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コミュニティと提案力に期待!博報堂の粟田さん・諏訪部さんに聞く「生活者起点による新しいものづくり検討会」の舞台裏 [グリーンズの仕事のつくり方]

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「グリーンズはどうやって稼いでいるんですか?」その質問にお答えするのが、特集「グリーンズの仕事のつくり方」です。仕事の舞台裏やグリーンズへの期待など、いつもお世話になっているクライアントさんにお話を伺いました。

今から一年半ほど前、2012年の春に、「生活者起点の新しいものづくり」をテーマにしたシンポジウムが開催されました。

次世代パーソナルモビリティ「WHILL」やクラウドファンディングサービス「READY FOR?」、デジタルファブリケーションを先導する「FabLab」と一緒に”これからのものづくり”について議論した様子は、以前greenz.jpでご紹介した通りです。

このシンポジウム開催にいたるまでには、経済産業省を中心とした「生活者起点による新しいものづくりモデルの検討会」で議論が重ねられるなど、水面下では長い準備期間が設けられていました。

「生活者起点の新しいものづくり」というテーマはいったいどんな観点からスタートして、どういう経緯でシンポジウムが開かれることになったのでしょうか。プロジェクトの推進を大きく後押しした、博報堂の粟田恵吾さん、諏訪部裕美さんにお話をうかがいました。

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(左)粟田さん、(右)諏訪部さん

企業と消費者という関係性だけでは語れなくなった

「生活者起点の新しいものづくり」という言葉を紐解いてみると、それは“普通に暮らす人たち自身が暮らしに必要なものを考えて、これまでなかったものをつくってみたり、新たなものづくりの方法に取り組んでみたりすること”、と言い替えることができます。

どうして生活者が注目されているのか。「経済産業省は戦後の経済成長期とは異なる経済活動の必要性を、とくにここ数年、強く感じているようです」と粟田さんは言います。

90年代まで、イノベーションといえば技術革新を意味する言葉でした。日本はものづくり大国として成長してきたという戦後の歴史があり、常に新しい技術を開発し続けていかなくてはならない、という使命感をずっと抱えてきたわけです。でも、もうずいぶん長く、新しい技術を開発してもアジアのなかで勝てていないという状況が続いていました。

そんな中、経済産業省は、「技術の開発は、本当に生活者のニーズをすくい取ったものになっているのだろうか?」という疑問を抱くことになったんです。(粟田さん)

そうして粟田さんの所属する博報堂のコンサルティング局イノベーションラボは、5年くらい前から経済産業省の調査業務を委託されるようになりました。

諏訪部さんは、博報堂という会社の強みを「生活者を誰よりも深く知っていて、そこを起点に新しいビジネスを発想することができること」と言います。消費者のニーズを捕らえて、そこにアプローチできる技術や商品を開発する。その発想自体はマーケティングと同じであり、目新しさが感じられるものではありません。

今回、「生活者起点の新しいものづくり」というテーマ設定を行い、ひとつのプロジェクトとして形をつくっていった背景は、いったいどのようなものだったのでしょうか。


生活者起点のプロダクトとしての「WHILL」

企業と消費者という関係性なら、従来からマーケティングというものが行われてきています。しかしここ数年、そこに新たに“社会”という要素が取りあげられるようになったのです。

社会という枠組みでものを考えると、そこには政府や企業、自治体、NPO、生活者など、多様なステークホルダーが複雑に絡み合っていることがわかります。利害関係がバラバラであるだけにそこにアプローチすることは非常に難しい。でも、無視できない要素であることだけはひしひしと実感するようになったんですね。(粟田さん)

そして今回、社会のことも意識した“生活者起点の新しいものづくり”というテーマを立てました。そして、そのときに思い浮かんだのがグリーンズだったんです。

もともと経済産業省との勉強会に、前編集長の鈴木菜央さんにご参加いただいたことがあったり、私自身がグリーンズともゆかりの深いNPO法人ミラツクの発起メンバーであったりと、接点もありました。こういうテーマなら、おそらく同じ問題意識を持っているグリーンズとやりたいと考え、編集長の兼松さんに声をかけてみたんです。(諏訪部さん)

若手の人材も参加してユニークな委員会を形成!

