ダムはコンクリートの塊を山の中に建てるもので、自然環境破壊の象徴のように言われることもある。しかし、ダムはクリーンエネルギーである水力発電を行う発電所にもなりうる。
そんなダムと環境の関係を考えさせてくれるのが、現在、渋谷のUPLINK Xと広島の横川シネマでアンコール上映中の「船、山にのぼる」である。この作品は広島県の灰塚地区にダム(灰塚ダム)が建てられるに際して、ダムに沈む森林の木々を伐採してそれで船を作り、それをダムに突き出した山の上に乗っけようというPHスタジオのプロジェクトを追ったドキュメンタリーだ。
この映画が私たちに語りかけてくるのは自然や環境というものがいかにコミュニティにとって重要なものかということだ。コミュニティというものは人と人とのつながりだが、それを支えているのは、そこに属する人々が共通に持つ自然や環境なのだ。この作品は、ダムを通してコミュニティと環境の関係を描くことで、自然や環境が人間の“生”にとっていかに重要なものかということも言っている。
建築家ユニットみかんぐみの竹内昌義さんはこの作品に次のようなコメントを寄せている。
人を取り巻く環境は単なる物質的な集合ではなく、それまで育ってきた記憶と経験が織りなすテキスタイルのようなものだ。
ダムの建設により日常の場が水没することで、それらは現在と断ち切られてしまう。
水の底でつくられ、浮かび上がったこの船は過去と現在を繋ぐ装置であり、水没という事実の象徴でもある。
このフィルムは船が単なるオブジェではないことを教えてくれた。
ダムの是非という現実的な問題よりも、もっと根本的な、人と環境の関係について考えさせてくれる作品だ。