私たちがいる地球、そして宇宙についてどれだけ知っているでしょうか。何気なく見ている星空には、無数の惑星や衛星が存在します。普段なかなか意識しない宇宙や惑星のこと。そこで、宇宙に思いを馳せ宇宙にある惑星や私たちの地球について考えるきっかけの一つに、「理の惑星」(ことわりのわくせい)というサイトがあります。
「惑星科学」という惑星について研究する学問があり、その研究内容を私たちにわかりやすく、そして「体感」してもらいながら地球のことや太陽系のこと太陽系外の惑星について知ってもらうことを目的にしており、4人の若手科学者と3人の技術者の手によって制作されています。
物語を中心としながら、宇宙の理について紡ぎ出そうとしてる「理の惑星」が考える私たちと宇宙、科学者たちとの関係について話を聞いてきました。
物語から宇宙を知る
「理の惑星」は、2011年8月にオープンしたサイトです。サイトの内容は「物語を読む」「惑星に挑む」「宇宙を知る」という3つのコンテンツを柱に構成されています。
「物語を読む」では、惑星科学の研究成果を科学者たち自身が物語として描いています。研究という堅苦しいと思われるものをわかりやすく、そして物語調に描写しています。
傘を折り畳み、雨粒をたっぷりと溜め込んだ芝生の上に横になる。その冷たさに思わず声が出そうになるのを、必死で押し殺した。
濡れた芝生のベッドは決して心地良いものではない。しかし、仰向けになり、空から降る雨を体いっぱいに受け止める。こんな自分の姿にもかかわらず、思いがけず、ハニカんでしまう。
(中略)
一段と雨足が強くなって来た。
全身ズブ濡れの中、また、思いがけず、ハニカんでしまう。
もう少しだけ雨に願い事をしよう。
これは流星についての物語の一節。私たちの日常にあるような光景を比喩に、宇宙における現象の秘密について語っています。ちょっとした街の風景から、宇宙について考えさせられる物語です。もちろん、描写されている現象についてのしっかりとした科学的解説もあります。
「惑星に挑む」では、惑星生成シミュレーターと星観測シミュレーターの2つをもとに、惑星に関して体験する場所です。惑星科学の最先端で用いられているシミュレータープログラムをもとに、自分だけの惑星を生み出す惑星生成シミュレーターと誰も知らない惑星を探し出す惑星観測シミュレーターで宇宙を体感できます。
「宇宙を知る」では、最新の研究結果の様子を専門用語ではなく映画や漫画に出てくるようなキーワードをもとに、科学者自らがわかりやすく解説して説明しています。
このような活動を中心にしている以外にも、「惑星科学ナイト」と呼ばれる30人程度の規模のイベントを定期的に開催し、普段なかなか話を聞くことができない科学者たちと気軽に敷居をさげた状態で話せる場を設けています。ウェブだけに活動を限定せず惑星科学に興味のある人達との交流を深める仕掛けをおこなっています。
ウェブと科学者との出会いがきっかけ
科学や惑星という普段なかなか意識をしないと興味が湧きづらい問題を、デザインやアートの力で解決しようとしている「理の惑星」。サイト制作のきっかけになったのは、日頃はウェブ制作などをおこなっている横田東母子さんと科学者との出会いから始まりました。
もともと宇宙には興味があり、科学未来館によく展示を見に行っていました。そこで、4年前くらいに科学者の一人である荻原正博さんと出会ったのが始まりです。そこで、1時間以上宇宙について語り合い、友達になったのが知り合ったのがきっかけでした。
「理の惑星」は、荻原正博さん(名古屋大学 素粒子宇宙物理学専攻)、堀安範さん(国立天文台 理論研究部)、立浪千尋さん(東京工業大学 地球惑星科学専攻)、原川紘季さん(東京工業大学 地球惑星科学専攻)ら4人の科学者が中心となっています。元々4人とも東工大での同じ研究室出身でつながりがあり、横田さんは荻原さんをきっかけに科学者たちと頻繁にやりとりをおこない、日々色々な宇宙のことについて話をしてきました。
4人ともそれぞれの研究の分野が違っていること、SF映画での現象についての解説や理論的な話、そこから派生してガンダムの話など、宇宙についての様々な質問に答えてくれたのがとても新鮮でした。同時に、みんながもっている難しいというイメージやとっつにくさを、写真やデザインやウェブというツールでコラボしてまわりにいるちょっと宇宙に興味あるけどきっかけがない人たちに届け、数式だけじゃないサイエンスの面白さを伝えられれば、という思いからスタートしました。
理論を物語で包むことで新しい気づきがある
「ウェブとサイエンスをつなぐ」という思いからスタートした企画。しかし、科学を伝える手段にウェブを使うということだけでは意味がない。あえてやる理由とはなにか、必要性やこれまでと違った伝え方はなにか、について全員で合宿をおこない議論してきました。
どういう人にどんなメッセージを伝えるか。みんなと議論した結果、“物語”がいいのではと考えました。部分的に抽象的でもあり、それでいてかつ物理の本質をぶらさずに違った状況で表現できるのでは。
科学者の一人の原川さんは、物語として語ることで宇宙の”理”が表現できるのではと話してくれました。
