ISSUE☆おすすめの連載! a Piece of Social Innovation

2 years ago - 2013.10.07

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キーワードは「つくらない広告」。 電通の並河進さんに、ソーシャルデザインの未来を聞いてみました

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

2008年から始まった「nepia 千のトイレプロジェクト」の広告は、一度は目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。王子ネピアのトイレットペーパーやティッシュの売上の一部で、東ティモールのトイレづくりを応援するというプロジェクトですが、こうした動きは「ソーシャルデザイン=希望をつくる仕事」として注目され、今や多くの人が「気づき」と「社会をよくするためのアイデア」を結びつけ、ソーシャルクリエイターとして活躍しています。

一人ひとりが日常の生活のなかで、仕事のなかで、何らかの社会的な課題に気づき、その気づきから動くことで社会は大きく変えられる。こうした考えで様々なソーシャル・プロジェクトを手掛けている、電通 ソーシャル・デザイン・エンジンのクリエイティブディレクター並河進さんに、ソーシャルデザインの面白さや未来について、いま考えていることをお聞きしました。

並河 進さん。電通ソーシャル・デザイン・エンジン所属ソーシャル・デザイナー/クリエイティブ・ディレクター/コピーライター。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・クリエイティブディレクター、宮城大学、上智大大学院、東京工芸大学非常勤講師。著書に『下駄箱のラブレター(ポプラ社)』『しろくまくんどうして?(朝日新聞出版社)』『ハッピーバースデイ3.11(飛鳥新社)』『Social Design 社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた(木楽舎)』ほか。

並河 進さん
電通ソーシャル・デザイン・エンジン所属ソーシャル・デザイナー/クリエイティブ・ディレクター/コピーライター。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・クリエイティブディレクター、宮城大学、上智大大学院、東京工芸大学非常勤講師。著書に『下駄箱のラブレター(ポプラ社)』『しろくまくんどうして?(朝日新聞出版社)』『ハッピーバースデイ3.11(飛鳥新社)』『Social Design 社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた(木楽舎)』ほか。


押し付けるのではなく、みんなでつくっていく

まず、並河さんの広告事例を見ていくことにしましょう。

ひとつめは、「nepia 千のトイレプロジェクト」。世界には、何十万人もの子どもたちが、下痢よる脱水症状などの理由で5歳の誕生日を迎えることなく、命を落としていると聞きます。トイレを使う習慣がなく、不衛生な環境に暮らしているのがその原因の一つ。その子たちの命を守るのは、トイレットペーパーをつくっている会社の使命ではないか…。こうして2008年から始まったのが、「nepia 千のトイレプロジェクト」です。

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王子ネピアのトイレットペーパーやティッシュの売上の一部で、東ティモールのトイレづくりを応援するというもので、2013年8月現在、4,700を超えるトイレが完成し、さらに1,000以上の新しいトイレの建設を予定しています。

この手法はコーズ・リレーテッド・マーケティングと呼ばれていて、消費者はコーズ(大義)でものを選んで、メーカーは売上につながることで継続的な社会貢献ができるというもの。しかし、広告を媒介にして、本当に人の命と商品の売上をつないでしまってもいいのだろうか、という迷いがあったそう。

僕はいろいろなCMをつくってきたわけですが、いい企業ですよ、いい商品ですよと打ち出すCMをつくるよりも、その企業が、「社会のためにいいこと」を実際にやったほうがいいとずっと思っていたんです。そういう思いが、現在の数々のソーシャル・プロジェクトにつながっているのかもしれません。

初めて訪れた東ティモールは、衝撃的でした。内戦の傷跡が生々しく残っていて、爆撃で家屋の2階が吹き飛んだ家屋に、家族が暮らしていたりする。こんな状況を、広告としてモチーフにするのかと、心の葛藤がありました。そんな時、背中を教えてくれたのは、このプロジェクトに関わる方々からの言葉でした。

一人は、日本ユニセフ協会の浦上綾子さん。こうしたプロジェクトを通して東ティモールの現状を伝えることも、その問題を変えていくきっかけになると言われました。そしてもう一人は、王子ネピアのマーケティング部部長(現・取締役マーケティング本部長)の今敏之さんで、押し付けるのではなくて、みんなも一緒にやろうよって感じでいこうよ、と。

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千のトイレプロジェクトのキャッチフレーズは、「うんちをする。僕らは生きている。」そして広告ビジュアルは、可愛らしい女の子の笑顔。その子が描いたうんちの絵と、お医者さんになりたいという夢も一緒に載っています。

年月を経て、数字の上でも、死亡率が減ってきています。それでも、東ティモールの水と衛生の状況は、まだまだ厳しい状態。さらに多くの人たちにトイレを広げていくために力を入れていかなければいけないのは、“先進国である僕たちが何かをつくってあげる”ということよりも、トイレを使う正しい衛生習慣の普及と、トイレを自分たちでつくっていける技術の指導。プロジェクトが進行する中で、ユニセフの現地での支援は、モノから、ソフトへ変わっていきました。

