”オフグリッド”と聞くと、皆さんはどんなことをイメージしますか?
独立型太陽光発電であったり、ダウンシフトした暮らしであったり、はたまた、「なんだかよく分からなくて難しそう」なんて声も聞こえてくるかもしれませんね。
これからご紹介する自作オフグリッドカー、その名もザリガニ号はライター、フォトグラファーの新井由己さんのオフィスです。
ソーラーカーとは違い、新井さんが仕事で使うノートパソコンやiPhone、カメラのバッテリーやストロボに使用する電池などを充電する電気を賄うため、独立式太陽光発電システムを導入したもの。
いわば、新井さんのライフスタイルに合わせ、オフグリッドを取り入れた車です。
新井さんは言います。
「オフグリッドは楽しい!」
オフグリッドはなぜ楽しいのか?これから始まる新井さんとザリガニ号のチャンレジとは?今回はオフグリッドカーで全国のオフグリッドなひとびとを取材しながら仕事をする新井さんをご紹介します!
自作オフグリッドカー”ザリガニ号”ってどんな車?
50wのソーラーパネル2枚を並列につなげ屋根に搭載した自作オフグリッドカー、ザリガニ号。
ザリガニ号をオフグリッドカーに改造している様子。配線を車内に通し、設置したバッテリーにつなげる。
右側ゴルフカートの再生バッテリー(ディープサイクル60Ah)がメインバッテリー。
千葉県いすみ市のブラウンズフィールドにて”ソーラーオフィス車展示”の様子。板張りにDIYした床、サイドのデスクの下ではバッテリーが充電中。そこから電源を取り、外を眺めながらノートパソコンで原稿を書くそう。
もともと旅が好きで旅することが仕事にならないかという発想から、ライターという職を選んだという新井さん。
1990年代、まだインターネットがなかった頃から、50ccのスーパーカブにニッカド電池用の小さなソーラー充電器を設置し、各地へ取材に。電池で動くワードプロセッサーで原稿を書いては、ISDN公衆電話から原稿を入稿していたそうです。
ライター、フォトグラファーの新井由己さん。現在、お遍路のドキュメンタリー映画を撮影中。
ザリガニ号が誕生してからは、仕事に使うPCやカメラのバッテリーの充電、寝泊まりする場所の心配がなくなった新井さん。
以前は仕事柄、長期取材になると家を開け、各地で宿泊やテント泊をしていたそうですが、現在はザリガニ号を走らせながら、取材。途中、今日一番の景色の場所に駐車し、車サイドの窓に広がる景色を眺めながら仕事というスタイルになりました。
今日のオフィスはここです!なんて写真をfacebookに投稿すると、「いいないいな」って。
「いいだろう」なんて思いながらもその反響が嬉しいですね(笑)。
現在、新井さんは全国のオフグリッドな人々を取材し紹介していくという作業と、お遍路を題材としたドキュメンタリー映画の撮影のため、ザリガニ号に乗ってその準備を進めています。
様々なオフグリッド事例から見つける”自分にあったオフグリッド”
そもそもなぜ新井さんはオフグリッドカーを自作し、オフグリッド取材を始めたのか?これまでの背景について伺いました。
「車の改造と機材の電源の確保と電気の自給を考えたら、ある日ぱっと独立型太陽光発電とつながった」という新井さん。
7年前に四国のお遍路を歩いたことがきっかけで、いつかお遍路に関わる人たちのドキュメンタリー映画を撮りたいと思ってたんです。
やっと時間がとれ、今年の頭から現地視察に行く準備を始めました。長期の視察になるので、当初は機材の充電のため、宿に泊まりながらと考えていたんですが、ふと、自分の軽バンを車中泊仕様にDIYし、さらにソーラーパネルを乗せたら、これは行けるんじゃない?と思って。
太陽光発電に詳しい友人などの手を借り、今年の春に「ザリガニ号」は完成。50wのソーラーパネル2枚を屋根に乗せ、ゴルフカート用バッテリー(60Ah)をメイン充電。予備として車用バッテリー(30Ah)3つを交互に充電しながら電気を全て賄い、1か月のオフグリッド生活を実現させました。
高知県室戸市の室戸岬にて。ザリガニ号オフィスからの光景。
お遍路の取材がきっかけで誕生した「ザリガニ号」ですが、一方で、「オフグリッドな人々」の取材も始めた新井さん。その想いを新井さんはこう話します。
