メディアは社会に対して、どんな貢献ができるのか? 「リディラバ」代表・安部敏樹さん × greenz.jp副編集長・スズキコウタ対談

今、この記事を閲覧している人は、1年でニュースに触れない日が、きっと1日もないのではないでしょうか。

私たちは毎日、テレビや新聞、雑誌、ウェブなど、いろんな媒体を通じて、芸能から政治・経済まで多様なニュースを得ることができます。なかには、見切れないほどニュースが流れているため疲れてしまった人や、どんな媒体を見れば自分のためになるんだろうと考えている人もいるはずです。

そんなふうに、ニュースについての向き合い方を意識する人が増えたのは、ウェブが一般的に広まった影響も少なからずあるでしょう。

ニュースが身近になり、ウェブで探せないニュースはないようにも感じられる今、新しくウェブサイトを立ち上げるためにクラウドファンディングに挑戦している団体があります。ソーシャルイシューを発見する“旅”を提供する「リディラバ」です。

リディラバは、社会課題の現場を実際に訪れることができる「スタディツアー」を、200以上のテーマで述べ6,000人以上を現場に送り込んで来ました。社会課題に対する無関心をなくしたい」と、誰もが社会課題に触れやすい環境の整備を目指すリディラバが、なぜ今ウェブで新しいメディアをはじめるのか。そして、メディアは社会に対してどんな貢献ができるのか。

リディラバ代表の安部敏樹さんと、greenz.jp副編集長のスズキコウタが対談しました。

安部敏樹(あべ・としき)
一般社団法人リディラバ代表理事/マグロ漁師/東京大学大学院博士課程
みんなが社会問題をツアーにして発信・共有するプラットフォーム『リディラバ』を2009年に設立。社会課題の現場を訪れる「スタディツアー」を一般向け、そして修学旅行や企業研修などで提供。2012年度、東京大学にて社会起業の授業を教える。総務省起業家甲子園日本一、KDDI∞ラボ第5期最優秀賞など受賞多数。第2回若者旅行を応援する取組表彰において観光庁長官賞(最優秀賞)を受賞

学校のようなメディアをつくりたい

スタディツアー例「動物殺処分ツアー」。ドッグカフェでのセラピードッグとのふれあいなどの体験プログラムを通して、命の大切さについて考える

安部さん リディラバのスタディツアーは、実のところ、「旅行」はメディアだと考えてはじめました。つまり、旅は社会課題を届ける媒体なんです。ウェブやテレビをみるだけで、人生は変わりません。現場に行って、実際に困っている人に会うと、少しだとしても当事者意識を持つことができると思うんです。

コウタ なるほど、よくわかります。僕も副編集長として、ウェブサイト以外の領域も編集するように意識しているので。

例えばグリーンズの場合、ウェブマガジン事業であるgreenz.jpではどうしても成功事例を扱う傾向になってしまうんです。そうすると、「そのまちではできても、私のまちではできないかも…」という反応をいただくことがあります。

そこから脱却するためにウェブを飛び越えるようになりました。greenz.jpを読んだ人が、記事で取り上げた人に会ったりまちに行けたり、自分で考える場をつくれるようになるために、学びと実践の場「グリーンズの学校」やイベントにも力を入れています。すると、まさに安部さんがおっしゃるように、当事者意識が芽生えるんですね。

僕らはウェブからスタートして、学びと実践の場を始めたという流れですが、今回「リディラバ」が挑戦するのはその逆で、ウェブメディアを新しくつくることですよね。現場で実績を積んできた「リディラバ」が、ウェブ上に学びの場をつくることを決めた理由とは?

