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まちを面白くしたいなら、自分が面白いと思う人を集めればいい。滞在型援農で、茶農家の雇用確保と移住者発掘を実現する「ワヅカナジカン援農プロジェクト」

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「ワヅカナジカン援農プロジェクト」を企画する、山下丈太さん

みなさんは”援農”をご存知でしょうか?

援農とは、農作業の収穫期に必要な労働力を増やすことが難しい、高齢化や過疎化が進む地域の人手不足を解消するため、主に都市部で暮らす方が農家へ足を運び、農作業をお手伝いしながら農業を学び楽しむ取り組みのこと。最近では、日本各地に広まっている取り組みです。

今回取り上げる京都府・和束町も”援農”が必要な地域のひとつです。昔から高級茶葉をつくる産地として知られ、茶葉の育成から加工までを一貫して行う茶農家が大半のため、繁忙期にあたる春から夏にかけて、短期雇用できる人材探しが必要となるのです。

しかし和束町は65歳以上の高齢者が38%を占める地域であり、毎年100人のペースで人口が減り続けている現状があります。人口約4,000人の町内だけでは繁忙期の対応が難しく、とはいえ京都市内や大阪市内から毎日通うには根気のいる山間地域のため、働き手不足に悩んでいました。

和束町の働き手不足を楽しい方法で解決したい。そんな思いで都市部から若者を集め、シェアハウス生活を送りながら茶農家で働く地域おこしプログラムが誕生しました。それが今回ご紹介する、「ワヅカナジカン援農プロジェクト」です。
 
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山の急斜面に規則正しく茶木が連なる和束町の風景

「ワヅカナジカン援農プロジェクト」とは

「ワヅカナジカン援農プロジェクト」では、春から夏にかけて都市部から若者を集め、シェアハウスでの交流を楽しみながら、茶農家のお手伝いをしてもらうプログラムを展開。期間中は和束町が保有する施設をシェアハウスとして利用し、お茶づくりの現場で働き、学び、給料をもらうこともできます。

今年で3年目を迎えるこのプロジェクトは、和束町出身の山下丈太さんを中心に誕生しました。
 
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和束町の茶畑にたたずむ山下さん

期間中、プログラムに参加する人々が任させる最初の仕事は、芽運びや茶葉の品質をよくするために25mぐらいの黒いネットをかけていくこと。その後は基本的に、収穫した芽を運搬する作業がメインになるそうです。

プログラムの2期生を受け入れた農家、金本さん夫婦にその仕事と働き方について、具体的にうかがいました。

金本与志之さん 普段は私と嫁、親父さん、60代のアルバイトの男性ふたりがローテーションで農作業しています。そんな世代のところに若い人が入ってくるわけですから、大丈夫かなと心配でした。でも最初の顔合わせで”かなちゃん(2期生)”の元気な明るい様子を見て大丈夫そうだなと思ったんです。

金本珠美さん 朝は寒いけれど、身体を動かすから昼ごろには汗でベタベタするし、雨が降ってきても雨合羽を着て作業しますから若い女性にはたいへんだと思いますよ。でもこのワヅカナジカンの仕組みが良いのは、帰ったら同じような体験をした仲間がいることじゃないかな。

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茶農家の金本さんご夫婦

そんな金本さん夫婦のお話に登場した2期生の”かなちゃん”こと、岡田香南さんに援農体験の感想を聞いてみました。

岡田香南さん 農業体験は初めてでした。いきなり刈った芽の入った20kgの袋を軽トラに運ぶ作業をしたんです。ニコニコしながらやっていましたけれど、足が吊りそうでした(笑)

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岡田香南さん。プロジェクトに参加する前は地元企業で事務の仕事をしていた

もともと学生時代にバスケや水泳など、身体を動かすことに慣れていたという岡田さん。実際に農作業を体験してみて、これまでの事務の仕事よりも断然自分に合っていると感じた様子。

岡田香南さん もともと自分で何かをつくって発送し、お客さんに届けるプロセスに興味があったので、工場に入らせてもらって商品の発送や梱包、集荷などの作業自体が面白かったです。

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茶畑での仕事を終えると、仲間と温かい晩ごはんが待っている

