”自分ごと”から”みんなごと”へ。京都発「ローカルセッション」で考えた、自治体・民間企業・住民、みんながハッピーになる地方創生のあり方。

京都に住もう。

そう決めたのは、2015年3月。当時、札幌に住んでいた私は、憧れと期待を胸に、伝統のまち・京都へ引越しを決め、その翌月には京都で暮らしはじめました。

決断からわずか1ヶ月での旅立ちに、多くの人から驚きの声とともに「なんで京都なの」とか「移住したんだね」とか、声をかけられました。

私にとっては、住みたいまちに住み、自分らしく生きるために違う都道府県に”引越し”したというカジュアルな感覚でした。しかし、他者から見ると引越しではなく、”移住”らしい……。あれこれ考えた末、“主体的に住む場所を選び、暮らしをつくること”を移住と言うのかなと腑に落ちたことをよく覚えています。

あれから2年以上がたち、京都生活も3年目になりました。

私自身が、京都に移住したこともあり、以前よりも気になるようになった”移住”というキーワード。地方創生の流れも後押しして、全国のあちこちの地域で「移住者歓迎」「子育てのしやすいまち○○」など、自分のまちの良さをアピールする言葉を聞くようにもなりました。

選択肢が増えれば、自分らしく生きられる人が増える。それはすごく嬉しいこと。ですが、どの地域も「ぜひうちのまちへ来て」と言ってまるで争っているように見えてしまったり、自治体の声は本当に必要としている人に適切に届いているのかな、と疑問に思ったりすることもありました。

移住者の獲得が地域間での競争になってしまうと本末転倒だし、移住促進を担当する自治体の人も疲れてしまうよね、と思っていた時に知った取り組みが、「Meets Local(ミツカル)」です。

「Meets Local(ミツカル)」の取り組みは2015年からはじまった。

直近に開催されたローカルナイト。左:石川ナイト@京都 右:大分ナイト@京都

「Meets Local(ミツカル)」とは、”地域に出会う”を意味し、若者たちが地元で働くことをもっと身近に考える場をつくり、京都から地元へ帰る・地方へ行く流れをつくっていこうというプロジェクト。この活動は、京都で”人と人、人と場のつながりを紡ぐ”「株式会社ツナグム」が2015年から実験的にスタートし、翌年からは各地の自治体と連携して開催、今では自治体や若者がともに地域の未来を考える場に育ちつつあります。

ツナグムは、京都移住計画や移住促進事業、まちづくり事業などを展開

地域で活躍するゲストをモデルに、若者が地元や地方でのキャリア・暮らし・魅力に出会う「ローカルナイト」、自分の地元や興味のある地域について語り合う「ローカルDAY」などさまざまなイベントがあるなかで、私は2017年6月3日土曜に京都・西陣で開催された「ローカルセッション」に参加してきました。

テーマは、「全国の自治体関係者で集まって、自治体、民間企業、住民が連携したこれからの地方創生のかたちを考えよう」。公務員、NPO職員、民間企業と立場の違う3名がスピーカーとして話してくれました。ツナグムが移住促進事業を行なっていることもあり、話題の中心は「移住」。当日の様子を、主催者のツナグム田村さん、藤本さんのお話を交えながらお届けします。

自分が心から楽しめることをやれば、結果はついてくる

公務員、NPO、民間企業とそれぞれ立場が異なる3名のスピーカー。

イベントではまず、スピーカーの方それぞれが自身の取り組みを共有しました。

1人目は、奈良県 地域振興部 奥大和移住・交流推進室室長の福野博昭さん。奈良県の39市町村のうち、南部・東部に広がる19市町村を”奥大和”と名付け、近畿日本鉄道と連携した魅力発信事業など、公務員の立場からさまざまなプロジェクトを仕掛けています。

なかでも、2015年に生まれたシェアオフィス「オフィスキャンプ東吉野」をきっかけに10組20名が移住したという事例に、参加者からは感嘆の声が 軽快な福野さんのトークと、地域であらゆる人や企業を巻き込むそのパワーに、参加者はみな圧倒されているようでした。

