何かを始めるって、不安もあるけれど、同時にワクワクするものですよね。私たちはみんな、何かを始めたり、終わらせたりを繰り返しながら日々を生きています。
でも、事の大小はあれど、始めること以上に続けること、終わらせることのほうが難しい。そんな経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。
今回ご紹介するのは、2012年から「OSAKA盛り上げ隊」が「2000人集めて乾杯したらおもろいんちゃうん?」というノリで始めた手づくりの夏フェス「乾杯プロジェクト」。
以前greenz.jpでも取り上げたこのフェスは、今年で5回目となる「2016人で乾杯プロジェクトFINAL」をもって、いったんの幕引きを迎えます。
2014年の会場の様子。 Photo by KOROGI Tomoka
お客さんもみんなリラックスムード。 Photo by KOROGI Tomoka
子どもたちもはしゃぐ! Photo by KOROGI Tomoka
アーティストとの距離の近さもこのフェスの魅力! Photo by KOROGI Tomoka
顔ハメパネルも、スタッフによる手づくり。 Photo by KOROGI Tomoka
当日スタッフも、みんなボランティア。 Photo by KOROGI Tomoka
彼らがどんな思いでこのイベントを始め、どのような思いで幕を閉じるのか。改めてお聞きするために、みなさんに集まっていただきました。
酒井雄大(さかい ゆうた):「株式会社スライムデザイン」副代表
大塚正信(おおつか まさのぶ):「ウマイモンバールASSO」オーナー
平山健宣(ひらやま やすのり):「setten design株式会社」代表
木佐貫玲(きさぬき れい):アクセサリーショップ「Play:Ground」オーナー
下段左から
吉田龍司(よしだ りゅうじ):「株式会社スライムデザイン」代表
廣瀬大輔(ひろせ だいすけ):「株式会社BHF」代表
「ただ続けることの意味」という問い
2012年から毎年7月に開催してきた「乾杯プロジェクト」は、今年で5回目。周囲からは“風物詩”として認識されてきた感も醸成されてきたところでの突然の“FINAL”宣言。これでほんとに、終わっちゃうんですか?
酒井さん そう。FINAL。「その年の西暦を来場者の目標数に掲げての開催」は一旦最後にしよう、という意味やねんけどね。
平山さん マンネリ化してきてるのは感じてたから。
木佐貫さん 「一回FINALにしたほうがいいんちゃう」って。
平山さん もっと続けるからこそ見えて来る風景というのもあるかもしれないんだけど、俺たちも5年続けてきて、確かにこのメンバーで集まって決める時のワクワク感も減ってきてる。だから一度棚卸しの意味でも“FINAL”にして、もっとワクワクできることを考えたほうがいいんじゃないかって。そもそもの衝動が「2000人で乾杯したらおもろそう、めちゃテンションあがるやん」ってところやったはずやのに、なんか「やるためにやる」みたいな、人数を達成することが開催の目的になってきているんよね。それってもしかしたら、みんなのおもしろさが半減してきているからなのかなって。
最初は何も分からなかったフェスのつくり方も分かって、だからこそ、「ただ続けることに意味はあるのか?」っていうところに来たんだと思う。
夏の恒例イベントになってきて、楽しみにしてくれている人もいて、出演してくれたアーティストからも「続けることが大事」と言われていたという彼ら。
それでも「やめる」という決断をした背景には、いろいろな葛藤があったことが伺えます。
「ただ、今まで築き上げてきたものを台無しにする気は、みんなない」と酒井さんは言います。彼らにとってこの“FINAL”は、同時に新しいスタートでもあるようです。
99%はしんどい、でも1%が最高
「乾杯プロジェクト」が始まって4年。4年もあれば、たくさんの経験や思い出が、各々のなかに刻まれているはず。そこにはきっと、いいことばかりではなく、しんどいこともたくさんあったのではないでしょうか?
