大都会東京に暮らす私たち。もし今、社会インフラが崩壊するような何かが起こったとしたら、あなたは生き残ることができると思いますか?
環境破壊が進み、大規模な自然災害が頻発するようになった今でこそ、人々の防災意識や危機感は高まりつつあります。でも、やはりどこかで「自分は大丈夫」と思ってしまってはいませんか?
5月13日(木)に行われたgreen drinks Tokyoのテーマは「Urban Survivability 〜都市をサヴァイヴする力!〜」。実にユニークな方法でこの社会を生き抜くために必要なサヴァイヴ術を提唱、実践しているふたりのゲストを迎え、私たちの“生きる力”について考えました。硬派なテーマのはずが、130人が押し掛けた会場はなぜか爆笑と興奮の渦に……。その訳はこのレポートで明らかに!
会場は満員御礼!!
130名を越える事前予約が集まった今回。会場は予想通りの大盛況、満員御礼となる中、まずはお二人の経歴のお話からトークはスタートしました。
「社会起業家でもなんでもない。ただ、自由に生きるため社長になることは決めていた」(植田)
植田紘栄志さんは、ゾウの糞から手透きで作った「ぞうさんペーパー」の開発者であることから、よく”社会起業家”と呼ばれます。しかし実は、自宅で機械のブローカーとして開業したのが始まりで、あるとき結婚式で呼ばれたスリランカで、ペットボトルのリサイクル会社を立ち上げることになったことから、ビジネスが大きく転換。その流れで“仕方なく”できた商品が「ぞうさんペーパー」だったと言います。「ぞうさんペーパー」や「ぞうさん緑化マット」などの商品は、廃物を利用し、エコロジーとエコノミーを共存させた見事なアイデア商品。(「ぞうさん緑化マット」についてはコチラの記事もご覧ください。)しかし植田さんはそれに対しても全く気負いを感じていない様子です。
「自由に生きるために社長になることは決めていました。でも、ものづくりの会社というだけで、僕は社会起業家でもなんでもないんです。」
ひょうひょうとした語り口の植田さんからは、その言葉の裏に揺るぎない意志のようなものを感じます。現在は、屋上緑化マットなど、やはり自然素材にこだわったもの作りを継続して行われているそうです。特に力を入れているのが屋上緑化マット。その拠点を山梨に構えているのですが、そこにもサヴァイヴの視点が……。このお話はまた後ほどお聞きしましょう。
「考え方を変えれば、家を建てなくても建築ができるのではないか。」(坂口)
一方で、坂口恭平さんの経歴はかなり衝撃的(超人的?)です。
8歳のときから団地住まいが嫌で、机の下に布団を持ち込み、自分の居場所を作っていたという坂口さんは、父親から「建築家になれ」と言われた日(9歳)から、まっすぐにその道を歩み始めました。しかし大学時代、建築を学びながらも“建物を建てる”ことに疑問を持ち、街を歩き回り始めました。そうしているうちに、多摩川で家を建てている人たちに出会うのです。彼らは、一般的にはホームレスと呼ばれる路上生活者。坂口さんはそんな彼らが「ホームレスではなく、0円で造る家の住人」であると気づき、その家やライフスタイルを調査し始めました。その調査結果をまとめた本が『TOKYO 0円ハウス 0円生活』(大和書房刊)です。この著作が社会に衝撃を与え、坂口さんの名を知らしめたことは言うまでもありません。(TOKYO 0円ハウス 0円生活』については、コチラの記事もご覧ください)
現在も、“家を建てず考え方を伝える”というスタンスの建築家として、著作や講演会に大忙しの毎日を送っていらっしゃる坂口さん。強い力を持ちながらもユーモアあふれる語り口に、会場は一気に“坂口ワールド”に飲み込まれていきました。
面白すぎるお二人の経歴、本当はもっとお聞きしたかったのですが、トークは今日のテーマ、”サバイバビリティ”へと進みます!
驚きのサヴァイヴ事例続々!