生活習慣を変えるというのは大変なことで、村人が本当にトイレが必要だということが理解できないと、トイレを使ってくれないし、つくることに参加してくれないんです。

いまでは、現地のユニセフスタッフや NGOスタッフが中心となって、村人たちの意識を変えるためのワークショップを開いています。まずは衛生についての知識を持つこと。そして、実際につかってみることで、下痢が減ったり病気が減ったりするなどの気づきを自分のからだを通して体感してもらうこと。村人たちが力を合わせて自分たちでトイレをつくろうよという、村人たちのプロジェクトにしていくことがいちばん大事なんです。

村人たちが自分たち自身で取り組むことが大きな成果を生むことを知って、僕自身の考え方も変化しました。大事なのは「つくる」ことじゃない。プロジェクトをどう「育っていくもの」にするかが大事。ソーシャル・プロジェクトにおいて、僕は、エンカレッジというか、勇気づけたり励ましたりしながら、そのプロジェクトがずっと続いていくための支援をしているに過ぎないと思うんです。

2008年にプロジェクトがスタートした翌年、東ティモールを訪れると、今までトイレがなかった村にトイレが立ち並ぶ風景を見て、王子ネピアのプロジェクトメンバーとともに強い感動をおぼえたと言います。ユニセフや現地NGOの指導のもと、村人たちが一緒につくったトイレ。村人は誇らしげに、「俺がつくったトイレだ」というふうにジェスチャーで伝えて来たそうです。「千のトイレプロジェクト」は、絆を深めながら、今もなお続いています。

クラウドファンディングで、国や自治体の手が届いていない地域の除染を

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もうひとつ、並河さんが手掛けているプロジェクトを紹介しましょう。福島県の放射能汚染の課題に向き合おうと、2011年の末に始まった「ごしごし福島基金プロジェクト」です。国や自治体による除染はもちろん行われていますが、今すぐは手が届かないところもあります。

待てば、いつかは除染されるのかもしれない。でも、今もそこに住んでいる子どもたちもたくさんいる。そこで共感してくれた仲間たちと一緒に動き出しました。

この「ごしごし福島基金」の最初の除染活動は、郡山市にある幼稚園のプールの除染と決めて、READYFOR?で支援を募集。236人の方からの支援が集まって、目標を超える支援金が集まりました。

このプロジェクトで感じたことは、支援する人が、プロジェクトを“自分のこと”として感じてくれているということです。自分は除染活動に行けないから、代わりにお願いしますといったメッセージもたくさん預かりました。236人みんながこの場所には来ることができないけど、僕は代理で来ているだけで、主役は236人の方々なんです。

除染活動が行われた柴宮幼稚園の子どもたち。大歓声で、大喜び!
除染活動が行われた柴宮幼稚園の子どもたち。大歓声で、大喜び!

除染の結果、放射線量は下がり、夏には無事にプール開きが行われ、子どもたちに笑顔が戻りました。

除染の計画では公共施設がまず先行して行われています。一般の家庭については、線量の高いところが当然優先で、遅いと2016年くらいまでかかる。でも、エリアの線量の平均は低くても、局所的に線量が高い住宅もあるんです。除染まで何年も待たなければならないのに、1マイクロシーベルト以上の線量で、その家庭には子どもがいたりする。

こうした聞こえないニーズというか、サイレントボイスというのは、丁寧に見ていかないと表面に出てこないんですね。もしかすると“おせっかい”かもしれない。でも、嫌がられない程度の“おせっかい”をしないと、こうした声は聞こえてこないと思いました。

このプロジェクトを始めたのは、企業という枠組みではなく、有志の仲間たち。個人が動いてもたいしたことはできない、という方もいるかもしれませんが、むしろ相手に顔が見える関係だからこそ、きちんとした思いを届けられるのでしょう。

2013年7月からは、小さな子どものいる家庭の除染を応援する「ごしごし☆おうちサポート」もスタート。共感してくれる人の力で、今もなお除染活動が続けられています。

これからの広告のキーワードは「つくらない広告」

広告を打てばモノが売れる時代でもないし、企業の業績が右肩上がりの時代でもない…。誰もが“今までと同じことをしていても立ちゆかない”と思ったことがあるのではないでしょうか。

広告のつくり手として、世の中をどう良くしていくかを具体的に構想して、コミュニケーションという領域でお手伝いをするにはどうすればいいか?という方向に、だんだんとシフトしていったんです。

ソーシャルなテーマに関心を持ったのは、少しさかのぼりますが、2003年頃、食の安全を脅かす問題が続いたときに、食をテーマにしたプロジェクトがしたいと思ったのがきっかけで、新しい広告は「コミュニティたちの志をともにする、旗になっていくんだ!」というコンセプトを打ち出しました。

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2003年当時の「FOOD PROJECT」企画書。このあたりから、今につながる言葉がいくつか出てくる
2003年当時の「FOOD PROJECT」企画書。このあたりから、今につながる言葉がいくつか出てくる