経済産業省の主導により、テーマを掲げて調査と研究を兼ねた委員会が組織されることはめずらしいことではないのですが、企業経営者や幹部、大学の教授など有識者を招いて委員会が形成されるケースが大半。「生活者起点の新しいものづくり」という新しいテーマであることを踏まえて、ものづくりの現場で注目を集める若手が多く集まる委員会が形成されたという意味では、かなり斬新な委員会の発足となったのだそうです。

FabLabの田中浩也さんにお声掛けして、一緒にメンバーを検討させていただきました。READYFOR?の米良はるかさん、WHILLの杉江理さんほか、企業からもエッジの効いた人が集まってくださったと思います。(諏訪部さん)


蔵を改装したFabLab Kamakura(撮影:舛元清香)

グリーンズに声をかけてよかったのは、やっぱりコミュニティまわりの情報に強いことと、これから時代をつくっていきそうな人たちとの人脈が豊富にありますよね。greenz.jpというメディアを持ち、イベントなども頻繁に行っているためソーシャルなものごとに関心のある生活者とも密接に繋がりを持っていると思いました。

それから、今回のテーマについて、“まずは問いを持つこと”という視点を与えてくださったのは大きかったと思っています。(諏訪部さん)

“問い”をシェアする「greenz TOY」

委員会に参加したYOSH編集長は、この「生活者起点の新しいものづくり」というテーマがあまりにも大きすぎると感じたため、そもそもみんなが「これからのものづくり」について何を考えているのか、“問い”を集めることを提案しました。それが、FabLab Japanの田中浩也さんWHILLの杉江理さんissue+designの筧裕介さんくらしの良品研究所コーディネーター 土谷貞雄さんへのインタビュー企画へとつながったのです。


シンポジウムでのプレゼンの様子

姿勢はあくまでもグリーンズらしく!

「生活者起点による新しいものづくりモデルの検討会」の3ヵ月ほどの活動は、ひとまず最後のシンポジウムをひとつの区切り。最後のお二人にシンポジウムの成果について伺いました。

シンポジウムは“問い”をテーマにしたものでしたが、この兼松さんからの提案には我々としても大きくうなずけるところがありまして。そういう意味でも、今回、グリーンズに声をかけてよかったと思っています。また、大企業やベンチャー、NPOなどから多彩な人材を集めた結果、異なる立場の人材が顔を揃えたがために起きる意見の衝突も経験しました。

たとえば、“生活者起点による新しいものづくりモデル”であれば、生産や流通を担当できる大企業も話をすることができるのですが、生活者がモノをつくる楽しみ、それ自体を取り入れて“生活者による新しいものづくりモデル”にまで踏み込んでしまうと、大企業は自社との接点ががわからないため肯定しづらい。さまざまなステークホルダーが集まることで、こういった互いの違いを認識できたことも大きかったのではないでしょうか。(粟田さん)

今回のシンポジウムでは、参加者のみなさんからものづくりに対するたくさんのアイデアをいただくことができました。それをまとめて経済産業省の担当者へお渡ししたところ「こんなにたくさんの意見が集まるんですね!」と喜んでいただくことができました。

行政主導のイベントでは、テーマが固くなりすぎることもあるのか、柔軟な意見があまり集まらないことが多いそうです。こういった点も、今回グリーンズと組んでよかったところだと思います。(諏訪部さん)

良質なコミュニティと提案力を持つグリーンズだからこそできること。その可能性は、まだまだ広がっていきそうです。

編集長YOSHより

「生活者起点による新しいものづくりモデルの検討会」に参加できたことで、グリーンズのステージがひとつ上がったことは間違いありません。このプロジェクトから得られたもののひとつは、メディアとしての僕たちの役割が明確になったことです。今回はCOI(コミュニティ・オブ・インタレスト)メディアという明確な関わり方があったので、関心の強い生活者をイノベーションのプロセスに無理なく巻き込むにはどうすればいいのか、真剣に議論することができました。

消費者から生活者へ時代がシフトしていくなかで、世の中には参加型の企画も増えていますが、多くの場合、コミュニティをあたためることもなく、唐突に、かつ一方的にアイデアを募るだけになっています。そうすると、明確なアイデアをもった人しか参加できず、カタチだけで終わってしまう。そこで、関わるハードルを下げるために考えたコンセプトが、アイデアの前に”問い”を共有しよう、というものでした。「もやもやしていること」を出すことは、アイデアを出すよりも間口が広い。そして、多様な解像度の意見を集めることができる。温度をあたためながら、参加性を高める。読者と一緒に、新しい時代のコンセプトを世に解いていく。今のグリーンズの定番となるスキームが、ここでできあがったと思っています。

もうひとつ嬉しかったことは、公的な仕事に貢献できたことです。個人発のプロジェクトを応援してきたという経緯から、経済産業省のような”日本”というスケールにおいて、実際問題、僕たちに何ができるのか、正直なところ最初は不安もありました。しかし終わってみれば、決して背伸びをしていたわけではなく、身の丈のこととして取り組むことができたことに自分たちでも驚きました。その後も、さまざまな官公庁系のプロジェクトにも関わらせていただきましたが、このときの確かな手応えが自信につながってきていると思います。

すでに一年以上も前の仕事ですが、このプロジェクトを通じて対話したことが、今やグリーンズのコアコンセプトとなっているのだなあと、改めて感じています。そういう意味で、機会をいただいた博報堂のみなさまには本当に感謝していますし、これからもお役に立てることがあれば、ぜひご一緒できたらと思っています。