そんなお二人にとって、サバイバビリティとは?
会社を作るとき、ハザードマップを参考にしたという植田さん。常に「自分の安全保障をしなくては」と考えている植田さんの危機管理は、本気具合が違います。例えば、ミチコーポレーションは山梨県に緑化マットの倉庫を置いていますが、その理由は、大地震が起きたときでも(馬などで)行ける距離であり、いざというときの第二の故郷を持ちたかったからだと言います。そこには従業員全員分の食料を貯蔵しているという徹底ぶりなのです。
さらにビジネスにおいては、“キラーコンテンツ”を持つことの重要性を「アルプスの少女ハイジ」のおじいさんを例に取って教えてくださいました。(ハイジのおじいさんは、嫌われ者だけど「木工用具一式」というキラーコンテンツを持っているから生きて行けるとのこと。)やはり植田さんの生き方は、どこまでもインディ・ジョーンズ的なのですね!
一方の坂口さんからは、サヴァイヴァルの本質を言い当てる言葉が次々に飛び出しました。
「不安不安というけど、何が不安なのかわからない。それは消費意欲を掻き立てるために作られたものだ」という言葉から始まった坂口流サヴァイヴ論は、「都市生活は自然であり、都市には幸がたくさん転がっている」という言葉に集約されているように思います。
「車で使えなくなった12Vのバッテリーとソーラパネルで発電」「雨水を貯め2時間待って真水にする」「金の指輪をゴミ袋から拾い集めて月に20万円稼ぐ」など、都市の社会基盤から独立したインフラを作り、“都市の幸”をうまく利用して生きている路上生活者たちの事例は単純に「スゴい!」の一言。現実離れしているようではありますが、その生き方からは、日頃何気なく生きている大都会の真実が垣間みられる気がします。それを客観視せず、自らダイブして世の中に伝えている坂口さんのお話に、会場からは拍手も巻き起こりました。
“生活の解像度を上げる”ことの重要性
さてお二人のお話、一見接点がないようにも見えますが、これらの事例が物語っている本質は、“自分の生活の解像度を上げる”ことの大切さだと思います。みなさんは自分の生活がどの程度の社会インフラが必要か知っていますか?私は、全く自信がありません。自分がどの程度の電力で生きて行けるのか、どのくらいの水を使っているのか、といった基本的なことでさえ、即答は難しいでしょう。ましてや、自分でそれを作ることなんて全く想像もつきません。そのため、社会インフラとつながらずに生きることなんて無理だと思ってしまうのです。
一方でお二人の語った生き方や考え方は、社会に置ける保障もインフラも頼りにしておらず、都市やその基盤を徹底的に解剖して自らの生きる手段を勝ち得ています。彼らの強い言葉は、都市の便利さに慣れ、自分の生活に対する視力が弱くなっている私たちに警鐘を鳴らしているように感じました。
ZIPPO争奪ジャンケン大会!
さて、ここでひと一息、お楽しみタイムです。この日は、協賛のZIPPOからプレゼントとして提供いただいたライターをめぐるジャンケン大会が開催されました!
植田さんと坂口さんは、手に取ったZIPPOをカチカチしながら、一生でも使えてしまうその魅力について語り始めました。「この時空を超えたフォルム、使っていると好きになっちゃうんですよね」という植田さんは、ご自身がプロデュースしたインディ・ジョーンズモデルのジャケットを例に挙げ、「70年前も今もかっこいいものは、きっと70年後もかっこいいに違いない。それってサステナブルなのでは?」と、ZIPPOの普遍的デザインに惚れ惚れしている様子でした。
ZIPPOときくと、喫煙者のためのものと思われがちですが、例えば災害時なども含めたアウトドアはもちろん、キャンドルや暖房器具への点火時など、日常生活においても必要な場面が多々あります。そんなときついつい手に取りがちなのが100円ライター。便利だし、価格の安さに惹かれて購入し、全部使い切れずに捨ててしまったなんてこと、誰しも身に覚えがあるでしょう。それに比べてZIPPOは、何度も繰り返し使い、ずっと愛用できる商品。さらには、商品が壊れたときにそれを一生無料で面倒見てくれる「生涯保証(Lifetime Guarantee)」という仕組みまであるという、まさにサステナブルなプロダクトなのです。愛煙者のみならず、グリーンなあなたにぜひオススメします!