去年の夏頃からオフグリッドな暮らしを実践する人たちの取材をしたいという構想があって、四国の視察と同時に取材を始めました。
「もう、原発に頼りたくない」という人は少しずつ増えていて、オフグリッドにチャレンジし始めている。家を丸ごと独立電源にしている人もいれば、そこまでは手が出ないけど、例えば、自分のパソコンだけ自分でつくった電気で動かす、みたいに小さくてもいろいろ実践している人が各地にいます。
そういう人たちやいろんなやり方を紹介すれば、「これだったら自分にもできるかも!」が見つかる。自分に合ったオフグリッドを見つけることで「電気は自給できるんだ」っていうことに気づいてもらいたいなと思ったんですね。
「オフグリッド取材なんだから、オフグリッドカーで行った方が話も早いでしょ。」と笑う新井さん。
3.11の震災の後、エネルギーのことを改めて考えたという新井さんは、facebookに”自分でつくる未来”というページを立ち上げ、自分でエネルギーをつくりたい人に有益な情報を随時掲載しています。
その中で新井さんは、こんなコメントを寄せています。
何が必要で何が必要ないのか、何が問題でどこに答えがあるのか。電気や石油を使わないで、自然にあるものを最大限効率よく使うための技術を見つけて、これからの未来をつくっていきましょう。
私たち一人ひとりが「答え」を生きることができれば、多くの問題は知らないうちに解決されているはずです。
その答えのヒントになればと、新井さんはオフグリッドカーでオフグリッド取材を始めているのです。
オフグリッドすると見えてくる、自分に必要なエネルギーのこと
春から”ザリガニ号”のオフィスを拠点に各地で仕事をする新井さんですが、改めて、オフグリッドを生活に取り入れたことで見えてきた”学び”や”気づき”について伺いました。
シンプルに、自宅やホテルのコンセントから解放された自由さが嬉しいです。多くの電源は、蛇口をひねればいくらでも出てくるように電気が使える。でも、それだと自分がどれだけ電気が必要なのかわかりづらいですよね。
僕が仕事のほか、ちょっと快適に過ごすためにどれだけ電気が必要なのか、ソーラーで充電したバッテリーの減り方から改めて気づきました。天気のいい日ばかりではないしね。
天気のいい日はパネルを太陽に当てたいから日向に駐車して仕事したい!でも、暑い!なんてジレンマと戦いながらも、ソーラー発電で蓄えた電気で自分の仕事がまかなえているのは、何より気分がいいもんですよ(笑)。
夜間の執筆には3Wの車用LEDランタンのほか、手回し発電のランタンも使用。
明かりも昼間に太陽の力で発電した電気で賄う
2枚のソーラーパネルで4つのバッテリーを交換しながら充電するシステムの”ザリガニ号”ですが、満充電で晴天だと電圧が高い状態になり、直流を交流に変換するインバーターが動かなくなることもしばしば。
また、バッテリーが満タン状態なのに常に発電しているという、電気が余っている状態もあることから、「自分に必要な電気の量」を把握することの大切さに改めて気づいたと新井さんは言います。
先日、手に入れたという多種対応の携帯充電器。「電気、余ってるから使って使って!って言いたい」と笑う新井さん
新井さんから届く”オフグリッドなひとびと”
新井さんは「電気は家庭菜園化できる」と言います。
ベランダでミニトマトを育てるように、小さなソーラーパネルを置いて電気をつくる。
田んぼでお米をつくるように、少し大きなシステムで電気をつくる。野菜をつくるように電気もつくれるんです。家庭菜園くらいの気持ちで電気の自給をする人が増えるように、いろんな事例を紹介していきたい。
すでに取材を開始されている新井さんですが、その記事はこれからgreenz.jpでみなさんにお届けしていきます。
今日もどこか素敵な場所のオフィスから届く”オフグリッドなひとびと”
自分にあった事例が見つかる、そんな新井さんの”オフグリッドなひとびと”。
”オフグリッドの楽しさ”や”自分に必要な電気のこと”、ちょっと気になってきたら、家庭菜園を始めるくらいの気持ちで電気の自給に挑戦してみませんか?
そのヒントは新井さんがザリガニ号に乗って、みなさんに届けてくれますよ!