以前、こちらの記事でお伝えした農地回復プロジェクトが、7月、「東北コットンプロジェクト」として正式に発足し、被災地の農家を支援するための第一歩を踏み出しました。そして9月には綿が初めて花を咲かせたとのことで、プロジェクトは順調に進んでいる様子。
今回は、事務局を務めるkurkkuの江良慶介さんにプロジェクトの最新状況をお聞きしながら、これまでの経緯と今後の展開についても探ってみました。気になるビジネスとしての実現性と継続性についても、ちょっと突っ込んでお話を聞きましたよ。
東北コットンプロジェクトとは?
人々の生活の場と共に、農家が手塩にかけて作り上げてきた大切な農地をも飲み込んだ巨大津波。その多くは、土の塩分濃度上昇や用水路などインフラが破壊されたことにより、現在、稲作が困難な状態だといいます。そんな現状を受け、立ち上がったのが「東北コットンプロジェクト」。津波被害を受けた農地を塩害に強い綿へ転作することで、東北の農業再生を目指すプロジェクトとして、6月の種まきを経て7月、正式に発足しました。
被災地の生産者と共にプロジェクトに参加するのは、Lee、URBAN RESEARCH、UNITED ARROWS green label relaxing、Tabio、大正紡績など、アパレル関連企業21社(9月時点)。各社が紡績、商品化から流通までを一貫して展開し、東北地域での農地・農業の復興と、さらには綿栽培面積拡大による雇用創出を目指しています。
プロジェクトのこれまでとこれから
「東北コットンプロジェクト」の構想が生まれたのは、5月初旬。その頃、衣料業界ではチャリティTシャツなどによる寄付という形の支援が広がっていましたが、プレオーガニックコットンを販売するkurkkuを始めとするアパレル数社のミーティングの席では、単にお金を渡すだけではなく、雇用があって、彼ら自身ががんばっていくためのサポートはできないか、と考え始めたそうです。そんな中開催されたオーガニックコットン業界全体の集まりにおいて、大正紡績の近藤氏が、
東北でコットンをやろうと思っているので、みなさんもタオル一枚でも買ってください
と発言。本業を通じた被災地の支援、しかも雇用を生み出すことができるこの取り組みに、多くの企業が賛同し、さっそくニーズのリサーチから動き始めました。いくつかの地域に声をかけたところ、用水路や排水ポンプが破壊されてしまった荒浜地域(1.2ha)と名取地域(0.4ha)で「やりたい」という声があがり、6月には13の農家が参加して合計1.6haの農地に種まきを実施。9月現在、白くてかわいらしい綿花が開花し、津波に襲われた農地で力強く成長を続けています。
綿花の収穫は、11月に実施の見込み。収穫量を見計らいながら、各メーカーでの商品化へと動き出し、来年春には製品発表を行う予定です。
事務局・江良さんインタビュー
プロジェクトの概要が理解できたところで、農業に関して素人の私には、様々な疑問がわいてきました。
東北の気候はコットン栽培に向いているの?
そもそも日本で行われていない綿花栽培に事業性は?
事務局の江良さんに、素朴な疑問をぶつけてみました。
農家さんが自立してやれる農業なのか、今年は見極めの年
ーまずいきなりの質問になりますが、そもそも東北の地でコットン栽培は可能なのでしょうか?
実は実績はあまりなくて、江戸時代に会津綿があったとか、福島で綿が育っていたということは文献上はあった、という感じです。やはりコットンの世界的な産地は、インドや中国の新疆(しんきょう)など、雨期と乾期がはっきりしている場所が多いので、そういう意味では「東北では果たして育つのか」というのはあります。また、綿は今、日本で農業として行われていないので、行政の補助とか、除草剤はどうするとか、もろもろ整っていない状況です。そのため今年は試験栽培という位置付けで、まずは生物学的に育つのか、収穫はどのくらいかをシミュレーションするデータを取得したいという段階です。
ーシミュレーションというのは、コスト面で?
