「自分の中の先入観を捨て、一当事者としてアイデアを発想するには?」 issue+design 筧裕介さん [greenz TOY]

震災復興+designから生まれた「311はじまり手帳」

震災復興+designから生まれた「311はじまり手帳」

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。
シリーズ「greenz TOY」では、”これからのものづくり”、”これからのお金”などあらゆる”これからの◯◯”について、深く考え、じっくり対話するための糸口となるような、示唆に富む”問いかけ”を共有していきます。今回のテーマは”これからのものづくり”です。

続々・”これからのものづくり”の話をしよう

「“これからのものづくり”について話しましょう」という対話イベントがあるとしたら、あなたならどんなテーマ、お題を投げかけますか?実はこの企画、僕も検討委員を務めさせていただいている、経済産業省の「生活者起点による新しいものづくりモデルの検討会」のテーマです。

こちらの記事はFabLab Japan田中さんWHILL杉江さんに続いて3本目の記事なります。現在は舞台をFacebookに広げて展開しているところです。

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「これからのものづくり検討会」をFacebook上で展開中!

「問い」からはじめるものづくり

とはいえ “これからのものづくり”と一口に言っても壮大なテーマです。そこでまずはどんなことが論点で何が今ある課題なのか、イシューを共有するのが「greenz TOY」の趣旨になります。

ひとつの「問いかけ」には、その人しか気付くことがなかった問題意識、さまざまな試行錯誤の結果たどり着いた気づきが含まれています。その「問いかけ」をきっかけに、少しずつ議論の解像度を上げてゆきたいと思っています。今回の記事はひとつのヒントとして、検討委員のひとりで『地域を変えるデザイン』の著者でもある issue+design 筧さんの問いをご紹介します。

つづきはFacebookで!

初めての試みとなった今回は最終的に45もの問いが集まりました。いったん質問の受付を終了し、11日(日)のワークショップに向け、Facebookで、さらに掘り下げてゆく予定です。ちなみに今、集まっているのはこのような問いかけです、感謝!

どうしたら『創造欲』豊富なエンジニアと、世の中のニーズをマッチングさせることができるか。つまり、エンジニアをどう生かすか。

パーソナルファブリケーションならではのプロダクトや作り方ってなんだろう?

インターネット上のアプリケーションやスマートフォンのアプリケーションを、「これからのものづくり」とつなげる取り組みはできないでしょうか。

パーソナルファブリケーション技術が発展する中で、あなたが旧来の”職人”たちに期待する役割はありますか?

モノを使ったHappyな体験」を、体験する人とモノづくりに関わるすべての人が一緒になってデザインするにはどうしたらいいだろう?

今の時代に、本当に「環境にいいもの」を作り出すことは可能か

ものづくりには、文系で「自分で作ること」に縁のなかった私のような人でも関わって行けるのでしょうか?

一生使えること、は本当にいいのか?

と、前段長くなってしまいましたが、以下よりissue+design 筧さんのインタビューをお楽しみください!


“これからのものづくり”をめぐる、issue+design 筧さんの3つの問い

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issue+design 筧さん

Q1. どうしたら、自分の中の先入観を捨て、一当事者として、生活者として「ものづくり」のアイデアを発想できるのか?

YOSH 筧さんが進めている「issue+design」は「市民参加型のソーシャルデザインプロジェクト」として、いろんな人からアイデアを集めて形にしてきましたよね。具体的にどんなものが生み出されてきたのか、ご紹介いただけますか?

 まずはgreenz.jpでも紹介された「できますゼッケン」ですね。issue+designでは毎年特定のイシュー(社会課題)をテーマにしたプロジェクトを行っています。その一回目(2008年)のテーマが震災でした。その時に、九州大学の学生が原型を考えてくれたものです。被災地の避難所で、住民同士、住民とスタッフのコミュニケーションがうまくとれず、トラブルが起きていました。その課題解決のためのアイデアです。

YOSH 「震災」というイシューの設定だと漠然としていますが、「被災者とボランティアの衝突」「互いのコミュニケーションを支援するツール」というお題だと、より考えやすくなりますね。
こうした深いイシューを発見するためには何が必要なのでしょう?

 2008年当時は阪神・淡路大震災からも10年以上たっていて、かなり震災に関しては社会的関心が薄まっていました。そんな時代に、被災者自身の置かれている立場をどれだけ思い描くことができるかがポイントでした。言い換えれば、どこまで自分が当事者として共感できるかです。そのとき、色々なリサーチをしたのですが、共感のレベルにも3段階あると感じました。

YOSH 興味深いです。

 1つめは”論理的な共感”。今はネットで調べれば、過去の地震の際の避難所の状況に関するレポートや写真などはすぐに手に入ります。たとえば、床の上に多くの人がプライバシーがなく寝ている状況などはすぐわかります。

2つめは”感覚的な共感”です。頭でわかるだけでなく、自分の目や身体で実感するレベルです。実際に避難所を見ることができなくても、近所の小学校の体育館に行くだけで、この空間に100人が寝ると隣人との距離はどれくらいなんだろう?どんなトラブルが起きるんだろう?ここで寝るのはどれだけ寒いんだろう?そんな被災者の状況を具体的に想像できるようになります。

そして最後が”心理的な共感”。実際に被災地に赴いたり、問題に直面した人からしっかりと話を聞いて、自分の心の奥底から共感ができるか。ここまで共感レベルを深められると、必ず深いイシューが見つかり、その解決アイデアにたどり着けると思っています。

YOSH 結局、当事者として発想しないと、見当違いなアイデアだったり、表面をつくろうためのその場しのぎのものになりがちですものね。どうすれば当事者意識を持って向き合えると思いますか?

