『生きる、を耕す本』が完成!greenz peopleになるとプレゼント→

greenz people ロゴ

物々交換で「社食」と「つながり」を手に入れる。とあるベンチャー企業がはじめた「誰でもまかないプロジェクト」

タイマーズの高橋さん、田和さん、村石さん

タイマーズの高橋さん、田和さん、村石さん

毎日のランチ、「どこに食べに行こうかな」と迷うのは楽しみでもあり、面倒でもあります。大きな会社の場合は面倒なら社食に行くという手がありますし、最近はタニタのように社食に行けば健康的な食事ができるという羨ましいような社食を持つ会社もあります。

しかし、ベンチャー企業のような小さな会社では、社食を持つことなど出来るわけもなく、忙しいために食事の時間も不規則になり、どんどん不健康な生活になってしまう、そんなことはないでしょうか。

六本木にある「タイマーズ(Timers inc.)」もそんなことを思い、「ホームページを作る代わりに社食になってくれる飲食店」を募集する「まかないプロジェクト」を始めることにしたのです。

http://pairy.com/

http://pairy.com/

タイマーズは2011年に創業したITベンチャーで、スマートフォンアプリ「Pairy」の開発・運用などを行なっています。そんなバリバリのベンチャー企業がどうしてそのようなプロジェクトをはじめたのでしょうか。COOの田和晃一郎さんはこう言います。

六本木で事務所を構えてベンチャーをやりだした時に、地域のメンバーでありながら、やってることはネットのことばかりで、地域のコミュニティに目を向けることがなかったので、そういうところに何か接点を保つ方法って無いのかなって話をしたんです。

それで、大企業には社員食堂があるということに着目して、社員食堂とランチを食べに行ってるところを繋げられないかと思ったんです。飲食店が持っている「ランチ」を提供してもらうかわりに、僕らは技術やアイデアというお店が得意でないものを提供することで、一定期間まかないをもらえる仮の社員食堂みたいのができないかなって。

業務や営業の一環としてやるのではなくあくまで本業とは別の「プロジェクト」としてはじめたものですが、そこには本業と一貫した「こだわり」もあったようです。CEOの高橋才将さんはこう言います。

会社をはじめた時から「古くからあるもの変わらないものを見つめて新しい時代にどう置き換えていくか」ということを大事にしようと考えています。「Pairy」も恋愛という変わらないものの現代におけるツールと考えて開発しています。その中で物々交換というのも古くからある慣習を現代に置き換えるとどうなるかを考えて出てきたのがこれだと言っていいと思います。でも本業では難しいのでこういう形でやってみたという感じですね。

まかないプロジェクトのHP

まかないプロジェクトのHP

そんなアイデアから手探りではじめたプロジェクトでしたが、募集を開始してみると色々なメディアにも取り上げられ、約1ヶ月の募集期間で十数件の申し込みが来たのです。

そして、一軒一軒と面接をして検討し、事務所に近い「Shamrock 六本木店」を運営するDinner Rush(ディナーラッシュ)と提携することを決定します。Dinner Rushは同店のほか「Abbot’s Choice」などを六本木、中野、新宿、渋谷に展開している企業、「まかない」の提供は「Shamrock 六本木店」だけでなく系列各店で使える回数券という形で提供される事になり、タイマーズの社員5人は社員食堂だけでなく、ディナーを食べたり一杯ひっかけたり出来る行きつけのお店まで手に入れることになったのです。

Dinner Rush代表の泉一雄さんはこう言います。

前に『FREE』なんかを読んでフリーランチというもののイメージはあって、自分でもなにかやろうかと考えたんですけど、その時はあまりにメリットがなさすぎるものしか思いつかなくてやめたんですね。

それで今回たまたまこの募集を目にして面白そうだなと思って、1日くらいは悩んだんですけど、応募してみました。若い人たちの会社だったというのも良かったですね、今後お客さんにしなきゃいけない世代でもあるし、ぼくもそういう人たちと触れていたいというのがありましたから。

田和さんも「一番大事に考えていたのは、プロジェクト自体が実験的な取り組みなので、金銭的なメリットがあるからと突き詰めて離されるよりは、まずプロジェクトが面白いというところに共感いただけるかということ」というように、一番大事だったのは一緒に面白がれることだったようです。

大事なのはお互いにメリットがあるということではなくて、新たにつながりが生まれること、タイマーズにとっては困ったときに行ける場所であり、ディナーラッシュにとってはおなじみさんであり、ネットのことを教えてくれる人という関係にこそ価値があるというわけです。

「まかない」のランチを食べる田和さんと高橋さん

「まかない」のランチを食べる田和さんと高橋さん

さて、めでたく「社食」を手に入れたタイマーズですが、「これは面白い」ということで、誰でも社員食堂を募集できる「誰でもまかないプロジェクト」を公開。募集に使えるロゴの配布をはじめました。

田和さんは「僕らとしてこのプロジェクトから利益を得ようと思っていないし、これによって新しいつながりが出来てコミュニティが生まれれば、それは世の中にとって良いことだと思うので、積極的にみんなに真似してもらってもらえれば」と言います。

そして今はロゴを配布しているだけですが、将来的には「企業もお店も登録できてそのマッチングがなされるようなサイトがあったら面白い」とも言います。しかし、自分たちではできないので「誰かやってくれないか」と。

高橋さんが「お金が流れないのがいいところ」というように、そのプラットフォームを作ったところでお金が儲かることはありません。でも、面白いだろうし、それによってお金ではない何かを得られると考える人が出てくれば実現しうるアイデアなのではないでしょうか。高橋さんも田和さんも「自分たちが学生だったらこれにフルコミットしちゃうだろう」というように、そういった技術を持った学生であれば、すごくいいチャレンジでもあり、同時にただでご飯を食べられるかもしれない機会にもなるので、「やる」という人が現れるんじゃないか…とも思います。

今回提供された回数券

今回提供された回数券

「まかない」ということでスタートしたプロジェクトですが、それぞれが提供しうるものを交換することで双方にメリットがあるならどんなものでも成り立つ可能性を持っています。これは物理的な「物」を離れたという意味でまさに「物々交換の新しいあり方」なのかもしれません。

そして同時に、関わる人達が必ず近い距離に存在するということには、都会に新たな地域コミュニティを生み出す可能性も秘められているのかもしれません。六本木なら六本木で、企業や飲食店や個人が提供できるものをマッチングできるサイトが誕生すれば、それが六本木という地域のコミュニティのプラットフォームとしても活用できるからです。昔のコミュニティには「助け合い」がありました。現代のコミュニティはそれと同じ事を「新しい物々交換」で実現するのかもしれませんね。