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一杯のコーヒーにあふれる情熱。スターバックス コーヒー ジャパン田原象二郎さんに聞く、99%”エシカル・ソーシング(倫理的調達)”に至るまで

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まずは上の写真を見てください。これは何でしょうか?

おそらくほとんどの人が、焙煎された「コーヒー豆」で、「コーヒー」という飲み物の原料であるということがわかるはずです。

ところが、アフリカのルワンダで同じことをたずねたら、なんと「銃の弾丸?」という答えが返って来たのだそう。それも、コーヒー生産者の口から……。

コーヒー豆の生産に携わる人のなかには、つくった豆の行く末も知らず、さらにはコーヒーを一度も飲んだことがないという人もいるそうです。

スターバックスは早くから生産者との信頼関係を築き、共に高品質なコーヒー豆の生産に取り組んできました。その結果、2015年4月に、同社が販売するコーヒー豆の99%について、公正な取引である「エシカル・ソーシング(倫理的調達)」を達成しました。

グローバルに展開する企業の規模での取り組みとしては、画期的な成果です。

ふだん何気なく飲んでいる一杯のコーヒーの向こうにはどんな人たちがいて、どのような世界が広がっているのでしょうか。そして、スターバックスはいかにエシカル・ソーシングを実現していったのでしょうか。

スターバックス コーヒー ジャパン株式会社で「コーヒースペシャリスト」として社内外にコーヒーの魅力やスターバックスの取り組みを伝えている田原象二郎さんに、お話をうかがいました。
 
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田原象二郎(たはら・しょうじろう)
2000年に入社。ストアマネージャーを経て、2006年からはコーヒースペシャリストとして活躍している。パートナー(従業員)のコーヒーに関する知識向上のための教育プログラムを開発し、パートナーからお客様へ分かりやすくコーヒーの魅力を紹介するしくみを考えて伝達している。また、コーヒーの生産地を実際に訪れた経験を活かして、同社の取り組みを社内外に伝えている。

袋の重みで感じるメキシコの森のこと

スターバックスで商品開発や社内外への啓発活動などに携わる「コーヒースペシャリスト」は3名のみ。田原さんはそのうちの一人として、実際にコーヒー生産地を訪れたときに見聞きしたことを、社内へはもちろん、社外のイベントなどでもわかりやすく伝えています。

冒頭で紹介したコーヒー豆に関するエピソードも、田原さんがルワンダを訪れた際に、現地のパートナーから聞いたものでした。

そんな田原さんがスターバックスに入社したのは、今から15年前の2000年。そのころ、期間限定で「シェイド グロウン メキシコ」というコーヒーがお店に入ってきました。

「シェイド グロウン」とは、日陰栽培という意味です。元来、コーヒー豆は熱帯林の木陰を使って栽培するという方法がとられていました。この伝統的な農法では、熱帯林によって強い日差しや激しい雨からコーヒーの木を守ります。それと同時に、土壌が流出するのを防ぎ、生態系を保護することができる農法でもあります。

ところが、コーヒーが広く飲まれるようになると、産地では収穫量を増やすために熱帯林を切り開き、農地を拡大していきました。この流れを放置すれば、生物の多様性が脅かされることになります。次第にコーヒー栽培による熱帯林の破壊が問題視されるようになっていきました。

そんな状況のなか、スターバックスのバイヤーがメキシコに赴き、環境にやさしいコーヒーづくりをスタートさせます。彼は実際にメキシコの森に入り、日陰栽培農法に参加する農家を応援しながら、パイロットプログラムを各地で実施していきました。こうして生まれたのが「シェイド グロウン メキシコ」だったのです。
 
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シェイド グロウン メキシコ

当初は226gという少量のパッケージで届いた「シェイド グロウン メキシコ」でしたが、徐々に量が増えて、店舗で提供するドリップコーヒー用の5パウンド(約2.3kg)の袋で入ってくるようになりました。

その袋の重みで「あぁ、メキシコでの日陰栽培の取り組みが浸透してきているんだな」と感じたのを覚えています。

実は、この「シェイド グロウン メキシコ」が形になるよりもずっと前から、スターバックスは生産者の暮らしや地球環境との関わり方に目を向けていました。そのはじまりは、1989年までさかのぼります。