仕事に取り組むのは、朝7時半から5時まで。シェアハウスに戻ったあとは、ゆっくり風呂に入り、夕食後は各々が自由な時間を過ごす楽しい日々だったのだそう。そんな日々を満喫した岡田さんは、「ワヅカナジカン援農プロジェクト」がきっかけとなり移住を決意したといいます。

岡田香南さん 和束町での経験が名残惜しく、受け入れ農家の金本さんもいい人だったので。またいっしょに働きたいと思ったんです。

現在、岡田さんは地元の方に紹介してもらった家に同じく移住してきた友だちとシェアして暮らしています。仕事面で後押しをしてくれたのは、先輩移住者たち。和束町活性化センターでのアルバイト仕事を紹介してもらい、今はセンターが所有しているハーブ栽培を手伝い、お茶の収穫期には金本夫妻の茶農園を手伝う予定です。

移住を決めたのは、岡田さんだけではありません。一期生の”やもちゃん”こと矢守沙奈絵さんは、和束町に移住してから毎日が楽しいと言います。

矢守沙奈絵さん 9時半から夕方5時まで、こちらの和束茶カフェで働いています。それから一度家に帰って夕ご飯を食べて、7時半ごろから農家でお茶詰めのお手伝いをやっている日もあります。夜23時ごろまでおしゃべりしながら作業しているので、仕事という感覚ではないですね。

自分から率先して何かをやることよりも誰かのサポートをするのが好きな矢守さんは、誰かのお手伝いをしているうちに、自然に和束町の方たちとの交流が広がり、最近ではコーラスグループにも参加したそうです。
 
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写真左が矢守沙奈絵さん

和束町にUターンを決めた、山下さんの働き方

「ワヅカナジカン援農プロジェクト」の仕掛け人である、山下丈太さん。山下さんがUターンを決めたきっかけは、生まれ故郷の和束町が”2030年には限界集落になる”という新聞記事でした。

山下丈太さん 記事を見て和束町に気持ちが傾いた時期に、ちょうど和束町雇用促進協議会が人材を募集していて、縁あって入ることができました。

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和束町は茶葉の栽培から加工まで一貫しておこなう茶農家が大半のため、町の財源をお茶が占める割合が高いのです。そして会社規模の茶農家は少ないため、町は茶農家のフォローアップが大事となってきます。

働き手不足を解消するために都市部から若者を集めよう! そう思い立った山下さんは、シェアハウス生活をおくりながら茶農家で働いてもらうというアイデアを、さまざまな方の知恵を借りながら編み出しました。

そして茶農家の要望をヒアリングし、必要な現場に参加者を送り込むべくシフトを組み、「ワヅカナジカン援農プロジェクト」が誕生。今では受け入れ農家が16世帯に増えましたが、山下さんは「これからも受け入れ先をどんどん増やしていきたい」と考えています。
 
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「ワヅカナジカン援農プロジェクト」に参加する茶農家の多くは、ご夫婦ふたりで経営をされているところ。そこに参加者がひとりで入ることが多いそうです。ハサミをもって夫婦がお茶を刈り、集めた20〜30kgの新芽を参加者が軽トラの荷台に運ぶ手伝いをすれば、収穫の効率があがります。

やがてプログラムが終了する頃には、茶農家と参加者がまるで家族の一員のような間柄になるそうです。
 
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まるで家族のような雰囲気の金本さん夫婦と岡田さん

山下丈太さん このプログラムを続けていくと、和束町の農家の人々も少しずつ変わっていくんです。

最初は「お金を払っているのだから働くのは当然だ」という雰囲気なのですが、「このプログラムは単なる人材派遣ではなく、和束町の環境を好きになってもらって、なんらかの形で町に関わってもらうための入口なんですよ」と言い続けるうちに、意図を理解してもらえ、参加者とも良い関係を築けるようになるんです。

場があることで生まれるコミュニティの面白さ

こうして、着実に広まりを見せる「ワヅカナジカン援農プロジェクト」ですが、一期生の活動がスタートした際にシェアハウスとして利用したのは、元々は山下さんの実家だったのだそう。両親が仕事の関係で神戸に引越したため、空き家状態のところを活用したといいます。
 
