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旅先で、地元の人オススメの、地元の魅力的な人々に出会えるガイドブック『COMMUNITY TRAVEL GUIDE Vol.2 福井人』

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

名所巡りの旅もいいけれど、ガイドブックをたどるだけの旅は少々味気ないもの。旅の醍醐味は、なんといってもその地に住む人との出会いです。何気なく交わす会話から、その土地のことがよくわかったり、予想もしない展開が起こったり。一生の思い出ができることも。けれど、見ず知らずの土地で、地元の人と自然に交流するのは、なかなか難しいものです。

そんなニーズに応えるように、今、旅先で会ってみたい魅力的な人々を紹介するガイドブックがつくられています。今回ご紹介する『福井人』では地元の住人が推薦する魅力的な福井の人々80人近くが登場します。一体どんなプロジェクトなのでしょうか?

地域の人との出会いを楽しむ、新しい旅の本

観光名所巡りや美味しいものを食べるだけの旅ではなく、もっと「地元の人々との出会いを楽しもう!」というコンセプトでつくられているのが『COMMUNITY TRAVEL GUIDE』シリーズです。地域の人との出会いや交流を楽しむ、新しい旅のスタイルを提案するガイドブック。

第一弾として今年6月に発行された『海士人(あまじん)』には、島根県海士町の、島の料理人から船長さん、漁師お女将さんなど、“会いに行くことができる”一見普通の方々148人が紹介されています。

どこにでもありそうで、でもこの島にしかないもの。眺めているだけで、島ののどかな雰囲気や魅力がじんわりと伝わってくる本なのです。

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Community Travel GuideVol.1 『海士人』

Community Travel GuideVol.1 『海士人』

これに続いて、今制作が進められているのが、第二弾の『福井人』です。

地元の人を紹介する主旨は『海士人』と同じですが、今回は新しい試みも行われています。本に取り上げる魅力的な人の発掘に、地元の人々が直接参加するというもの。福井市で2度にわたって行われたワークショップで、参加者が身の回りの魅力的な「福井人」を推薦し、自身が取材をして記事にしようという企画です。

さらに、今回本の制作費は、クラウドファンディングReady Forを通じて集められ、既に目標額の100万円を達成しました。『福井人』だけあって福井の人たちからの支援が相次いでいるのが嬉しいところ。まさに福井を応援したい人々の思いがぎゅっと詰まった本になりそうです。
(12月末までは、Ready Forのこちらのページで支援を受け付けています。)

池田町取材の様子

池田町取材の様子

地元の人々を巻き込むために

このガイドブックをつくることになった背景には、まず東京で働く福井出身の若者3人の思いがありました。中心となって進める高野翔さんはこう話します。

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普段僕たちは東京で仕事をしているのですが、福井に帰るたびに地元が駅前の再開発などに揺れる状況を見て、自分にも何かできたらという思いがずっとありました。震災後に福井のことを話せる仲間と出会って、まずはできることから、と福井の雑誌で「僕らのまちづくり」という連載を始めたのです。そこで学んだのは、やっぱりまちのことは、地元に住む人々が関わらないとうまくいかないということでした。

他の地域が、どんなまちづくりを進めているのか。高野さんたちは、この連載を通して学び、その気付きから、次の一歩へ。

『COMMUNITY TRAVEL GUIDE』には、高野さんたちももともと注目していたと言います。この本を制作した「issue+design」は、デザインの力で世の中の問題を解決しようとさまざまなプロジェクトを手掛けてきたソーシャルデザインチーム。このコンセプトに共感した高野さんは、『海士人』に次ぐ第二弾として福井を提案します。

issue+designも、地元の人を大勢巻き込んで本をつくるのは初めてのこと。高野さんたちが福井の人々や地元メディアとの橋渡し役となり、プロジェクトはスタートしました。

“福井のガイドブックを一緒につくりませんか?”

