みなさんは、「人生を変える」といわれている伝説のフェス「バーニングマン(Burning man)」をご存知でしょうか?
バーニングマンとは、アメリカ・ネバダ州の砂漠で開催される世界最大の音楽とアートの祭典のこと。この砂漠に、突如7日間だけ架空の街「ブラックロック・シティ(BRC)」が現れるのです。この街ではお金が使えず、全てがフリー。1986年にスタートし、今や6万人近い人々が参加する巨大イベントとなっています。
「とにかく凄い」「自分の常識が通用しない」「毎年死人が出る」などなどあちこちからとんでもない噂を聞いていたのですが、念願の初参加をしてきました!巨大なアートオブジェ、奇抜なコスチュームで着飾った人々、全裸の人が行き交うこの街での生活は、「違う国に来ちゃった」というよりは、「違う惑星に来ちゃった…」と思うくらい刺激的なものでした。
今回はそのレポートを私なりの視点からお伝えしていこうと思います。
まず最初に、このブラックロック・シティとはどんな街なのか?
街を作る上で欠かせない、特別なルールをご紹介します。
ブラックロック・シティのルール
現実社会と切り離されたこの架空都市では「貨幣経済」は禁止されています。お金の代わりにgive&give&give!スピリット溢れる「贈り物経済」でコミュニティが形成されているのです。(「give&take」ではないところもポイント。)
とにかく、人に出会ったら見返りを求めず何でもしてあげる。手作りのgiftを出会った人に配る人もいます。
今回私が作ったgiftはこれ。以前、自分で絞めた鶏のブローチをあげました。
お金という概念がなくなったら、欠かせないのがコミュニケーション。何かをしてもらったら感謝の気持ちを伝え、それを誰かにつないでいく。この街の住人達は、あげた親切が巡り巡って自分に帰ってくることをみんな知っているのです。
また、「No Spectators(傍観者になるな)」を合言葉に、参加者一人ひとりがこの街を作るというのも大きな特徴です。自らアーティストとなることはもちろん、暮らしをつくる市民として街に何かを提供できればOK。イベントを心から楽しむことも作り手になる手段の一つです。とにかく、この街では「参加する」ことが全てなのです。
そして、保護区域に指定されている砂漠の環境を守るために「後に痕跡を残さない(Leaving No Trace)」というルールが課されています。生活排水を砂漠に流すことは厳しく禁止されており、ゴミもすべて持ち帰るという徹底っぷり。このルールのおかげなのか、あれだけの人が集まってお祭り騒ぎをしているのに、ゴミが落ちているところを見たことがありません。
ブラックロック・シティを上空から撮影した写真。圧巻です。
こうしたブラックロック・シティのルールと、この街を愛する市民によって、たった一週間限りの幻の街が出来上がるのです。
そして、バーニングマンで何より重要なことは「生き残ること」。
現地では汲み取り式のトイレと、飲み物と氷だけが販売されているだけで、それ以外の生活必要品は全て自分たちで用意しなければいけません。昼の気温が40度、夜は10度以下という砂漠特有の気候もなかなかハードです。「世界で最も過酷で刺激的なアートフェス」といわれるように、砂嵐が吹き荒れる砂漠で7日間生き残るサバイバルキャンプでもあるのです。
それでは、これからバーニングマンを象徴するいくつかのキーワードをもとに、バーニングマンの魅力を紹介したいと思います。
ダイナミックなアート
まず、なんといっても独特のアート!
ブラックロック・シティの中にちりばめられたアートは、この7日間のためだけに世界中のアーティストたちが作ったダイナミックな作品ばかり。砂漠の非現実感がアートをいっそう引き立て、映画のワンシーンに飛び込んでしまったような錯覚に陥ります。
絶対に外せないのが、街のシンボルとして中心にそびえ立つ巨大な木製の像「ザ・マン」。その高さはなんと20m以上で、方向感覚が狂いやすい砂漠で方角を確かめる灯台のような役割も果たしています。また、バーニングマンのメインイベントでは、このマンに火を放ち全てを燃やし尽くします。「バーニングマン」の名前の由来はここから来ているのです。
「ザ・マン」の内部は、釘を一本も使わずに出来てるんだそう!
同じ作者が作ったインスタレーション。これも、釘は使っていません。
巨大糸電話や、せんとくんを思わせるオブジェも。
「赤い茶人」と呼ばれ、バーニングマンで最も有名な日本人、浜崎健さんの「Tea Ceremony」パフォーマンスも参加してきました。
バーニングマンの強烈なアート作品の中でも、ひときわ強い存在感を放っていたのが、テンプルと呼ばれるモニュメント。
テンプルの内部を下から見上げると、こうなっています。
この繊細な建築物を外から持ち込んで組み立てている…と考えるだけで気が遠くなりそうですね。そして、最終日にはこのテンプルも祈りと共に燃やされます。
砂漠の海に沈む巨大船
そして、約4.5平方キロメートルのブラックロック・シティを走りまわるのが、他では絶対に見られないような独特な装飾が施された「アートカー」。この街のユニークな交通機関です。
この巨大な街は端から端まで歩くと1時間以上かかってしまうため、交通手段のメインは自転車。私のように遠くからの参加で自転車を持ち込めない人は、走っているアートカーを呼び止めて乗せてもらいましょう。みんなフレンドリーに迎えてくれます。
もちろんこれもすべて手作り!どうやって作っているのでしょうか…。
砂漠の夜のパーティー
バーニングマンと聞いて、大規模レイブパーティを連想する人も多いのではないでしょうか。その通り、夜のバーニングマンは全くの別世界!イルミネーションで輝くアートカーに、あちこち飛び交うレーザー光線。無音の砂漠に鳴り響くクラブミュージック。これには度肝を抜かれました。
夜になるとザ・マンも、大変身。
砂漠の夜は真っ暗なため、光るものを身につけていないと大変危険です。そのため、夜は参加者も思い思いのイルミネーションを身にまとって夜の街に繰り出すのです。
アートカーも、大音量で音楽を流し走りまわるイベントカーに!
遮るものが何もない砂漠で、レーザー光線が地平線まで果てしなく伸びているのが印象的でした。この巨大なレイブパーティーは、毎日朝まで続くのです。
燃やされていく街
イベントが進むに連れ、街の中の様々なアートが燃やされていきます。
そして、最終日の一日前。ついにブラックロック・シティの象徴マンが燃やされる日がやって来ました。この儀式の時は、街中のアートカーがマンを囲み、市民が街の中心に集まります。
マンの両腕があがると、セレモニーが始まる合図。会場は一気にヒートアップします。ファイヤーダンスが始まり、幻想的な雰囲気で点火の時を待ちます。
そして、ついに点火!
大きな歓声があがり、花火が何発も上がります。
この儀式がまたど派手なこと!鳴り止まない花火、突如起こる大爆発、爆風であちこちで巻き上がる竜巻。
ダイナマイトによる大爆発。
安全距離として数百メートルは離れているはずなのに、その一瞬の爆風だけで顔が一気に熱くなります。
この儀式が行われたということは、この街の終わりが近付いているということ。マンが燃やされた後は、残された時間を惜しむように、アートカーを総動員した最後の宴が始まります!こうして、バーニングマンの夜が更けていくのです。
では、次回はバーニングマンで一番興味深かったキーワード「コミュニティ」について詳しく紹介していきたいと思います。お楽しみに!
後編ではコミュニティについてご紹介。