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ガザへの攻撃は、どうして続くのか。映画『ネタニヤフ調書 汚職と戦争』から、世界の権力構造について考える

2025年10月、ようやくイスラエルとハマスが停戦に合意しました。しかし、停戦後もイスラエルによるガザ地区の空爆が止むことはありません。2年以上にわたるイスラエルからの激しい攻撃によって、ガザでは6万人以上の人が命を奪われ、その殺戮は停戦中のいまも続いています。

『ネタニヤフ調書 汚職と戦争』は、ガザでの虐殺を続けるイスラエルの首相、ベンヤミン・ネタニヤフの汚職に迫ったドキュメンタリー映画です。その衝撃的な内容から、イスラエルでは上映が禁止され、親イスラエル国家であるアメリカでは劇場公開されていません。この映画にはいったい何が描かれているのか、ぜひ劇場で確かめてください。

未公開映像に残されたネタニヤフとその家族の姿

この映画がつくられたのは、未公開の警察尋問映像がリークされたことがきっかけでした。尋問の相手はネタニヤフ首相。かけられた容疑は詐欺、背任、そして贈収賄。警察は、シャンパンや葉巻など高価なプレゼントがネタニヤフに贈られ、見返りとしてネタニヤフがさまざまな便宜を図っていたことを突き止めていました。

ネタニヤフ調書 グリーンズ

(©2024 BNU PRODUCTIONS LLC ALL RIGHTS RESERVED.)

警察は、ネタニヤフの秘書や選挙参謀、友人やハウスキーパーなどから、生々しい証言を引き出します。けれども、ネタニヤフはそれらすべてを嘘だと一蹴。強気な態度を見せます。ただ、ときにイラ立ちを隠せない場面もあり、ニュース映像からはうかがい知れない、人間ネタニヤフの姿もスクリーンから垣間見えます。

警察の尋問は、ネタニヤフの妻や息子へも及びます。妻のサラも息子のヤイルも、いかにも権力者の家族といった傲慢な態度を崩しません。そんな姿は、強大な権力を手にし、私物化していることを物語っています。

ネタヤニフ調書 グリーンズ

(©2024 BNU PRODUCTIONS LLC ALL RIGHTS RESERVED.)

贈賄を行った人びとへの尋問からは、富裕層がすり寄ればすり寄るほどにネタニヤフ夫妻が増長していき、エスカレートする要求から人びとが逃れられなくなる過程も炙り出されます。

警察による捜査は2016年に正式に始まり、2019年にネタニヤフは起訴されました。そして現在も裁判は継続されている途中です。真実はまだ明らかになっていませんが、この映画が国民に知られたくない内容を伝えていることは、イスラエル国内では上映禁止という事実からも明らかと言えるでしょう。

極右連立政権が生まれた背景にあるもの

さらに映画は、権力を確かなものとし、疑惑のかかる自身をまもるために、政治を利用してきたネタニヤフの思惑をあらわにします。2022年、ネタニヤフは自身よりも強硬的な極右政党に近づき、連立内閣を設立。過去のイスラエルの政権のなかでも、もっとも右寄りと言われる内閣が誕生しました。

ネタヤニフ調書 グリーンズ

(©2024 BNU PRODUCTIONS LLC ALL RIGHTS RESERVED.)

政治理念が多少異なっていても、自らに利する政党を取り込もうとする姿はどこか既視感があります。ネタニヤフが極右政党に近づいた結果、現在2人の極右政治家が大臣を務め、パレスチナに対し非人道的な政策を主張していますが、同じようなことが日本政府に起こらないとは言い切れないでしょう。

またネタニヤフは、マスコミに対しても政権に有利な報道をするように働きかけ、見返りを提供した疑いが持たれています。メディア関係者の証言からは、その横暴ぶりがうかがえ、権力を維持し続けようと画策していたことがわかります。

さまざまなメディアが存在し、表現の自由がまもられることは当然ですが、そこへ権力者が介入し、情報をコントロールすることは許されません。いくら民主的な選挙が行われても、有権者が手に入れる情報が公正なものでなければ、その結果は歪められてしまいます。

ネタヤニフ調書 グリーンズ

(©2024 BNU PRODUCTIONS LLC ALL RIGHTS RESERVED.)

ネタニヤフは誰のために政治をしているのか。そんな疑問が沸き起こってくるシーンの連続には、憤りよりも先に驚きがまさるほど衝撃的でした。

ネタニヤフにとって敵とは? 

尋問中、ネタニヤフは意味深な言葉を口にします。
「友を近くに置け、敵はもっと近くに置け」
これは、映画『ゴッド・ファーザー』に登場する台詞です。

ネタニヤフにとって敵とは、いったい誰のことを指すのでしょう? そして、それを近くに置くとはどういう意味なのでしょう? 

ネタヤニフ調書 グリーンズ

(©2024 BNU PRODUCTIONS LLC ALL RIGHTS RESERVED.)

映画にはひとつの答えが提示されていますが、真実はわかりません。ただ、イスラエルとパレスチナの間で起きていることについて、新しい視点を手に入れることができるでしょう。

権力者は、国家、ひいては国民、その人生や命を握っています。そして、他国に、さらには世界中に影響を及ぼす力を持ちます。民主主義社会において、国民は自分たちの権力を誰にゆだねるか選ぶことが可能です。ただ、いくら民主的な選挙が実施されても、それで安泰ではありません。権力は腐敗し、統治機構やメディアすら私物化する。この映画は、そんな恐怖をリアルに感じさせるとともに、一人ひとりが心に留めておかないといけないことを考えさせてくれました。

– INFORMATION –

映画『ネタニヤフ調書 汚職と戦争』
11月8日(土)シアター・イメージフォーラム他にて公開

製作総指揮:アレックス・ギブニー
監督・製作:アレクシス・ブルーム
配給:トランスフォーマー  
2024年 / イスラエル・アメリカ / 115分 /


(編集:丸原孝紀)
(メイン画像:©2024 BNU PRODUCTIONS LLC ALL RIGHTS RESERVED.)