私も惑星科学に関しては素人ですけど、科学者と話をしていくうちに宇宙にとても物語性があるなと感じました。星の過程を研究するということは星の物語を想像するということ。理論に裏付けされた物語をうちだすことで、物語を感じて創造する余白を残しながら、聞いた人に宇宙や惑星について考えさせられることができるのではと思いました。(横田さん)
「理」という言葉には道理や条理以外に物事の法則や真理、さらには宇宙の原理という意味があります。単純な数理の計算式ではなく、科学者が宇宙や惑星の面白みを追求し、その様子をわかりやすく伝えつつも物事の真理が伝わる。理論をデザインし再構築しながらそこに物語や文学的な要素を組み込むことで、日頃何気なく生活している私たちと宇宙とが密接につなげられると考えたそうです。
コンセプト以外に、シミュレーターも合宿の中で発想したアイディアでした。物語だけではなく宇宙を体験できる要素をつくりたいと考え、物語とシミュレーターの2つをサイトの柱にすることになりました。そこに、日頃Flash制作をおこなっている上野賢一さんが加わり、「Flashを使い、宇宙の様子を見える形にすることで好奇心をわき立てられるようなものを作りたかった」という上野さんの情熱もありシミュレーターが完成しました。
見た目にも操作的にも、簡単に惑星生成や観測がおこなえるシミュレーター。裏では様々な数式や計算がされていますが、それらを意識させずにできるだけわかりやすくシンプルなデザインにすることで楽しんでもらえるようなものとなりました。
科学も日々進化している
2012年9月の科学雑誌「Newton」で日本語で科学の楽しさを伝えるサイトとして「理の惑星」が紹介されるなど、これまでにない新しい活動として注目を浴びています。こうした様々なところで新しい反応がされるなか、原川さんはそうした反応よりも自分たちの研究の成果や考えがどこまで形になっているのかを知るいい場だと話します。
シミュレーターの観測は、いまある自然界のできたものの再現であり、結果から理をたどる過程です。そして、その観測に必要なデータは僕ら科学者たちの知識によって作られています。そうした意味では、完全な宇宙を再現できていない。僕らがもっている研究の限界でしかシミュレーターには投影できていないです。
同時に、科学の世界自体も日々進化しています。その中で、僕らも日々頭を悩ませながら研究している成果をシミュレーターに反映させ、どこまで実際の世界とすりあわせできるのかが一つの挑戦だと感じています。
いまこの瞬間にも、シミュレーターに入っていない星たちが世界の科学者たちによって発見されています。そうした、日進月歩が続いている科学の世界のすべてをシミュレーターに反映させることはできません。しかし、そうした科学の最先端を追求する若手科学者たちが、日々の活動のなかで発見したことやいまあるものを、理の惑星は再現しようとしているのです。
私たちは科学を学校などの教科書で学んできました。それらの多くは法則として確立しているものがほとんどかもしれません。しかし、科学の最先端ではまだ見ぬ法則や計算式が登場し、過去にあった計算式などが間違っていたという新しい論文や検証がおこなわれることも少なくありません。そうした意味で、数学や物理の世界も日々進化しアップデートされているのです。
科学の世界もいまだ答えのないものを探求するフロンティアの部分をもって歩んでいます。「科学は仮説であり絶対はない」という言葉があるように、日々仮説をたてそれらを検証する人たちの思いを感じれるものなのかもしれません。
宇宙から、自分たちのことを考えるきっかけに
これまで科学者たちと接する機会は、サイエンスカフェや講演会などが一般的でしたが、それらとは違った科学の普及として日々「理の惑星」は活動しています。
「理の惑星」は科学に対するきっかけであり、ここで科学のすべてを再現しているとは思っていません。しかし、ここから興味をもち自分で調べてみようということを喚起できればと考えています。いままで科学と縁がなかった人にこそ、理の惑星を通じて宇宙や惑星のことについて意識を向けてもらえると嬉しいです。また、科学者になりたいと感じる子どもたちにも少しでも伝えていけるものになればと思います。
今後は、惑星科学の面白さをよりわかりやすく伝えていく活動としてウェブだけではなくリアルのイベントなどを通じ、気軽に科学者と触れ合う機会や科学者たちと共有できる場をさらにつくっていそうです。同時に、シミュレーターに関しても日々アップデートをおこないながら使いやすさを向上させたり、最新の研究成果を反映させ少しでも現実世界の理に近づけるための研究を若手科学者たちを中心におこなっていくそうです。
いま自分たちがいる場所、日本、世界、その先には地球があり宇宙があります。自分自身と宇宙はつながっているという漠然とした感覚を、宇宙の成り立ちや法則といったものを物語から読み解くことで、新しい気づきがあるかもしれません。自分自身の心の広がりや人生観などを改めて考える機会として、夜空にある星空や太陽を見ながらたまには考えてみてはいかがでしょうか。
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