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子どもと過ごす時間と自分のやりたいこと、
どちらも大事にする生き方を。
お母さんたちが手をつなぎ、
得意なことで社会とつながる場『くらすこと』

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子どもを授かり、“お母さん”になること。
それは、女性にとってかけがえのないいのちの体験であり、この世に生を受けたものとしての大きな喜びでもあります。

一方で、初めての出産や子育てには、戸惑いや不安が多いのも事実。
“子どもを育てる”という、これまで体験したことのない役割が突然自分自身のものとなり、何もわからない不安の中、多くの女性が、手探りで“母親”として歩み始めます。特に近年は様々な要因から、子どもと一対一で向き合い、たったひとりで子育てをしなくてはならない状況にあるお母さんも増えています。そして、そのような方の多くが、「助け」や「つながり」を必要としています。

“お母さんになった人を、いつでもあたたかく迎えてくれる場所があったら”

自分の出産体験から、こんな思いを抱き、お母さんたちのための場づくりを始めた女性がいます。活動名は『くらすこと』。2005年、子連れで参加できるワークショップの運営から始め、現在ではお母さんたちが社会とつながるための仕組みづくりまで、同じ思いを抱く女性の共感を得ながら、少しずつ活動の幅を広げています。

今回は、『くらすこと』代表の藤田ゆみさんに、活動を始めたきっかけからそこに込めた思い、生き方まで、幅広くお話を聞きました。女性のみならず、全ての人に感じてほしい、藤田さんのありのままの言葉。ぜひ味わってみてください。



『くらすこと』のこと

『くらすこと』は、妊婦さんやお母さんたちをはじめ、すべての女性が参加できる活動プラットフォームです。「子どもと一緒のスローな暮らし」と「オーガニックな生活」をテーマに、食や身体、心に関するワークショップやお茶会を開催する他、カフェやオンラインショップも展開しています。

『くらすこと』ホームページ www.kurasukoto.com/

『くらすこと』ホームページ www.kurasukoto.com/

大きな特徴は、多くの活動に子どもと一緒でも参加できること。おやつ講座、料理教室、身体感覚講座など、バラエティ豊かなワークショップには、“お子さま連れ枠”があったり、子どものためのプレイスペースや畳スペースなどの配慮がなされていたりするので、子育て真っ最中の赤ちゃん連れのお母さんでも、安心して参加することができます。もちろん、子どものいない人でも、参加OK。全ての女性を対象に、“いかに生きるか”ということについて考えるきっかけを提供しています。

また、運営スタッフも半分は子育て中のお母さんで、中には得意な裁縫でワークショップの先生になる方もいる他、飲食店で働いた経験を活かし、カフェの料理を担当している方もいます。

ワークショップではこんな光景も。

ワークショップではこんな光景も。

子育て中のお母さんたちがいつでも安心して集える場を提供すること、子どもとの暮らしをもっと豊かにする気付きのきっかけをつくること。さらには、お母さんたちが子どもと過ごす時間を大事にしながらも、自らの得意なことを発揮し、社会とつながるための場を提供すること。

それが、『くらすこと』の目的であり、役割なのです。


「きっかけは、自分自身の出産・育児体験でした」
藤田ゆみさんインタビュー

私はそれまで、自分ががんばりさえすれば何でも乗り越えられると思っていたんです。子育てもなんとかなるかな、と。

でも実際は24時間ずっと息を抜く時間がなくて、誰にも助けを求めることができず、とにかく心の持っていきどころがなかった。それまで「私100%」で生きていたのに、急に「お母さん100%」の生活になって余裕がなく、「自分」として生きることができなくなってしまったんです。

『くらすこと』代表の藤田ゆみさん

『くらすこと』代表の藤田ゆみさん

ご自身の出産・育児体験について、こう語るのは、『くらすこと』代表の藤田ゆみさん。初めての育児のとき、誰にも相談できず、たったひとりで子どもと向き合う生活を送り、子どもを育てていくには人の手助けが必要であると身をもって実感したと言います。一方で、その辛い日々の中で、藤田さんが感じていたのは、初めての“動物的な感覚”でした。