 自分の仮説や先入観にとらわれ、わかった気にならないことかなと思います。

例えば、復興支援でも、環境や子育て問題でも、自分の中に「こうあるべきだ」という問題意識=仮説が高いレベルであると、見ること聞くことがすべて、それにひっぱられるんです。特にその領域に精通していればいるほど、そうなりがちです。その場合は、自分であえて壊さないといけないですね。仮説や先入観みたいなものを。

YOSH まずは自分の仮説を手放して、ありのままを見つめるということなんですね。そのためにはいろんな人と対話を重ねるという、シンプルなことが大切なのかもしれません。

 そうですね、対話は大事です。issue+designの2年目は「子育て+design」をテーマにしました。そこで生まれたのがすべてのお母さんに配布される母子健康手帳をリデザインした「親子健康手帳」です。子育て中の母との対話、子どもとのワークショップなどを通じて、多くのことを発見しました。子育てに縁がなかった自分がこのプロジェクトをやり遂げられたのは全て対話から先入観なく生活者の声を聞くことができたからですね。



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greenz.jpでも紹介した「できますゼッケン

Q2. 企業人として、企業の力を活用して、社会的意義の大きいものづくりの活動に取り組むためには、どうしたらよいのか?

 対話の話の続きで言うと、WHILLの杉江さんもそうですよね。彼は車いすの専門家だったわけではない。素直に車いすユーザーの声を聞いて、ゼロベースでつくった。その杉江さんの「企業に属しながら、自分の名前で活躍するには?」という問いは、僕も気になっているところです。

YOSH どんなところが気になりますか?

 僕も、杉江さんの「車椅子づくり」のような社会的意義が高い活動を企業に属しながらできないのは、大きな問題だと思っています。

会社の外でプロボノで頑張っている人がたくさんいますが、それは少しもったいない部分もあると思うんです。個人の能力を社会貢献に発揮するのはいいことだけど、会社のレバレッジが全くきいていない。本人は時間が限られるため深くコミットできないし、会社は貴重な社員のモチベーションを持っていかれてしまっているというのが、あまり健全ではない気がしているんです。

YOSH 確かに。

 ただ、はじめて社会的な課題に取り組む方のための入口としてはプロボノは素晴らしいきっかけだと思います。一度外に出てみて、そこで得られた経験をしっかり自分の会社でも生かしていくにはどうしたらいいか、ということなんでしょうね。

YOSH ”プロボノの自分”と”会社のなかの自分”という二項対立で捉えるのではなく、一致させていくことが大事なんでしょうね。

 そのために僕は、企業発のNPOのようなものがもっと世の中に出ていく必要があると思っています。会社がそれを認めるような社会になってほしいですね。自分自身でも、そんなNPO作りに挑戦したいと思っているんですよ。

YOSH いいですね!ちなみに企業発のNPOをつくることは一般的に所属している企業にとってウェルカムなんでしょうか?

 必ずしもそうではないでしょうね。そもそも何故その必要があるのか、企業にとってどんなメリットがあるのか、社会的にどんな意義があるのか。そのようなことをしっかり社内に説明することからだと思います。



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(左)筧さん(右)greenz.jp編集長YOSH

Q3. 一部の先進的な人だけでなく、万人に受け入れられる「いいデザイン」ってなんだろう?

YOSH ところで、「親子健康手帳」にしても、「311はじまり手帳」にしても、アウトプットのデザインが素敵ですよね。それって、どうやっているんですか?

 アイデアを商品化・実用化していく段階で、適していると思うプロフェッショナルなデザイナーに丁寧に仕上げてもらっています。

YOSH ”適しているデザイナー”というのはどんな能力の持ち主なんでしょう?

 母子手帳のようなすべての母が手にするものや、地域で老若男女が触れるもののデザインというのは、従来のデザイナーがいいとするデザインと違う部分があると思っています。

絶対的なデザインの善し悪しやこだわりっていうのは、デザインのリテラシーが高い人にしかわからないものです。デザインに関心が薄い人には関係ない部分もあったと思います。

でも、この「母子手帳」は全国のすべてのお母さんに手に取ってもらい、いいねって言ってもらうのが大きな目的。一部の人だけにわかってもらっても仕方が無い。有名なキャラクターがついている普通の手帳よりも魅力的に思ってもらえるためにどうすればいいのかを考えなくてはいけないんです。

YOSH 母子手帳というのは、お母さんが選ぶことができるものなんですか?

