一世紀以上前に『洋上都市』を書いた、かの有名なSF小説家ジュール・ヴェルヌは、このコンセプトを見てこんなことを思うのではないだろうか。
「諸君、ようやく私の想像力に追いついたかな」
さて、なぜいきなりこのような言葉が出てきたのか。それは、ベルギーで活動する建築家Vincent Callebaut Architecturesが、驚きの最新コンセプトを発表したからである。
PHYSALIA(クラゲの一種の名)と呼ばれるこのコンセプトは、誰にとっても必要な“水”の必要性を改めて意識している。10億人を超えると言われる生活に必要な安全な水を得られない人々(人間開発報告書2006年版による)や、今後の世界的な人口増加に伴う水資源の危機を考慮しながら、持続可能な都市システムに焦点を当てている。
このPHYSALIAは、いわばクリーンな水資源を生み出しながら水上を航行する建築物だ。ヨーロッパのように国をまたいで張り巡らされた運河の機能を応用し、人々の移動手段や産業用途としての機能を果たしつつ、雨水のリサイクルや海水の淡水化、生活排水の浄化システムなどを備えた、クリーンな水資源の供給機能を持っている。
もちろん動力は完全に二酸化炭素排出ゼロ。太陽光や水力などの自然エネルギーで賄われ、また建築自体に搭載したエコシステムにより、消費するエネルギーよりも多くのエネルギーを供給することが可能とのこと。
上半分は陸で下半分は水中という構造の中は、豊かな動植物の相が形成され、水中や自然の風景を楽しむエンターテインメントスペース、リラクゼーション空間、研究者が集い最先端のエコシステム研究を行うラボラトリーなど、空間としても様々な機能や用途を持っている。
動くことで生活に必要な水やエネルギー資源を生み出しながら、人々を乗せて優雅に水上を行く船……。
まさに“宇宙船地球号”の縮図のような未来的な発想!
実は彼らは2008年にも、増加が予想される“環境難民”の人々を考慮したLILYPAD(水に浮かぶスイレンの葉)と呼ばれる驚きの水上都市コンセプトを発表している。
この浮遊する都市は、なんと約50000人もの人々を収容しながら、持続可能で完全に自立したエコロジカルな都市として世界の海を放浪するという壮大なコンセプトだ。
これらの発想はあくまでもコンセプトであり、実現可能なのか、それはいつになるのか、まだ現状では分からない。
ただ、なんともワクワクするのは私だけだろうか。
人間が人間を想い、地球を想い、本質的に豊かな世界のあり方をクリエイティブな視点で思い描いたすばらしいアイデアたち。そして、そんなアイデアをカタチにし得る様々な分野の技術革新……。
いま、私たちは“空想”が“創造”へと向かう時代に生きている。
このことをヴェルヌ氏に自慢したい。