玄関を開けたら、夫や恋人がバラの花束を買ってきてプレゼントしてくれる……。女性なら、一度は夢見るシチュエーションではないでしょうか。でも、男性にとってはバラを贈るのはとても気恥ずかしいとも聞きます。そんなときに、「このバラを買うと、アフリカの雇用を助けられるって聞いたからさ」なんて照れ隠しに言えたら、男性が女性にバラをプレゼントするハードルもぐんと下がるのではないでしょうか。
そんなロマンチックな演出にも一役買える、花屋さんがあります。「アフリカの花屋」というオンラインショップです。この店は、ケニアから直輸入した大輪で長持ちするバラを販売して、ケニアの雇用を促進する取り組みを行なっているのです。
失業者があふれるケニア
皆さんはケニアと言うと、どんなイメージを持っていますか?広大で乾いた大草原でしょうか。それともキリンやゾウがいる野生の王国というイメージでしょうか。多くの人にとってはそれ以上のイメージはないかもしれません。
ケニアは1963年にイギリスから独立した後、自由経済体制をとり、一定の表現の自由を国民に保証しているために、東アフリカの中では最も経済が発展している国と言われています。しかし、政治の腐敗、政情不安、非能率、貧富の差の増大という問題も抱えています。失業率は公表されていませんが、一説には40〜50%とも言われており、都市部に失業者があふれている発展途上国なのです。
在日ケニア大使館のホームページによると、ケニアの主要産業は、農業を中心に、観光業、製造業など。農業は、GDPの27%、総収益の60%を占め、ケニア人労働者の約75%が農産業に従事しています。
農業分野で発展が目覚ましいのは園芸部門。園芸部門は、観光と紅茶に次いで、ケニアで第3位の外貨獲得産業です。園芸部門は5万人~7万人を直接雇用し、150万人強を間接的に雇用している産業とのこと。そして、園芸部門の中でも、切り花部門、特にバラの輸出額が飛躍的に伸びています。
ケニアのバラは、色柄も個性的で長持ちで大輪!
ケニアは暑くて乾燥しているイメージがありますが、実は標高が高い場所が多く(1600km)、軽井沢のような気候の場所があるそう。そういった場所は朝夜の寒暖の差が激しく、 日照時間が長いため、バラの栽培に特に適しているのだそうです。
そんなケニアで栽培されるバラは、黄色とオレンジのミックスだったり、ピンクに斑が入ったり、と非常に個性的な柄が多く、色鮮やか。花が一つ一つ大きく茎も立派で、通常1週間程度でしおれてしまうバラが、「アフリカの花屋」の場合は1週間半から2週間持つといった具合に、非常に長持ちするのです。
こんなにステキなケニアのバラですが、在日ケニア大使館のホームページによると、ケニアのバラの輸出先は、オランダ(65%)、イギリス(25%)など主にヨーロッパ圏に向けて輸出されており、日本への輸出は1%も満たない量です。
日本への輸出量が少ない理由は、ケニア側の日本への輸出業者の少なさや最低ロット数の問題など様々なことがありますが、そこにケニアでNGOの活動に参加し、雇用の問題を目にしていた「アフリカの花屋」代表の萩生田めぐみさんは着目。「日本でケニアのバラをたくさん売れば、アフリカの雇用環境が改善されるかもしれない」と、「アフリカの花屋」を立ち上げることにしたのです。
「アフリカの花屋」の萩生田さんは、ケニアのNGOで働く友人の紹介で、ケニアの農家と直接契約をしています。中間業者がいないことで、費用も安く抑えられ、発注数も柔軟に対応できることになりました。また、農家が直接、日本の萩生田さんのところに発送するので、輸送にかかる時間も短縮。仕分け作業等、途中でバラを傷める工程も減ったため、結果的に「アフリカの花屋」のバラは、非常に長持ちするようになりました。
何より大きかったのは、直接契約をすることで、ケニアの人たちがどんな労働環境で仕事をしているか、きちんと確認できる仕組みを作れたこと。ケニアにいる萩生田さんの友人が、「児童労働や過酷な環境のない状態で仕事をしている」ときちんと確認してくれた上で農家を紹介してくれているので、今後受注が増えた時にも安心して発注を増やすことができると、萩生田さんは語ります。
「花は人の心を豊かにする」
「アフリカの花屋」を始めたそもそものきっかけは、大学時代を過ごしたアメリカでの経験にある、と萩生田さんは教えてくれました。