私のおっぱいだけでどんどん大きくなる子どもを見て、本当に私の食べたものがこの子の心や身体のもとになっているんだ、ということを感じて。初めて動物的な感覚を、頭じゃなくて身体と心で実感しました。

そうすると、やっぱり食べ物や環境のことにも興味が出てきて。子どもと一緒に自分がお母さんになっていくときに何を大事にするか、という感覚を、いろんな人と共有したいな、という気持ちが少しずつ出てきました。

子育てへの思いを共有し、初めてお母さんになった人たちを、みんながあたたかく迎えてくれるような場所があったら。藤田さん自身が必要としたそんな場への思いが、『くらすこと』の活動の原点になりました。

ひとりひとりが自分のタイミングで気付くためのきっかけづくり

その後、子どもを保育園に預け、保育士さんや同じ境遇にいるお母さんたちと共に成長を見守ることで、徐々に自分の育児ペースをつかみ始めた藤田さん。自分が感じてきた思いを形にしようと、まずは出産前に務めていた出版社の雑誌で「ちいさいひととのスローなくらし」をテーマに連載を始めます。そして、2005年春、『くらすこと』として初めてのワークショップを開催することに。

子連れでも参加できるワークショップのテーマは「オーガニックのおいしさ にぎにぎのおにぎりパーティー」。おしゃれなカフェを会場にして、見た目もかわいくて、素材も意外でおいしい、しかも身体にもいいというおにぎりづくりは、参加者のみなさんに大好評。何より、子連れで参加できることが、多くのお母さんたちの支持を集めることになりました。

おしゃれな会場でのワークショップは、心も会話も弾みます。

おしゃれな会場で、子どもも一緒に参加できるワークショップは、心も会話も弾みます。

当時は子どもと一緒に参加できるおしゃれなワークショップはなかったですし、「自然食」というと、すごくストイックな感じで楽しくないものになってしまっていました。

でも私は、「心地いい」とか、「美味しい」とか、「楽しい」とか、そういった感覚の方が多くの人に伝わりやすいと思っていて。「正しい」と思うことを「これが正しいんだ」と言っても、そう思っている人にしか伝わらないですよね。そういうことはきっと、それぞれの人が自分のタイミングで気付いたりしていくことだと思うので、そのきっかけを提供したいと思っているんです。

だから「かわいい」とか「美味しい」とか、それだけで来てくれればよくて。今もずっと、それを大事にしてやってきています。

価値観を押し付けるのではなく、どんな人でも受け入れ、あくまできっかけを提供するために。その後も藤田さんは、食、手仕事、身体と心などをテーマにした『くらすことの教室』を月1回のペースで開催していきます。藤田さんの思いが形になった数々のワークショップは、毎回満員になるほど盛況に。その他にも、ワークショップの内容を題材とした出版や、暮らしに寄り添うものを販売するオンラインショップなど、『くらすこと』の活動は多角的に広がっていきました。

お母さんたちが得意なことで社会とつながるための場づくり

活動のひとつの転機となったのは、2010年。「初めて来てもみんながあたたかく迎えてくれる場所がつくりたい」という当初からの思いを実現するため、藤田さんは、杉並区高井戸西に拠点を構えることを決めました。『“くらすこと”のアトリエ』と名付けられたこの場所は、生活雑貨や洋服を販売するショップと、畳のスペースから成っており、あるときは、教室やお茶会などのワークショップに、またあるときは、新米おかあさんや赤ちゃんが参加できる集まりのためのスペースとして活用されています。

『くらすことのアトリエ』の一角は、暮らしを豊かにする雑貨が並ぶショップになっています。

『“くらすこと”のアトリエ』の一角は、暮らしを豊かにする雑貨が並ぶショップになっています。

また、2012年秋からは、毎週金曜日にこの場所で、野菜ごはんとおやつが食べられるカフェと暮らしの雑貨と器の店『くらすことのカフェ』の営業も開始しました。

カフェでごはんをつくりたいと言ってくれたのは、出産前は食を仕事にしていた方たちです。子どもがまだ1歳で、週1回だけ一時保育に預けて始めたんですけど、彼女たちは本当にいきいきとしていて。子どもとの時間も、より愛おしく思えるようになったと言っています。

