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京都大学・伊勢武史先生に聞く、わたしたちがつくる未来のための「科学リテラシー」

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特集「MORE DONGURI!MORE GREEN!」は、“環境に良い商品”の目印となる「どんぐりマーク」と「どんぐりポイント」を通じて、未来にきれいな地球を残そうと活動する人たちを紹介する、「どんぐり事業事務局」との共同企画です。

「地球温暖化」は、いまの時代を生きるわたしたちにとっては、とても身近な問題です。「地球温暖化」=「CO2」が影響していると言われている、だからCO2を減らさなきゃいけないということは、なんとなくわかる。しかし、そのために、一市民ができることってなんなのかがわからないという方も多いのではないでしょうか。

しかも、「地球温暖化はウソである」という意見もあったりして、わたしたちはさらに混乱してしまいます。

CO2を削減する取り組みをわかりやすく「見える化」する「どんぐりマーク」も、それによってどんな未来のアクションにつなげていくのか、なかなかイメージしにくいのが現状です。

そもそも、どうすれば、正しい情報を見極めることができるのか? そして、どうすればどんぐりマークがもっと身近な存在になるのでしょうか? そのヒントを、「科学者」の視線から、京都大学准教授の伊勢武史先生にお話ししていただきました。
 
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京都大学フィールド科学教育研究センター 森林生態系部門 森林育成学分野 准教授。生態学者。地球温暖化による植物の将来の変化を予測する研究をされています。

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科学者でありながらアートも大好きな伊勢先生の研究室は、まるでおもちゃ箱の中みたい!

科学者は証拠を重視し意見を変えることが美しい

伊勢先生の専門は生態学。かつて海洋研究開発機構というところで「地球シミュレータ」というスーパーコンピュータを使い、地球の気温の変化やその影響による植物の将来を予測する研究をされていました。

日本で地球温暖化が問題と言われ始めたのは1990年代前半。それ以降、その原因はいろいろな憶測が飛び交い、「専門家」たちが議論を繰り返していますが、本当に、地球温暖化の原因はCO2なのでしょうか?

実はCO2に温室効果があるということは、100年くらい前からわかっていたことなんです。ただ、それはほんとに局所的な、試験管の中の温度が上がるとかの話だったんですが、それが世界全体の温度を上げてしまうかもしれないというのは、80年代になってやっと意識されてきたことなんですよね。

地球温暖化に関する情報は、あらゆるところで目にし、耳にしていますが、子供の頃から考えると、その原因ってその時代のトレンドのようなものがあって、真実が見えにくくなっている印象も。

地球温暖化の最大の原因がCO2であることは科学的には間違ってなくって、教科書にもそのように書かれています。ただ、それを一般の人たちがきちんと理解できるようにしないと、誤解が生まれてしまう。最近は、科学的に根拠のない情報がインターネットで広まっていて、本当に残念だと思っています。

「地球温暖化を信じるなんて情報弱者?」そんな論調も、ネット上ではよく見られますが、伊勢先生は、「地球温暖化はウソだ」という「地球温暖化懐疑論」に対し、それに真っ向から「真実だ!」と挑む、言うなれば科学論のディベートを繰り広げています。
 
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伊勢先生を初めとする複数の有識者の方々による共著です。複雑ですが、真実を伝えようとする熱さはハンパない!

このように科学者として「地球温暖化は真実である」ということを伝えている伊勢先生ですが、「地球温暖化は絶対に止めるべき?」と聞いてみると、「それはまた別の問題」と答えてくれました。

もちろん一市民としたら思うことはあるんですけど、科学者の立場としては、「このままいくと温度はこれだけ上がりますよ」「温度が上がると、森の植物はこうなるし、海の生物はこうなりますよ」と、予測結果を淡々と提供することが大切なんです。

それをみて、「そんな世の中はいやだ」と思うか、「いや別にいいんじゃないか」と思うのかは、市民の考え方や価値観によります。温暖化への対応をどうするかは、市民が判断することなんです。

そう、「決める」ということは、わたしたちの役割。それによって、未来の環境までが左右されるということです。選挙のようなわかりやすい選択の機会でなくても、毎日の生活の中に自分の判断や価値観を落とし込んでいかなければならない。

でも、何をもって正しい判断とするのでしょうか?そしてその上でどんぐりマークを広く理解してもらうにはどうすればいいのでしょう?インターネットによって膨大な情報にさらされている現状では、一市民としても「科学リテラシー」を身につけることが大事と伊勢先生はおっしゃいます。

科学リテラシーって、ようは客観性を重視することなんです。物事を総合的に捉えるというか、自分に都合のいいことも悪いことも受け止めるようにする訓練が必要だと思っています。

何かを信じこんでいる人は、自分に都合のいい情報ばっかり集める傾向がありますよね。でも、科学では「両論をバランス良く見ること」とか「最新の情報に合わせて考えを変えること」が大事なんです。

科学的な考え方をすると、説得力のある証拠に直面すると、ころっと意見を変える方が美しい。

「意見を変えることが美しい」というのは、一般市民の発想にはあまりないもので、目からウロコでした。

しかし、市民の科学リテラシーを上げていくためにどうすべきかというのは、小学校教育などの根本からの変革が必要、というお言葉も。その上で、いま改めて求められるのは「表現力」だと伊勢先生はいいます。

正しいからといって、広まるわけではないんですよね。だから、これからの時代の科学者は、専門とする「研究」と、その研究を世に問うときの「表現力」、その両方が求められると思います。だから僕も表現力を身につけようと、アートの勉強などをするようにしています。

