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“まじめな野菜”がホットスポットを救う!風評被害をのりこえた松戸の農産物直売所「なごみや」

nagomiya

“ものを買う”ということを通して、東日本大震災からの復興を応援したい。そんな方も多いのではないでしょうか。でも、放射能汚染がこわい…という気持ちも事実。では、ちゃんと検査して安全が分かり、地域の中で一番おいしいと認められるものならいかがでしょう?

千葉県松戸市、JR新八柱駅・新京成電鉄八柱駅から徒歩5分のところにある農産物直売所「なごみや」。大きなスーパーがすぐそばに2軒もありながら、毎日にぎわっています。小さなお店ですが人がいないということが珍らしく、閉店間際にはほぼ品物がなくなります。

アロハシャツが食品とともにおしゃれにディスプレイされています。

アロハシャツが食品とともにおしゃれにディスプレイされています。

ぱっと見ると八百屋というより、いまどきの雑貨屋さんのよう。壁にTシャツやアロハシャツが掛かっていたり、鮮やかな絵柄のCDジャケットや絵本が野菜と野菜の間に立てかけてあったりして、おしゃれな雰囲気。かつては古着屋や洋食器販売を営んでいたという店長・和家一弘(わけ かずひろ)さんのセンスが光ります。

すべての野菜には、和家さんが直筆でどんなおいしさなのかコメントしていて、一つひとつおもわず手にとってしまいます。

和家さんが直筆で書いた野菜の紹介文

和家さんが直筆で書いた野菜の紹介文

松戸市でとれた無農薬・減農薬の野菜を中心に扱っています。実はこの地域、まわりの地域より放射線量が高いホットスポットということもあり、去年の大震災のあと、農産物における風評被害は想像を絶する大変さだったようです。「なごみや」はどうやって、それを乗りこえてきたのでしょうか?

つらいのは、一時だけ

「3月11日の地震そのものによる被害は少なかったのですが、そのあとの戦いは長く厳しいものでした。物が急に売れなくなり、生活していくことすらどうしようと思ってしまうような日々が続きました。」と和気さんは振り返ります。松戸にある直売所は、昨年の暮れにバタバタと3軒、なくなってしまうことも。このような状況の中、それでも和家さんはあきらめませんでした。

放射能検査をして、大丈夫だと分かっていれば絶対お客さまは来てくれると思っていました。なんとか今だけしのげれば、またお客さんをつかむことができると思い、がんばったんです。

このふんばりの甲斐あって、客足はいつしか戻ってきました。それとともに、近隣の飲食店という新たな顧客も増えていったのです。試しに使ってみて、なごみやの野菜に変えようと決めることもよくあったのだとか。

和家一弘さん

和家一弘さん

「つらいのは今だけ」と思えたのは、なごみやの野菜への自信からでした。

ここに置いてくれる農家さんの野菜はおいしい。だから、この野菜を売っていればまちがいないと思ったんです。今までのお客さんも新しいお客さんもまたついてくる。そう確信していました。

自信の根底にあったのは、まちがいのない野菜をつくってくれる農家さんへの信頼と敬意でした。実は和家さん、直売所で野菜を売る前はスーパーマーケットの青果部門で働いていたそうです。

小さい頃は八百屋に行くのが好きで、愛媛県から上京して服や食器の販売をしているうちに、野菜を扱う仕事をしてみたくなりました。でも農業や八百屋は人を募集していない。ならばと思い、スーパーに勤めて野菜を一から学ぼうと決めました。

そこで農産物ごとの旬の産地や時期、見立てを覚えていくのと同時にスーパー特有の問題に気がつきます。それは「異常に在庫を抱える」ということ。陳列棚を売り切れにしないために、保冷庫にあるものを古い順に出していく。新鮮なものを売ることができないシステムに疑問を感じ始めました。

そんな折、奥さんから「おもしろいお店があるよ」と農産物直売所を紹介されます。いつも使う市場の隣にあったので、ある日ふらりと中へ入ってみました。

野菜を手にしたとき、自分の売っている野菜との明らかなちがいに気付きました。鮮度も、重みも。こんなにちがうならって、10年いたスーパーを辞めてとびこみでそこに勤めるようになったんです。

その店は繁盛していましたが、不況のあおりを受けていったん潰れてしまいます。その後、8ヶ月ほど近くの大きな銭湯の軒下で、吹きさらしのなかで野菜を売るという苦しい時期を経て2011年2月10日、八百屋なごみやをオープンすることができました。その矢先の震災だったのです。

小さくても繁盛する秘訣

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風評被害を克服するためには、データで安全性をアピールしながら「今をしのげばなんとかなる」と信じて売り続けるタフさと、「農家さんのつくるものは絶対にお客さんの心をつかめる」と販売者が思えるような生産者との信頼関係、それらが鍵になるようです。

直売所で野菜を売るということは農家さんの経営安定にもつながっています。スーパーなどで売られる野菜は市場のせりで値がつけられます。季節、収量などに左右され、大きく変動します。しかし、直売所ではちがいます。農家さんが売値を決めます。ですから、値段は年間を通じてほぼ一定です。長期間同じくらいの価格で売ることができるなら、市場で売り続けるより利益を予想しやすくなります。それは安定的な収入につながっていきます。

また、他の見逃せない事実として、野菜の質があります。なごみやの無農薬・減農薬農家さんの野菜はどれも、虫食いがなく形が整っているものばかりでした。食べると、ずっしりと実の詰まったナス、カブ、ニンジン、どれをとっても独特の甘さとほろ苦さが一体になって口の中をつつむような、スーパーの野菜とはちがう濃い旨味を感じます。

「うちらは無農薬(または減農薬)のプロなんだから農薬をつかっている人にはまけられないんだよ」と語る農家さんの意識の高さが、そうさせるようです。見た目、値段、味のすべてがふつうの野菜より魅力的なら「ほかの食材はスーパーを使っても、野菜だけはここで買う」と思う人が続出するのも当然かもしれませんね。

「もってのほか」という名の食用菊。菊=天皇家ということで「もってのほか」と読むそうです。

「もってのほか」という名の食用菊。菊=天皇家ということで「もってのほか」と読むそうです。

得かどうかより、信じられるかどうか

なごみやのお客さん、農家さん、そして和家さんをつないでいるのは「どれほど儲けることができるのか」という打算ではなく、「ここならまちがいがない」という信頼です。これが風評被害を乗りこえる原動力にもなりました。それこそまさに、新しい商いの秘訣があるのです。

あなたの街に農産物直売所があれば、ぜひ一度のぞいてみませんか。「信頼」の温かさにくるまれた店は居心地がよく、「ものを買う」という行動のイメージがきっと変わりるはずです。