『アメリ』のジャン＝ピエール・ジュネ監督の5年ぶりの新作は、独特な色彩と映像を生かしたファンタジー・コメディ。個性的な登場人物たちが繰り広げるコメディのおかしさの中にしっかりと平和へのメッセージを込められたピースフルな作品です。この作品を一言で言うならば“Laugh & Peace!”。でも一言ではいいつくせない絶妙な味付けがたくさん隠されてもいるのです。

幼い頃に父親を地雷で亡くし、孤児院からも逃げ出した少年バジルは、アルバイト先のレンタルビデオ店で流れ弾を受け、命は取り留めたものの弾丸が頭の中に入ったままになり、仕事も家も失ってホームレス生活を余儀なくされます。そんな彼を救ったのは廃品を回収して発明品を作って売るおかしな集団でした。そこで暮し始めた彼は、父親を殺した地雷を作った会社と、自分の頭に残る弾丸を作った会社を発見し、復讐を誓うのです…

この映画の一番の面白さはなんと言ってもこのおかしな集団の人たち。冷蔵庫の野菜室に入ってしまう“軟体女”を筆頭に一芸に秀でてはいるんだけれど社会的には不適合といわざるを得ない人々が集まっているのです。そんな彼らが巨大な兵器メーカーに戦いを挑むのだから、いたって真面目な戦いなのだけれど、おかしなアイデアや失敗に観ているほうはたびたび笑いが漏れてしまう、そんな戦いが繰り広げられるのです。

とは言え、この映画はコメディというわけではありません。笑いが起きることはあっても、それは目的ではなくて手段。笑ってしまうような方法で武器商人と戦ってしまう彼らを見ていると、武器や戦争なんてバカらしいと思えてくるのです。戦争なんて笑い飛ばしてしまえ。笑う門には福来る。みんなで笑えば平和がやってくる。これぞ“Laugh & Peace”！

2009 ©EPITHETE FILMS –TAPIOCA FILMS –WARNER BROS. PICTURES –FRANCE 2 CINEMA -FRANCE 3 CINEMA

ジャン＝ピエール・ジュネ監督といえば『アメリ』。日本でもヒットしたあのガーリーな映画の印象が付きまとい、新作が公開されるたびに「『アメリ』の」という冠がつきます。この作品も『アメリ』を髣髴とさせるガーリーな部分も確かにありますが、それ以上に強く出ているのが『アメリ』以前から彼のトレードマークでもあった独特の色彩感覚と「不気味さ」。かわいいけど不気味というのがこの映画の世界全体に通じるキーワードだという気がします。

典型的なのはバジルが最初に隠れ家に迎えられたときに披露される仲間の一人“発明家”プチ・ピエールの発明品たちです。それは自動で動く人形のようなおもちゃなのですが、それがかわいいけれどどこか不気味。廃品で作ったために新品の工業製品とは違っていびつさがあり、それが不気味さとなっているのです。

このいびつさや不気味さというのは、彼らが作るモノだけでなく、彼ら自身にもあてはまります。彼らはいわば社会から捨てられた“廃品”、そんな彼らは社会に容易に適合できる「既製品」の人々から見れば不気味な人たちなのです。でも、だからこそ彼らには自由な発想があります。「勝ち」「負け」という言葉は好きではありませんが、社会に「負けた」彼らは「負けた」からこそ常識に縛られない自由な発想で世界に挑むことができたのです。

戦争というのはみんなが「勝とう」と思うから起きるもの、「負ける」ことから平和は始まるのかもしれない。もちろんそんな単純なことではないですが、彼らを見ているとそんな風に簡単に平和は実現されてしまうのかもと思えるなんともピースフルな映画なのです。

2009 ©EPITHETE FILMS –TAPIOCA FILMS –WARNER BROS. PICTURES –FRANCE 2 CINEMA -FRANCE 3 CINEMA