岩手県陸前高田市で、地元の杉を使い、家具から家まで組み立てられるDIYキット「KUMIKI」の開発に取り組んできた「KUMIKIプロジェクト」。
以前こちらの記事でも紹介した通り、2012年3月に震災復興の取組みとしてスタートし、そして今年4月、この「KUMIKI」の木材キットがついに販売されます。
2014年3月1日には、それを記念して「手でつくる暮らしを楽しむ」をテーマに、「KUMIKI fes」が開かれました。「ただ商品発表会をするのではなく、もっとみんながつながるイベントにしたい」という主催者の思いがこもったイベントのレポートをお届けします。
KUMIKIプロジェクトの紹介ムービー
建物と家具をつくるKUMIKI
KUMIKIプロジェクトは、震災後、代表の桑原憂貴さんが陸前高田市を訪れ、地元の気仙杉を何かに活用できないか、とアイデアを練ったところから誕生しました。
商品をつくることで被災地に新たな仕事をつくり、また国産の木材を使うことで美しい森をつくり、さらにみんなでKUMIKIを組み立てることで人々のつながりをつくる、このプロジェクト。
2013年6月には、KUMIKIを使って、地元の人たちと陸前高田市に集会所を建てたそうです。それも、わずか二日間でできてしまったというのだから驚きです。
陸前高田市での建設のようす
被災地で始まったプロジェクトですが、今年4月1日から発売されるのは、建物をつくる「KUMIKI HOUSE」ともう一つ、机や椅子をつくる「KUMIKI LIVING」です。
「KUMIKI LIVING」は“リビングでつくれる”というコンセプト通り、ノコギリなどの刃物を使わずに組み合わせるだけで、簡単に家具をつくることができます。
また接着剤を使わないので、その時々に合わせて、つくり直すことができるのです。例えば、子どもの成長に合わせて椅子を高くしたり、お絵かき机にしてみたり…。同様に家具にできるベビーベッドも、現在開発中のようです。
KUMIKIをつくってみた!
まずはKUMIKIを体験しよう!と、みんなで小舎(こや)をつくることに。使用したのは、積み木のように凸凹をはめ込むだけで壁や床をつくることのできるキット「KUMIKI HOUSE」。
宮崎県で考案された「つみきブロック」という住宅用建材パーツをもとに、特別な技術や知識がなくても、組み合わせていくだけで誰でも家をつくることができます。桑原さんは、こんなエピソードを教えてくれました。
桑原憂貴さん
つみきブロックを考案した、株式会社つみきハウスの中尾さんに開発に協力してもらいました。
中尾さんは山のなかに放置されている間伐材を何かに利用できないか考えていたとき、お孫さんに「おもちゃのブロックでお家をつくってほしい」と言われて、木材を積み木のようにして家をつくることを思いついたそうです。
そしていろいろな試行錯誤を経て完成したのが、このつみきブロックです。
その後、さっそく参加者みんなで組み立ててみました。参加者のほとんどがKUMIKIを触るのも初めてでしたが、すぐに要領をつかんで、あっという間に組み立てることができました。
力仕事ではないので女性でも簡単にできます。
ブロックを入れる人とゴムハンマーで叩く人に分担。一人では作れないという点もミソのようです。
床もこの通り、はめるだけ。
完成!
自分の手で暮らしをつくる、とは?
続いて“暮らしを自らの手でつくっている”5人のゲストによるプレゼントーク。それぞれが手掛けるプロジェクトについて、一人12分ずつという時間制限のなか、みなさん話し足りないと時間延長する方が続出でした。(笑)
トップバッターは、オーダーメイド賃貸で知られる「メゾン青樹」の青木純さん。扱っている物件の一つ、賃貸マンション「ロイヤルアネックス」と、渋谷を中心に展開しているコワーキングスペース「co-ba」による新たなコワーキングスペースでは、KUMIKI LIVINGを使った家具や本棚を入れる予定だそう。
続いて、新しい結婚式のかたちを提案する「Happy Outdoor Wedding(H.O.W)」の柿原優紀さん。
「これからの島のくらしをつくる学校」や「RELEASE;」などのプロジェクトを手掛け、「gift* Inc.」と「IMPACT HUB KYOTO」、社団法人OPEN GARDENを運営する桜井肖典さん。
「OCICA」について紹介してくれた、一般社団法人つむぎやの友廣裕一さん。
そして千葉から福岡へ移住し、“新人猟師”という肩書になった畠山千春さん。
ゲストの5人に共通するのは、理想とする暮らしや仕事を自分でつくっているということ。そして、自分で作るには手間も時間もかかるけれど、敢えてその道を選んでいるということ。
参加者全員でのトークセッションでも、桑原さんから「なぜそんなに手間がかかることをするのか?」という疑問が出ていましたが、青木さんからは「楽しいから」とシンプルな回答が。
友廣さんも、
今、石巻のおばちゃんたちと一緒にOCICAを作ったり食堂を運営したりしているのは、大学卒業後に国内一人旅をしたときにお世話になった人たちへの恩返しをしているような感覚です。
と、ヒッチハイクをしながら全国の限界集落を訪ね、民家に泊めてもらいながら農業・林業・漁業・畜産業等の第一次産業の手伝いをして回った「ムラアカリをゆく」プロジェクトについて話してくれました。
友廣さん(左)と桜井さん(右)。お二人ともいろんなプロジェクトをやっていて「自分でも何をやっている、と言えない(笑)」。
また話題はお金について移り、柿原さんの「買い物は投票だと思っています。どのお店・商品にするか、自分の票を入れるという感覚で買い物をしています」という発言にはみんな頷いていました。
一方で、現在、福岡県・糸島に住んでいる畠山さんは、「食べ物は畑や田んぼをやったり、猟をしたり、近所の人に分けてもらったりして、全部ではないけれど自分たちでまかなっています」と自給自足の暮らしぶりを紹介してくれました。
左から桑原さん、畠山さん、柿原さん
つくる楽しさと、つながる喜びを提案していきたい
最後に、桑原さんからKUMIKIプロジェクトへの思いを話してもらいました。
震災前、僕はもともと東京で仕事をしていましたが、周りの人が鬱になっていたりして、もっと生き生きと暮らせないか、気持ちを崩した人が元気になるにはどうしたらいいか、と考えていました。
そんな言葉とともに、パワーポイントにはこんな文章が並んでいました。
お金があっても、不安は増えつづけ
オンラインでつながれるのに、より孤独になっている。
便利にはなったけど、時間はなく
物は溢れているのに、愛着の湧くものは少ない。人々がつながりを感じ、手間を愛着に変え、消費から愛用すること。
生活の知恵を伝統技術から学び、暮らしを手づくりしていくこと。
これこそが、KUMIKIプロジェクトの伝えたいこと。復興支援を越えて、全ての人に現代の暮らしを見つめなおす提案をしているように感じました。その理由として桑原さんはこう言います。
「今よりほんの少しだけ、居心地の良い日常をつくるために」。
みなさんも、普段の暮らしを身の回りのものから改めて考えてみませんか?もし何かぬくもりやつながりが足りたいな、と思ったときは、KUMIKIを取り入れてみてはいかがでしょうか。
(写真:望月小夜加)