どこかで見たことがあるようなキノコ型をした、かわいらしいハンコ。名前は「シャン判」と言います。形と名前からピンッときた人もいると思いますが、これは、シャンパンのコルク栓を再利用して作られたハンコなんです。
再利用ということで環境活動の一環と思いきや、「環境のためにやっているという意識はほとんどありません」と「シャン判」の製作を手がけるデザインユニット「SPEAKER Inc.」の西山さんからそんなちょっと気になる言葉が…。
「シャン判」の材料となっているコルク栓は、当り前ですが、コルクと呼ばれる資源で出来ています。でも、コルクって何?と改めて考えてみると、知らない人も多いのではないでしょうか。コルクは樹齢20年を過ぎたコルク樫の皮から作られるのですが、コルク樫という木はとてもユニークな存在なんです。というのは、皮を剥いでも木が生きたままの状態を保つことができるのです。そのため、寿命である樹齢150年から200年まで木を切ることなく、かつ、9~12年という短いスパンで樹皮を採取できます。その上、コルク樫はユーカリなど他の植物が育ちにくい、土の質が良くない地域でも育つことから砂漠化を防止しており、その森は生態系を維持するのに役立ってきました。コルク樫は類をみないサステナブルな植物なのです。
そんなユニークなコルク樫の皮から作られるコルクは資源としてとても優秀で、細かい気泡を多く含み、弾力性、断熱性、防音性に優れるなどの利点を備えています。そのため外国ではコルク栓をリサイクルするなどして積極的に利用されている資源です。例えば、ワインの国イタリアではレストランなどからコルク栓を回収して住居用の断熱材に利用しようという「tappoachi?」が行われていますし、アメリカでは「ReCork」がリサイクル活動を進めています。また、世界のコルクの50%以上を生産するポルトガルのコルク栓メーカーがコルクファッションブランド「Pelcor」を立ち上げるなど、リサイクルとともに、コルクの幅広い使い道も模索されています。
日本でも雅子妃殿下が子ども部屋にコルクタイルを使用したとかで話題になったこともあったようですが、製造やリサイクルに力を入れられていないのが現状で、日本へ輸入されている年間600万本ものシャンパンのコルク栓の多くは可燃ごみとして捨てられていると考えられます。そんな中、優れた資源であるコルクを使ったコルク栓を捨ててしまうのはもったいない!ということで作られたのが、この「シャン判」というワケです。作っているのは、デザインユニット「SPEAKER Inc.」と複数のデザイン会社による合同事業「Re-born Project」で、キノコ型のコルクを眺めていたら角版に見えてきたことから思いついたそうですが、コルク栓特有のカタチとコルクの柔らかさが手になじみ、通常の印鑑よりもしっかりと押すことができるということです。
「エコがどうこうということではなく、江戸にあったような使えるモノをちゃんと使いましょう!ということで、結果、環境のためになったり、モノを大切にするという教育・啓蒙になったりします。そんな自然な活用を目指したいと思っています」
と西山さん。
確かに、環境のためのリサイクルを推進することも必要ですが、より大切なことは、まだ使えそう、あるいは、積極的に使っていきたいと感じる物や資源としっかりと向き合い、それらをより良いカタチで使っていくためには何が必要なのか。その方法やら可能性やらを考えていくことなのかもしれないなぁと思いました。
さて、「シャン判」はコルク栓の特性を活かしたリユース製品ですが、他の用途でも使えるよう、コルクをリサイクルして再資源化できないかとも考えているそうです。そのためには一緒にコルクという資材の可能性を追求してくれる企業が必要になりますが、リサイクルを行ってくれる日本の会社が見つからないのだとか。興味を持ってくれそうな企業をご存知の方は教えてくださると嬉しいです。
「シャン判」は、こちらのサイトで買うことができます。
「コルク樫を救おう!」という活動を世界的に呼びかけています。