私は、こんなふうにこの場所が、お母さんたちが得意なことを発揮できる場になったらいいな、と思っているんです。今のお母さんたちには、保育園に預けてフルタイムで働くか、幼稚園に通わせて専業主婦になるか、そのどちらかしか選択肢がないんですよね。でも、私もそうだったんですが、みんな何か得意なことがあって、それを発揮することで社会とつながったり、喜んでもらえたりすることって、すごく大事なことだと思うんです。

ワークショップをしたりスタッフとして活躍してもらったり、お母さんたちにこの場所をどんどん活用してもらおうと思っています。

週に一度だけオープンするカフェは、子育て中のお母さんたちの憩いの場にもなっています。

週に一度だけオープンするカフェは、子育て中のお母さんたちの憩いの場にもなっています。

現在『くらすこと』は、8名のスタッフで運営しており、子どもとの時間も大切にしながら、それぞれの得意なことを発揮しています。

『くらすこと』という活動名には、子育てだけじゃなくて、自分としていかに生きていくか、毎日どんな生活をしていくか、それらを全て含めて提案したいという意味も込めています。

と、藤田さん。人とつながり、出会い、自分の歩むべき道を考える、きっかけとなる場所に。“自分ごと”から活動を始めた藤田さんの思いは、ひとつずつ着実に人々に伝わり、形になっているのだと感じます。

藤田さんは、さらに、「“くらすこと”のアトリエ」のような拠点を他の場所にもつくること、お母さんや女性のための信頼できる情報を発信するウェブマガジンを始めることなど、今後の活動の構想も聞かせてくれました。これからどんな広がりを見せていくのか、ますます楽しみですね。

大事にしたいことを本当に大事にする生き方

たくさんのお母さんたちのための場を作り、活動を支援してきた藤田さん。最後に、藤田さん自身の生き方や、活動暮らしの中で感じる喜びについてもお話を聞きました。

私は「受け止め手」なのかな、と思っています。

最初は、しんどい思いをしているお母さんたちに何かアドバイスをしなくては、と思っていたんですけど、そうじゃないことに途中で気付きました。何もできないけど、誰が来てもいい居場所というか、「いていいんだよ」と受け入れてくれる場所をつくることが私の役割かな、と。

だから今、お母さんたちの活動の場をつくっていけていることは、すごく大きな喜びです。

一方で、藤田さん自身は現在、3人の子どもの母親でもあります。

私自身は、「お母さん」であることが自分の一番の仕事だと思っています。でも、やっぱり自分が得意なことで社会とつながりたい。私としてどうやって生きていくのか、ということも諦められない。それをどちらも大事にする生き方をしていきたいです。

頭ではみんな「家庭が大事」と分かっているけど、なかなかそれをするのは難しかったりしますよね。子どもは大事だけど一緒に過ごせなかったり。でもそうじゃなくて、私は、自分が本当に大事にしたいことを大事にした人生を送りたい。そのためにはどうできるか、ということをずっと自分で模索しながらやっている感じですね。

インタビューの中で、藤田さんは、子育ても仕事も全て自分でやろうとして身体を壊してしまったことや、子どもと一緒にいながらも仕事のことを考えていて、子どもにショックな言葉を言われてしまった体験も聞かせてくれました。一見、順風満帆に見える藤田さんの活動ですが、やはりこれまでの歩みの中には、葛藤や涙の耐えない日々があったのです。でも、そんな模索を続けてきたからこそ、今、お母さんたちの「受け止め手」としての藤田さんが存在するんだと感じます。

私が一番大事にしているのは、「今を大事にすること」です。

子どもといるときは子どもと心を通い合わせて、全部が正直に、ウソのないように生きていたい。子どもは心を向けていないと、ちゃんと分かっていて、本当に嘘がつけなくて。でも逆に、心を向けていると「お母さん大好き!」と言ってくれる。

今、この時間を大事にして生きていきたい。子どもが教えてくれたことです。

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あなたが大事にしたいことは何でしょうか?
それを今、本当に大事にできているでしょうか?

『くらすこと』の活動は、お母さんのみならず、すべての人に、そんな問いを優しく投げかけてくれているようです。

ワークショップやショップの最新情報はこちらから。

藤田さんがゲスト出演!greenz.jp編集長YOSHもモデレーターで参加します。