greenz people限定『生きる、を耕す本』が完成!今入会すると「いかしあうデザインカード」もプレゼント!→

greenz people ロゴ

社会を変えるためには、広報の力が必要だ。日本初のソーシャルグッド・NPO専門PRエージェンシー「ひとしずく株式会社」代表・こくぼひろしさんが取り組む“伝えない広報”とは?

LGBT、長時間労働、病児保育…。近年これらの社会課題は、認知度や共感が高まり、世の中のルールや風向き、捉えられ方が少しずつ変化してきています。

課題解決の一歩目は、まず多くの人に問題自体を知ってもらうこと。その最も有効な手段のひとつは、「テレビや新聞、Webメディアなどにとりあげられること」ではないでしょうか。

そんな社会課題解決を後押しすべく、NPOやNGO、企業など”ソーシャルグッド”に関わる団体の広報を支援している会社が横浜・関内にあります。2016年にgreenz peopleこくぼひろしさんが立ち上げた、日本初のソーシャルグッド&NPO専門のPRエージェンシー「ひとしずく株式会社」です。

今回はPR会社などでの勤務を経てひとしずくを立ち上げたこくぼさんに、会社立ち上げの経緯や、企業とNPOの広報の違い、そして広報の力を使って社会課題を解決するにはどうすればいいのかを伺います。

こくぼひろし
1982年、神奈川県生まれ。大学時代に参加したフィリピンでの植林ボランティアを通して、環境問題に対して強い関心を抱く。その後、日本国際ボランティアセンターセンターなどでのインターンを経て、広報の世界へ。PR会社など数社を経て、独立。2016年、日本初のソーシャルグッド&NPO専門のPRエージェンシーひとしずく株式会社を設立。

なぜソーシャルグッド&NPO専門なの?
「ひとしずく」って?

「ひとしずく」のオフィスは、横浜の関内にあります。いくつかの団体が集まるコラボオフィスの3階。温かみのある室内には、壁中に何やらワークショップの形跡が。

そんな中、笑顔で迎えてくださったのがこくぼひろしさんです。

ここにはよく人が集まるんですが、昨日もグラフィックレコーディングのワークショップがあったんです。

このオフィス自体もKUMIKI PROJECTの協力のもと、人を集めて一緒につくりました。オフィスもみんなでやることで、コミュニケーションが生まれる。それもひとつの広報だと思っているんです。

「オフィスづくりもひとつの広報」とは、どういうことなのでしょうか? 早速、「ひとしずく」がどういう活動をしているのかを伺っていきます。

ひとしずくは「ソーシャルグッドとNPO専門」と言っていますが、実はあまり組織形態にはこだわっていないんです。

NPOでも一般社団法人でも、株式会社でも、行政でも。社会に対して課題解決をするサービスをきちんとやっている団体さんの広報のお手伝いをしています。

WWFジャパン」、「秋田県鹿角市」、「日本コンピュータ・ダイナミクス」、「養老の森」など、「ひとしずく」の支援先は、取り組みも事業形態もさまざま。

こくぼさんも、WWFジャパンの広報チームの打ち合わせにメンバーとして参加

そもそも「広報」「PR(Public Relations)」とは、組織を社会とうまくコミュニケーションさせる仕事。具体的な業務は、プレスリリース作成からSNSの運用、社員とのコミュニケーション、記者やメディアとのお付き合いまで、多岐に渡ります。

しかし、こくぼさんは“典型的な広報”以上の部分まで支援していると話します。

記者会見やプレスリリースの支援だけではなく、そもそもの広報の組織づくりから入るケースも多いです。

例えば今お手伝いをしている団体さんには、自分もPRチームの一員として毎週打ち合わせに参加しています。そういうことを続けて1年、やっとその団体さんも成果がでてきましたね。

わざわざチームづくりから入る理由には、NPOと企業の間にある広報が置かれる環境の大きな違いがあるといいます。

大きな企業には広報部門があったり広報担当者がいたりしますが、NPOでは体制がしっかりしていないケースが多いんです。担当者がいても一人で他の業務と兼任で、その人が休んでしまったら誰もその仕事がわからないなんてことも。