安部さん 大人が社会の理解を深めるための学校が必要だと思っていて。でも、みなさんに「もう一度何かの学校に入学し直して!」っていうことはできないじゃないですか。だったら、日常的に人が見ているウェブかなぁと。そこで、大人のための学校の最初の接点になるメディア「リディラバジャーナル」をつくることにしました。

リディラバジャーナルの完成イメージ


(リディラバやリディラバが新しく立ち上げるメディアについて詳しく語られています)

安部さん スタディツアーは、高校の修学旅行に提供しているので、例えば、将来的に大人の3人に1人が社会課題に向かっている状況をつくる、といった目標を掲げて、それに向かっていくことは、リディラバの事業努力の範囲でできることです。

ただ、修学旅行でスタディツアーを使ってもらい、子どもたちが社会課題を学んでいっても、当の大人が変わらないままでいたなら、子どもたち自身も社会課題に向かう大人になろうという気持ちにはなりにくいんじゃないかと思うんです。

コウタ なるほど……。

安部さん 卒業して就職をすると社会人って呼ばれますけど、そのほとんどは社会人じゃなくて会社人になっているだけだと思うんですね。僕は社会人って、社会に出るためにみんなが気にしておかなきゃいけないことを気にすることができる大人だと思っているんですよ。

コウタ たしかに会社人と言うこともできるのかもしれませんね。一方で、子どもの頃からみんな社会人でもあるとも言えますね。

貴重な出会いをメディアが産む

スタディツアー例「自閉症体験ツアー」。どんな困難があり、周囲の人はそれをどうサポートしたらいいのかについて学ぶ

コウタ 僕は、問題提起をしてディスカッションを巻き起こすことが、メディアの大きな役割だと思います。これから始める「リディラバジャーナル」は”学校的なメディア”にしたいようですが、読者とのコミュニケーションを育てていく考えはありますか?

安部さん あります。読者がどんなリアクションをとることができて、新しいアクションを生み出していけるのか。スタディツアー自体がユーザー参加型なので、誰とどんな課題をどう議論するか、ということの重要性は理解していて、それをオンラインでも実現できるかどうか。ある種の出会い系にしたいと思っています。

コウタ ”出会い系”ですか。

安部さん スタディツアーで出会って結婚する人もいますし、そういう意味での出会いも貴重ではあります。ただここでの出会いっていうのは、人間が何かを行動に移そうとしたときに同じ問題意識を持っている人と出会えているかどうかです。それが大事だと思います。

コウタ ええ、わかります、わかります。

安部さん 何も機会がないと、そういう大事な出会いは偶然性に任されてしまうと思っていて。「リディラバ」は社会課題に対する問題意識が集まりやすいから、それを活かして出会いのきっかけをつくりたいですね。

例えば、誰がどの記事を読んで、どんなツアーに行っていて、どんな関心を持っていて、どんなコメントを残しているのかを見て、それならこのツアーに行けば自分の関心にあった体験ができるかなとか、次の新しいステップを見つけることができるメディアにすることは目指す姿だと思っています。

コウタ それは、グリーンズの会員「greenz people」と似ている面がありますね。僕らは最近、事務所を使わない日に、会員のみなさんがイベントなどに利用できるよう開放してるんです。

どうして、そういうことをはじめたかというと、greenz peopleが仲間を増やす機会や、もっと活躍するきっかけをつくりたかったから。greenz peopleになると、グリーンズを支援できるだけでなく、社会に対する価値創造が前進する。それを共にする仲間にも出会える。そんなコミュニティにしたいと思ってるんです。

メディア・コミュニティの肝

NPO法人グリーンズが運営する非営利メディア「greenz.jp」の運営や記事配信を支える個人会員としてはじまった「greenz people

安部さん greenz peopleってすごいと思うんです。「リディラバ」にも、ラバーズという会員制度があるんですけど、それをつくるときに参考にしたしくみのひとつでした。どうやって広めていますか?