私たちができる一歩は?
最後に恒例、会場とのQ&Aタイム。誰もが聞きたかったその質問はコチラ。
Q:社会基盤からインフラを獲得して行く上で、一番重要なポイントと注意点、また私たちができることは?
植田さんからの提案は、「いざというときに実現可能なものを身の回りに置く」こと。壊れたときに自分で直せるレベルのもの、特に家電などは古くからあるものを利用すると、いざというときに困らなくて済むと言います。究極は火をおこすなど古くからある習慣。確かに、便利な家電が増えた現代は、ひとつ故障しただけで大騒ぎ。私たちの都市をサヴァイヴする力は、徐々に低下しているのかもしれません。
さらに驚いたのは「餌さえあえれば動くから」という理由で始めた乗馬の話。交通インフラに対しても完璧な備えを見せる植田さんの姿勢に、会場からは感嘆の声が聞こえてきました。
「僕も馬です、馬!(笑)」と、植田さんを受けた形の坂口さんのお答えは、「生きて行くために本当にそれが必要なのか?」と疑ってみて、必要不可欠なものを知ること。実は車のバッテリーで賄えてしまうかもしれない私たちの生活をもう一度よく見つめ直してみることは、サヴァイヴする力を上げるための第一歩かも知れません。坂口さんの提案は、とりあえず自分でバッテリーとソーラーパネルで発電、読書灯を灯してみること!ひょっとしたら会場の中から実践者が現れるかも。坂口チルドレン(!?)の誕生が楽しみです。
たくさんの印象的な言葉が飛び出したこの日のgreen drinks Tokyo。
参加者のひとりひとりが、自分の都市生活について考えるきっかけとなったことでしょう。生活のふとした瞬間に、立ち止まってそのモノ・コトの本質を考えてみることで、ぼやけて見えた都市における自分の生活がだんだんと鮮明になってくるのかもしれません。その小さな積み重ねが、ひとりひとりの生きる力につながっていくことでしょう。
green drinks Tokyo、次回は6月10日(木)に開催します。
テーマは近日中に発表予定です。お楽しみに!
【ゲストプロフィール】
1971年岐阜県生まれ。スリランカにて、象の糞を利用したリサイクルペーパー「ぞうさんペーパー」や、象の糞はもちろん、ヤシの実の皮のリサイクルやさらには日本の休耕地問題も解決してしまおうという「ぞうさん緑化マット」などを製造。また、FM西東京の「植田紘栄志のラジオぞうさん」でパーソナリティーとしても活躍中。現在の事務所の場所を決めるにあたってはハザードマップを参考にし、災害時に備えて食料を備蓄するなど、日常においてもサヴァイヴを常に意識。自身のロールモデルはインディージョーンズ。
1978年熊本生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業後、2004年に日本の路上生活者の住居を収めた写真集『0円ハウス』をリトルモアより刊行。2006年カナダ、バンクーバー美術館にて初の個展、2007年にはケニアのナイロビで世界会議フォーラムに参加。2008年には、隅田川の鈴木さんのソーラーハウスでの生活を記録した書籍『TOKYO 0円ハウス 0円生活』(大和書房刊)。路上生活をネガティブなものとして捉えるのではなく、都市をサヴァイヴするという意味でむしろポジティヴなものとして伝えている。さらに2009年、自身も実際に多摩川で生活した経験を持つ。2010年8月には新著『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』を出版予定。
【協賛】
植田紘栄志さんのビジネスと生き方を知ろう!
坂口恭平さんって?近日開催のトークショーも要チェック!
次回開催は6月10日(木)!
全国で続々開催中!