ISSUE☆グリーンズ企画 greenz TOY

4 years ago - 2012.02.29

SHARES  

「企業に属しながら、自分の名前で活躍するには?」WHILL 杉江理さん [greenz TOY]

whill

シリーズ「greenz TOY」では、”これからのものづくり”、”これからのお金”などあらゆる”これからの◯◯”について、深く考え、じっくり対話するための糸口となるような、示唆に富む”問いかけ”を共有していきます。今回のテーマは”これからのものづくり”です。

続・”これからのものづくり”の話をしよう

「“これからのものづくり”について話しましょう」という対話イベントがあるとしたら、あなたならどんなテーマ、お題を投げかけますか?実はこの企画、僕も検討委員を務めさせていただいている、経済産業省の「生活者起点による新しいものづくりモデルの検討会」のテーマです。こちらの記事は前回のFabLab Japan田中さんに続いて二本目の記事なります。

3月11日(日)には、FabLabメンバー、WHILL杉江さんなどグリーンズでもお馴染みの方々をお招きしてのワークショップも開催予定です。

「問い」からはじめるものづくり

とはいえ “これからのものづくり”と一口に言っても壮大なテーマです。そこでまずはどんなことが論点で何が今ある課題なのか、イシューを共有するのが「greenz TOY」の趣旨になります。

ひとつの「問いかけ」には、その人しか気付くことがなかった問題意識、さまざまな試行錯誤の結果たどり着いた気づきが含まれています。その「問いかけ」をきっかけに、少しずつ議論の解像度を上げてゆきたいと思っています。今回の記事はひとつのヒントとして、検討委員のひとりWHILL杉江さんならではの問いをご紹介します。

グリーンズ読者からも「問い」が続々と!

まだまだ「問い」は募集中ですが、すでに約20の問いが集まっています、感謝!以下、一部をご紹介します。

考えていきたいのは「燃やせるものづくり。」です。物も産まれると使命を持ちます。人間は最後、灰になります。物も人間と同じように考える物作りがあっていいと思い、投稿させていただきました。断捨離の為に分別していると、つくづく感じます。皆様の活発なご意見、期待しています!

田中さんの話にも出てきておりましたが、大量生産だからこそ完成する商品があるように、大量生産だからこそ設定できる値段がありますよね。しかし、余剰分をどうするのか。(中略)量を減らせば高くなり売れない、量を増やせば売れるが余剰大。このジレンマをどうすれば抜け出せると思いますか?もしくは、このジレンマとはどのように付き合っていくといいでしょうか?

ある一定以上の初期投資を必要とするものづくりで、個人が大企業と渡り合うのは可能か。そうするにはどうしたらよいか。(中略)ものづくりでは、例えば技術力のある個人が自動車を作ろうと思った時、工場を作って人を雇って・・・と失敗した時のリスクがあがってしまう。こういった理由で、ある一定以上の大きさのものづくりを個人が行おうとした場合、企業と提携するという道が最適解であるという意見が多い。しかし、Fablabといったオープン工房やkickstarter、campfireなどのマイクロファンディングやが生まれたことで、個人がものづくりで大企業と渡り合える時代が生まれるのではないだろうか。

※問の募集は終了しました!

と、前段長くなってしまいましたが、以下より杉江さんのインタビューをお楽しみください!


“これからのものづくり”をめぐる、WHILL 杉江さんの3つの問い

s_01
WHILL 杉江さん

Q1. 買った人や使う人以外も経験できるプロダクトの価値って何だろう?

YOSH さっそくなのですが、僕がWHILLがユニークな事例だなと思うのは、車いすユーザーではなくても、”自分ごと”のように「コレいいよ!」って人に勧めたくなることなんです。日本発ではあまりなかった、すごい共感力のあるプロダクトというか。

杉江 ありがとうございます。僕がこれからのプロダクトの価値として大切だと思っているのは、買った人や使う人以外の、”介入する人”にとってもいい経験をしてもらうことなんです。

YOSH ”介入”というと?