大学では国際関係学を専攻していたのですが、その授業の一環で模擬国連のプロジェクトに参加しました。その活動の中で国連が解決しようとしている、飢餓、貧困、教育などの問題を数字で細かく調べたのです。そのときに、アフリカの現状を知って、非常にショックを受けました。そして、「いつかは行ってみたい」「いつかアフリカのために行動したい」と思うようになったのです。
大学卒業後は「一人前の社会人になりたい」という思いで、「貢献」 「世界と日本の架け橋」 「人が温かい会社」をキーワードに製薬会社に就職した萩生田さん。グローバル人事戦略部という部署での仕事は学びが多く、ビジネスコーチの資格を取ったり、趣味で華道を始めて草月流の師範の免状を取ったりと、OL生活を満喫していたそう。そんな中、勤務先であるプロジェクトが始まることになりました。
勤務先の製薬会社が、WHOと連携して、アフリカに数億錠の薬を無償提供するというプロジェクトだったのです。これを聞いた時に、胸がふるえました。大学時代に「いつかは行ってみたい」「いつかアフリカのために行動したい」と思っていたけれど、その「いつか」は今やらないと始まらないんだって思ったのです。
そこで、会社を辞め、ケニアで学校建設の仕事を行なうNGOに参加することに決めました。しかし、熱い想いを抱えていた萩生田さんがケニアに渡って見たのは、援助に慣れてしまっている村の人たちの姿。
村の人たちは、とっかえひっかえNGOが来るのに慣れてしまっていたのです。支援を受けるのは当たり前。「もらえるものはもらっておくよ」という態度。自分たちの問題を解決するという意識ではなく、「(NGOなどの支援者が)何かしたいなら協力するよ」という意識になってしまっていたのです。ケニアの人たちが、自分たちで自分のやりたいことを考えていかないと、何にもならないと感じました。国際協力は、支援される側、支援する側という立場ではなく、対等であるべきだと強く思いました。
そんな想いを抱えながら活動を続け、ある村で新規ボランティアを行なうための事前調査を行い、何名もの小学校の校長先生にヒアリングをしたところ、親の収入が少ない地域ほど、子どもの就学率が悪いという事実がわかりました。公立小学校は無料なので、学費はかかりません。しかし、親の収入が少ない家庭では、子どもも働くしかないのです。
親も、怠けたいわけではないのでしょう。しかし、絶対的に地域に仕事が足りないのです。最初のうちは仕事を探そうとして努力していた大人達も、あまりに仕事が見つからないために、自暴自棄になったりスキルアップしようというモチベーションが持てなくなったりするのだろう、と容易に想像できました。
そんな大人を見て育つ子ども達も、自分の将来に対して希望を持てなくなるかもしれません。子ども達が学校に行かないのが当たり前になり、将来の就労に必要な学力が身に付かなかったら、それが原因で大人になっても仕事がつけなくなってしまいます。そこで、アフリカの雇用を増やすビジネスができないだろうか、と考えるようになりました。
ケニアにいる段階から、アフリカに雇用を増やし、「支援する側」「支援される側」ではなく対等に付き合いたいと考えていた萩生田さん。そんな想いを抱えながらよく訪れていたのが、アパートの隣にあった小さなお花屋さんでした。OL時代に華道を習っていたのもあり、「花は人の心を豊かにする」と感じて、頻繁に花を購入してオフィスや部屋に飾っていたのです。その小さなお花屋さんで、ケニアのバラのユニークさ、丈夫さ、華やかさを知り、「アフリカの花屋」を思いついたのだと萩生田さんは教えてくれました。
笑顔と絆を大切にしていきたい
大輪で長持ちする安価なバラを販売することでお客様が笑顔になり、ケニアの人たちも仕事が増えて笑顔になり、日本とケニアとの絆を持ち続けていけるのが楽しいと語る萩生田さん。今は「アフリカの花屋」のバラを、奥さんやお母さんなど、大切な人への贈り物などとして使ってもらって、一人でも多くの人にケニアのバラの良さを知ってもらいたい、と言っていました。
今後は結婚式場などと提携したいと考えているそう。結婚式で「アフリカの花屋」のバラを使えば、挙式をしながらケニアの労働環境に貢献できて、とってもステキですよね。
人の心を豊かにする花を、関わる人みんなが笑顔になれる方法で販売する「アフリカの花屋」萩生田めぐみさんの取り組み。今後も応援していきたいです!
「アフリカの花屋」のサイトを見てみよう
支援の形は様々。こちらはケニアの若者がつくった音楽を配信するプロジェクト。