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エネルギー新時代に「電気」の問題の原点を探る2つの映画-その2『ザ・シティ・ダーク-眠らない惑星の夜を探して』

greenz/グリーンズ ザ・シティ・ダーク トップ

複雑化する「電気」の問題、その問題を解きほぐすためには「電気が夜を照らし人間の活動時間を広げるもの」であるという原点に立ち返ってみるといいかもしれない。そのような視点で前回は『眠れる夜の仕事図鑑』という映画について見ました。それ自体からは明確な課題と言うべきものは見いだせませんでした。

今ある問題というのは、その広がり続ける活動時間を賄うために電気を生み出し続けることの「コスト」なのでしょう。それこそがいま「エネルギー問題」と呼ばれるまさにそのものなのです。しかしまだその問題を解きほぐす糸口は見つかりません。そこで、また別の角度から「夜を照らすこと」の問題点について描いた映画を紹介します。それが『ザ・シティ・ダーク-眠らない惑星の夜を探して』です。

この映画は、greenz.jpでも紹介した「エッセンシャル・ライト・プロジェクト」が日本に紹介・配給しているものです。エッセンシャル・ライト・プロジェクトは震災直後の暗い東京で「適切な灯りとは何か」について考えるプロジェクトを展開しました。そのプロジェクトは「震災前の東京は明るすぎたのではないか」という観点から今も継続中です。その一環として、今回の作品が紹介されているのです。というわけで、映画をご紹介します。

映画『ザ・シティ・ダーク-眠らない惑星の夜を探して』

「夜の明るさ」がどれくらいかをわかりやすく示してくれるのが星空です。都会で暮らす方は、田舎に里帰りした時や地方に旅行に行った時に、満天の星空を見上げて感嘆の息を漏らすことがあるのではないでしょうか?私も離島などに行った時には必ず夜空を見上げて、その美しさを目に焼き付けます。田舎では星空が見えて都会では見えないというのは、空が明るいからで、都市の照明が原因なのです。

この映画は、田舎出身の主人公が星の見えないニューヨークから星の見える場所を探しに行くというドキュメンタリーです。ニューヨークのど真ん中では数個しか見えない星が、数十キロ、数百キロと離れるとどんどん増えていきます。しかしそれでも本当に暗い空というのにはなかなか出会えないのです。

greenz/グリーンズ ザ・シティ・ダーク サブ

実は都市の照明で夜空が照らされ星が見えない状態を「光害」と考える動きがあります。それは主に天文学の分野から生まれたものなのですが、都市が明るすぎて空を観察できず、それが天文学の研究に問題を起こしていると指摘するものです。現在は、望遠鏡を僻地に設置することでその問題は回避されていますが、このまま都市化が進めば観測できる場所が地球上からなくなってしまうかもしれません。それに伴う問題をこの映画は色々指摘しています。

星空は美しいですが、正直なところ、まあ見えなかったとしても生活に直接影響が及ぶような問題はありません。天文学の見地からは問題かもしれませんが、即時に都市の照明を暗くしなければならないほどの大問題には思えません。しかし同時に星を失ってしまうことに漠然とした不安のようなものも感じるかと思います。

それは「でも、本当に星が見えないことに問題はないのか」を追求するこの映画がそう感じるように仕向けているというのもあるのですが、そこにもっと考えるべきことがあるように思えるのです。それは「本当にこんなに明るい夜が必要なのか?」「夜を明るくするとはそもそもどういうことなのか?」「自分にとって適切な夜の明るさとは何なのか」ということです。

映画の公開に先立ち行われた上映会では、映画上映後にこの映画を日本に紹介した照明デザイナーの岡安泉さんと建築家の山梨知彦の対談が行われました。そこでも山梨さんが言ったように、これは「誰もが映画館を出たあと夜空を見上げてしまう」映画です。私も映画館を出て渋谷の夜空を眺め、「これはさすがに明るすぎる」と思いました。明るくていけない理由は特に思いつかないけれど、でもやはり明るすぎると思ったのです。

トークショーの様子

トークショーの様子

岡安さんは

こんな映画を持ってくるのは、照明デザイナーとしては自爆行為なんですが、これから光のあり方は変わると思う。考え方を変えて、これからの照明のあり方とか生活の仕方というのを文化レベルの高いものにしていこうという意思を持たないといけなくて、そういう意味では持ってきてよかったといまは思っています。

と発言。北海道で真っ暗な町を作る計画も立てているというプランも披露しました。

山梨さんは「今はいいということ自体の価値観がすごく多様になってきていると思う」と発言した上で、

星の光と人工の光のようにたくさんの物を切り捨てないでやるにはどうすればいいかということを今考えていて、それなら晴れている日は暗くて、曇っている日は明るい町があってもいい。

と提案。さらにこの映画を観て25年前の真っ暗闇の経験や、哺乳類が進化したのは暗い夜があったおかげだったという逸話も披露し、「この映画はなるべく沢山の人に見てもらいたいと思った」と締めくくりました。

専門家であるお二人の話を聞きながら、「夜が暗い方がいい」と思うことに理由はなくてもいいのだと思いました。明るい夜に違和感があるならその違和感を大切にして暗い夜を求めればいい。それぞれの人が「いい」と思う暗さは多様であり、その多くを満足させるようなものを専門家のお二人は探求しているし、自らもどうあるべきかということを考え続けているのです。

この映画を観て、自分がいるその場所で夜空を眺めてみて、街の灯りを眺めてみて、それをどう感じるか。例えば田舎から東京に出てきて渋谷の夜の明るさに「やっぱ東京ってすげぇな」と思う、それでやっぱり都会は明るくなきゃと思う、それでもいいわけです。でも今回の震災の直後の東京を経験して「東京は明るすぎた」と思ったら、都会ももっと暗くていいと思う、それでいいのです。その「どう思うか」から自分がどうしたいのかを考える、この映画はそのようにして「灯り」について考える出発点になる映画なのだと思います。

そしてさらに一歩進んで、その自分にとって「いい」環境を作り出すためにどのようなエネルギーのあり方を志向するのか、それを考える最初のステップにもなりうるのではないでしょうか。

『ザ・シティ・ダーク-眠らない惑星の夜を探して』
2011年/アメリカ/87分
監督:イアン・チーニー
2012年8月11日(土)~17日(金)アップリンクXにて一週間限定レイトショー