1989年、国際協力NGO「CARE」の役員のひとりが、スターバックスの店内で「世界のコーヒー」というパンフレットを手にとりました。そして、そこに記されていたコーヒーの産地を目にしてあることに気づきます。

それは「CAREが人道援助活動を行っている国や地域と、スターバックスのコーヒーの生産地が重なっている」ということでした。

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南北回帰線を挟んだエリアがコーヒーベルトと呼ばれるコーヒーの生産地

彼はさっそく、当時スターバックスの取締役だったデイブ・オルセンさんにコンタクトをとります。

デイブさんはシアトルでカフェを経営していた経歴の持ち主で、バイヤーとしてコーヒー生産地を回った経験が豊富な人物でした。生産地の人々の暮らしを目の当たりにするたびに、生産者のために何かできることはないかという想いを抱いていたそうです。

そこでさっそく、CAREのアフリカでの人道援助の様子を視察。1991年に、CAREの活動の支援を正式にスタートさせました。

その後を引き継いだメアリー・ウィリアムズさんは、国際環境NGO「コンサベーション・インターナショナル」と協力して、環境にやさしいコーヒーづくりの取り組みを始めました。コンサベーション・インターナショナルは、自然生態系と人とのかかわりを重視して環境問題を解決することを目的に設立された団体です。

そして、前述の「シェイド グロウン メキシコ」を生み出すことになった取り組みがこれに続きます。

こういった一連の歩みが結実し、包括的な調達のガイドライン「C.A.F.E.プラクティス(Coffee and Farmer Equity Practices)」が完成しました。2004年のことです。

「C.A.F.E.プラクティス」とは

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農家が現地のサプライヤーと取引をしている様子。生産者とサプライヤーとの間に買い叩きがなく、公正に取引されていることがC.A.F.E.プラクティスの必須条件のひとつ

「C.A.F.E.プラクティス」は、スターバックスがコンサベーション・インターナショナルと協力して定めた購買のガイドラインです。

必須条件は、コーヒー豆がスターバックスの品質基準を満たしていること。そして経済的な透明性が確保されていること。つまり、その豆がスターバックスの求める高品質なものであり、公正に取引されたものである、ということです。

それに加えて、社会的責任を果たしているか、環境や生態系への配慮がされているかについて、第三者機関の評価を受けて認証されます。
 
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チェックシートの一部。16ページにわたり、労働者の労働環境から生物多様性を守るための土壌浸食・汚染の防止などに至るまで、包括的で測定可能な基準が定められている。各国の言語に訳され、アップデートをくり返しながら運用されている

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支払証明書。いくらで売買されたのかという取引の記録をきちんと残し、それを第三者機関がチェックする

コーヒー豆の生産には多くの人が関わっています。農場を経営する生産者、コーヒー豆の加工工場で働く労働者、そして収穫の時期だけ近隣の地域からやってくる労働者というように。その数は約2500万人といわれています。

社会的責任という点では、たとえば、労働者のための宿泊設備をきちんと整備しているか、不法な児童労働をさせていないか、などといったことがチェックされます。また、環境面では、コーヒー豆の加工の過程で環境に配慮しているか、などが評価されます。

コーヒー豆の加工法には乾燥式と水洗式、半水洗式があり、現在流通している豆の多くは水洗式です。

水洗式では、コーヒーの実の外皮を取り除き、粘液を洗い流してコーヒー豆を取り出すのですが、その工程で大量の水を使います。洗い流す際に、粘液に含まれる糖分が水に溶け出すため、廃水をきちんと浄化してから川に流しているかといったことが審査されます。
 
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粘液を洗い流す水路。清潔に保たれ、きちんと管理が行き届いている

こうして、C.A.F.E.プラクティスにもとづいて栽培・取引されたと認められたコーヒー豆には、コンサベーション・インターナショナルのマークがつけられます。

“社会的責任”を果たし“地球環境”に配慮できる生産者によって栽培され、“公正に取引”された“高品質”な豆の証です。これまでに、世界中で100万人以上の生産者や労働者がC.A.F.E.プラクティスに参加しています。
 