ところが取材のチャンスは一瞬です。テレビ番組から取材の問い合わせがあっても、次の日にしか回答ができなかったりすると、もう取材してもらえません。さらに団体としての信頼も下がり、その後の取材もされにくくなってしまう。

そういうことを避けるために、例えば必ず複数の担当者で対応して情報を共有するなど、まず基本的な体制づくりから入ります。

広報部として機能させるためには、するべきことがたくさんあるというこくぼさん。場合によっては、社員のプロフィール写真の撮影をしなおして印象を変えたり、団体のオフィスの中に広報物を展示する場所をつくったり、クリエイティブからインナーコミュニケーションまで行うそう。

WWFジャパンのオフィス内に、実際に設置された記事の展示スペース

さらに、団体の状況によっては、広報をしたいという相談をもらっても「今は、広報をしないほうがいい」と伝えることもあるそうです。それはどうしてなのでしょうか?

どれだけいいプレスリリースを書いて、いい写真を撮ったとしても、事業の実態が伴っていなかったら、記者さんも記事にできない。だから、そういう団体には、「広報をするよりも、まずはちゃんとイベントや事業をつくることに力を入れたほうがいい」とアドバイスしています。

逆に、地道に社会問題に対してその団体しかやってない方法でアプローチしていて、なおかつ団体のストーリーがしっかりしていれば、僕らはアシストをする程度で十分だと思うんです。

大切なのは相手を慮る(おもんぱかる)こと。
そもそも広報は特別なことじゃないんです

「広報」と聞くと、専門的で難しいイメージを持つ読者の方も多いかもしれません。実際に広報の世界には、PR戦略などの企画を担当する「PRプランナー」という資格があります。

しかし、ひとしずくでは「PRコンダクター」の役割をしたいと思っているそう。コンダクター、つまり楽器の演奏方法や演奏者の人柄まで把握し、共に音楽を奏でる“指揮者”と名乗るこくぼさんの想いとは?

僕は「プランナー」という言葉を超えて、PR視点をもってさまざまな組織を束ねたり、必要なものや人をつなぎ合わせたりする存在でありたいと思っています。

ただプランニングをするだけじゃなくて、団体との相性が良くて長く付き合えそうな記者さんの紹介もするし、NPOやソーシャルグッドへの深い理解があるカメラマンさんや動画製作会社さんともおつなぎます。

広報の支援をするひとしずくにとって、NPOと記者の両方が大切なステークホルダー。だからこそ、お互いが幸せになるようなつなぎ方を心がけているそう。そして、そのキーワードは「慮る(おもんぱかる)こと」だとこくぼさんは話します。

慮ることこそが、PR視点だと思っています。例えば、自分のことばかり話す人と、僕は初対面では友達になれないんですよね。興味がないことばかりを自慢されても、困ってしまう。

ところがそれがPRの場面になると、そのことを皆さん忘れてついつい自分たちが言いたいことばかり話してしまうんです。

PR視点というのは特別なものではなく、普段の人間関係で相手を思いやることと同じなんです。

このような考え方から、ひとしずくの広報の特徴は「伝えない広報」だそう。情報を強引に渡すのではなく、必要とする人の前に“そっと置く”ようなあり方を目指しているのだと言います。

本当はもっと伝えたい、という気持ちはあります。でもそれをぐっとこらえて、ものすごくこだわった情報を40%くらい伝える。それで相手が興味をもってくださってから、そこから先を伝えていくんです。

そうしてさらに深くどんどん聞いてくれると、こちらからも良いものが出せて、メディアに取り上げられたらさらに良い循環が生まれていきます。そうやって興味をきちんと持ってもらえば、記者さんとの関係も長く続きます。

だから僕らの役割は、NPOの人たちが本業としてやることに集中して長く続けていけるように、バックを支えるというか、力を授ける、つまり“エンパワーメントする”という感覚ですね。