杉江 今まではプロダクトを購入した人がそれを「使う」ということが価値だったんですが、インターネットの台頭で一気に変わった。プロダクトが一つのコンテンツになって、プロダクトを作る前から作っていく過程までもが価値になったと思います。その製作プランから介入できる仕組みが例えばソーシャルファンディングや、facebookの「いいね!」なんかです。

WHILLではおかげさまで100万円のお金をCAMPFIREで集めることができましたし、多くの健常者の方からも「乗ってみたい」という声がありました。まだプロダクトとして完成していないのにも関わらず多くの反響があったのは、まさにプロダクトの新しい価値を示していると思います。

YOSH 健常者も「乗りたい」と思えるところがポイントなんですね。

杉江 そうですね。医療機器展じゃなくて東京モーターショーに出展した理由もここにあります。医療機器のイメージってなんかこうかっこ良くないじゃないですか。だから医療機器でなく単純に、超かっこいいパーソナルモビリティ。これが車いすユーザーが乗れるものだったという順番を狙いたかったんです。

YOSH ちなみに、もともと社会的な課題を解決しよう!という視点から始まったんですか?

杉江 実をいうと、スタートはちょっと違ったんです。一番最初は、東京モーターショーに何か製品を出そうという話の中で、仲間と「最強の車いすを作ろうぜ!」っていう熱気めいたノリから始まりました。

WHILLは実際のところ、車いすじゃなくて車いすに取り付けるガジェットなんですが、その時はまさに車いすそのものを作ろうとしていて。そうすると、僕らは車いすに乗ったことがないわけだから、実際に乗っている人たちの話を聞かざるを得ない。そうこうしているうちに、車いすについてのいろんな課題が見えてきて、試行錯誤の結果あのような形になりました。

YOSH WHILLのきっかけのひとつに「100m先のコンビニに行くのを諦める」という車いすユーザーの声がありましたね。

杉江 ユーザーの声をダイレクトに聞くことはとっても大事です。誰のためにつくっているのかを、常に忘れないようにしています。


WHILLは東京モーターショーにも出品されました

Q2. 企業に属しながら、自分の名前で活躍するには?

YOSH WHILLでは、企業に務めているインハウスのエンジニアやデザイナーがたくさん関わっていますよね。どういう流れでチームが出来上がったんですか?

杉江 中学校の友人がエンジニアで、昔から彼や彼が属しているサニーサイドガレージというエンジニアチームとなんかつくったりしてて、今回もそんな感じでスーっと始めました(笑)

僕、昔から海外を旅するのが好きなんですが、どの国でも日本製品から受けている日本人へのリスペクトがとても大きいんです。僕自身もメーカーにいる日本人エンジニアやデザイナーに対するリスペクトがすごくあります。WHILLを最高の製品にするために、こいつとならできるなーってお互い思って集まったのが今のメンバーです。

YOSH そのようなインハウスのエンジニアは、社外活動をしてもOKなんですか?

杉江 会社によってまちまちだと思いますが、副業をしてしまうとクビになる場合もあるかもしれません。僕らは今のところ会社ではないので、ギリギリ両立しやすい環境なのかも。

YOSH 実名を出さずに匿名で関わるのがいいのか、デザイナーの名前をむしろ積極的に出していって、それがその所属している企業にとってもいいPRにもなるのか、そのあたりは議論の余地がありそうですね。個人的には会社公認でマイプロジェクトをやっているような、自立した個人が集まっている企業の方が、いわゆるイノベーションも起こしやすいし、新卒の学生にとっても魅力的に映るのではないでしょうか。”ものづくり”となると、また事情が違うのかもしれませんが。

杉江 そうですね。 まあ基本的に堂々と開発し、堂々と販売してたらクビですからね。でもここはすごい重要な問題で、クラウドファンディングなどのインターネットインフラやFabLabのようなものづくり環境が整い始めている今だからこそ、いろんな変なもん作る人が増えてくるし、スタンドアウト(目立つことが)出来るとおもうんですよ。