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コーヒー豆のパッケージの裏にコンサベーション・インターナショナルのマークがつけられる

アグロノミストの情熱が人を動かす

スターバックスの取り組みは、ただC.A.F.E. プラクティスのガイドラインを伝えて守ってもらうというだけではありません。農家を支援する「ファーマーサポートセンター」を置いて、現地の状況に合ったサポートを行っています。

そこでは「アグロノミスト」と呼ばれる農学者が、高品質のコーヒー豆をより多く収穫できる方法を生産者に伝えたり、今後の気候変動に耐えられる苗を開発して無償で配布したりしています。
 

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木を植える間隔や、剪定の方法などを指導する。木の寿命も考慮に入れて、収穫量が安定するように農家と一緒にプランニングしていく

ぱっと見てすぐに分かるくらい、C.A.F.E.プラクティスの農園は他と比べて緑の元気さが違うんです。アグロノミストが関わることで、1本の木から収穫できるコーヒー豆の量も、従来の1.5〜2倍になるそうです。収穫量が増えることで生産者の収入も増え、生活が安定します。

田原さんがルワンダを訪れたときは、コーヒー豆の生産に携わっている現地の人々が歓迎のダンスをしてくれたのだそう。

歓迎を受けて「現地の生産者とスターバックスとの関係がうまくいっているんだな」というのを実感しました。アグロノミストが農場を案内してくれたのですが、彼らはどこへ行っても生産者たちとフレンドリーに握手やハグをしていました。

現地の文化を理解し、現地の言葉で話せるということがプラスにはたらいているのはもちろん、コーヒー豆の生産を通して現地の人々の暮らしをよくしたいという情熱が伝わっているのだと思います。

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ダンスで歓迎してくれたのは農園や加工工場で働く人たち。スターバックスのコーヒー豆の生産地は標高900メートル以上の高地にある。空が近くて、朝は鳥のさえずりが耳に心地よい(撮影:渋谷敦志)

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「収入が増えてレンガの家を建てられた」と誇らしげに語ってくれた生産者(撮影:渋谷敦志)

現在、アグロノミストとして活躍しているのは、もともと現地でコーヒーの生産に何らかの形で関わっていた人たちです。それぞれの地域の現状をよく理解したうえで、無理なく取り組める方法を一緒に考えていくというスタンスをとっています。

多額の資金を投入して大がかりな設備をつくるというやり方ではなく、それぞれの農場のサイズに合ったアプローチをしていきます。

とはいえ、支援先の農家にとってスターバックスとの取引は義務ではありません。スターバックスの目的は、環境になるべく負荷をかけずに高品質なコーヒー豆を継続的に生産する環境を整えること。そして生産者の生活の向上させること。

取引のある農家だけが潤えばよいというのではなく、その地域全体がよりよくなることを目指している活動なのです。

そんな志を胸に、土壌や苗の研究をしたり、片道2時間かけて農園に行って生産者とコミュニケーションをとったりしているアグロノミストたちの情熱は並々ならぬものがあります。

コーヒーの苗が成長して豆が収穫できるようになるまでには3〜5年。成果が出るまでに時間のかかる仕事です。また、年配の農家の方々に新しいやり方を取り入れてもらうには、なかなか苦労もあるようです。

ふだん日本で働いていると、どうしても生産地のことは遠い存在になってしまいがちですが、実際に現地に行ってアグロノミストの情熱にふれると、彼らの様子をもっとたくさんの人に伝えたい、という気持ちになります。

フェアトレードコーヒーの日

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2014年5月10日、「コットンの日」「世界フェアトレード・デー」にちなみ、IID世田谷ものづくり学校で開かれた「エシカルファッションカレッジ」でのひとコマ

コーヒー生産地とのつながりをお客様に感じてもらおうと、スターバックスは2010年から毎月20日を「フェアトレードコーヒーの日」としてコミュニケーションしています。

