木を愛する気持ちをもつ
「子どもたちに自然を大切にすることを教えるのは当たり前のこと。それは彼らの人生のなかで一番重要な役目だから――」
アメリカ合衆国ハワイ州マウイ島のプリスクールの先生、カマイレ・ケカフナさんに話を聞いた。
このプリスクールには、現在、三歳から五歳までの子どもたちが約三十人、先生はカマイレさんを含めて六人、英語ではなく母国語のハワイ語で教育を行い、独自の文化のなかで子どもたちを育んでいる。
「お絵かきなどに紙を使いたい子どもに、一番初めに紙が木からできていることを話すんですよ。ハワイでは、木はクムラーアウといい、たくさんのラーアウ(葉)や実を導くクム(先生)、とても尊敬されています」
お絵かき用の紙が積み上げられた棚をのぞかせてもらった。そこには片面がすでに使われている紙ばかり。これらの紙は、先生や父兄が企業などに協力を呼びかけ、定期的に収集され、子どもたちのもとに届く。
「建設会社からもらってくる設計図などが書かれた紙はとても大きな紙なので、子どもたちに大人気。白い方の面には自由に絵が描けるし、すでに使用された面も色をぬったり、模様を描いたり。宝物探しの地図にだって大変身するの」
次に子どもたちが絵の具を使って描いた絵を乾かす棚にいくと、やはりどの紙も両面が使用済み。また、最近作ったという子どもたちの力作「数の本」も、新聞紙が上手に生かされている。もちろん、紙を購入することもあるそうだが、それらはほとんど色画用紙の類、つまり買わなくては手に入れることができないものに限るようだ。
「私たちが紙を無駄にしないのは、木を愛しているから。私は、子どもたちにエコロジカルな教育をしようと思うより、木を大切にしてほしいという気持ちが強いのよ」
ところが、カマイレさんは、「木を愛する気持ちをもつ」「木からできた紙を大切にする」と教えることは難しいことではないと言う。なぜなら、子どもたちにとって木は身近であり、遊び相手でもあるから、子どもが自分の大切なものを大事にすることができる年齢になれば、素直な気持ちでそれを実行するからだ。
「難しいのは、プラスティックやビニールなどでできたもの。これが大切だと教えるのはなかなか大変。子どもたちにとって、この存在は木よりも程遠いのでしょうね。なので、何度も使えること、洗えば元通りになること、など優れた点を教えます」
- 裏紙に描かれたかわいい絵
- プラスチックの入れ物で作ったプアア(豚)
そこで、子どもたちが作ったプアア(豚)の工作を見せてもらうと、そこにはプラスティックが使われていた。これは子どもたちが、ゴミを仕分けする地元のゴミ集積場にいってわけてもらったヨーグルトの入れ物で、それをきれいに洗い、色をぬったらしい。
「お弁当やさんに使用済みの入れ物をもらうこともあるし、イベント会場のゴミ収集担当の方にお願いすることもあるんです。何回も使えるものであれば、愛着もわくし、ぐっと身近になりますよね」というカマイレさんはうれしそうだ。
ライタープロフィール
神宮寺愛(じんぐうじあい)ハワイ州、マウイ島在住
エッセイスト・ライター。大手出版社退社後、出産・結婚を機に渡米。『BAILA』、『anan』などの女性誌から、建築関係雑誌『X-knowledge HOME』、健康やライフスタイルをテーマにした『日経Health』『yutorino』まで、幅広い分野の雑誌媒体に執筆、取材コーディネートをする傍ら、2005年7月末、エッセイ『心と体がピュアになるハワイアンな暮らし』(青春出版社・刊)を書き下ろした。Kano’eau Dance Academyに所属し、フラダンサーとしても活動中。古典フラ、現代フラ、ハワイ語、マオリ語を学んでいる。海外在住ライター広場のメールマガジン『地球はとっても丸い』の編集人も務める。『25歳からの”自分だけのHAPPY”をつかむ本』(共著・大和書房刊)ほか