 いえ。まずは自治体で採用してもらわないとお母さんの手に届かないので、自治体の担当者に選んでもらわないといけません。あまりデザインとは縁が薄い健康福祉課、母子保健課などの行政職員に、「あ、これがいい」って思ってもらわないといけないという難しさもあります。

YOSH 広い意味で受け入れられる”いいデザイン”ってどういうことなんでしょうね。きっと一晩たっても話し尽きない広大なテーマですが。。

 3月30日から、東京ミッドタウンのデザインハブで「信じられるデザイン」展というのをやるそうなんです。そこの企画で「あなたが考える信じられるデザイン」を選んで理由を書いて欲しいと依頼されました。そこで僕が具体的なものとして浮かんだのが、うちの近所の商店街「谷中銀座」です。

YOSH 上野の近くの”谷根千”の谷中ですね。それはどうしてですか?

 その質問を受けて、まず僕が思い浮かんだのは、谷中にある蕎麦屋なんです。そこは朝から営業しているのですが、僕は仕事が忙しくて頭がパンクしそうなとき、その店に行って新聞や漫画を読みながら蕎麦を食べるんです。そこに行くと、必ず同じ気持ちになれるんですよ。すごく疲れていた頭が少しだけほぐされ、自分に対してやさしい気持ちになれるというか。

デザインって、人の気持ちを動かす刺激的なものでもあると思うんですけど、その店や谷中銀座という商店街は、僕がなにか新しいことに挑戦するとき、頑張らないといけないとき、心と身体を支えてくれる、精神安定剤的な場所だったりするんですよね。生活や人生に欠かせないやさしいデザイン。

YOSH なるほど。寄り添ってくれるようなやさしいデザインということは、あまり考えたことありませんでした。自分にとって何が大切なのか問い直す時代に、ものづくりのあり方も変わっていくのかもしれません。

 これまでの「成長」の時代のものづくりは、生活者が「豊かさ」を「消費」するためのものでした。自分の生活をもっと豊かにしたい、そのために消費をする。その気持ちを喚起し、消費を促すのがデザインの役割でした。これからの「成熟」の時代のものづくりとは、生活者が「生きがい」を自ら「生産」するためのものかもしれません。

YOSH まさに今回の取り組みのキーワードである「生活者起点」というところですね。

 これだけ便利で効率的で、何でも手に入る時代になって、逆に自分は何ができるんだろうと考えてしまうときがあります。たとえば、ブラウン管のテレビって約100年前の人が作ったものだけど、僕は自分でつくれない。自分がすごく無力だなって思うんです。

だからこそ、自分の手・頭・体を使ってなにかをつくる。そのつくる(生産)という行為が、自分の生きがいになる。企業や職人だけでなく、一般の生活者がものづくりを通じて「生きがい」を手に入れる。そこに市場や経済が生まれる。そんな時代が始まりつつある気がします。



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311はじまり手帳、親子手帳、『地域を変えるデザイン』と一緒に

(取材協力:魚見幸代/撮影:下田直樹

編集長YOSHより

今回の筧さんからの問いかけ、いかがでしたでしょうか?

「一当事者としてアイデアを発想する」というのは、まさに「自分ごと」から考えるということだと思います。そのなかの3つの共感というのは、いろんな人たちを巻き込んで進めてきた筧さんならではの気づきのように感じました。

ちなみに「issue+design」を初めて聞いたのは、『震災のためにデザインは何が可能か』の本が出版された頃、東日本大震災の2年も前のことでした。「できますゼッケン」や「親子手帳」など、生活者から生まれたアイデアが実際に自治体で採用され、現実として社会を動かし始めているところが、本当に素晴らしいと思っています。

ここにある確信は、明確なイシューを用意することで、創造性を引き出すことができるということです。誰もがクリエイティブな才能に恵まれつつも、どんなことに生かしてよいのかわからない、という方も少なくないはず。そこに問いかけがあることで、才能の使い道をフォーカスすることができます。

とはいえ、最近では主催者がお題を用意して参加者から意見を募ってゆくような、いわゆるクラウドソース型のサービスが急増しています。中には「それほど盛り上がっているのかな?」と感じられる方も少なくないかもしれません。僕も「どうだったら自分も参加したくなるかな?」と冷静に考えてみたとき、何となくですがポイントが見えてきました。

それは「自分に関係のないお題では答えづらい(わざわざ答える気にならない)」という、当たり前のことです。事前情報もないまま突然質問されるのは、街頭でいきなり声をかけられるのと同じ。少なくとも一定の時間をともに過ごし、一緒に空気を温めながら出される質問の方が答えやすくなると思います。生活者起点のイノベーションを起こすには、問いを「自分ごと」にするための方法を考える必要があると思うのです。

[greenz TOY]として今回、プロトタイプしてみたのは「問いを共有すること」から初めてみることでした。それがどれだけ効果があったのか、またみなさんと共有したいと思っています。みなさんはどうお考えですか?

というわけで筧さん、貴重なご意見をありがとうございました!



次回は暮らしと住まいの研究所土谷貞雄さんです。お楽しみに!

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