるカフェ(nora)” が相乗効果を生むという、ひとつの農業のモデルをここで作れたらいいですね。もちろん、畑があることで自然も虫も鳥も植物も、そして人間も元気になるような持続可能な農業を基本として。(小鮒拓丸さん)

「食×農×海」楽しみ方の多様性が人を惹きつける

noraからもすぐ行ける距離にある九十九里浜。サーファーが年中集う。PHOTO: SHINICHI ARAKAWA

noraからもすぐ行ける距離にある九十九里浜。サーファーが年中集う。PHOTO: SHINICHI ARAKAWA

食によって地域の繋がりを作っているnoraとFARM CAMPUSですが、実は、この場所にはさらにもうひとつの掛け合わせが生まれていました。

そのキーワードは“海とサーフィン”。

ちょっと意外な気もしてしまいますが、この日 noraに来ていた、サーフィン用のウェットスーツを作る会社「サンコー」を営む佐藤誠さんは言います。

サーファーの集まる九十九里の海はnoraからすぐの距離にありますが、今まではサーフィンをしたあとにゆっくりできる場所がなかったんです。ここは都会から来たサーファーも気軽に寄れる場所。食と農と海、それぞれに興味もった人たちの接点になっていけば面白いですよね。

魅力的な地域の資源と、楽しみ方の多様性が人を惹きつける力になっているnora。

改めてお店を見回すと、お客さんが混んでくる時間帯にはお店のスタッフだけでなく、お客さんが自然と一緒になって配膳などを手伝う姿もあり、地域の人がみんなで作っているお店というのが伝わってきます。まるで気兼ねのない親戚の家に遊びに来たような感覚。

chifumisan

noraを始めて、それまで以上にみんなと繋がる事が出来ました。ここはまるで部活のように、一緒にカフェを作っていくという目標に向かってやっているので関係も深まりますね。(橋本千文さん)

奈良県にある伝統野菜レストラン清澄の里 粟のように、食が人の繋がりを生むきっかけになっているお店は全国にもありますが、ここnoraでも、ひとつのお店が出来たことで地域の人の繋がりが深まり、外から集まる人との交流が少しづつ生まれています。

居心地のよい場所やコミュニティは、人との繋がりの安心感から形づくられていくものなのだと思いますが、ちゃぶ台で膝をつき合わせて食べる古民家での食事にも、人との距離を縮める力があるように感じます。noraには、そんな日本ならではの繋がりづくりの文化が生きているのかもしれません。

古民家でランチを。「のうそんカフェnora(ノーラ)」に行ってみよう

noraの野菜を育てる会員制市民農園「FARM CAMPUS」