毎年、新生児のうち、2000万人以上が未熟児や低出生体重児といわれ、うち400万人が亡くなっている ―。
こんなショッキングな事実をご存知でしたか?
発展途上国では、彼らを安全かつ衛生的に育てるための保育器が十分に行き届かず、これが原因で多くの赤ちゃんが命を落としています。そこで、この深刻な社会的課題に対する具体的なソリューションが提案されています。
「Embrace」は、米スタンフォード大学のソーシャルデザイン教育プログラム「Entrepreneurial Design for Extreme Affordability」の学生プロジェクトが中心となって設立されたソーシャルベンチャー。ここで開発されたのが、未熟児や低出生体重児のための恒温器「Embrance Infant Warmer」です。寝袋のような形状で、内側にパウチ型のヒーターを入れると、4~6時間の間、赤ちゃんに必要な35~37度の温度に保つことができる仕組み。ヒーターは、電気で温めるタイプのほか、電力に乏しい地域でも利用できるよう、お湯を使って温めるタイプのものも開発されています。また、このプロダクトを必要としている多くの赤ちゃんに広く行き届くよう、価格面にも配慮。従来の保育器の約4%のコストでの製造を実現したそうです。
未熟児や低出生体重児にとって、「低体温症」は深刻な問題。現代医学が十分に普及していない発展途上国では、小さな赤ちゃんが自分の体温をうまくコントロールできず、心臓疾患や糖尿病を患ったり、最悪の場合、死に至るケースも少なくありません。一方で、過疎地では、適切な医療を提供する病院が不足しているという事情もあり、自宅での育児が主流。また、従来の保育器は高価なうえ、電力インフラの乏しい地域では、実際に利用しづらいという欠点があります。そこで、これらの制約条件をふまえ、安価で使いやすいシンプルな育児ソリューションとして「Embrance Infant Warmer」が生まれました。現在、インドでのパイロットテストを実施しており、今後、その他の地域でも展開する方針だそうです。
Embrace from Linus Liang on Vimeo.
「Embrance Infant Warmer」は、「未熟児の健康と命を守る」という社会的な課題に対して、具体的な解決策を提示しています。それぞれの地域のニーズに合致し、多くの人々にとって入手可能なシンプルなプロダクトを創りあげていく取り組みによって、よりよい未来への可能性を広げてくれることを示している事例のひとつともいえるでしょう。
「Embrace」の共同創業者Jane Chen氏のスピーチを見てみよう。