ISSUE☆おすすめの連載! わたしたちエネルギー

1 year ago - 2014.11.23

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ピンチをチャンスに! 石油依存社会から抜けだして再生可能エネルギー率70%を目指すハワイから僕たちが学べること

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オアフ島、アラモアナビーチパークを望む

わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

ノンフィクションライターの高橋真樹です。

今日は、ぼくが10月に訪れたハワイで起きているエネルギーシフトについて紹介します。

自然エネルギーというとドイツや北欧の話はよく聞くけど、ハワイって…?と思う人もいるかもしれません。

でも実は、現時点でハワイの電力は20%以上が自然エネルギーでまかなわれているのです。ちなみに日本ではまだ電力の2%程度しか使われていません。これだけでも、すごい事ですよね。

ぼくは2010年にハワイを取材して、『観光コースでないハワイ』という本を書いたのですが、その当時はほとんど目立たなかったソーラーパネルや太陽熱温水器が、屋根の上にかなり増えていることからも、この変化がわかりました。

石油に頼りすぎたツケ

ハワイ州は、なぜエネルギー政策に熱心に取り組むようになったのでしょうか。理由は、2008年に急激に石油の値段が上がったことにあります。ハワイは、アメリカ本土から4000キロも離れ、資源がないことから、食べ物もエネルギーもほとんどを輸入に頼っています。

タンカーで運ばれてくる石油を使って火力発電を行うだけでなく、生活になくてはならない飛行機や自動車の燃料として活用していました。そのため石油への依存度は全米で飛び抜けて高く、2005年の段階でエネルギーの90%が石油になっていたのです。

そして2008年に石油が値上がりすると、大きな影響を受けたのです。2005年と比べて、2008年段階では石油の使用量は3%しか増えていないのに、支払っている価格は57%も増えてしまいました。

今では一世帯あたりの電気代の平均値はひと月2万円を越えていて、これは全米平均の3倍以上の価格にあたります。

このままでは経済が破綻してしまうと考えたハワイ州政府は、2009年に「ハワイ・クリーンエネルギー・イニシアチブ(HCEI)」という法律をつくり、エネルギーシフトに舵を切ります。「依存型から自立型へ変わるんだ」と決意したわけですね。
 
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下がアメリカ本土平均、上がハワイの電力料金。(2009年3月から2014年3月までの間)

エネルギーの70%を自給するという目標

そこには具体的な数値目標も示されていて、2030年までにクリーンエネルギーでハワイのエネルギー全体の70%をまかなうと定めています。

これは電力に限った事ではなく、航空機や自動車の燃料も含めたエネルギー全体の話なので、ほとんどすべてのエネルギーを輸入していたハワイにとっては大変な数値です。

その70%の内訳は、40%を自然エネルギーでまかない、30%を省エネと節電で減らそうということになっています。
 
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オアフ島の私立イオラニ高校には、校舎のほとんどの屋根にソーラーパネルが設置され、ほとんどの電気を自給している。公立校は国からの補助が出るが、ここでは自主的に設置したという。

野心的な目標を掲げたHCEIでは、さらにこう宣言しています。「ハワイ州は、クリーンエネルギーの分野で世界のリーダーになる」と。この意気込みはスゴイですよね!エネルギーのほとんどを輸入していた当時、一気に世界のリーダーになると言ってしまうわけですから。

背景には、エネルギー危機を脱するというだけでなく、観光や軍事に依存している不安定なハワイ経済の3本目の柱として、自然エネルギーを産業にしていこうという狙いもあったようです。まさに「ピンチをチャンスに!」というわけです。

爆発的に増える発電と省エネ設備

この法律をきっかけに、まず太陽光発電の設置が民間主導で爆発的に増えました。ハワイ州そのものはお金を持っていないのですが、国の補助金などを活用して太陽光発電を推奨した結果、2008年から2013年までの5年間で20倍もの設備が増えました。

今では、集合住宅も含めて3万世帯が太陽光発電を設置しています。太陽光発電設備を設置した家庭では、月に2万円を越えていた電気代が3000円程度になるなど、大幅に光熱費が安くなりました。

また、2011年には、オアフ島北部のノースショアに12基の風車が導入されています。この風力発電は、7700世帯分の電力を生み出しています。
 
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自然エネルギーの電力に占める割合と、省エネした割合は年々増えていっている。

発電だけではありません。州政府は2010年以降、新築住宅への太陽熱温水器の設置を義務づけました。

太陽熱温水器は、太陽の熱で水を温める装置です。太陽光発電に比べて価格が安くエネルギー効率が高いので、これを活用すればシャワーや給湯などお湯を沸かすために使うエネルギーが節約されます。

また、現在は実験的に運用されていますが、スマートグリッドを導入して、使用状況に合わせて電力を効率的に運用することで、節電効果を高めようとしています。

燃料代削減のカギは電気自動車

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アラモアナショッピングセンターにある、電気自動車専用駐車場と充電ステーション。

燃料部門で省エネのカギになりそうなのが電気自動車(EV)です。電気自動車は、たとえ火力発電でつくった電気を使用した場合でも、ガソリン車に比べて同じ距離を走る際にかかる燃料は遥かに少なくなるとされています。

しかもその電気を自然エネルギーでつくって充電するのであれば、二酸化炭素も排出しません。人口の密集するオアフ島は比較的狭い地域なので、EVをうまく活用すれば十分に日々の足として使用できます。州の燃料費を削減するにはもってこいの存在です。
 
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産業経済開発局のマーガレット・ラーソンさん。

普及を担当しているのは、日本では経済産業省にあたる産業経済開発局です。そこでEVを担当しているマーガレット・ラーソンさんによると、2014年9月現在、ハワイのEVは約3000台。そして民間企業が設置したEVステーションが420基あります。