酒井さん 事件はいろいろあったけど、そういうのって美化されて忘れちゃって、楽しい思い出ばかりが残っていたりする。
吉田さん イベントが終わって、お客さんが帰って、みんなで片付けをしているとき。毎年ステージからなんとなしに客席を見てるねんけど、日が暮れていって、誰もいない客席を見た時に毎回すごい感動するねん。「やってよかったな」って思う瞬間やね。
廣瀬さん やれることだけをやってるのは、人生においてもおもしろくない。常にできないことをやっていたいから、新しい挑戦ができたのはよかったと思ってる。
大塚さん なんのコネもない人らが、自分たちで一から立ち上げてやってるのはすげーなって。ええ仲間できたってのは感じるかな。みんな経営者やから愚痴も言えるし相談もできる。新しい発見もあったし、参加してよかったよ。
木佐貫さん 僕は途中からの参加なので、初期メンバーと想いや取組み方が違う部分もあるけど、まずこの変な人たちと一緒にいることが楽しいし、おもしろい。嫌なことや辛いことは全くない。だから、このメンバーで集まることは、いいことでしかない。
みなさんがそれぞれポジティブな言葉を口にするので、「しんどいことは?」と再度聞くと、「楽しいことなんて100あるうちの1で、残りの99はしんどいことばっかり(笑) でも、その1が最高やねん」と廣瀬さん。
廣瀬さん 去年のこのメンバーでの打ち上げとか、もうめっちゃ楽しいわけよ。大人になってから「新しい友だちなんていらんわ」って思っていたけど、めっちゃ楽しいと思える仲間に出会えてよかった。だから、今は改めて“友だち”になりたいかな。
年を追うごとに運営もスムーズになり、当初ノリで集まった“メンバー”が“組織”のようになってくる。“友だち”だったはずの人が“ビジネスパートナー”のようになってしまうとき、そこに生まれるものもあれば、なくなるものも。「今はそうなるかならないかの境目」だと廣瀬さんは言います。
平山さん 「めっちゃ楽しい!」から始まって、楽しいことが楽しいままであり続けるためには、そうじゃない、対極にあるようなちょっとシビアなこともやらんとあかんねんなって思う。
一緒にいるだけで楽しいと思える人たちと、“楽しい”以外の目的を共有して何かを“つくる”ことになったとき、その目的は自分たちの経験値と共にアップデートしていかないと、本来の“楽しい”という気持ちすらもなくなってしまうのかもしれません。
楽しみたいから始めたことが、どんどん楽しくなくなっていくという矛盾に彼らは気がつきました。そして、「楽しむために変化を起こすのか? それとも目的を達成するために続けるのか?」というジレンマに正面から対峙して、彼らが出した結論が“変化”であり“手放す”ということだったのです。
そんな後ろ向きではない結論に辿り着けたのも、彼らが裏表なく本音でぶつかり合っているからこそ。「話していたら熱くなることもある」と、吉田さん。でも、その4年分の“熱”が集約された瞬間が、今度の“FINAL”なのです。
「乾杯プロジェクトFINAL」の見どころ
そうして開催される今回の“FINAL”は、例年に増して見どころも満載です。コアメンバーに新しい人材が加わり、スタッフの布陣はさらに強力に。さまざまな才能とコネクションを持つ彼らの力で、メンバーを鼓舞しています。
ミーティング中の様子。このときはみんな真剣。
また、「乾杯プロジェクト」は子どもたちが楽しめるということも大切にしています。盛り上げ隊のメンバー自身、父親になる人もいて、若い頃とは遊び方も変わらざるを得ないなかで、よりたくさんの人に来てもらうべく知恵を絞っているところです。
廣瀬さん 仕事があったり、家族がいたりで、遊ぶことを最優先にできなくなっている人たちが来て楽しめるようにしたいねんな。
木佐貫さん 子どもたちは、音楽だけでは飽きちゃったりするから、縁日とお祭りブースを用意しています。
大人はライブで、子どもはプールで楽しめる! Photo by KOROGI Tomoka
こんなとこで遊んでる子もいます(笑) Photo by KOROGI Tomoka
今年は、ヨーヨー釣り、スーパーボールすくい、輪投げなどで遊べる「縁日ブース」や「お祭りブース」も充実。子どもたちの元気な姿が目に浮かびます。
そして、ライブをしてくれるアーティストも個性派揃いです。
「笑うギタリスト」の異名を持つ「ウルフルケイスケ」、浪速のソウルディーバ「大西ユカリ」、今夏で活動休止を発表している「indigo jam unit」、さまざまなジャンルのアーティストとの共演も多いパーカッショニスト「辻コースケ」、映画やCMなどさまざまなフィールドで活躍する音コンビ「ベベチオ」、ワールドミュージックを中心に独特の作品を生み出す「Saigenji」。大阪を中心に海外でも活躍中の絵描き「CAB」によるライブペインティングも披露されます。
ステージ横でのライブペインティングも必見! Photo by KOROGI Tomoka
そして最高の瞬間はやはり、オーディエンスも演者もスタッフも一丸となっての「乾杯」タイム。ぜひぜひ、あなたにもこの空間を味わっていただきたい! きっと、他では得られない爽快感を味わえるはずです!
乾杯の瞬間。ステージも客席もスタッフも、みんな笑顔! Photo by KOROGI Tomoka
酒井さん イベントを回数重ねてくると、開場前に並んで待つ人がどんどん増えてくる。それは初期にはなかったこと。そういうのを見ると、今年こそ2000人いくんちゃうかって思うねんけど、そこになにか壁があるみたい。
そう、実は、毎年掲げた乾杯人数を、彼らはまだ達成できていないんです。だからこそ「最後やし、ぜひ来てください!」と大塚さん。
彼らが自分たちで、あちこちぶつかりながら手弁当で始めた「乾杯プロジェクト」ですが、全てを自分たちの手でつくり上げたからこそのをリアルな経験を、リアルな言葉で語ってくれた彼らには、敬意を表したいと思います。そして、手放すことで次のステップに進む、彼らの今後にも期待しています。
インタビュー中は、それぞれが口にする「このメンバーに出会えてよかった」に対して、他の全員が「以下同文(笑)」というフレーズを繰り返すなど、終始笑いに溢れていました。彼らに出会うと、あなたもきっと「以下同文!」と、言いたくなってしまうはず。
最高に気持ちのいい「服部緑地野外音楽堂」で、あなたも2016人での「乾杯」に参加してみませんか?
(Text: 池田佳世子)
– INFORMATION –
OSAKA盛り上げ隊presents 2016人で乾杯プロジェクト FINAL
日時:2016年7月17日(日) 開場11:30 / 開演12:00 / 終演18:00
会場:服部緑地野外音楽堂
北大阪急行(地下鉄御堂筋線直通)「緑地公園」駅から徒歩5分
入場料:前売り1,515円(イコイコ) / 当日2,016円(2016人)
前売り限定団体割[4枚セット] 5,500円(ゴーゴー)
※高校生未満は無料でご入場いただけます ※全席自由
チケット:イープラス