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2014年のプロジェクト1期生には、計15名が参加。そのうち2人が女性で事務局メンバーの友人や農業経験者、海外からの参加者もいたのだとか! 2015年プロジェクト2期生は山下さんの独立に伴い、新たに立ち上げた「合同会社ゆうあんビレッジ」を母体としながら、ひきつづきプロジェクトを運営しました。

活動を終えた参加者の中には丹波で農業をされている方や、宮津で観光列車の仕事をしている方もいれば、そのまま和束町に残って和束町雇用促進協議会の実践支援員をしたり、岡田さんのように和束町活性化センターでハーブ農園の栽培補助をしている方まで。収入は高くないものの、仕事は和束町の中にも意外とあると山下さんは言います。
 
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プライベートなことなので名前は出せないですが、1期生からは2組のカップルが生まれ、うち1組は結婚されました。もう1組は毎年この時期になると、お茶の仕事で和束に戻ってくると言います。

山下さんによると、3ヶ月のワヅカナジカンの体験で、性格が変わっていく人もいるのだとか。

山下丈太さん オープンマインドになる人が多いです。二期生で言えば、最初はすごく内向きな18歳男子がいて、みんなも戸惑いがありました。

でもこのプロジェクトの良いところは、みんなが前向きなところです。みんなががんばってアプローチしていくうちに、その子も変わってきて、最後にはみんなのためにすいかを買ってきたりして、感動しました。

限られた空間の中で参加者が少しずつがんばっているうちに、みんなが少しずつ成長していく姿が身近に感じられるそうです。

参加者と和束町のつながりをつくるために

和束町の茶農家の多くは問屋へ卸し、直売はしていないため、“和束茶”としての価値を見いだし、もっと売り出していこうという動きがはじまっています。移住者の矢守さんが働く「和束茶カフェ」では町内の茶農家から届く茶葉数十種が勢揃いし、直売所兼町のコミュニティスペースとなっています。
 
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和束町の中心地にある、「和束茶カフェ」

山下さんは今年、プロジェクト終了後の参加者とつながりを強くしたいとの考えから、みんなで商品をつくろうと企画しています。

山下丈太さん 実生活に戻ったときにお土産などで渡せる商品があれば、和束町とのつながりが増えて面白いかなと考えています。

このプロジェクトの一番の目的は、地域や地元産業の活性化です。いろんな方に来ていただいて、和束町のことを知ってもらいたい。そして、田舎暮らしの新しい提案ができたら、と思っています。

体験を通じて「農山村地域に住むのは不可能じゃない」と自信を持っていただいて、都市部の若者を田舎へどんどん引き入れたい。プロジェクトが終わった後、「ひきつづき和束町で暮らしたい」と思っていただけるのが理想ですね。

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茶葉をつかったお菓子や調味料、ふりかけなどの加工商品もたくさん販売されている

和束町から出て行ってしまう若者が多い中、もっと雇用を生み出せるかもしれない。その実現に向けた入口として、山下さんは今後も「ワヅカナジカン援農プロジェクト」に取り組んでいきたいと話します。

山下丈太さん 和束町は地元だし、そもそも僕はコミュニティの結びつきが明確にわかる農山村地域が好きなんです。「この野菜を買うことであの人が喜ぶ」とはっきりわかる世界は都市部に少ないはず。

今後、日本は人口が減っていくのは確実なので、 自分の住むまちを、自分が面白いと思うような人たちが占めていくと必ず面白くなると思います。 そんな未来を思ってニヤニヤしながら働いています。

山下さんは地域の資源を活かして内側で循環する社会をつくることで、地域が面白くなると考えています。

きっとここではお金やいっしょに働いた仲間だけでなく、まるで自分のOSがバージョンアップするような、新しい価値観が手に入るに違いありません。高齢化や過疎化により、農業の継続が難しくなっている地域で暮らす方にとって、「ワヅカナジカン援農プロジェクト」は参考になるのではないでしょうか。

そして田舎暮らしに興味のある方や人生経験を増やしたい方は、ぜひこのプロジェクトに参加してみてください!