そのときに優秀なインハウスのエンジニアやデザイナーがもっとオープンに活躍できたら、それこそすごい変なもん作ってきますよ、きっと(笑)いやすごくいい意味で。

YOSH そのためにはどんな仕組みがあるといいんですかね。個人的には、マイプロジェクトを持っている社員を評価するような上司の声やトップインタビューを集めて記事にしたいと思っています。

杉江 そういう声は聞いてみたいですね。やり方はいろいろあると思うんですが、いずれにしても個人の名前を出した活動を許容したり、副業を許容したりすることが、企業にとってどういうメリットがあるのか?この辺のバリューを提示することが必要だと思います。産官学とのジョイントを狙っている我々としては、この辺は考えていきたいポイントです。

s_15
(左)杉江さん(右)greenz.jp編集長YOSH

Q3. 3%を100%にするのには、どんな仕組みが必要だろう?

YOSH 話が変わりますが、杉江さんがよく言う「3%」と「100%」とはどういうことですか?

杉江 3%とはプロトタイプレベル、100%とは販売レベルの話です。小物や雑貨等ではそれをクリアしている事例は多くありますが、テクノロジーを搭載しているプロダクトに関しては資金面や製造面、その他いろんな工程があり、3%から100%に持っていくのは非常に難しく、大企業のみが到達できるというのが一般的です。

YOSH WHILLが具体的になればなるほど、今後広く世の中に流通していくまでに、乗り越えなくてはいけない課題もいろいろあるということですね。安全面や法律の規制など。

杉江 正直、ハードルの高さを感じながら過ごしています。そもそも今のルールでは日本の道路を走れませんから。

YOSH それははじめから知っていた?

杉江 まあ、そうですね。でも別に場所にこだわってないので、海外も視野に入れて動いています。てかむしろ海外。反響は海外のほうが全然大きいし、法律も国によって違いますから。でもそうすると当然のことながら、言語の問題や、さらに現地でのサポート対応という具合で課題も出てきます。

YOSH 新しい領域のプロダクトだけに、独特の困難な部分もありそうですね。

杉江 単純なプロダクトではないので、いろいろな工程をクリアしなければならないんです。

例えば輸送のカテゴリにしても、「医療器具」なのか「モビリティ」なのかによってかかる関税額が違ってきますし、WHILL本体のまま送るのと部品をバラバラにして組み立てるのとでも変わります。

他にも海外販売するにあたって、国際的な弁護士をバックに付けたりとか、ローマ字の名前の顧問立てたりとか。舐められないようにする必要がありますね(笑)

YOSH エンジニアのスーパーエースがいるなら、スーパー法務や、スーパー購買担当がいてもいいですよね。そういう人たちがプロボノ(プロフェッショナルなボランティア)で関わってくれれば…。

杉江 まさに今、そういう人材を積極的に探しているところです。でも、小さいチームだから、何よりまずその人が信用できるかどうかが大事です。そうすると、どうしても知り合いを伝って人間を探すことになるので、人探しもなかなか苦労してしまうんです。

YOSH プロジェクト単位の信頼感のあるマッチングは、確かにもうちょっと工夫が必要ですね。ほかに、WHILLが世に広く出るまでに必要なものってありますか?

杉江 死ぬほどあります(笑)。直近の課題の一つはやっぱり資金ですね。プロトタイプの段階の3%までは私財やマイクロファンディングでも何とかなりますが、本当に世の中に流通させるには、それでは不可能です。本格的なビジネスとして投資家に投資してもらう必要があります。

YOSH この検討会を通じてWHILLをひとつの成功例にできるといいですね。

杉江 そうなればありがたいです。我々は新しいメーカーベンチャーとしてロールモデルになりたいんです。今までベンチャーとしては難しいと言われているこの分野(ハードウェアー、テクノロジー)は日本のお家芸。様々な開発のハードルが下がっている今、残りの97%を我々が克服することができれば、くすぶっているエンジニアやデザイナーたちに火をつけることができると思います。

そうなったら日本は強いですよ。そもそもスーパエンジニアを始めとした作る人の母数がありますから。時間はかかりますが、3%を100%にする仕組みを構築し、新しいメーカーベンチャーとして価値を提案できたらと思います。

s_19
ソウ・エクスペリエンスのオフィスにお邪魔させていただきました!