フェアトレードとは、より公正な国際貿易を目標とし、対話・透明性・敬意の精神に根ざした貿易パートナーシップのこと。

フェアトレードについては、中学の英語教科書で扱われていたり、センター試験の問題文に使われたりしており、若い人ほど認知度が高い傾向があります。

そんなフェアトレードを入口として、エシカル・ソーシング(倫理的調達)をお客様に知ってもらうための第一歩として、「フェアトレードコーヒーの日」がスタートしました。

この日は国際フェアトレード認証を受けている「フェアトレード イタリアン ロースト」をドリップ コーヒーで提供します。
 
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フェアトレードの認証を取得できるのは、民主的に運営され、かつフェアトレード登録リストに登録された小規模のコーヒー生産者の組合や協会に属する生産者のコーヒー豆

世界のコーヒー総生産に占めるフェアトレード認証コーヒーは4.5%ほどですが、実は米スターバックス社が世界最大の国際フェアトレード認証コーヒーの購買者になっています。

2010年の時点では「フェアトレード」という言葉を知らない人も多かったのですが、この5年の間に知っている人が増えてきたというのを肌で感じています。

最近ではフェアトレード関連のイベントや大学生が主催する勉強会に招かれることも増え、フェアトレードをはじめ、C.A.F.E.プラクティスの取り組みについてお伝えしています。

とはいえ、イベントなどでお話をすると、参加者から「スターバックスがこんな取り組みをしていることを知らなかった」という声が上がるのも事実です。これからもっと知っていただけるよう発信していかなければ、と思います。

“99%”の意味

2015年4月、C.A.F.Eプラクティスの開始から11年を経て、スターバックスは99%のコーヒーを倫理的に調達することに成功しました。

これはC.A.F.Eプラクティスやフェアトレード認証に基づいて倫理的に取引された豆の比率が99%に達したということで、コーヒー小売業として最大規模となります。

2008年に「2015年までに100%を目指す」という目標が掲げられたのですが、その話を聞いたときは、正直なところ、本当にできるのかな? と思いました。

でも、実際にこうして倫理的調達が99%に達し、また、ファーマーサポートセンターでの研究の成果の公開は、コーヒー生産を生業とする2500万人もの人々に影響を与えると考えられています。

目標の100%まであと1%なのに、と思った方もいるかもしれません。しかし、その1%もスターバックスにとっては大きな意味があるようです。

100%の実現はできなくはないと思います。すでにC.A.F.Eプラクティスの認証を受けている農家からのみ豆を買えばいいわけですから。でもそうしないのは、スターバックスが常に新しい生産者を受け入れるという姿勢をとっているからです。

スターバックスの基準に達しなかった場合、どうすれば改善につながるかを、一つ一つのサンプルに対して生産者にフィードバックしています。

一軒の農家との間に交わされる契約関連の書類だけでも膨大な量なのに、採用に至らなかった農家にまでフィードバックをするというのは大変な作業になります。

それでも、高品質な豆を持続的に生産できる農家を増やすため、その手間は厭わないんです。

ファーマーサポートセンターは、2004年に設立されたコスタリカを皮切りに、ルワンダ、タンザニア、コロンビア、中国、エチオピア、そしてもうすぐインドネシアにもできる予定なのだそうです。
 
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コーヒーを飲んだことのない生産者も少なからずいる。スイスのオフィスと同じ状態でコーヒーが飲めるような設備を整え、実際にコーヒーをいれて飲みながら、どの段階をどのように改善すればおいしくなるのかを納得してもらいながらアドバイスする(撮影:渋谷敦志)

スターバックスは次のようなミッションを掲げています。

人々の心を豊かで活力あるものにするために-
ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから

このミッションのもと、自社の利益だけでなく、コーヒー業界全体のことを考え、こだわりを持って追求し続ける姿勢からは、リーディングカンパニーとしての気概が感じられました。

今まで何気なく飲んでいたコーヒー。その一杯のために、コーヒー豆の品質を追求しながらつくっている人がいて、その人たちの生活をよりよくすために情熱を傾けている人がいて、地球環境を守るために奔走している人がいる。

そんな人たちに思いを馳せてみると、いつもの一杯の味わいが変わってくるかもしれません。