新聞や雑誌で毎日のように目にするようになった、「持続可能」という言葉。いつのまにか、「エコ」に取って代わり、「地球に優しい」といった意味合いで使われつつあるようにも感じますが、何をもって持続可能と言えるのか、条件を聞かれると、明確に答えるのは意外と難しいのではないでしょうか?
エコビレッジ国際会議3日目、この疑問の答えを明文化したスウェーデン最大の環境NPO「ナチュラル・ステップ」の、日本支部ファシリテーターである草島進一さんが登壇。原発に揺れる祝島と自然エネルギーへの転換が進むスウェーデンを題材に、最新作「ミツバチの羽音と地球の回転」を完成させたばかりの映画監督鎌仲ひとみさんと共に、ナチュラル・ステップの基礎レクチャーを行いました。
ナチュラルステップは、持続可能な社会の条件を、
1 地殻から掘り出した物質の濃度が増え続けない
2 人間がつくり出した物質の濃度が増え続けない
3 自然が物理的な方法で劣化しない
4 人々が満たそうとする基本的なニーズを妨げない
という4つに明文化しています。たとえば、石油やウランを使い続けることは条件1に、化学物質の使用やCO2の排出は2に、乱獲や乱伐・土壌のアスファルト化は3に、貧富の差を拡大させる経済システムや機能していない民主主義・独裁政権は4に反します。
スウェーデンでは、289ある地方自治体のうち77の自治体が「Sekom(環境自治体)」として持続可能な地域づくりに取り組んでいます。そして、これらの自治体すべてが、ナチュラル・ステップを指針にすることを議会で承認しているのです。
取り組みの成果はめざましく、例えばヨッテボリ市では、工場排熱でつくった温水を各家庭に引き込む地域暖房インフラを構築し、暖房費を無料化。CO2排出も劇的に減らしました。ヨッテボリを始めとする地域の取り組みの積み重ねは、国全体の脱化石燃料化にもつながり、1981年には87%あった温水や熱の化石燃料依存率を、2004年に17%にまで引き下げました。(※)
こうした実績によってナチュラル・ステップの効力は世界が知るところとなり、米国やカナダ、ニュージーランドの自治体でも導入が進んでいます。バンクーバーオリンピックの競技会場でもあったスノーボーダーの聖地ウィスラーでは、
「なくなるとわかっているものに投資するのはやめよう」
と、新たに敷設するパイプラインを天然ガス仕様からバイオガス仕様に変更しました。
日本では、那覇市が市の職員全員を対象に研修を行い、4日間かけてナチュラル・ステップをインストール。「持続可能な社会」の全体像を共有したことで、これまでの縦割行政に、サスティナビリティという”背骨”が通り、政策立案の質が上がり、意思決定が加速しているのだそうです。
なお、ナチュラル・ステップの原則には、先ほど出てきた4つのシステム条件のほか、12の環境指標やバックキャスティングでのアクションプランの立て方、「変化は地域から」という原則などが含まれています。
環境問題では、本質的ではない部分を断片的に取り上げ、議論が深まらないまま対症療法的な対策を取った結果、問題の根っこはそのまま残ってしまう、ということが起きがちです。また、共に問題と戦う仲間どうしであっても、時に、問題に対する視点がずれて議論が交錯したり、迷路に迷い込んでしまうこともありますよね。そんなときにナチュラル・ステップがあれば、
「そもそも持続可能な社会って何だっけ?私達は、何を目指してるんだっけ?」
という根っこに立ち返り、目指すべき目標が明確になる。そんなところに、価値を感じました。
今までありそうでなかった、持続可能な社会づくりの憲法的な機能を提供してくれているナチュラル・ステップが、どのように活用されていくのか、今後も注目したいと思います。
※Svensk Fjarrvarme
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