日本には古くから「腹八分目」という言葉があります。この言葉の意味は、満腹するまで食べないで、少し控えめにしておくこと。2011年3月11日の東日本大震災以降、この「腹八分目」ならぬ、「もの八分目」という言葉を世界に向けて発信してきたブランドがあります。それはみなさんおなじみの「無印良品」です。
「無印良品」は2012年2月の段階で国内外525店舗にまで店舗数を増やし、より多くの方にとって身近な存在になるべく展開を続けながら、ものに対する「適性(フィットネス)」を見直してきました。それは例えば、「今まで使ってきた材料が過剰すぎないか。」「つくりすぎて余ったものを捨てていないだろうか。」などと自らを問い、ものづくりの原点を振り返りつつ、無印ならではのより良い「良品」を生み出していくこと。その考えは無印良品の合言葉「くりかえし原点、くりかえし未来。」にも反映されています。
「いつも」の品で「もしも」の備えを、大切なあの人に。
そんな無印良品が8月10日から防災に関するキャンペーン「ITSUMO MOSHIMO 2012」を始めました。「ITSUMO MOSHIMO 2012」は身近にある日用品を、震災時の備えとし、大切な人に贈り物をするという企画。大切な人のことを想い、命を救う贈り物をするという発想が素敵ですよね。今回はそんな企画を発案された方々にお話を伺ってきました。
デザイナーとして、みんなが困っている問題を解決したい。
緒方 この企画をされた背景や想いはどのようなものだったのですか?
高橋さん 4年前の2008年、NPO法人のプラス・アーツさんが「地震イツモノート」という防災マニュアルを出版されていて、その本の考え方を具体的にものに落としこむべく、宣伝販促室にお声かけいただいたんです。そこから彼らとコラボレーションしたことが背景としてあります。
有楽町店の展示スペースで「地震ITSUMO+無印良品」展を開催し、地震イツモノートの考えと無印良品の製品を合わせて表現しました。ご好評をいただいて終わりました。その後、同じ年の9月1日の防災の日にも2回目の展示をやりましょうという話になりました。通常の商品開発と別に、社内デザイナー有志で行っていたワークショップの中で、新しい無印良品の日用品カテゴリとして「防災用品」というテーマでアイデア出しを行いました。この2008年がいわゆるこの「ITSUMO MOSHIMO 2012」の企画に至る原点です。
緒方 商品開発をする事で、社会的な貢献をしたいというのは、以前から抱かれていた想いだったのでしょうか?
高橋 ものづくりという行為が、本来は社会的な貢献でなくてはなりません。しかし、今は身の回りにものがあふれているじゃないですか。その中で自分のデザインしたものが本当に必要なのか。疑問に思い、不安になる事は正直いつもあります。今の生活で何が本当に必要とされているのか。昔のように、ものが無かった時代に、もの作りをして社会を豊かにすると意気込んだデザイナーが、今、同じ思いでもの作りを続けるのか。そのような中で、防災は必要だと考えたのです。
プラス・アーツとのワークショップを機に防災と向き合う
緒方 その後企画に至るまでにどのようなことがあったのでしょうか?
高橋 2年後の2010年にプラス・アーツ代表の永田さんが、若者に向けて防災を啓発するワークショップの講師を担当され、永田さんから「そこに参加しませんか」と個人的にお声がけいただいたんです。2008年のアイデア出し以降、検証することもなく終わってしまっていて反省をしていました。このワークショップを機に、もう一回防災に向き合いたいと考えました。地震イツモ+無印良品の考えで、防災プロジェクトを継続的に行いたいと提案したのが、2010年の暮れ、東日本大震災の3ヶ月ほど前の事でした。
私たちにできることは、震災を風化させずに普段から備える防災を普及すること
緒方 2011年の3月に東日本大震災を経験されたと思います。震災直後はどうされていたのでしょうか?
高橋 このプロジェクトの目的は防災の啓発でしたが、2011年3月に東日本大震災が起こり、阪神淡路大震災以降、段々と低下していた防災意識が、急激に高まりました。私たちの目標は、あらぬ形で実現してしまいました。地震がいつくるか分からない事を改めて知ったのです。震災直後には、被災された方々に対しては我々のできる限りの救援物資を送らせて頂きました。
しかし、震災から1年が経ましたが、メディアの報道も無くなって来て、また防災意識は薄れて来ているように感じています。私たちにできることは、震災をいかに風化させずに、普段から備える防災の大切さを伝えることだと感じています。
[インタビューは後編に続きます。]
(Text:緒方康浩)
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