自分自身も楽しく働くために、まず友達になってから一緒に仕事をするという福野さん。

全国的に注目されるプロジェクトを手がけてきた福野さんには、まちと関わる上で大切にしてくれることがあると言います。

福野さん 今、移住者を増やすことばかりが注目されていますが、それよりも地域のことを本気で考えてくれる人が増えることの方が重要です。なんか楽しそうなことをしているな、おもしろそうだなと思ってもらえたら、遠くからでも人は来てくれます。地域に関わってくれる人が常にプラスになる状態をつくれれば、盛り上がっていくと思います。

続いてのスピーカーは、合同会社ゆうあんビレッジ代表の山下丈太さん。地元の京都・和束町で、お茶の産地という特徴をいかしたプロジェクトを展開しています。

山下さんは6歳の時に家族みんなで和束へ移住。滋賀や大阪で働いた後、和束へUターンした。

2014年からスタートした「ワヅカナジカン援農プロジェクト」では、過去3年で45件の農家が参画。参加者50名のうち7名もの若者が、和束に移住したそうです。

結果として移住という成果につながったわけですが、山下さんは最初から移住してほしいと考えてプロジェクトを立ち上げたわけではないといいます。

山下さん はじめはイベントやツアーを企画して、和束に人が来ることが嬉しくて。もっと力を入れてやろうと農家に声をかけたんですけど、見向きもされなかったんです。

それよりどの農家からも、5月から7月の茶摘みで忙しい時期に働き手がいないという声を聞きました。それなら地域の人が必要としていることをやろうと、「ワヅカナジカン援農プロジェクト」を立ち上げました。そうやって求められることをやっていったら、町外から人が来るようになったんです。

3人目のスピーカーは、京都府南丹市にある「NPO法人テダス」事務局長の田畑昇悟さん。南丹市まちづくりデザインセンターにて相談窓口を担当しながら、集落が移住者に伝えたい「集落の教科書」や、移住希望者が知りたいことをまとめた「移住者の参考書」などを自治体とともに発行し、移住者が孤立しない環境づくりに取り組んでいます。

地域の人からモテる存在になりたい、とこれからの目標を語る田畑さん。

そもそもこれらの事業アイデアは、田畑さん自身が南丹市へ移住した際に「さみしかった」ことがきっかけ。新しいまちで暮らしはじめた人が、少しでも戸惑うことなく生活していけるようにとの思いから、移住者歓迎パーティーも開催しています。

田畑さん 移住関連の仕事をしていますが、僕は移住者の取り合いが嫌いなんです。移住アピールって、自分のまちの良いところだけを発信して、来て! 来て! と言ってしまいがち。でも、日本には良いまちがたくさんありますよね。

だから移住者を取り合うのではなく、移住希望者がどこに住めば幸せになれるのか、自治体などの支援団体が真剣に考えていけるようになればいいと思います。南丹市で暮らす生き方もあるし、ほかのまちで生きる方法もあるよって、プロモーションしていきたいんです。

自分の地域、仕事についてとても楽しそうに話す姿が印象的だった。

その後、イベントは参加者からの質問に答える形のパネルディスカッションへ。京都はもちろん、宮城、石川、愛知、奈良、島根、鳥取、香川と全国各地から集まった自治体関係者から、いま現場で直面している課題について相談を持ちかけられました。

なかでも「官民恊働プロジェクトをする上でのツボは?」という参加者からの問いかけに対しては、こんな返答が。

田畑さん こんなのやりたいよね、というゼロの段階から一緒にやるのが濃い恊働にするポイントです。また、自分なら何を貢献できるのかを考えた上で会議に望むことが大切ですね。

山下さん 自治体に何かお願いしたいなら、決裁の手間など行政職員の苦労を理解してお願いすると、協力してもらいやすくなります。あと、プロジェクトの成果を自分たちのものにするよりは、行政にあげるスタンスで望むと、お互い仕事がしやすいですね。

福野さん トップの人とビジョンを共有することが大切です。まず自分がどんな人間か、何がしたいのかしっかり話して、心を開くことが第一歩です。

「そもそも移住促進って自治体がやること」「移住者の定義って」という話題が展開された。

スピーカー3名のお話を聞いて共通するなと思ったのは、心から自分の仕事を楽しんでいること。そして、住民から求められることや目の前にある課題に、さまざまな人や企業を巻き込みながら取り組んだことが、移住という一つの結果につながったということです。