コウタ 2012年にβ会員を募ってから5年経ちますが、最初はやっぱりgreenz.jpの記事を読んでファンになってくれた人が多い印象でしたね。

あとはNPOグリーンズのコアメンバー(常勤スタッフのこと)はイベントに登壇する機会を大事にしているので、そこで僕らのビジョンやミッションを知った人が会場で入会してくれる導線もつくりました。

安部さん そういうことが大事なんですね。

コウタ でも、最近は会員を募集しはじめた頃より、出入りが増えてきました。”greenz.jpのファン”という結束だけのコミュニティをつくってしまうと、ここだけの話が聞きたいとか、会員特典の内容が好みかどうかとか、内容によって出入りする人も現れてくるんです。

安部さん 離脱率が上がってきたんですね?

コウタ 母数が増えたぶん、という感じですね。会員特典は続けていきますけど、特典だけで会員を増やすのでなく、ともに未来をつくるパートナーとして向き合わないと、というのが最近の解です。

安部さん そうか。応援ではなく、対価になってしまうんですね。

安部さん 今すごい興味があるのは、組織のカラーと応援のされ方なんです。

例えばグリーンズのコアメンバーの講演を聞いて、みんなが応援したくなるのってすごいわかるんですよ。グリーンズのカラーと応援したい人のカラーが凄くあっているから。でも、私が登壇者だった場合、そこで観覧するグリーンズが好きな人を楽しませることはできても、応援しようと思ってもらえるかはわからないと思っていて。

コウタ ふむふむ。

安部さん メディアって、とてもお金がかかるじゃないですか。だから「このままじゃなくなってしまう」「有料会員になってくださいー」って訴えることもできると思うんです。

でも、うちはメディアの継続のために有料会員になってもらうというより、チャレンジし続けることを応援したいから、有料会員になるという存在でありたいなぁと思っています。

「好き」という気持ちがメディアをつくる

コウタ 今後「リディラバジャーナル」は、記事を組織で内製していくと伺いました。greenz.jpは60名近いフリーランスのライターさんをコミュニティ化して、彼らの学びの場もつくりながら成長させてきたメディアなので、組織内完結で運営していくというモデルは興味深く思っています。

安部さん そうなんです。社会課題をメディアで伝えるのって大変で。社会の複雑性を解きほぐして、どんな問題なのか構造化しないと問題の全体を伝えることはできないんです。

例えば、ホームレスにしても、いきなりホームレスになるわけじゃなくて。まず健康を悪くする。それで会社を休む。クビになる。アルバイトをするけど、お金が足りなくなって家がなくなる。友達の家を転々としはじめるけど、ずっとお世話になれるわけではなく、徐々に人の縁がなくなってしまって長くは続かない。そのあと、電話が契約できなくなって連絡先をなくす。そしてホームレスになるんです。

スタディツアー例「都会に潜む貧困~池袋でホームレス事情を知る~ツアー」。貧困問題の背景にある社会構造の問題、支援のあり方について学ぶ

安部さん でも、ホームレスから抜けたらいいのにと思う人の中には、今お話しした段階を経てホームレスになるまでに失った健康や人との縁を含む物事を全部一気に取り戻せると思ってしまう人もいます。だから、まだ生活保護を受けているおばちゃんがまずiPhoneを買ったりすると、「何を贅沢しているんだ!」って非難する人も出てきます。

でも実際は、おばちゃんはお金がないってことを知られたくなくて、最新の電話を買ってしまっているだけだったりするんですね。さっきのホームレスになるまでの段階を見ればわかるように、連絡先っていうのは最初に取り戻さないといけないものなので。

そういう社会課題の複雑さを解きほぐして伝えるために、時間をかけた取材や社会課題の切り口の設定を社内で行なって、社会課題をウェブで伝えるための暗黙知を貯めていけるようにしないと厳しいなと思っています。それで内製することに決めました。

過去にプロのライターに記事をつくってもらったことがあるんですが、みなさんすごい上手なんですけど、どこかリディラバのイメージするコンテンツにはなっていなかったんですよ。

コウタ きっと、どんな仕事をしてくれるかより、どんなマインドで「リディラバ」と向き合ってくれるかが大事だってことですよね。

greenz.jpでも同じようなことがあります。雑誌で書いているプロのライターが寄稿してくれた原稿は、スキル的にとても素晴らしい。でも、どこかgreenz.jpには合わないときがあるんですよね。それは、まさに安部さんがおっしゃる「イメージするコンテンツにならない」ということで。