“福井のガイドブックを一緒につくりませんか?”という打ち出しで、第1回目のワークショップは10月7日に行われました。20~73歳と幅広い年齢層の福井人、約30名が参加。それぞれが知る名物福井人を推薦し、全部で200人以上の「魅力的な福井人」が挙げられました。

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次に11月3日に行ったのが、第2回目のワークショップ。実際に皆が取材してきた内容を記事にしていきます。実は、greenz.jpも、green schoolのノウハウを生かしてこのワークショップをお手伝いさせていただきました。取材して文章を書くのは初めての方も多いなか、悩みながらもアドバイスし合い、皆さんが楽しそうに記事を書かれているのを見て、私たちも楽しい時間を過ごすことができました。

12月2日には、第3回目が予定されていて、福井ならではの特集ページについてアイディア出しの会議が行われます。

本の制作には、プロのカメラマンやライター、デザイナーなど複数の制作人が加わりますが、地元ならではの情報発信に福井の方々が携わる参加型の企画となっているのです。

「町はそこに住む人が変えていくもの」

今回東京のスタッフと福井との間で有機的に動いているのが、福井出身の高野さん、浅田理恵さん、成田真也さんの3人。一人一人仕事も違えば、このプロジェクトに関わる思いも異なる3人ですが、どんな目的でこの取り組みを始めたのでしょう?3人の言葉をご紹介します。

成田さん(左)、浅田さん(中央)、高野さん(右)

成田さん(左)、浅田さん(中央)、高野さん(右)

高野 僕が福井のことを考えるようになったのは、JICA(独立行政法人国際協力機構)で働き始めたのが大きいです。途上国の持続的な発展を支援する仕事なので、どの国へ行ってもそこの人たちが自分の町を何とかしようとしている現場に出会います。

まちって、自然発生的にそこにあるものではなく、行政や地元の人が目的意識をもって出来上がっていくものだと改めて思いました。その時、可能性を感じたんです。まちを積極的にいい方向にもっていくこともできるのだって。

それで、地元の雑誌で連載を?

高野 そうですね。その土地に住む人々が、受け身でなく、まちを自発的に変えられる、という意識ってまだ多くの人が持っていないと思うんです。行政が管理してくれるだろうという意識が強くて。それは、僕自身も途上国へ行って初めて感じたこと。その可能性を、雑誌の連載を通じて福井の人たちと共有できたらいいなと思ったんです。これから、自分のまちである福井のことに、腰を据えて取り組んでいければと思っています。

浅田 私が子どもの頃、福井市内の家の周りは田んぼだらけでした。でもどんどん建物がたって田んぼがなくなり、空の色が変わっていったんです。子ども心にすごく寂しかった。それが原点で、大学ではランドスケープデザインを学びました。建設とは違うまちづくりとの関わり方を探っているときにこのメンバーと再会したんです。

また、その頃は、震災もあったことで、私自身、ひとつひとつの命がどんなに奇跡的で大切なものなのか、日々前向きに生きる重要性を実感していた時でもありました。まちづくりって、そこに住む人たちが、自分たちの生活をよくしていこうと考える、ポジティブな気持ちの集まりだと思うんです。今回の本は、制作に関わった人や手に取っていただく方にも、日々の生活の幸せを伝えたり応援するガイドブックになったらと思っています。

成田 僕が上京したばかりの頃は、東京にある福井料理の居酒屋で福井のことを知ってもらうためのPRイベントを独自でやっていました。でも一過性で終わってしまうし、地元の人たちに届くインパクトが弱い。もう少し社会的なインパクトを残しつつ、福井に関われることを探していた時に、このメンバーと出会ったんです。今回のガイドブックづくりをとおして、福井在住の方々ともリアルにつながれたらと思っています。

東京にいながら福井に関わろうとすることに、真剣に取り組めば取り組むほど、応援の言葉だけでなく厳しいご意見をもらうこともありますが、「福井×〇〇」、例えば「福井×IT」のように、何か掛け合わせることで外に居ても還元できることがあると思っています。今回の取り組みもその一歩になると感じています。

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3人の思いが火種となって、今多くの人に広がろうとしています。

福井の未来に向けて、まずは小さな一歩かもしれない取り組みですが、このプロジェクトに参加する多くの方々の熱意に、大きな可能性を感じます。