地域のことを一番に考えられるのは、やはりそこに住む人や企業、自治体です。そこに地域に遊びにきた人が加わったり、逆に自分の地域からほかの地域へ飛び出し、つながったりすることで、関係人口を増やしていく。そうやって地域に関わる人を増やしていくことが、これからめざしたい地方創生の一つのあり方のようです。

”自分ごと”が”みんなごと”になれば、まちはもっと楽しくなる

左ツナグム 代表 田村篤史さん、右ツナグム Meets Local担当 藤本和志さん

全国各地から自治体関係者が集まり、移住を中心とした地方創生のあり方について考えた3時間半。ツナグムの田村さんと、藤本さんはどのような考えで「ローカルセッション」を開催したでしょうか。

藤本さん これまで全国でお会いしてきた地域で活躍する方々の多くは、Uターンや移住をして、「地域をおもしろくしよう」と自分ごとで活動する団体や個人の方でした。しかし、昨年東京で開催された「MICHIKARA 地方創生」のイベントに参加して、「まちをおもしろくしたい」とヒントやきっかけを求めている自治体職員の方々がたくさんいることに気付いたんです。

「東京」には地方創生に関するさまざまな取り組みがあるので、情報を得やすいです。一方「京都」は、都市と地方の両方の要素を合わせ持ったまち。ローカルセッションでスピーカーとしてお話いただいた田畑さんが住む京都丹波エリアや、山下さんが住む相楽エリアは官民協働の実践地域として注目されていますし、京都市には他府県から多くの学生や若者が集まります。

だからこそ東京発信とは違う、新たな地方創生の仕掛けがここ京都から生まれる可能性を感じていました。

京都でも自治体と民間企業、住民が共創するこれからの地方創生について考える場をつくりたいーー。藤本さんは代表の田村さんと話し合い、「まずは実験的にやってみよう」とローカルセッションを企画。結果、全国各地から自治体関係者が集まり、土曜日開催にも関わらずほとんどの人がプライベートで参加してくれたそうです。

藤本さんは、広島出身。東京の人材系の会社で働いた後、京都へIターンした。

藤本さん 他の地域の人とつながりたい、情報を得たいという理由で参加された自治体関係者が多かったですね。ニーズがあれば、今後はテーマ型の研修にも取り組んでいきたいですし、他府県から気軽に足を運んでもらえる場をつくっていきたいです。

地域の課題や未来について、懇親会で語り合う。

藤本さん ローカルセッションで一番伝えたかったのは、自分ごとをみんなごとにしていこうということ。今回のスピーカー3名もですが、うまく行っている地域は、自治体と民間企業、そして住民が協力し合う関係ができているのが、外部から見てもわかります。ゼロベースから自治体と民間がアイデアを出し合って、物事を進めていくから、信頼が生まれるし、結果として移住などの目に見える成果につながっていくんです。

予算があるからお願いしようではなくて、まず課題があって、この企業と一緒に解決していきたいから仕事をお願いするという順序が本質的なあり方だと思いますね。だからこそ、地域のことを自分ごとにしている人を増やしていくことが大切です。

田村さんはツナグムの活動を通じて、生きたい場所で生きられる社会をめざしている。

田村さん もともとツナグムの活動も、世の中がこうだったら良いのにな、自分ならどうやるかな、自分でできなければ誰と一緒にやろうかなという、純粋な気持ちからはじまりました。もちろんめざす社会の姿はあるんですけど、目標を設定してガチガチに行動するというよりは、自分の関心ごとを深堀りしていくうちに、興味をもつ人が周りに集まってきて、活動自体も大きくなっていたんです。

自分が夢中になっていることを、おもしろがってくれる人があらわれ、ゆるやかに住民や自治体を巻き込んで大きな輪に広がっていく。はじめからゴールありきではない、しなやかな営みが、今求められているのではと思いました。

集合写真は、京都タワーのポーズでパチリ。

所属も、肩書きも、年齢も関係ない。フラットな立場で地域の課題を見つめ、みんなで課題解決に取り組む流れが、これからはますます加速していくのだろうーー。自治体・民間企業・住民みんなの力をあわせた共創の姿が垣間みえた1日でした。

「他の自治体ではどのような取り組みをしているのだろう」「同じ移住促進担当の人とつながりたいな」と思ったら、ぜひ一度京都を訪れてみませんか。京都にはツナグムがあるから、あなたのまちと京都、そしてあなたと京都に住む人をつないでくれるはずです。