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世界の子供に「おそろい」の靴をプレゼント!

Photo by Yukiko Matsuoka

Photo by Yukiko Matsuoka

春はもうすぐそこまで。私事だが、一足早く春に向けて靴を新調した。

アメリカ・カリフォルニアの靴ブランド「TOMS」のピンクのスリッポン。軽くてはき心地がよく、細身で足幅を少しスマートに見せてくれ、春らしい色に心が弾む。しかし、心を弾ませてくれるのは、この靴の春色だけではない。私とお揃いのこの靴を世界のどこかで子供が履いてくれるのだ。TOMSは、靴1足の売上につき世界の子供に靴1足を寄付することを企業ミッションとする「社会貢献するシューズメーカー」。

TOMSの取り組みから、新しい”消費”のカタチを考えてみよう。

「靴のお買い上げ1足につき、世界の子供に靴を1足、寄付します!」

TOMSは、ブレイク・ミコスキー(Blake Mycoskie)が創業した米国・カリフォルニア州のシューズメーカー。「アルパガータ」(alpargata)というアルゼンチンの伝統的な靴をモチーフにしたスリッポンタイプの靴は、ビビッドな配色とポップなプリント柄で人気。麻やジュードを編みこんた靴底にキャンバス地のトップをつけたこの靴はアルゼンチンで製造。フェアな労働条件で現地の人々を雇用し、生産活動を行っている。

TOMS誕生のきっかけは、創業者・ブレイクのある旅だった。南米・アルゼンチンを旅したブレイクは、現地の子供たちが、貧困のため靴が買えず、裸足で生活している事実を知る。遠方まで裸足で生活用水を汲みに行く多くの子供たち。この現実に衝撃を受けたブレイクは、2006年5月にTOMSを設立。靴1足を売り上げるごとに1足の靴を世界の子供たちに寄付するという新しい事業を立ち上げた。

事業開始以来3年足らずで、アルゼンチンの子供たちに1万足以上、南アフリカに5万足の靴をそれぞれ寄付。2009年1月にはエチオピアの子供たちにも3.7万足の靴を届けることができた。以下の動画は、ブレイクらが2006年10月にアルゼンチンで実施した靴の寄付活動「Shoe Drop」の様子である。

「売れるもの」を世に送り出し、社会に貢献する

TOMSの特筆すべきは、事業として確実に収益を得ることと、社会の一員として社会に貢献することを同時に実現させている点だ。

まず事業として成立させるためには、消費者が「買いたい」と思う商品を提供することが大前提。TOMSのデザイン性は、2007年にスミソニアン協会(Smithsonian)のクーパーヒューイット国立デザイン博物館(Cooper-Hewitt, National Design Museum)が主催する「ナショナルデザイン賞(National Design Awards)」を受賞するなど、高く評価されており、男性ファッション誌「GQ」や女性モード誌「Vogue」をはじめ、有名な雑誌に数多く紹介されている。

さらに、TOMSは、自らの志を明確に示し、この志をも商品の付加価値に変えている。消費者は、ファッション性や嗜好のみならず、企業の志に賛同し、「消費」というアクションを起こす。収益を上げるという狭義の意味での「ビジネス」でもなく、単なる「社会貢献活動」でもない。新しい事業のカタチであり、社会貢献のカタチである。

TOMSのみならず、欧米を中心に社会貢献型のショッピングは増えている。大手オンラインショッピングサイト・eBayは環境負荷の低い商品やフェアトレード商品のみを扱うショッピングサイト「WorldofGood 」を2008年にオープン。社会貢献型ショッピングサイト「Alonovo」でも、世界中で製造された食品や衣類などが販売されている。

英国を中心に展開するフェアトレードブランド「People Tree」は、「ヴォーグ・ニッポン(VOGUE NIPPON)」とコラボするなど、商品のファッション性、デザイン性の向上に努め、より多くの消費者を惹きつけようとしている。

日本でも、バングラディシュの天然繊維・ジュートを使ったバッグを販売する「マザーハウス」、ヒマラヤのヤク(ヒマラヤ牛)の毛を使ったニット製品で知られる「ショーケイ(SHOKAY)」など、ファッションと社会貢献を融合させるビジネスが生まれている。

大量生産・大量消費の時代から顧客の嗜好やニーズを反映した商品づくりの時代へと移り、さらに、顧客の「消費」という行動の意味付けそのものを変える新たな時代が静かに始まっている。TOMSの取り組みは、「買い物」と「社会貢献」の2つの行動を同時に実現する新しい「消費」を提示することで、消費者をも巻き込んだ社会貢献活動を確実に作っている一例といえるだろう。