実は広報支援っていうのは、“後方を支援”することだと思っています。

10年探しても見つからなかった。
だから、“ほしい会社”をつくりました

そもそもこくぼさんは、なぜ“ソーシャルグッドな広報支援”を始めたのでしょうか。ここからは、こくぼさんが今の活動を始めるに至った原点を探っていきます。

こくぼさんは小学生の頃から児童会長として校内で企画をつくるなど、もともとイベントが好きな子どもだったそう。同じ頃に観た『風の谷のナウシカ』をきっかけに、まず環境問題に興味をもちました。

そんなこくぼさんの大きな転機になったのは、大学生1年生の時に参加したフィリピンで植林をするワークキャンプでした。

フィリピンでは、電気も水道もない、自給自足の生活をしていました。そんな中で、綺麗な砂浜にそのままゴミを埋め立てたり、ダイナマイトを使って漁をしてどんどん魚が取れなくなっていたりするのを見て。

それまで自分にとっての環境問題というのは頭で考える勉強や歴史の問題でしたが、「今起きていて、本当に危険な命に関わる問題だ」と意識が変わったんです。本当にこの問題を解決するためには、木を植える人を増やさないといけない。

でも、多くの人にそれを伝えるにはどうすればいいのか?はわかりませんでした。

そこでこの領域のプロフェッショナルの活動を知ろうと、大学4年生の6月から日本国際ボランティアセンターでアドボカシー(政策提言)のインターンをはじめます。ところが大学4年生も終わりかけた2月、インターンと就活、その他のイベント運営や学業、アルバイトなどの疲労で倒れ入院。退院後も自宅療養をする中で、一時は対人恐怖症のような状態になってしまったそう。

そんな中で思ったのは、国際ボランティアセンターで関わったホワイトバンドをつかった「ほっとけない世界のまずしさ」キャンペーンでした。

賛否両論ありましたが、今まで僕がどれだけ国際協力を伝えても響かなかった友達が、突然ホワイトバンドをつけたりしてたんです。それはやっぱり伝え方、コミュニケーションが機能したから。

一人で過ごす中でそのことに気がつき、就職するならコミュニケーションに関わる仕事がしたいと思ったんです。

「ほっとけない世界のまずしさ」キャンペーンに関わっていた頃

その後広告代理店を経て、PR会社へ就職。そこで環境問題やCSR活動の広報支援専門チームの立ち上げを提案し、環境省などの仕事を3年ほど担当しました。ところがPR会社の一部門としては十分な売上には届かず、こくぼさん自身も退職。その後、他の会社で働いたもののやはりしっくりこなかったそう。

いろいろな会社を見たり、働いたりしたのですが、やはり僕がやりたいことをドンピシャでやっている会社はありませんでした。そのとき初めて、10年間これだけ探しても見つからないんだから、「そんな会社はない、つくらないと本当にないんだ」と気がついたんです。

そこで会社員を辞めて、起業を決めました。正直なところ起業なんて考えたことなかったんですけどね。

そして2016年、10年間探し続けた会社を、自分の手で立ち上げます。それが「ひとしずく株式会社」。ひとしずくという社名には、2つの意味を込めたそう。

封筒に刻まれているのが「ひとしずく」のロゴ

1つ目が「ハチドリのひとしずく」というエクアドルの物語から。そして、2つ目は「大河の一滴」という意味。海も川も結局はその一滴から始まっている。それを、「すべてはだれか一人の想いから始まっている」と見立てたのです。

どんな小さな地域の小さな事例でも、本当によいアイデアだったら海外にも展開できるかもしれません。それがまた違う人たちに影響を与えて、日本や世界が変わっていくきっかけになればいいと思っています。

僕たち自身もまだ本当に小さな会社なのですが、世の中に少しでもインパクトを与えられたら、それは共有されるべきグッドプラクティスになると信じているんです。

それぞれが好きなことで
ソーシャルグッドが実現する世の中になるといい

そんなこくぼさんとグリーンズの出会いは、10年以上も前のこと。greenz peopleになったのも、制度が始まったタイミングだそう。グリーンズにとっては、もはや同志のような存在です。

僕がひとしずくを立ち上げたのは、グリーンズにもインスパイアされている部分があって。「ほしい会社をつくる」ことは、「ほしい未来をつくる」につながっていると思うんです。

