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市民のための「石巻ベンチ」が大人気!自由な発想とデザインの力で石巻の課題を解決していくものづくり拠点「石巻工房」

「石巻工房」の焼印が入ったベンチとスツール

「石巻工房」の焼印が入ったベンチとスツール

みなさんは、デザインに何ができると思いますか?

年々、”デザイン”というキーワードへの注目度が高まりつつあるなかで、「本当に必要なデザインって何だろう?」と考えてしまう方もいるかもしれません。そんな疑問へのヒントを見つけるべく、私は震災から1年半が経った宮城県石巻市に訪れ、”街におけるデザインの可能性”を追求するプロジェクト「石巻工房」について伺ってきました。

「石巻工房」はgreenz.jpでもおなじみの街づくり団体「石巻2.0」と同時に誕生し、姉妹団体でもあるモノづくり拠点。建築家の芦沢啓治さんが代表を務め、商品開発とデザインを施した「石巻工房」は、海外のウェブマガジンにも時折取り上げられ、日本では先日グッドデザイン賞を受賞するなど、国内外から注目を集めているプロジェクトです。

市民のためのベンチ「ISHINOMAKI BENCH」

市民のためのベンチ「ISHINOMAKI BENCH」

現在、「石巻工房」では18種類の商品を販売中。こちらの商品「石巻ベンチ」では、市民が長く使用できて愛着を持てるように強度があり耐候性の高い木材を使用。第一弾の商品はワークショップを開き石巻工業高校の高校生と石巻工房のメンバーによってDIYで作られました。

「人とのつながりを大切にしたい」という思いを込めてつくられたテーブル「OKAMOCHI」

「人とのつながりを大切にしたい」という思いを込めてつくられたテーブル「OKAMOCHI」

こちらは「OKAMOCHI」という上下する取っ手つきのテーブル。2012年7月に開催された「石巻デザインウィークエンド」のワークショップで、ニューヨーク在住のデザイナーと石巻の高校生の2人の合作で生まれた作品です。まるで昔ながらの「おかもち」のように持ち運ぶことができる優れものです。

都市の狭いテラスをすこしだけ広げるテーブル「SKYDECK」

都市の狭いテラスをすこしだけ広げるテーブル「SKYDECK」

都市の狭いテラス向けに作られた小さなテーブル「SKYDECK」もおすすめの一品です。太陽の差し込む気持ちのいい日には、ビールを置くカウンターとして使うといいかもしれません。小粒でもぴりりと辛い、山椒のような商品です。

DIY拠点としてはじまった「石巻工房」

お話をお伺いしたのは、工房長を務める千葉隆博さん。千葉さんはなんと石巻の鮨職人から工房長に転身されたという、不思議な経歴をお持ちの方です。家の二代目として鮨職人をされていた千葉さんですが、元々建築の学校を卒業し、DIYでものづくりをするのが好きだったため、転身については特に迷いはなかったとのことでした。

石巻工房の発足経緯については、このように語っていました。

石巻2.0が拠点としているアイトピア通りはもともと商店街で、一階が店舗で二階が住まいという形式の建物が多いところでした。震災で一階は壊れてしまったけど、二階には住めるので、震災後も避難所には行かずに二階で生活していたという人も結構いました。片付けはもすごいスピードで進んで、2011年の秋口にはほとんど瓦礫もなくなったんですね。

ただ、普段の暮らしにすぐ戻れたかというとそうでもなくて、今まではたとえばドアが壊れたら大工さんに頼んで直してもらっていたのが、それができなくなったしまった。そんなとき芦沢さんと「道具と材料とスキルと、ホームセンターにある工作室のような場所が街の中にあれば、みんな自分たちで修繕できるし復旧も早いよね」と話をしていて、そこから生まれたのが石巻工房です。

ワークショップで子どもにスツールの作り方を教える工房長の千葉隆博さん

ワークショップで子どもにスツールの作り方を教える工房長の千葉隆博さん

ハーマンミラーとの出会いから生まれたオリジナルのベンチ

自分たちの手で家具の修繕や生活必需品の制作ができる、市民のためのDIY拠点としてスタートした石巻工房。その後、少しずつ形を変え、進化してゆきます。そのきっかけとなったのがオリジナルのベンチでした。

ハーマンミラーという有名なアメリカの家具メーカーの日本支社が、CSR事業の一環で女川町の仮設住宅にリサーチに来たんです。その結果、洗濯物を干すためにちょっとした台が欲しいというニーズを知り、石巻工房に「一緒にできませんか?」と相談があったんですね。その後1ヶ月ほどをかけてベンチやスツールを制作し、仮設住宅に届けました。するとそのベンチに反響が集まるようになったんです。

「これ売れるんじゃない!?」という話から、販売方法やブランドづくりなど次々とアイデアが出るようになって、ゆくゆくは地元の人の雇用にも繋がるし、いろんな人が集まれば物づくりを通じて楽しいことができるんじゃないかと思い、販売するようにしたんです。

石巻工房では石巻に元々住んでいた人や都心から移り住んできた人が働いている。

石巻工房では石巻に元々住んでいた人や都心から移り住んできた人が働いている。

ポイントは、ただインターネットで商品を売るだけでなく、子どもたちも参加できるワークショップも開催しているところ。子どもたちの自由な発想が、また新しいプロダクトの発想につながっているそうです。「子どもたちもネジの閉め方やドライバーの回し方など一つ一つ覚えていく様子がとても面白い!」と千葉さんは言います。

人々の意識を変えていく場所へ

今後の石巻工房の展望について、千葉さんはこのように語ります。

街を変えるというよりは、人々の意識を変えていきたいですね。震災で一度リセットされてしまった今、新しいやり方で商売する必要があると思うのですが、むしろ震災前の暮らしに戻ることで安心してしまっている人も多いんです。たとえばいったんバブルを経験すると、何もしなくても商売が成り立つと勘違いしてしまう。石巻工房では、「世の中の流れに合わせて変化していかないと対応できないんだ」ということを意識できるような場所になっていけるといいですね。実際にそうなりつつあることを感じています。

石巻工房のあるアイトピア通り周辺のお店には、様々なところで石巻ベンチが置かれていました。ただ前に、仙台行きのバス停にベンチを置こうとしたところ、行政的な手続きの問題で置くことができなかったこともあったそうです。公共の場にもっとベンチを置き、バス停で待つ人々がほっとひと安心できる場所をつくるためにも、新しい行政のやり方が必要なのかもしれません。

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「常識は変化するんです」。千葉さんはライト兄弟が飛行機を発明してから100年しか経っていないことを例に挙げながら、未来を見据えています。今必要なのは、子どものような自由な発想で、いろんなことを試行錯誤していくことなのでしょう。

それはプロダクトだけでなく、仕組みや制度、やがては産業全体にも言えること。大震災を経験し、これからの日本を形成する時期に来ている今だからこそ、それまで常識としていたものを見つめ直し、本当に必要な物をベースに社会をデザインしていくためのヒントが、石巻にたくさん生まれているのかもしれません。

(Text:緒方 康浩)