(取材協力:清水まや/撮影:舛元清香

編集長YOSHより

今回の杉江さんからの問いかけ、いかがでしたでしょうか?

杉江さんはデザインユニットSmile Parkの一員としてインタビューもさせていただいてますが、あれこれ悩みながらも本質的な軸がぶれず、いつでも本気かつ真摯なデザイナーとして尊敬しています。

そんな彼からWHILLの話を最初に聞いた時、「ついに日本からこんなガジェットが生まれるんだ!」とワクワクしたことを未だに覚えています。と同時に、どうしてこういうプロダクトが、日本からはあまり発信されないのだろうということも思いました。もしかしたら「3%」の部分、つまりプロトタイプすらあまり起こってはいないのだとしたら、まずはそこがグリーンズのできることなのかもしれない、と。

しかし実践者である彼は、さらに先を行きます。プロトタイプはあくまで通過点であり、暮らしの当たり前になる「100%」を常に目指すこと。誰もが到達できるわけではないその地平に、まさに我武者羅に辿り着こうとしています。その覚悟こそ、WHILLプロジェクトをとりまくアウラであり、魅力なのかもしれません。

杉江さんから出していただいた問いはとてもプラクティカル(実際的)で、FabLab田中さんのメタな視点とはまた違う風合いを感じます。特にWHILLが抱えているジレンマでもある「企業に属しながら、自分の名前で活躍するには?」という視点は、”伝統的企業モデル”でも”フリー・エージェントモデル”でもない、”協働する共同体モデル”という、これからイノベーションを起こすために必要なモデルケースを示してくれていると思います。

というのも本当に個人的な感覚で恐縮なのですが、日本でのイノベーションの阻害要因って意外とシンプルで、同じ個人の中に”企業のなかのわたし”と”個人としてのわたし”の二人の人格がいて、アイデンティティを築きにくいことにあるような気がするのです。その一致をさせていくことで、誰もが秘めているキラキラを引き出して行けるのではないか。最近では”ワークライフバランス”や”パラレルキャリア”という言葉も注目されていますが、自分が生かされている状況とは極論をいえば二項対立では捉えられないのかもしれません。

企業にいながら自分のスキルをそのままいかしてプロボノで活躍する、あるいは会社公認でマイプロジェクトという二枚目の名刺を持つ。そのような新しい動きを上司はどのように評価しているのでしょうか?必ずいる出る杭を打たずに生かすことは、個性が集まるグリーンズのコミュニティとしても大切にしたいテーマなのです。

ちなみに「企業に属しながら、自分の名前で活躍するには?」という問いに対して、FabLabの田中さんからは、大学という中立的な機関と一緒にマイプロジェクト的なことを仕掛けるのは、言い訳が立ちやすいのではないかというお話もありました。みなさんはいかがお考えでしょうか?

というわけで杉江さん、WHILLは絶対に成功させましょう!本当に大事な問いかけをありがとうございました。




次回はissue+designの筧さんです。お楽しみに!

今までの [greenz TOY] の関連記事を読もう!

writer ライターリスト

YOSH

YOSH

greenz シニアエディター/NPO法人グリーンズ理事 1979年生まれの勉強家 兼 お父さん。2004年よりウェブデザイナーとしてNPO支援に関わりながら、「デザインは世界を変えられる?」をテーマに世界中のデザイナーへのインタビューを連載。 CSRコンサルティング企業に転職後、2006年クリエイティブディレクターとして独立し、ウェブマガジン「greenz.jp」の立ち上げに関わる。2010年より編集長。秋田市出身、京都市在住。一児の父。 2016年より京都精華大学人文学部の特任講師として、「ソーシャルデザイン・プログラム(社会創造演習)」を担当予定。

AD

infoグリーンズからのお知らせ