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目隠しの向こう側に、見えるものがある。「ブラインドサッカー」が教えてくれること [マイプロSHOWCASE]

提供:日本ブラインドサッカー協会

提供:日本ブラインドサッカー協会

祝!なでしこジャパン決勝進出!!
快挙に沸く日本列島ですが、一方で、こんなサッカーがあるのをご存知ですか?

“シャカシャカ”と音の鳴るボールを使い、目隠しをして戦う姿が印象的な「ブラインドサッカー」。視覚障害者のために開発されたこのスポーツは、2004年にはパラリンピックの正式種目となったほど、国際的にも盛んにプレーされている本格的サッカーです。障害者のサッカーと言えば、“もうひとつのW杯”と言われる「知的障がい者サッカー」をご存知の方もいるかもしれませんが、ブラインドサッカーには、視覚障害者スポーツ特有のルール、そして健常者の私たちこそ夢中になってしまう面白さがあるようです。

まずはこちらの動画で、2010年に行われた世界選手権イングランド大会の様子をご覧ください!

目隠しをしているとは思えないほどのスピードで、ピッチを走り回る選手たち。その動きは、驚くほど自由でのびのびして見えます。ディフェンスの存在を察知して避けたり、フェンスの前でピタリと止まることだってお手のもの。人間が情報の8割を得ているという視覚を奪われているのに、なぜ彼らにはこのようなプレーが可能なのでしょうか。

コミュニケーションが大事。ブラインドサッカーのルール

まずは、ブラインドサッカーを知ることからはじめましょう。ブラインドサッカーには、フットサルを基に考案された独自のルールがあります。B1(全盲)、B2/3(弱視)という2つのカテゴリーに分かれていますが、ここではB1のルールを簡単にご紹介します。

B1(全盲)クラスのルール図 提供:日本ブラインドサッカー協会

B1(全盲)クラスのルール図 提供:日本ブラインドサッカー協会

フィールドプレイヤー(障害者・健常者どちらでもOK)は4人で、視力の差をなくすため、アイマスクを着用します。これに、健常者のゴールキーパー、コーチ、コーラーを加えた、計7名がフィールドのメンバー。ちょっと聞き慣れない「コーラー」は、攻撃する側のゴールの裏に立ち、オフェンスに対してガイドする役割。「6m! 45度! シュート!」といったコーラーのかけ声によって、プレイヤーはゴールの位置を判断し、得点を狙います。

ブラインドサッカーの試合において最も大事なのは、メンバー同士のコミュニケーション。コーラーはもちろん、GKとコーチも通常の役割に加え、プレーヤーをガイドすることも求められていますし、なんといってもプレイヤー間のコミュニケーションが全てと言っても過言ではありません。攻守が入れ替わるタイミングなど、試合の状況の変化を伝えたり、自分の今いる位置を伝えたり。これがうまくいかないと、事故や怪我にもつながるため、選手たちは常に視覚以外の全感覚を研ぎ澄まして、音、風、温度、日光などをヒントに環境認知をしながらプレーしています。だから、試合観戦にはちょっとだけ配慮が必要。太鼓などの鳴りものは使用せず、声援や拍手も、できるだけプレーが途切れるのを待ってから送るのがマナーです。

提供:日本ブラインドサッカー協会

提供:日本ブラインドサッカー協会

目指せロンドン!日本における広がり

1980年代からヨーロッパや南米で広がったブラインドサッカーですが、日本には、2001年に国際ルールが上陸。現在は全国に24チームが存在し、リーグ戦と全国大会が行われています。そして今、日本代表チームが目指しているのは、来年ロンドンで開催されるパラリンピック出場! その予選にあたるアジア選手権大会を12月に控え、合宿や日々の練習に励んでいます。彼らの活動の様子は日々、「ブラインドサッカー日本代表ブログ」にアップされているので、ぜひ選手たちの熱い想いを感じてみてください。

世界の舞台で戦う日本代表選手たち 提供:日本ブラインドサッカー協会

世界の舞台で戦う日本代表選手たち 提供:日本ブラインドサッカー協会

健常者を夢中にさせる、ブラインドサッカーの魅力とは?

さて、ここまで読んでブラインドサッカーを「応援したい」と思った方もいるでしょう。普通ならここで、寄付やファンクラブのご案内をするのですが、今回はやめておきます。理由は、応援するよりも、健常者のみなさんにこそ「参加する」ことをオススメしたいから。もっと深くこのスポーツの魅力と本質に迫るため、日本におけるブラインドサッカーの普及と発展を担う「日本ブラインドサッカー協会」の事務局長・松崎さんにお話を伺いました。

「ピッチの中では障害を忘れられる」

ブラインドサッカーの一番の価値は、障害者にとって“普段よりも自由”だということです。

日本ブラインドサッカー協会の事務局長・松崎さん

日本ブラインドサッカー協会の事務局長・松崎さん

ブラインドサッカーの話を聞いて、直感的に「危険」と思われた方もいるのではないでしょうか?私もそう感じてしまったのですが、松崎さん曰く、ピッチの中よりも、普段の生活の、例えば電車のホームなどの方がよっぽど危険とのこと。普段は行動に制限や不自由さがある彼らですが、ピッチの中では自由に考え、自由に判断し、自由に動き回ることができます。「ピッチの中が障害を忘れられるとき」というプレイヤーの声が示す通り、この空間において視覚障害者は、身も心も解放された状態に。だからこそ、あのいきいきとしたプレーが生まれるんですね。

