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それでも、意義を唱える。ドキュメンタリー映画『バーバラ・リーの闘い~権力を恐れず真実を~』で触れる、たった一人でも声をあげる勇気

それでも、意義を唱える。ドキュメンタリー映画『バーバラ・リーの闘い~権力を恐れず真実を~』で触れる、たった一人でも声をあげる勇気

職場や学校、地域や社会、どんな場でも周囲と異なる意見を口にするのは勇気がいるもの。ましてや、国家的な危機のなかで国民感情が昂っている最中では。それでも、声をあげる。そんな姿を貫くのが、ドキュメンタリー映画『バーバラ・リーの闘い~権力を恐れず真実を~』の主人公、バーバラ・リーです。排外主義が広がる現在の日本で、この作品を多くの人が目にすることを願ってご紹介します。

対テロ戦争に突き進む911後のアメリカで、武力行使にNO!

バーバラ・リーの名前を知っている読者は、そう多くないかもしれません。けれども彼女の行動は、知るに値する素晴らしいものです。

彼女は、1998年から2025年まではカリフォルニア州選出の連邦下院議員として活動し、そして現在はオークランド市長を務めているアメリカの政治家です。さまざまなマイノリティのための政策を提案してきた彼女がひときわ注目を集めたのは、2001年9月11日、アメリカ同時多発テロ後の議会でした。

旅客機をハイジャックし、ワールドトレードセンターなどを標的としたテロを受けて、アメリカ国民から沸き起こったのは恐怖と怒り。アメリカは国をあげて対テロ戦争へと突き進んでいきます。議会が武力行使を承認する決議案に、彼女はたった一人で反対票を投じたのです。その行為は激しく非難され、殺害をほのめかす脅迫さえ届きました。

バーバラ・リーの闘い グリーンズ

貧困に関する議会公聴会で証人を尋問するバーバラ・リー ©Barbara Lee: Speaking Truth to Power

彼女は、ポリシーとして武力行使を完全に否定しているのではありません。映画の中でも、「絶対平和主義者ではなく、武力行使も否定しません」と語っています。しかし、武力はあくまでも最終手段であると考えていたことから、この決議案では反対にまわったのです。

またこの決議案が、テロ行為防止のために武力行使する権限を大統領に認める内容であったことも、彼女に反対の決断をさせました。アメリカ合衆国の憲法では大統領は軍の最高司令官と位置づけられていますが、宣戦布告の権限は議会に委ねられています。決議案を承認することは大統領に大きな権限を与えることにつながり、その結果、権力の暴走をも可能にすることを懸念したのでしょう。

三権分立においては、立法、行政、司法の3つの権力が互いを監視し合い、バランスを取っていることが重要です。それが崩れると、少数の権力者の判断が大きな過ちを招き、国民の命を危険にさらしたり、世界を戦争に巻き込んだりしかねません。

彼女は感情や世論に流されることなく、大切なことは何なのかを冷静に見極め、上下院議員の中でたった一人、反対票を投じました。それは政治家としてだけでなく、一人の人間として自らの信念を貫く勇気を持つことの大切さを示しているようでもあります。

アメリカにおける女性政治家たちの活躍の歩み

バーバラ・リーは、1946年にテキサス州で生まれました。アフリカ系女性として、人種差別の残るアメリカでさまざまな厳しい経験を強いられます。DV被害に遭って離婚を経験、フードスタンプなど福祉の支援を得ながら、シングルマザーとして二人の息子を育てました。そのかたわらで懸命に勉強を重ね、大学を卒業しました。

バーバラ・リーの闘い グリーンズ

オークランド・アスレチックスの野球試合で始球式を行うバーバラ・リー ©Barbara Lee: Speaking Truth to Power

こうした経歴から、政治家として当選後、非白人の女性や子どもなど、厳しい立場におかれているマイノリティのために、教育や医療、住宅などをまもる政策の実現に邁進していきます。マイノリティの暮らす地域に足を運び、人びとの声に耳を傾け、自らの言葉で訴える彼女の姿はとても頼もしく映ります。

映画には、シャーリー・チザム(アフリカ系女性初の連邦下院議員)や、バーバラ・リーを尊敬するアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(2018年に史上最年少の女性下院議員となったプエルトリコ系政治家)といった女性らが取り上げられています。

大統領候補となったカマラ・ハリスの活躍が記憶に新しいところですが、非白人系女性の政治家が脈々と続き、確実に活躍の場を広げてアメリカの民主主義を支え、率いていることに明るい希望が感じられます。

上映会を開いて、バーバラ・リーの生き様を分かち合いませんか?

この映画は、劇場公開が決まっているわけではありません。けれども、配給会社のユナイテッドピープルが運営する映画上映会サイト「cinemo」を通して、誰でも上映会を開催することができます。お友達や職場の仲間と一緒に、もしくはイベントの機会などに、上映してみるのはいかがでしょうか。また、教育機関向けのDVDも販売されているので、学校の図書館にリクエストするのもいいでしょう。

バーバラ・リーの闘い グリーンズ

オークランドでの支持者とのイベントに出席したバーバラ・リー ©Barbara Lee: Speaking Truth to Power

この映画が日本で初めて上映されたのは、2022年。それから各地で上映会が開かれ、多くの人がバーバラ・リーの生き様に触れてきましたが、2025年の現在、この映画を観て彼女を知ることの意味は、より深まっているのではないでしょうか。

SNSを中心に大量の情報が猛スピードで流れ、たとえそれが誤っていても大きなうねりが生じれば、まるで事実であるかのようにひとり歩きする昨今。デマやフェイク、そして人の尊厳を踏みにじるような言動に対しては、たとえささやかであっても、一人ひとりが声をあげることが重要です。それは、職場や学校で、差別やハラスメントを目にしたときも同様でしょう。

「民主主義の根幹には意義を唱える権利があるのです」と、バーバラ・リーは語っています。それはこの映画の重要なメッセージではありますが、政治の場においてだけではなく、私たちの生活のさまざまな場面で、異議を唱えなければならないときや、意義を唱えていいときは存在します。

同調圧力が強い日本社会では、周囲に合わせて沈黙することを選択してしまった経験がある人も多いはずです。次に同じようなことが起きたとき、バーバラ・リーの行動を思い出して自分の行動が変えられたら、そんなに素晴らしいことはないでしょう。

アレクサンドリア・オカシオ=コルテスは、映画の中でこのように言っています。
「私は攻撃にさらされたら、バーバラを手本として考えるんです。たった一人の行動も悪くはないとね」

この映画が、一人でも多くの人の心に勇気の種を撒いてくれますように。

(編集:丸原孝紀)
(トップ画像:©Barbara Lee: Speaking Truth to Power)

– INFORMATION –

映画『バーバラ・リーの闘い ~権力を恐れず真実を~』

監督:アビー・ギンズバーグ
編集:ステファニー・メチュラ
制作:Ginzberg Productions
配給:ユナイテッドピープル
83分/アメリカ/2020年/ドキュメンタリー