そんな“ほしい会社”をつくってしまったこくぼさんが、ひとしずくを通してつくりたい未来とは、どんなものなのでしょうか。ひとしずくのミッションは「ソーシャルグッドが当たり前の社会をつくる」。そこに込められたこくぼさんの思いを聞きました。

僕はみんながそれぞれ自分の好きなことをやって、それでソーシャルグッドが実現すればいいと思っているんです。

例えば緊急支援以外の復興支援活動も、何か協力したいという場合、カレーが好きならばカレーをつくりに行く、ピアノが得意ならばピアノを弾く。それを求め喜んでくれる人がいて、本人も楽しいならば、それがいいと思うんです。

そんなあり方が、その人たち自身のサスティナビリティにもつながっていきます。

だからこそ、ひとしずくの社内制度もそれを意識して設計しているのだそう。育児・介護休暇などの制度はきちんと整備。さらに、ライフステージに合わせて誰もが働きやすいように、正社員の出勤は週4日で出社義務はないそうです。

現在の社員数は7人。名刺に書かれている名前も、やわらかくひらがなで書かれています

逆に言うと、全部が自立しているので厳しい環境だとも思いますよ。でも業務に責任をもってもらって、連絡もこまめにとっています。

コミュニケーションを売りにしている会社が、インナーコミュニケーションができていないというわけにはいかないですからね。口で言うだけじゃなくて、ちゃんと行動と専門性が伴うように、とはいつも考えています。

こくぼさんの「狼煙」はこちら。
クラウドファンディングも実施中!

ほしい未来を自分の手でつくっていく、こくぼさん。広報支援は、いわば社会に狼煙を上げる人のお手伝いでもありますが、こくぼさん自身がこれからやっていきたいこと、上げたい狼煙はなんなのでしょうか。

実はこの7年くらい考えていた社会問題を可視化するツールで、今年ビジネス特許が取れたんです。今年はそれを具体的に展開して、さまざまな団体が社会問題をうまく伝えられるようになるソーシャルキャンペーンを行いたいと思っています。

それで最近始まったのが、社会問題をアート作品に変える「CHART project」です。

「CHART project」は、地球環境や食糧廃棄データなどのグラフの線だけを残し、他をアート作品に変えていくというもの。アーティストの作品は、その線を使って社会問題が解決されていく先の理想の未来をテーマにつくられています。

2017年9月からは、クラウドファンディングもはじめました。

社会問題に関するデータを、アート作品して表現しています

起業して1年、想定外に多くの団体から引き合いがあるというひとしずく。メンバーも続々と増えています。とはいえ、採用で重視しているのは、スキルではないといいます。

NPOとかソーシャルの業界の中で、広報の意義を感じてきて、それをやりたいと心の底から思っている人と一緒にやっていきたい。なので今のメンバーは僕と同じように、探して見つからなかったという経験を持っている方ばかりですね。

そういうマインドをお持ちの方は、ぜひ僕たちにご連絡をいただければと思います。

・NPOやソーシャルグッドの広報に、心の底から興味がある!という方
・ソーシャルグッドに関わる事業を展開しており、広報力を強化したい団体の方
・ソーシャルグッドな領域に興味がある記者、メディア関係の方

ぜひ、こくぼさんに直接連絡してみてください。あなたがつながることで、“ソーシャルグッドが当たり前”な社会づくりは加速するのかもしれません。

【こくぼひろしさんの連絡先】
Facebook:https://www.facebook.com/bokukokubo https://www.facebook.com/HitoshizkuInc/
メール:info@hitoshizuku.co.jp

あなたもgreenz people コミュニティに参加しませんか?

そんなこくぼさんも参加している、ほしい未来のつくり手が集まるグリーンズのコミュニティ「greenz people」。月々1,000円のご寄付で参加でき、あなたのほしい未来をつくる活動をグリーンズがサポートします。今ならPeople’s Books最新作『NPO greenz Annual Report 2017』を、すぐにお手元にお届け。ご参加お待ちしています!

詳細はこちら > https://people.greenz.jp/