はい。先日草取りに約100人が参加したように、収穫に非常に多くの人手がかかるので、果たして来年以降、面積が大きくなったときに、どのくらいのコストがかかって、どのくらい利益があがるのか、と。採算が合わないと当然農家さんも事業として継続できませんし、農家さんができないものを我々が無理に押し付けるのは意味がありません。
また、最終的には消費者が製品を買うことで支援に繋がるので、最終製品のバランスが取れるか、も考えなくてはいけません。例えば、今年は通常のコットンの3~4倍くらいの価格で買い取ります。しかしコストがかかりすぎるものであれば、もしかして10倍で買わないと農家の採算が合わないかもしれない。でも商品価格を10倍にする訳にはいかないので、例えば、10分の1を東北の糸でそれ以外は他のコットン、みたいなやり方も考えなくてはいけないかもしれません。
ファッション性もあり、価格的にも妥当性があるものを
ーなるほど、支援策とはいえ、持続可能なものにしないと意味がありませんからね。
はい。「東北を支援する」という名目があっても高すぎると売れないので、ファッション性もあって、価格的にも妥当性があるものでないといけない。そのあたりはこれからやってみて、僕らもようやく分かることなんです。長期に渡り、特にお金の面で支援しっぱなしということなく、農家さんが農業としてやっていけるのか、ということを見極めた上で、荒浜や名取だけでなく他のエリアでも必要な方には広めていきたい、と思っています。
ーあまり考えたくないことですが、採算が合わないという判断に至った場合は?
残念ですが、その時はもちろん続けられないと思います。僕たちが、というより、農家さんができないですよね。我々は、あくまで、農家さんががんばることを買うとかプロモーションで支えるというだけで、それ以上でもそれ以下でもない立場なので、農家さんのチョイスを尊重しなければいけない。
ただ、採算が合わないというのは基本的には買い値の問題なので、荒浜(※)に関しては、すぐなくなってしまうということはないと思っています。農家さんも、水田に戻さずにやっていきたいという希望を持っている状況ですし、僕らとしても中長期的につながっていくようなビジネスにしたいと思ってやっているので、継続に向けて最大限の努力をしていきます。
(※)荒浜地域は、インフラの破壊や塩害の影響ですぐに田んぼに戻すことはできない状態となっているとのこと。名取地域は「耕谷もち」という米からできるブランド商品があり、できる限り早く水田に戻したいという希望があるので、それまでの間になる可能性が高いようです。
日本で唯一の綿花の産地になるという希望
ー現在、農家さんはどんな様子でコットン栽培に取り組まれていますか?
今荒浜では、ガレキが片付けられる中、コットンのみが農作物として植えられています。全部津波で流されてしまって、やっぱり人としては何もしないのは辛い訳じゃないですか。そんな中で一つのプロジェクトにみんなで参加してやっていくということ自体、すごく前向きになれているのではと感じます。日本の綿花産地に向けて事業性があるのではないか、と希望を持っていらっしゃいます。
ーところで、栽培はオーガニックなのですか?
オーガニックではないんです。もちろんオーガニックが好ましいですが、事業化のメドをつけることが、現時点ではプライオリティが高いことですので。まずはきちんと栽培方法を確立して、必要であれば化学肥料も多少使って、きちんと穫って売ることの方が大事だと考えています。
—最後に、プロジェクトを進めるにあたり、大切にしていることを教えてください。
被災された農家さんの支援なので、参加企業のみなさんにはスタートラインとして「農家さんの支援につながるのか?」ということを中心に据えて議論することを約束していただくよう、お伝えしています。今は毎日のように参加希望の企業さんから連絡をいただくほどの反響ですし、たくさんの企業が参加するプロジェクトなので、きちんとそれぞれが目的のためにやれる役割を果たす、というチームワークは大切にしないといけないと思っています。
あとは、やはりきちんとビジネスにすること。農家さんも我々もビジネスとして成り立つように、きちんと見据えてやっていくことですね。この2つがちゃんとしていれば、非常に影響力のある方々が参加されているので、うまくまわっていくと思っています。店頭に商品が並ぶのを楽しみにしていてください!
江良さんによると、今年11月の収穫時には、一般の方も参加できるボランティアツアーも企画中とのこと。そして、なんと言っても来年の春には待望の東北コットン第1号商品が発売される予定! 各ブランドの店頭に「東北コットン」のタグのついた商品が並ぶ日が楽しみですね。
東北コットンプロジェクトは、今後も様々な難しい問題をクリアしていかなくてはならないでしょう。でも、実現可能性に迷うよりも「可能性があるならまずはやってみる」という姿勢に共感を覚えます。行政主導の復興が進まない被災地において、このような推進力とスピード感を持ったプロジェクトは、小さくても現実的な復興策として、そして何よりも生活や職を失った被災者の方にとっては、精神的に大きな支えとなることは間違いありません。
今年の試験栽培が上手くいき、東北の綿生産がきちんとビジネスとしてまわり始めることを願いながら、プロジェクトの行く末を見守りたいと思います。
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