それで、書くことに興味がある人をインターンやプロボノで迎え入れて、文章力をつけてもらうためにどうするかを考えるようになりました。

安部さん 確かに、「好き」は身につけられませんよね。

コウタ まさにそうです。

安部さん そういう気持ちがある人じゃないとダメですよね。「リディラバ」なら、社会課題を伝えたいって思いを優先して、その気持ちにあったスキルを身につけていけるプロセスをつくっていきたいと思っています。

メディアだけじゃダメだ。でも……

スタディツアー例「フードロスツアー」。食糧廃棄がなくならない原因、リサイクル過程について学び、私たちでにできることを考える

コウタ 最後に、安部さんに聞きたい質問があります。「リディラバジャーナル」はこれからはじまりますが、安部さんはメディアが社会を次のステージへ前進させていくパワーになると思いますか?

安部さん いい問いですね……。あくまで私の考えですけど、メディア単体で将来が変わっていくイメージは持てません。

コウタ ふむふむ。

安部さん ただ、潤滑油が必要だと思うんです。社会課題では、可視化の重要性がまだまだ軽んじられているような気がしています。

社会課題の解決って、社会課題から問題を発見するフェーズ、問題を見積もるフェーズ、問題に投資するフェーズの3フェーズを踏むんですね。それをすべて行政がやってきました。でも、発見と見積もりならメディアでもできるはずで。スタディツアーを含めて、「リディラバ」というメディアでそれをやっていけたらと思っています。

コウタ スタディツアーを含む「リディラバ」全体で伝えていきたいからこそ、「リディラバジャーナル」でも”社会課題を伝えること”に特化したいんですね。

安部さん おっしゃる通りです。調査報道に近いことをしたい。イシューにフォーカスを当てます。伝えなきゃいけないことがあって、それをブレイクダウンしながら、しっかり伝えていきたいということですね。

安部さん 少し話は変わりますが、私は企業こそ社会課題を解決するメインプレーヤーになれると思うんですよ。

日本はGDPが500兆円ぐらいあって、約25%がガバメントマーケットで使われています。単純計算で125兆円はありますよね。だから、社会課題の解決に何が足りないのか可視化できれば、企業が事業として社会課題の解決に入ってくるようになると思うんです。

「リディラバ」はメディアとして、そんな潤滑油になっていきたい。「リディラバ」が社会のアジェンダセッティングをしていきたいんです。

コウタ いいですね。それが、まさにメディアの持つべき社会的役割のように感じます。

グリーンズはgreenz.jpに限らず他の事業との紐付けにおいても、受け取った人びとの「その先をデザインする」ということをかなりこだわってやってきました。

だからこそ僕は、これから生まれる「リディラバジャーナル」を読んだ人びとが、どう変わっていくのか楽しみです。ありがとうございました!

(対談ここまで)

メディアはきっかけづくり。現実は、メディアの向こう側で私たちを待っています。だからこそ、詳しく知りたいことがあるときや次の一歩を踏み出したいときに、知る機会や踏み出すきっかけを得ることができるメディアに出会えたら、メディアのなかにはないリアルな自分の人生も、きっと豊かなものになっていくはずです。

もっと社会をよくしたい。こんな可能性が社会にはあるんじゃないか。そんな社会課題の解決や社会の多様性を広げる一歩を踏み出したい人が、「リディラバジャーナル」やgreenz.jpをうまく使っていけたらいいですよね。

そのとき、メディアを上手に利用できるかどうかは、どんなことが知りたいのか、どんな一歩を踏み出したいのか、自分のほしがっている物事をちゃんと知っていることがキーポイントになりそう。そんなふうに、メディアと向き合うために個人でできる事前準備のポイントも垣間見えた対談でした。

– INFORMATION –

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