ルールはサッカーと同じ。目隠しによりハンディが強みに。

さらに、普通のサッカーと変わらないルールとスピードでプレーできるのも、ブラインドサッカーの大きな特徴です。

他の視覚障害者スポーツは、選手同士がぶつからないように攻守が完全に分かれていたり、安全にとことん配慮されたものでした。ブラインドサッカーは、今までの視覚障害者スポーツのNGばかりを取り入れたスポーツなんです。だから、日本に入ってきたとき、安全を最優先に考える盲学校や福祉の専門家の方々にとっては、とんでもないことだったようです。

そんなリスクを抱えながらも同じルールであることのメリット、それは健常者と一緒にプレーできることです。障害の一番重い状態にあわせることができる“目隠し”のルールは、障害者にとって自分のハンディを強みにすることができます。逆に考えると健常者にとっては、目隠しがハンディに。このため、ブラインドサッカーを“普通より難しいサッカー”と捉え、チャレンジする選手もいるようです。

ブラインドサッカーのピッチではハンディが強みに変わる

ブラインドサッカーのピッチではハンディが強みに変わる

普通のサッカーをやっていた健常者が、今まで感じたことのない感覚を体験するために、ブラインドサッカーをやることもあります。目隠しすることで気配や音に敏感になって自分のサッカーに活かす人も。選手も20代から40代と幅広く、女性も積極的に参加しています。ブラインドサッカーには、サッカーをやってきたけれど、福祉には全く興味のない人が集まってきます。彼らが一緒にプレーし、サッカーという同じ文脈の中で語り合うことができるということは、選手たちのプライドにもなっているんです。社会の仕組み上、出会い難かった者同士を結びつける場としての役割も大きいですね。

障害者向けのスポーツの大会では通常、観客のほとんどが家族なのですが、ブラインドサッカーではサッカー好きの若い方が多いのだとか。ここにも、これまで交わることのなかった人同士の新たな出会いがあります。障害者のためのスポーツではなく、”当たり前のサッカー”であることが、障害者にも健常者にも、そして社会に対しても大きな価値を与えてくれるのです。

クリエイティブにも注目!「アジア選手権2009」のポスター 提供:日本ブラインドサッカー協会

クリエイティブにも注目!「アジア選手権2009」のポスター 提供:日本ブラインドサッカー協会

価値観がひっくり返る体験!「スポ育」の活動

そんなブラインドサッカーを「知るよりも体験してほしい」という願いから、日本ブラインドサッカー協会は、小中学生を対象にした『スポ育』プログラムを展開中。これは、ブラインドサッカーを用いた体験型の授業で、無償で学校に講師を派遣しているものです。現在の参加校は、年間約180校。授業を体験した生徒からは、チームワークやコミュニケーションの大切さを実感するとともに、障害者に対する見方が大きく変わったという声が挙がっているそうです。

例えば「なんで障害負ってるの?」「どのくらい見えてるの?」といった質問って、通常は聞けないことだったりしますよね。でも、スポーツで同じフィールドに立つことによって自然に聞くことができてしまう。それに、障害者だからできることって、実はたくさんあって、実際、初めて小学生がプレーすると、目が見えない相手に負けちゃうんです。「すげー!」ってなりますよね。これまで“助けなきゃいけない”存在だったのが、ひっくり返る体験です。障害だからできないこともあれば、できることもあって、そのデコボコがあるのが障害なんだってことを、身を以て感じるんですね。

机で学ぶよりも『スポ育』で体感! 提供:日本ブラインドサッカー協会

机で学ぶよりも『スポ育』で体感! 提供:日本ブラインドサッカー協会

机の前で障害者について考えたり、講演を聞くのではわからなかったことが、見えてくる『スポ育』の体験。日本ブラインドサッカー協会では、この活動によって、スポーツ競技として技を競って勝つことを目指すだけではなく、視覚障害者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現することをビジョンに掲げ、活動を続けています。

ダイバシティ(多様性)が大事とは頭で分かっていても、腑に落ちること、体感することはほとんどないんです。そのための具体的なプログラムとして、『スポ育』を使ってほしい。見える人に敢えてハンディを体験してもらうことが、ぼくらが提供できる価値です。ブラインドサッカーを僕らが伝えるんじゃなくて、体験して気付いてもらうことが価値となると考えています。

『スポ育』から、人が変わり、街が変わり、社会が変わる。子どもの頃、障害者に偏見的態度を取ってしまったという自らの経験を語ってくれた松崎さんは、そんな価値提供を目指してブラインドサッカーと共に歩みを進めています。

日本ブラインドサッカー協会の事務局長・松崎さん

日本ブラインドサッカー協会の事務局長・松崎さん

障害者の友達、いますか?

私には、障害者の友達がいません。同世代の方と交流するチャンスはあったのに、どこか「友達」という対象として見ておらず、そのような行動をとらなかったんだと思います。みなさんはどうでしょうか?

障害者と健常者の間に隔たりのある現在の社会、そしてそれに違和感を覚えずに暮らしている人々。これって、障害児が世界の全出産数の6%を占めるという社会において、普通のことではないですよね。頭では分かっていても、実際行動に移すのは難しい。その隔たりを解く共通言語としてのブラインドサッカーの価値は、とても大きいと感じます。

社会が”変わる”と言いましたが、日本ブラインドサッカー協会は、本来あるべき“当たり前”の社会を目指しているだけなのかもしれません。目隠しをして見えること、あなたも一緒に体感してみませんか?

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