東日本大震災から1年、福島第一原発事故から1年、震災からの復興はゆっくりとではありますが進みつつあるように思えますが、原発事故の方はまだまだ収束には程遠く、むしろ不安や疑問が増えるばかりです。中でも一番不安なのは被曝の問題、特に食品などによる内部被曝の問題です。
これについては何が確かな情報なのかが一向に判然とせず、一体何を信じていいのか、不安ばかりが募るという方も多いのではないでしょうか。その内部被曝者の医療に60年以上も携わった肥田舜太郎医師を追ったドキュメンタリーが現在公開中です。
60年以上も内部被曝に携わるお医者さん
現在95歳の肥田舜太郎医師は広島に原爆が落とされた時、陸軍の軍医として広島の部隊に配属されていました。直接的に原爆の爆風は浴びなかったものの、原爆投下直後には爆心地近くに入り、その後も爆心地から数キロの小学校で医療活動にあたっていました。
肥田先生は終戦直後から被爆者の症状に疑問を持ち、内部被曝について研究を続けてきました。しかし、被曝を研究する施設であるはずの原爆傷害調査委員会(ABCC)は被爆者の治療はせず、研究内容も公開しません。そんな中、肥田先生は埼玉に被爆者のための病院を作り、60年以上治療をしてきたのです。
2006年に作られたこの映画『核の傷 肥田舜太郎医師と内部被曝』は埼玉、広島で肥田先生にインタビューをし、アメリカの関係者に話を聞くことで、内部被曝の恐ろしさを描いたドキュメンタリーです。
わからないことばかりの内部被曝
この映画をみると、いまだに内部被曝についてはわかってないことばかりだということがわかります。この映画はその原因を追求し、そのひとつに原爆傷害調査委員会(ABCC)の情報隠しをあげます。
その内容はかなりなもので、そもそも広島はアメリカの被曝実験であり、そのためにわざわざ人が屋外に最も多くいる時間を選んで原爆を落としたとか、死亡した被爆者の遺体を研究のためにアメリカに送っていたとか(その映像も出てきます)、そういった事実を上げ、それに対抗するための肥田医師の活動を紹介するのです。
それはそれで発見があり意義深いわけですが、いま内部被曝の恐れに現実に襲われているわれわれ日本人にとっては物足りない内容です。
肥田医師は2009年に医療活動からは引退、その後は被曝についての知識を広めるための講演活動を精力的に行なっています。福島第一原発の事故後もほぼ毎日どこかで講演活動を続けているそうなのですが、今回の上映では、その肥田医師の震災後の講演の様子をまとめた約30分の講演録『311以降を生きる:肥田舜太郎医師講演より』を同時上映しています。
これは、肥田医師の普段の講演の「80%が広島の内部被曝の話であと20%で今の話をする」という構成にならったものだそうで、映画だけでは不十分な観客の期待に答えるものとして用意された映像だと言えます。
秘訣は”早寝早起”!
ここで肥田医師は「いまどうすればいいのか」を端的に語っています。その秘訣は簡単にいえば「規則正しい生活」。原始の時代に人類が自然放射線に対する抵抗力を着けることができたのは、日の出と共に起き日暮れと共に寝る彼らの生活によるものだという持論を展開し、早寝早起きして3食しっかり同じ時間に食べ、毎日スッキリと排便することで体内の放射性物質と戦うことを説くのです。
これで放射性物質がなくなるわけではありません。むしろどうやってもなくならないものなのだから、病気になりにくい体を作ることでしか対抗できないという主張なのです。あまり解決になっていないような気もしないではないですが、自身も被曝しながら95歳でもお元気な先生の映像を見ているとなんだか元気づけられます。
不安やストレスのほうがよっぽど体に悪いという意見など、ほんとうに様々な情報が錯綜する内部被曝、なるべくしっかりした情報をもとに自分で考えるしかないとすると、この映画のように「考え方」を示してくれるものは非常に参考になります。そして何よりも95歳で必ず立ったままで90分の講演をするという肥田先生の姿が心強いです!
不安はまだまだなくならないでしょうが、少し安心して「明日から早起きしよう!」とポジティブになれる、そんな2本立てなのです。
映画で「311」について考える