「これまでの広告は、モノやサービスとお金のやりとりを加速させるためのもの。モノやサービスとお金の間に矢印があるとしたら、何か社会をよくするためのプロジェクトでは、この矢印がモノ・サービスとお金のやりとりだけではなくて、いろんなものが交わされている」と並河さんは言います。

例えば千のトイレプロジェクトで言えば、先ほども出てきましたが、勇気づけをすること。ソーシャル・プロジェクトでは、目には見えないけど、場所をつくっていたり、そこで言葉やスキルが共有、交換されていて、さらにその次の関係性までもつくっているんですよね。

僕はもともとクリエイティブディレクターなので、アウトプットに目線が行きがちでした。もちろんそれも大切なんですが、主役だと気がついていない人の主体性をもっと引き出して、最終的にその人たち自身が社会を変えていけるようなプロジェクトをつくる、そんなお手伝いをしたいと思うようになりました。

そう考えるようになったのは、2007年から、王子ネピアと日本トイレ研究所が都内の小学校で始めた「nepiaうんち教室」に関わったことがきっかけだったと言います。実は、食べることと同じくらい排泄は重要で、うんちは自分の健康状態を知る、大切なバロメーターであるというのが、うんち教室の考え方。子どもたちは、うんちはじぶんの体の一部であり、いいうんちをすることは、いいことなんだと気づきます。

nepia うんち教室 nepia うんち教室

子どもたちの意識の変化に、はっとさせられたんです。うんちって恥ずかしがるようなものではなくて、命とつながっている大切なものなんだって、子どもたちが気づいていく。こうした“気づきの場”が重要だと感じ始めました。意識が変われば行動が変わる。大切なことは、この場合の主体は、あくまで子どもたちということなんです。

何かをつくりたいという気持ちはあるけど、今の広告は“つくり過ぎ”なのではないかと、並河さんは指摘します。

自分がアイデアを出して、それがモデルケースになって広く世の中に浸透していくことはもちろんありますが、1回で終わってしまうこともあります。

自分がというよりも、相手のアイデアを引き出して、それを伸ばしていったほうが継続的な活動やアクションになっていくことを、さまざまなプロジェクトで感じました。時には見守ることも大事で、むしろ今はつくり過ぎているんじゃないかと。だから、これからは、あえて“つくらない広告”を掲げてみたいと思っています。

ソーシャル・プロジェクトは、混沌としている今だからこそトライしやすい、と並河さんは続けます。

僕自身も個人的にやりたいことはたくさんありますが、そうした個人的にやりたいことが仕事になっていけばいいですよね。会社の中でも、組織のミッションでつながっているレイヤーだけではなくて、個人個人の気持ちで結ばれたもうひとつのレイヤーがあってもいい。

社会をこう変えていきたいとか、そんなことが語れる仲間が、一番身近な会社の仲間にいたら、ハッピーだと思うんです。よく、僕の部署では社会貢献につながることができない…という相談を受けるんですが、仲間をあと2人見つけて、もう一度来てくださいって言っているんです。

自分ごとから始まった“マイプロジェクト”を続けていくには、それを共有していく“マイコミュニティ”を育てていくことが大切ですね。

マイプロジェクトを本業の傍ら、仕事の終わった平日の夜か土日に…という方も多いですが、仕事の延長で会社の仲間と一緒にそのまま仕事にできたら、もっとハッピーかもしれません。今働いている環境で、社会課題を解決することを意識して、自分の仕事のなかでどんなアプローチができるのかを考えてみることも、ソーシャルデザインを仕事にするひとつの選択肢になりそうです。

電通でも、2009年にソーシャル領域のプロジェクトを手掛ける専門ユニット「電通ソーシャル・デザイン・エンジン」が社内に発足しました。今では会社の重点領域のひとつとして大きな期待が寄せられているようです。

相手の自発性を引き出して、エンジンを生み出し、そのエンジンが継続的に走れるように育てていく…。「つくらない広告」という、並河さんの今後の広告作品やソーシャル・プロジェクトにますます注目です!

writer ライターリスト

増村 江利子

増村 江利子

greenz シニアエディター/シニアライター 国立音楽大学卒。Web制作、広告制作、編集を経て現在はフリーランスエディター。一児の母。主なテーマは、アート、建築、暮らし、まちづくり。八ヶ岳の麓の賃貸トレーラーハウスで、“小さく暮らす”をモットーに、DIY的暮らしを実践中。 facebook:http://www.facebook.com/e.masumura twitter:https://twitter.com/eriko_n

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ミラツク

ミラツクは、対話を通じて、異なるセクター、異なる地域、異なるステークホルダーの間に協力を生み出し、より良い社会に向けたイノベーションを生み出すことに取り組むNPOです。 ミラツクが応援するのは、未だあまり知られていない社会を良くする取り組みとそこにいる”人”たちです。1人の人が生み出す未来の可能性を世の中に伝えていくことで、また新しい次の未来の種が生まれる。そんな未来をつくるサイクルを共につくっていければと思います。 ⇒ 特集「a Piece of Social Innovation」ミラツク×グリーンズ対談!Facebookページ

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