「表現力」は、科学の発展や研究結果を一般市民に伝えるための活動である「サイエンスコミュニケーション」においても、とても重要なファクターだといえます。

その最高峰として例を上げたのが、2006年に日本でも公開されたアル・ゴアの『不都合な真実』です。ご覧になった方や衝撃を受けた方もたくさんいるかもしれません。

『不都合な真実』の素晴らしいところは、科学的に信頼できる情報を、とても効果的に伝えていることです。

政治家出身のアル・ゴアさんが、彼の立場でできることのベストを尽くし、科学的事実を説得力を持って伝えて、世界中の市民の論点にした功績は大きいと思います。

キーワードは「合理性」

伊勢先生のような科学者や、様々な分野の専門家たちから私たちへ伝えられる情報にはとても説得力があります。ただ、専門的すぎていまいちピンとこなかったり、重要さが伝わらなかったり、インパクトに欠けていたり。

この「伝えることの難しさ」は、どんぐりマークがまだまだ身近になっていないという点においてもあてはまります。スムーズに意図する方向、ここでは未来の美しい地球を守るということのために、発信する側が心がけるべきこととして、伊勢先生が強調するのは「合理性」です。

僕はいま「環境政策」や「環境活動」の研究もしていますが、そのときに大事にしたいテーマが「合理性」なんです。

これまでの環境保護活動というと、市民の良心に訴えたりするものが多かったですよね。「あなたがこうしないとシロクマが死んじゃいますよ」「嫌だったら寄付をしてください」って感じで。つまり、とても清らかな心を持った人が、経済的合理性とは関係なしにする行動だった。

でも、環境保護が本当に根付いていくためには、経済的合理性もある程度必要だと思うんです。スーパーに行って、安くておいしい食べ物を買ったらそれが環境に一番いいものでした、というのが一番いい。

確かに、エコや環境保護活動は前のめりになって、自分を犠牲にしてまで取り組まなければならない活動という印象がある人も多いかもしれません。

しかし、自分にとって一番メリットのあるチョイスが、環境にとっても一番良いものだとしたら? それはとっても「ふつう」なことであり、むしろ「イケてること」になるのかも!

だから「どんぐりマーク」でも、個人の消費活動のなかで合理的なチョイスであるということを、難しい言葉を使わずに伝えていけばいいと思うんです。「カーボン・オフセット」って言われても、それがなんだかわからない市民の方が多いと思うので(笑)

なるほど!例えばそれを伝えるためにわかりやすいこととは、必ずしもキャッシュバックのようなメリットだけでなく、「どんぐりポイントを貯めたら伊勢先生と飲みに行けます」とか、「◯◯大学の△△先生の講義を聞きに行けます」とか、わたしたちの知的好奇心を刺激してくれるものでもいいかも!

ちなみに、どんぐりポイントと交換で気象キャスターや気象予報士による環境教育の出前授業を受けることもできますよ!結果的に、このメリットが、おもしろいインセンティブとして市民に伝われば、どんぐりマーク自体のインパクトにもつながっていきそうですね。
 
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どんぐりんのキャラクターもかわいくていいと思います。キャラクターかわいかったら、ついつい買っちゃいますよね」と伊勢先生。ミッフィーなどのかわいいキャラクターは好きで、ついつい買ってしまうのだとか。

企業にとっても信頼のファクターになる

市民に対して、合理性やメリットを伝えるのが大事であるのと同時に、企業にもどんぐりマークがメリットであることを伝えていくのも重要なこと。企業の協力がなければ、この事業は成り立ちません。

どんぐりマークは、地球温暖化の問題を私たちとつなぐハブであるのと同時に、地球温暖化に企業が取り組むためのハブにもなり得ます。前述のように、たくさんの懐疑論、憶測、事実と嘘が氾濫している時代において、「裏付けがきちんとあって科学的である」ということは、なによりも価値があり、「企業にとっても合理的」と伊勢先生はいいます。

各企業が独自で努力してもいいのだけど、「どんぐりマーク」が、ひとつの認証として機能する方が、企業としても乗りやすいと思うんです。

また、企業の環境保護活動の中には、科学的に根拠のないケースって意外とあるんです。「それ全然、環境によくないよ」と科学者としては思うことを、企業は嬉しげにやっている。だから、どんぐりマークは科学的に確かであることの証明として広まっていってほしいなと思います。

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「どんぐりマークがついた商品(企業)は、きちんと環境にいいことしてる」そんな認知が広まっていけば、地球温暖化防止の好循環ができあがっていきそうです。

どんぐりマークを通じてわたしたちが得られるものは、長い目でみると「次世代に美しい地球を残す」というような、ちょっとスケールの大きなことですが、始めるときはほんとに小さな一歩から。科学者や専門家たちはたくさんの情報を届けてくれますが、あくまで選択するのはわたしたちであり、未来の地球を守るのも、わたしたちなのですね。

でも、その行動を選択するにあたって、客観的なスタンスでなくてはいけない。わたしたちは、自分に都合のいい情報ばかり集めるのではなく「バランス良く見ること」が大事、まさにCO2排出量と削減量のバランスをとるどんぐりマークのやじろべえのように。
 
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CO2排出量を他の場所で削減したCO2の量で埋め合わせることをイメージしたどんぐりマークのやじろべえ

まずは「アタシって自分に都合のいいことだけ信じてるかも」と疑ってみる。そして、いろいろな面から見てみる。するとなんだか、「地球温暖化」もいままでと違って見えてくるのではないでしょうか。

(Text: 池田佳世子)

(撮影:原祥子)

[sponsored by どんぐり事業事務局]