EVステーションでは、無料で充電することができますが、ハワイではまだまだ少数派。普及していくかどうかは、このEVステーションを増やせるかどうかにかかっています。そこで州政府は、EVステーションを駐車場100台につき一つは必ず設置するよう義務づけて指導をするなど、積極的な呼びかけを行っています。
 
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EVステーションの場所を調べるアプリを、マーガレットさんの部署が製作して無料配布している。

20年後を考えた子ども向け教育プログラム

発電設備や電気自動車を増やすだけでは本当の意味では社会は変わりません。15年、20年という単位でエネルギーシフトを実践するためには、大人はもちろんですが、子どもたちの意識改革も欠かせないからです。

そこで、HCEIの理念に基づいて、教育省は「カヘイプログラム」というクリーンエネルギー社会をめざす教育を進めています。このプログラムを強力に押し進めた教育省の担当者レイモンドさんによると、プログラム自体は20年間の契約で業者に委託、それをまず30の公立校から試験的に行っているとのことでした。

その30校では、教育だけでなく実際に太陽光発電を設置するなど、電力自給を行う予定です。ハワイ州全体では250の学校があるので、ここでの成果を受けて、対象を段階的に増やしていこうと計画しています。
 
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「カヘイプログラム」を進めるレイモンドさん

ハワイのエネルギーシフトは第二段階へ

こうして2009年以降、州政府が本腰を入れることで広がってきたハワイ社会のエネルギーシフトの取り組みですが、現在は大きな転換点を迎えています。まず、太陽光発電が増えすぎて、容量が限られた電力会社の送電網につなげないという問題が、2013年の後半あたりから出てきました。

ハワイで電力事業を担っているのはハワイ電力という会社ですが、ここが地域によっては送電網への接続を拒否するようになったのです。2014年の9月からは日本でも同様の問題が起きていますが、日本はまだ自然エネルギーの電力は2%なので、20%まで堪えたハワイ電力は良い方だと言えるかもしれません。

いずれにしても、2009年から急成長してきたオアフ島での太陽光発電の増加にはストップがかかっています。
 
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ハワイ電力のコントロールセンター。ここでオアフ島の電力需給を調整している。

州政府と自然エネルギー受け入れについて合意しているハワイ電力としては、送電網の強化や蓄電池の導入などで、徐々に自然エネルギーを受け入れる量を増やしていきたいと考えています。

しかし、設備投資にはお金がかかります。その費用を今すでに高い電気代を支払っているハワイの人々が払えるのかという課題があります。

また、すでに太陽光発電を設置した家庭は電気代が安くなっていますが、設置していない家庭の中には、付けたくてもハワイ電力に禁止されているので付けられないという人もいます。住民の間に不公平感が出てきていることは確かです。

その状況を州政府も黙って見ているわけではありません。例えば、人口の少ないハワイ島では地熱発電のポテンシャルが高く、この電力を海底ケーブルでオアフ島につないで送れないかという計画も検討しています。しかし、技術面、資金面などで、実現までには多くのハードルがあります。

さらに、ぼくが見たところは本質的な課題があるようです。このハワイ・クリーンエネルギー・イニシアチブそのものが、州政府の提案で上から実施されて来た取り組みなので、まだまだ一般市民には浸透していないのです。

例えば省エネ、節電を大きなーテーマに掲げてはいるものの、日本では誰もが思いつくはずのエアコンの温度調節のような項目が入っていませんでした。レストランや学校など、多くの人が利用する施設ではエアコンを効かせ過ぎで、体が冷えきるほど寒いのです。

こうした節電意識を変えていくことは時間がかかりますが、本当の意味で改革を進めるなら、人々の意識を変えていく事も率先して行う必要もあるでしょう。

ハワイのエネルギーシフトへの挑戦は第一段階が終わり、現状のシステムのまま進めていける部分はもう限界に近づいてきています。今後は、システムそのものを見直しながら、どのように自然エネルギーを増やし、省エネできるかという次のステップにさしかかっています。
 
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なんとハワイのハーレー・ダビッドソンは太陽光で自家発電を行い、完全なオフグリッド(電力自給)をしている。

日本で一番小さな面積の県は香川県ですが、ハワイの大半の人口が暮らすオアフ島は、その香川県よりもさらに小さな離島です。そんな離島でエネルギーシフトを実践するのは制限が多く、もともと大変困難な挑戦と言えるでしょう。

それだけに、この取り組みを始めて5年が経ち、成果とともにこれまで出てこなかったたくさんの課題が噴出している状態でもあります。しかし、高い目標を掲げて始まったこの歩みを、世界が注目している事は間違いありません。

日本では、困難に突き当たるとすぐにあきらめる雰囲気になってしまいます。何度も言いますが、日本はまだ自然エネルギーの電力は2%程度なのに、「自然エネルギーはもうダメだ」みたいな論調が出てきています。

ハワイでは少なくとも、目の前の困難をどうクリアしていくかについてみんなが前向きに知恵を出し合っています。そうしたハワイの姿勢から、きっと学べる事はあるはずです。皆さんがハワイを訪れた際には、そんなことにも思い巡らせて欲しいと思います。

(Text: 高橋真樹)
 
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高橋真樹(たかはし・まさき)
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。世界70カ国をめぐり、持続可能な社会をめざして取材を続けている。このごろは地域で取り組む自然エネルギーをテーマに全国各地を取材。雑誌やWEBサイトのほか、全国ご当地電力リポート(主催・エネ経会議)でも執筆を続けている。著書に『観光コースでないハワイ〜楽園のもうひとつの姿』(高文研)、『自然エネルギー革命をはじめよう〜地域でつくるみんなの電力』、『親子でつくる自然エネルギー工作(4巻シリーズ)』(以上、大月書店)など多数。

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